三好達治 『測量船』 (講談社文芸文庫)

「生まれないのに死んでしまつた
胎児よお前の瞑想は
今日もなほ玻璃を破らず
青白い花の形に咲いてゐる」

(三好達治 「玻璃盤の胎児」 より)


三好達治 
『測量船』

講談社文芸文庫 み-D-1

講談社 
1996年9月10日 第1刷発行
226p 
文庫判 並装 カバー 
定価880円
デザイン: 菊地信義


「本書は、一九六四年一〇月筑摩書房刊『三好達治全集』第一巻を底本とした。」




三好達治 測量船 文芸文庫


カバー文:

「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
無限のイメージを喚起するわずか二行の詩「雪」他を収録の
第一詩集『測量船』。「乳母車」「甃のうへ」、「鳥語」「獅子」等、
日本古典の詩風と西欧象徴詩風が混然と融合し、魅了する
全九十二篇(「測量船拾遺」を含む)。新詩の可能性を追究する
若き詩人・達治が“現代抒情詩”を展開させた画期的詩集。」



目次:

測量船
 春の岬
 乳母車
 雪
 甃のうへ
 少年
 谺
 湖水
 村
 春
 村
 落葉
 峠
 街
 秋夜弄筆
 落葉やんで
 池に向へる朝餉
 冬の日
 鴉
 庭
 夜
 庭
 庭
 鳥語
 草の上
 僕は
 燕
 鹿
 昼
 MEMOIRE
 Enfance finie
 アヴェ・マリア
 雉
 菊
 十一月の視野に於て
 私と雪と
 郷愁
 獅子
 パン

測量船拾遺
 玻璃盤の胎児
 祖母
 短唱
 魚
 王に別るる伶人のうた
 夕ぐれ
 ニーナ
 物語
 夜
 私の猫
 失題
 黒い旗
 梢の話
 昨日はどこにもありません
 水のほとり
 夕ぐれ
 秋
 渚
 消息
 渚
 女
 ボナパルト
 犬
 昼
 ある日
 春
 鳥の話
 梅の実
 祖母
 暗い城のやうな家
 囁き
  岬
  川
  池
  噺
 Enfance finie
 日記
 故き胡弓
 白い橋
 ひなうた
 他をいふ
 写生
 岬の話
 蝙蝠と少年
 鵜
 雪
 都
 島国
 五月の郊外
 詩集『雪明りの路』
 太郎
 春秋
 新秋の記
 秋夜弄筆
 公園
 失題
 十二月
 『昆虫記』を翻訳しながら

 あとがき
 ふたたび あとがき

人と作品 (北川透)
年譜 (安藤靖彦)
著書目録 (安藤靖彦)




◆本書より◆


「夜」:

「柝(たく)の音は街の胸壁に沿つて夜どほし規則ただしく響いてゐた。それは幾回となく人人の睡眠の周囲を廻ぐり、遠い地平に夜明けを呼びながら、ますます冴えて鳴り、さまざまの方向に谺をかへしてゐた。

 その夜、年若い邏卒は草の間に落ちて眠つてゐる一つの青い星を拾つた。それはひいやりと手のひらに滲み、あたりを蛍光に染めて闇の中に彼の姿を浮ばせた。あやしんで彼が空を仰いだとき、とある星座の鍵がひとところ青い蕾(ボタン)を喪つてほのかに白く霞んでゐた。そこで彼はいそいで睡つてゐる星を深い痲酔から呼びさまし、蛍を放すときのやうな軽い指さきの力でそれを空へと還してやつた。星は眩ゆい光を放ち、初めは大きく揺れながら、やがては一直線に、束の間の夢のやうにもとの座に帰つてしまつた。

 やがて百年が経ち、まもなく千年が経つだらう。そしてこの、この上もない正しい行ひのあとに、しかし二度とは地上に下りてはこないだらうあの星へまで、彼は、悔恨にも似た一条の水脈のやうなものを、あとかたもない虚空の中に永く見まもつてゐた。」



「庭」:

「槐(ゑんじゆ)の蔭の教へられた場所へ、私は草の上からぐさりと鶴嘴をたたきこんだ。それから、五分もすると、たやすく私は堀りあてた、私は土まみれの髑髏を掘り出したのである。私は池へ行つてそれを洗つた。私の不注意からできた顳顬(こめかみ)の上の疵を、さつきの鶴嘴の手応へを私は後悔してゐた。部屋に帰つて、私はそれをベッドの下に置いた。

 午後、私は雉を射ちに谿へ行つた。還つて見ると、ベッドの脚に水が流れてゐた。私のとりあげた重い玩具の、まだ濡れてゐる眼窩や顳顬の疵に、小さな赤蟻がいそがしく見え隠れしてゐる、それは淡い褐色の、不思議に優雅な城のやうであつた。

 母から手紙が来た。私はそれに返事を書いた。」



「玻璃盤の胎児」:

「生れないのに死んでしまつた
玻璃盤の胎児は
酒精(アルコール)のとばりの中に
昼もなほ昏々と睡る

昼もなほ昏々と睡る
やるせない胎児の睡眠は
酒精の銀(しろがね)の夢に
どんよりと曇る亜剌比亜数字の 3 だ

生まれないのに死んでしまつた
胎児よお前の瞑想は
今日もなほ玻璃を破らず
青白い花の形に咲いてゐる」





こちらもご参照下さい:

三好達治 『測量船』 (復刻)











































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