小海永二 訳  『アンリ・ミショー全集 Ⅰ』 (全四巻)

「一頭の豚が屠殺人を切り刻んでいた。」
(アンリ・ミショー 「奇妙な諸場面」 より)


小海永二 訳 
『アンリ・ミショー全集 Ⅰ』


青土社 
昭和62年1月20日 印刷
昭和62年1月30日 発行
931p 
菊判 丸背布装(背バクラム)上製本 貼函 
定価7,800円
装幀: 高麗隆彦
限定八〇〇部



本書「解説」より:

「本巻には、一九四九年までに刊行されたアンリ・ミショーの主要詩集と戯曲とを収め、それらを、訳出の底本として使用したテクストの発行年代順にしたがって配列した。」


小海永二個人訳『アンリ・ミショー全集』の新版(旧版は全三巻)。巻末に訳者によるミショー論集成。


ミショー全集Ⅰ 01


目次:

わが領土
 犬の生活
  犬の生活
  ぼろ屑
  おれの仕事
  単純
  迫害
  眠る
  怠惰
  コンクリートのように固くなって
  幸福
  内部の小心者
  慎重な男
  怒り
  救われない人間
  わが領土
  呪い
  またしても変らなけりゃならんのか
  寝台で
  突堤
  叫ぶ
  病人たちへの忠告
  呪われて
  魔法
  聖者
  病人の気晴らし
  意志の力
  またしても不幸な男が
  投影
  干渉
 自然科学
  動物学ノート
  パルピュ
  ダルレッツ
  昆虫類
  霊柩台
  エマングロン
  新観察記
  ユルド属
  植物学ノート
  眼
 詩篇
  小さい
  つながれた鎖
  仲間たち
  彼ら
  実際
  わたしを連れ去ってくれ
  いっそう貧血した毎日
  愛する者たち
  助言
  おれは銅鑼だ
  文学者
  死ぬほどに
  わが神
  未来
 あとがき

夜動く
 夜動く
 おれの王
 寝台の中のスポーツマン
 点、それがすべてだ
 呼吸しているうちに
 結婚式の夜
 松に関する忠告
 海に関する忠告
 オペラ座通りの自動車
 精子の天国
 湖
 風
 それぞれの小さな心配のたね
 デッサン註釈
 段階
 愚かな幸福
 平穏の方へ
 勢威失墜
 恐怖のしつこい前照燈に照らされて
 狂人たちの村
 王者の蜘蛛の生活
 エンムと彼の寄生動物
 エンムと老医者
 神人時代
 砦
 エーテル
 反対だ!
 このおれたち
 わたしが君らを見る通りに
 要求の書
 わが人生
 氷山
 平穏の方へ

プリュームという男
 プリュームという男
  I おとなしい男
  II レストランのプリューム
  III プリュームは旅行する
  IV 女王の謁見の間で
  V ブルガリア人の夜
  VI プリュームの幻像
  VII プリュームは指に痛みを覚えた
  VIII 首の引き抜き
  IX 九人の子持ち!
  X プリューム、喧嘩を売られる
  XI カサブランカのプリューム
  XII ブレン・クラブの名誉会長
  XIII 天井のプリューム
  XIV プリュームと躄人

遠き内部
 中心と不在の間で
  魔法
  頭が壁から出て来る
  わが生命止まる
  とても小さな一頭の馬
  幻覚
  錠前を食べる動物
  説教する
  帰る
  人がわたしの名前を盗みたがっている
  オートバイが地平線に帰る時
  ひとりの女がわたしに意見を求める
  自然、人間に忠実なもの
  樫
  死刑執行人
  モールの夢
  中心と不在の間で
 緩慢な女
 幻想動物
 服従しない男
 《わたしは遠い国からあなたに書く》
 詩篇
  不幸の中の休息
  わが血
  ブダペストの若い娘
  「死」への路上で
  平等な平和
  思想
  老年
  大きなヴァイオリン
  夜の中で
  ダカールからの電報
  一体お前は、お前はいつやって来るのか?
  井戸の中の石のように
  未来
 困難(一九三〇年)
  「A」の肖像
  障害物の夜
  消滅の夜
  誕生
  死の歌
  運命
  内部の生命の運動
 鎖(一幕の戯曲)
 建設者たちのドラマ(ただの一幕)
 あとがき

