『ポオ全集 第一巻』 (全三巻)

「夢みることは、ぼくの生涯の仕事だった。だからぼくは、自分のために、御覧の通り、『夢の部屋』って奴を作りあげたのさ。」
(ポオ 「約束ごと」 より)


エドガー・アラン・ポオ
『ポオ全集 第一巻』

編集委員: 佐伯彰一/福永武彦/吉田健一

東京創元社
1969年10月15日 新装版 初版
1972年10月30日 5版
683p 目次3p 口絵(モノクロ)4点
A5判 丸背バクラム装上製本 貼函
定価2,500円
装幀デザイン: 真鍋博



久しぶりにポー全集を通読したであります。
やはりポーは一周まわってすばらしいであります。
そのうちまた通読したいであります。


ポオ全集1 01

函。


ポオ全集1 02

見返し。


ポオ全集1 03


目次:

口絵 (ハリー・クラーク)
 約束ごと
 モレラ
 リジイア
 沈黙

壜のなかの手記 (阿部知二 訳)
ベレニス (大岡昇平 訳)
モレラ (河野一郎 訳)
ハンス・プファアルの無類の冒険 (小泉一郎 訳)
約束ごと (小泉一郎 訳)
ボンボン (永川玲二 訳)
影 (河野一郎 訳)
ペスト王 (高松雄一 訳)
息の喪失 (野崎孝 訳)
名士の群れ (野崎孝 訳)
オムレット公爵 (永川玲二 訳)
四獣一体 (高松雄一 訳)
エルサレムの物語 (高松雄一 訳)
メッツェンガーシュタイン (小泉一郎 訳)
ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語 (大西尹明 訳)
リジイア (阿部知二 訳)
鐘楼の悪魔 (野崎孝 訳)
使いきった男 (宮本陽吉 訳)
アッシャー家の崩壊 (河野一郎 訳)
ウィリアム・ウィルソン (中野好夫 訳)
沈黙 (永川玲二 訳)
ジューリアス・ロドマンの日記 (大橋健三郎 訳)
実業家 (宮本陽吉 訳)
群集の人 (中野好夫 訳)
煙に巻く (佐伯彰一 訳)
チビのフランス人は、なぜ手に吊繃帯をしているのか? (宮本陽吉 訳)

作家論
 D・H・ロレンス 〈エドガー・アラン・ポオ〉 (羽矢謙一 訳)

解説 (佐伯彰一)



ポオ全集1 05



◆本書より◆


「ベレニス」より:

「一冊の本の欄外或いは本文中の瑣細な図案に注意を固定させて、長く倦きずに考えこんだり――夏の長い日の大部分を、掛絨毯や床の上に斜めに落ちる奇妙な影の形を眺めて過したり――一晩中、ランプの動かぬ焰や暖炉の燠(おき)を見詰めて自分を忘れたり――一つの花の匂いについて、毎日毎日考えこんだり――変哲もない言葉を、繰り返すためその音が心になんの意味も伝えなくなるまで、飽きずに繰り返したり――運動と物理的存在の感覚を失うまで長く頑固に体を動かさないでいたり――これらが私の精神力の状態から結果した、最も普通で害の少ない気まぐれの例であった。この気まぐれは、たしかに全く類のないものではないにしても、あらゆる分析や解釈のようなものを、拒否している。」


「モレラ」より:

「だがこのときの記憶ばかりは、決して流れ去ることはあるまい。わたしとても、花咲き葡萄の実る歓楽の世界を知らぬわけではなかった――だが毒人参と糸杉の黒い影が、夜となく昼となくわたしにつきまとっていた。わたしには時もなく処(ところ)もなく、すでにわが運命をつかさどる星々は天空から消え、地上は暗く、人々の姿は飛び交う影のように通りすぎ、その中にわたしはただ一つ――モレラの姿のみを見つめていたのだ。天空を渡る風も、わたしの耳にはただ一語のみを囁き、海原のさざ波も無限に――モレラとのみ、つぶやいていたのだ。」