試練・悪魔祓い
 序文
 涯てしない声
 ラザロよ、お前は眠っているのか?
 呪われた年
 お前の弱さという隼よ、威力をふるえ!
 奇妙な均衡
 軋る音
 空虚の仮面
 剣の平和
 台地
 糸人間
 アルファベット
 わが収容所では
 声
 わたしのところにやって来た人たち
 わたしは見た
 大きな部屋の中で
 この人を見よ
 手紙
 手紙はさらに言う……
 スフィンクス
 迷路
 世界
 冷静
 年代記
 トンネルの中の歩み
 わが彫像
 おれはおれの人生の中に一本の深い運河を掘った
 わたしの死んだ後で
 怪物たちの群の中で
 怪物の脳葉
 一本の果てしない竿を
 空の真中を
 床の上に
 階段の中の怪物
 胴体人間
 二重の頭
 定まった形を持たぬ大きな手
 老いたる禿鷹
 病院にて
 彼は書く
 二重の生
 海

われら今も二人
 われら今も二人

襞の中の人生
 Ⅰ 行動の自由
  袋の催し
  満たされた欲望
  ソーセージ用穴倉
  投人器
  焼き串に
  勧められる手段、アパルトマンの雷鳴
  平手打ち用機関銃
  行動の自由
  若夫婦への忠告
  殺人による哲学
  石膏の中に
  海のように
  山への攻撃
  くたばれ成功
  なすべき行為
  助言と、助言の依頼への答え
  中央市場のそばで
  収容所の監視人
  爆弾人間
 Ⅱ 幻像たち
  刺し傷の星座
  消える鳥
  わが肉体の中を回りながら
  決して想像をするな
  波うつサーベルの襲撃
  腹部切開器
  思考結合の危険
  荷を積みすぎた馬
  ポンプの音
  乳房の海
  彫像とわたし
  後戻りすることの困難さについて
  解体工場
  自分の足に気をつけろ
  開頭手術を受けた人
  シシュフォスの仕事
  幻像
  光り輝く後光の中で
  外貌
  未完成のものたち
  行進している
  期待の中で
  眼
  奇妙な諸場面
  断層
  護送隊
  呑みこまれる王国
  切り落とされた両手
  外部の微候
  空間を押し分けて進むマント
  町の城門で
  場面
  天と地の間で
  何という工場!
  タアヴィ
  彼が反抗の中で憩わんことを
  そしてそれは常に
  節約した書き方
 Ⅲ メードザンたちの肖像
 Ⅳ 名状し難い場所
 Ⅴ ポラゴラスの老年

解説

アンリ・ミショー――人と作品
 呪われた詩人
 「文学」の外に出る詩人
 現代芸術の一方向
 アンリ・ミショーの詩画集
 アンリ・ミショーの悪魔祓い
 アンリ・ミショーの絵画
 アンリ・ミショーに会う
 あばよ、ミショー――ミショー追悼
 非日常の亀裂へ
 ミショーの遺著『山の娘』
 付記



ミショー全集Ⅰ 02



◆本書より◆


「ぼろ屑」より:

「わたしのような人間は、隠者として生きねばならぬ。その方がましなのだ。」


「怠惰」より:

「魂は、泳ぎが大好きだ。
 泳ごうとして、人はうつ伏せになって身をのばす。魂は関節から外れ、逃れ出る。魂は泳ぎながら、逃れ出る。」
「人はしばしば魂の飛行について語る。そうではないのだ。魂は泳ぎをするのだ。魂は、蛇のように、またうなぎのように泳ぐ。別なふうに泳ぐことは決してない。」
「怠惰には、傲慢にはないいくつかの根拠がある。
 けれども、人々は怠け者を執拗に攻撃する。
 彼らが寝ているあいだに、人々は彼らを襲い、頭から冷水をぶっかける。彼らは急いで自分の魂を連れ戻さなければならない。その時彼らは、人々のよく知っている、とりわけ子供たちに見受けられるあの憎悪の眼差しで、諸君を見つめる。」



「慎重な男」より:

「生きて行くには、何と大変な慎重さが要ることか!」


「わが領土」より:

「これらの領土は、わたしの唯一の領土なのだ。そこに子供の頃から住んでいる。で、わたしは言うことができる、たいていの人はこれよりましな領土を持っている、と。」
「そうして、もしもわたしがこの領土で、あく迄頑張り続けるとしても、それは馬鹿げたことではない。
 なぜなら、わたしは、この領土で生きることを余儀なくされ、この領土から何かを作り上げなければならないのだから。」

「わが領土がかつてはどんなふうだったか、わたしは正確に思い出そうとやってみる。
 それらは渦巻のようなものであり、巨大なポケット、軽やかに光り輝く袋に似ていた。その実体は、ごく稠密でありながら触知し難いものだった。」



「またしても変らなけりゃならんのか」より:

「動物にも、植物にも、鉱物にも、実に沢山の種類がある。わたしはすでに、あらゆるものに、幾度となく、なったことがある。だが、それらの経験は、わたしには何の役にも立たないのだ。三十二回もくり返しアンモニウムの水塩化物になったことがありながら、砒素のように振舞う傾向をわたしは未だに持っている。犬にも何度もなったけれども、わたしの夜鳥の流儀がいつも出てくる。」


「呪われて」より:

「わたしをこの世に送り出した連中は、その償いをするだろうと、わたしはかつて考えていた。今日まで、彼らはまだその償いをしていない。」

「九年前、母はわたしにこう言った。《あたしの気持じゃ、お前は生まれなかった方がよかったのさ》と。」



「魔法」より:

「各人がそれぞれ自分の方法を持たなければならない。」


「聖者」より:

「なるほど確かに、生きる可能性はわたしにもあったろう!」


「昆虫類」より:

「さらに西の方へと遠く進むと、わたしは見た、鬼目鑢(やすり)に似た巨大な眼と、炭鉱夫用ランプのように金網を張った胴体とを持つ、九つの体節から成る昆虫を。他のある昆虫は、さわさわと音立てる触角を持っていた。こっちにいる昆虫は、留金の方にずっとよく似た二十対ほどの脚を持っており、黒い漆と螺鈿とでできたあっちにいる昆虫は、貝殻のような脚の下で、カリカリと音立てて何かを食べていた。まためくらぐものように長い脚の上に乗った背の高い昆虫は、白子の二十日鼠の眼のように赤くて幹の上によじ登った本当のおこり火といった恰好の、ピンのような小さな眼を持っており、言語に絶する恐怖の表情を示していた。また、象牙の頭を持った昆虫は、人に突然兄弟のような親愛感を、非常に身近な感じを抱かせる、驚くべき禿頭ぶりを見せ、空中にジグザグを描く押し棒のようにその脚を前方へ突き出していた。
 最後に、頭のあちこちに毛の生えた、透明な昆虫がいた。その昆虫は、クリスタル・ガラスのように見え、幾千となく進んでいたが、それは光と太陽の陳列といった感じで、それが通りすぎた後では、いっさいのものが灰か、真黒な夜の産物であるかのように、見えてしまうのであった。」



「小さい」より:

「諸君がぼくを見ることになる時、
ほんとに、
それはぼくじゃない。

砂粒の中、
穀物の粒の中、
空気の眼に見えない粉末の中、
血のように自らを養う大いなる空虚の中、
ぼくが生きているのはそこなのだ。」



「つながれた鎖」より:

「一言で言えば廃墟、廃墟。」


「わたしを連れ去ってくれ」より:

「わたしを連れ去ってくれ、さもなくばむしろ、わたしを埋めてしまってくれ。」


「おれは銅鑼だ」より:

「おれの中には一つの憎しみがある、激しい 古い日付の憎しみが、」


『わが領土』「あとがき」より:

「多分、健康法として、わたしは『わが領土』を書いたのだ、自分の健康のために。」
「さて、全くエゴイズムに由来するように見えるこの書物、この実験を、わたしは、社会的なものだとまで極言しよう。それほどに、そこには、すべての人々が享受でき、弱者、病人、病身の者、子供、あらゆる種類の被抑圧者と適応不能者たちにとって、極めて有益であるに違いないと思われる一つの働きが、存在している。
 これらの不本意な、不断の、苦悩に満ちた想像世界を、わたしはそんなふうにして、少なくとも彼らにとって有益だったということにしたいのだ。
 誰でも『わが領土』を書くことができる。」



「寝台の中のスポーツマン」より:

「甲虫の巨大な鞘翅(さやばね)と、キラキラ輝く緑色の交叉した何本かの巨大な昆虫の脚とが、わたしの部屋の壁の上に現われた、何とも奇妙な具足のようだ。
 それらキラキラ光る緑色、体節、切れ端、そして様々の手や足は、肉体の形のようにつながっていなかった。それらは、数に敗れた一匹の高貴な昆虫の、尊敬される遺体のように、そこに残った。」



「平穏の方へ」より:

「この世界を受け入れない者はこの世界に家を建てない。」

「彼は渇いてないのに水を飲む、彼は岩の中にもぐりこむ 気絶もせずに。
荷馬車の下で、脚を折っても、彼はいつもの態度を保ち、平和について考える、平和について、ひどく手に入れにくい、ひどく保ちにくい平和について、平和について。」