「約束ごと」より:

「「夢みることは」と彼は、吊り香炉の明るい光の方に見事な壷の一つをかかげながら言った。――「夢みることは、ぼくの生涯の仕事だった。だからぼくは、自分のために、御覧の通り、『夢の部屋』って奴を作りあげたのさ。」


「影」より:

「プトレマイスと呼ばれる小さな町のとある立派な邸宅に、わたしたち七人は夜ふけて、キオス島産の赤葡萄酒(ぶどうしゅ)の瓶をかこんで坐っていた。部屋には、真鍮製の大扉をのぞけば他に出入口はなく――工匠コリンノスによって作られた見事なその大扉は、内側から固く閉ざされていた。扉とともに、陰欝なこの部屋にかけられた黒い垂れ布もまた、わたしたちの視界から月や、不気味な星や、人気(ひとけ)のない町の通りを隠していた……だが、「禍い」の前兆と記憶だけは、そのようにしめ出すことは出来なかった。わたしたちの身辺には、明確な説明を下し得ぬさまざまな――物質的、精神的な――ものが取り巻き、大気の重苦しさ……窒息感……不安……そしてとりわけ、五感ははっきりと目覚めながらも、思考力の眠りから覚めぬとき、神経質な人々の味わうあの怖ろしい不安な存在感があった。どっしりとした重い雰囲気が、わたしたちの上におおいかぶさっていた。」

「そして見よ! 歌の音色の消えた黒い垂れ布の間からは、形のさだかならぬ一つの黒い影が――中天低くかかった月が、人の姿から形どるような影が現われた……だがそれは、人の影でも、神の影でもなく、見なれたいかなるものの影とも異なっていた。それはしばらく部屋の垂れ布の中でふるえていたが、やがて真鍮の扉のおもてに全姿を現わした。」
「やがて遂に、わたしオイノスは、低い声で、その影に名と棲み家を訊きただしてみた。すると影は答えた――「わたしは『影』というもの、してわたしの棲み家は、プトレマイスの墓窖(カタコム)のかたわら、汚ないカロニア運河に隣り合ったヘリュージョンの遠くかすんだ野にある」その答えに、坐していたわたしたち七人は、愕然として飛び上がり、ふるえ、おののき、茫然とその場に立ちすくんだ……その影の声は、ただひとりの人間の声ではなく、すでに世を去った何千という友人たちの、忘れもせぬ懐しい声となり、一語一語抑揚を変えて、陰欝にわたしたちの耳に落ちてきたからである。」



「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」より:

「わたしはかれの話の明るい面には、その身になって思いやるほどの、深い共感が湧かなかった。わたしのもっぱら空想したのは、難破して飢えることだとか、野蛮人に殺されたり、あるいは捕えられることだとか、絶海の、名も知れぬ荒涼たる離れ島で、悲しみ、嘆きながら、えんえんとしてすごす生涯のことばかりに限られていた。」