「このように他人(ひと)から離れて、集合地ではいつもただひとり、(中略)彼は、心に釣針を呑んで、平和について考える、刺すような呪われた平和、彼の平和について、そしてまたその平和の上にあると人の言う平和について。」



「おとなしい男」:

「両手を寝台(ベッド)の外にのばして、プリュームは壁に触れないのに驚いた。《おやおや》と彼は思った、《蟻めが壁を食べてしまったんだな……》そして彼はまた眠ってしまった。
 程なく、妻が彼をひっつかんで揺り起こす。《見てごらん》と彼女は言う、《怠け者! あんたが眠り呆けている間に、誰かに家を盗まれたんだよ。》本当に、見渡すかぎり、きれいな空が拡がっていた。《まあいいさ! 出来ちまったことは仕方がない。》と彼は思った。
 程なく、物音が聞こえた。列車だった。全速力で彼らの方に向かってくる。《あの急ぎの様子では》と彼は思った、《きっとわれわれより先に着くだろう。》そしてまた眠ってしまった。
 次には、冷たいものを感じて眼がさめた。身体中が血でぐっしょりと濡れていた。妻の身体の切れはしが、いくつか傍に転がっていた。《血を見ると》と彼は思った。《いつもひどく嫌な気分になるもんだ。もしあの列車が通らなかったら、わたしはとても幸せだったのに。だが、列車はもう行ってしまったんだから……》そしてまた眠ってしまった。
 ――さあ、と裁判官が言っていた、お前はどう説明するんだね。お前の妻は八つの切れはしにちぎれて見つかった。妻がこんなにひどく傷つけられたのに、お前は傍にいながら妻を守るため指一本動かすことができなかった。気がつきさえもしなかった。ふしぎなことだ。事件の鍵はそこにある。
 ――この件に関しては、わたしは何も手助けできない。とプリュームは思った。そしてまた眠ってしまった。
 ――死刑は明日執行だ。被告人よ、まだ何か言っておきたいことはないかね?
 ――申しわけありませんが、と彼は言う、わたしには事の次第がよくのみこめないんです。そう言うと、彼はまた眠りに戻ってしまった。」



「ブルガリア人の夜」より:

「死人と一緒に旅するのなど、いつだって好ましいものではない。とりわけ、それがピストルの弾丸の犠牲者だった場合には。というのは、流れ出た血が、死人の顔をひどい悪相に変えてしまうものだから。」


「天井のプリューム」より:

「ある時、ついぼんやりしていて、愚かにもプリュームは天井に足を降ろした、地面に足をつけておかずに。
 ああ、彼がそれに気づいた時には、もう手おくれだった。」



「幻想動物」より:

「幻想動物たちは、苦悩と強迫観念とから簡単に出現し、外へ向かって部屋の壁の上へと投げ出されるが、そこでは、彼らを創り出した者の他は、誰も彼らに気づかない。
 病気は、比類を絶した動物たちを根気よく発明しては、送り出す。」



「服従しない男」より:

「けれども彼は自問する、どうすればあの失われた楽園に戻ることができるだろうかと。(それが時として地獄であろうと構いはしない)。」

「彼にはどんな手段でもよい。阿片は必要でない。向う側で生きようとして選ぶ者にとっては、すべてのものが薬物なのだ。」



「「A」の肖像」より:

「他人は間違っている。それは確かだ。だが、彼は、彼はいかに生きるべきなのか?」

「全体として見れば、書物が彼の体験だった。」



「メードザンたちの肖像」より:

「呼び鈴に揺すぶられ、打たれ、また打たれ、呼ばれ、また呼ばれる間じゅう、彼は、日曜日に、まだ一度もやってきたことのない真の日曜日に、あこがれる。」


小海永二「非日常の亀裂へ」より:

「ミショー自身も語っている。
 〈わたしは自分に言い続けてきた、多分わたしは、人の言うところの落伍者なのだと。だが、やはり、どんなにつまらぬことであっても、もっと才能ある人たちが気づくことのできないことがあり、それについて語るのがわたしの役目なのである。そしてそのあることは、少しばかりわたしと同じように作られたある人たちの心を動かし、その人たちを助けることさえできるだろう。(他の人たちはどうでもいい。その人たちは、わたしの書くものなど読んでくれなければいいんだ!)〉(「ロベール・ブレションとの対話」)。」




こちらもご参照下さい:

郡司正勝 『童子考』





















































































































関連記事
スポンサーサイト
プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本