「三月九日。――灰そっくりのものが、絶えまなくあたりにおびただしく降っていた。南方にある水蒸気の嶺は、水平線に大きくもくもくと立ち昇って、ますます形がはっきりとしてきた。それはただ、遙か無限のかなたにある天の城壁から、ひっそりと海中に転げ落ちて行く涯しない瀑布とでもいうほかにはたとえようがない。」
「三月二十一日。――陰欝な暗さが、いまや空一面に低迷していた(中略)。白い灰の雨が、カヌーとそれに乗っているわれわれとに降りそそいで、あやうく船が沈みそうになった。が、灰は落ちると水に溶けた。あの瀑布の頂上は、薄暗いうえに距離が遠いので、もうすっかり見えなくなっていた。が、どう見てもわれわれのカヌーは、恐ろしい速さで近づいて行くらしかった。ときどきその瀑布のなかに広い切れ目があんぐりと、しかしほんの一瞬だけ開くのが見えたかと思うと、さらにまた、渾沌(こんとん)として去来する不明瞭な影像を内に孕(はら)んでいるその切れ目から、力づよく吹き抜けてきながらも音を立てようとしないひっそりとした風が、その行く手に赤々と燃えている大海原をかき乱すさまも見てとれた。」
「三月二十二日。――暗さは目に見えて増してきたが、ただ行く手に見える、あの白い水蒸気の幕から反射してくる、深海の煌々たる眩ゆい光だけは、その暗さを柔らげていた。巨大な青白い鳥が、その幕の向こうから、絶えまなく飛んできた。そしてわれわれの視界から消えるときには、あの相も変らぬ、テケリ・リ!という叫び声をあげた。(中略)そしていまわれわれは、あの瀑布のふところ目がけて突進していた。その瀑布には、われわれを迎え入れる割れ目が開いていた。だがわれわれの行く手には、凡そその形が比較にならぬほど人間よりも大きい、屍衣(しい)を着た人間さながらのものが立ち塞がっていた。そしてその人間の姿をしたものの皮膚の色は、雪のように真っ白であった。」



「沈黙」より:

「「わたしの物語をきけ」と悪霊はぼくの頭に手をおきながら言った。「この物語の舞台は荒涼たるリビアの僻地、ザイレ河の流れるあたりなのだが、そこには平和もそして沈黙もない。
 河の水は病的なサフラン色。海にむかって流れようともしないで、太陽の赤い眼のもとで痙攣的な不安な動きをくりかえしながら、ただ永遠に鼓動している。泥ぶかい河床の両側は見わたすかぎり、何マイルもの幅にわたって巨大な青白い睡蓮ばかり。睡蓮たちは孤独のなかでたがいに溜息をかわし、亡霊じみた長い首を天にむかってさしのべ、頭はいつはてるともなくたえず揺れうごいている。そして彼らの群のなかから、地下を走る水音のような不明瞭なつぶやきがきこえる。
 しかしこの地域にも境界はある――暗いものすごい、そびえたつ森林にとりかこまれているのだ。ここでは下生えの低い樹々はヘブリディーズの島々をとりまく波のようにたえずざわめいている。空には風もないというのに。そびえたつ原始の樹木たちは永遠に揺れうごきながら砕けんばかりの大音響をたてる。その梢から、ひとしずくずつ、はてしなく露がおちる。根もとでは毒のある草花たちが悪夢にうなされては身をよじっている。頭上では、はげしい絹ずれのような音をたてて、灰色の雲が永遠に西へ西へと突っ走ったあげく、地平線の断崖を踏みこえて滝となって落ちる。空にはちっとも風はないというのに。ザイレ河の岸辺には平和もそして沈黙もない。
 夜だった。空から雨が落ちていた。そして、落ちてくるときは雨なのに、落ちてしまうと、それは血だった。そして、わたしが背の高い睡蓮にとりかこまれて沼地に立っていると、わたしの頭に雨が落ちた――そして睡蓮たちは厳粛な孤独のなかでたがいに溜息をかわしていた。
 そして、薄い不気味な靄のなかから、とつぜん月が昇った。真赤な月だ。そしてわたしの眼はそのとき月のひかりに照らしだされた河岸の巨大な灰色の岩にとまった。そしてその岩は灰色に、不気味に、そびえていた――そしてその岩は灰色だった。その前面の岩肌にきざみこまれた文字があった。そしてわたしは睡蓮の沼のなかを歩いて岸辺にちかづき、岩肌の文字を読もうとした。けれどもよく読みとれなかった。そしてわたしが沼地のなかに引返したとき、月はますます赤いかがやきを発し、わたしが振返ってふたたびあの岩と文字とに眼をむけると、それは『寂寥』という文字であった。」



「群集の人」より:

「「この老人こそ、深い罪の象徴、罪の精神(こころ)というものなのだ」と、ついに私は呟いた。「あの老人は一人でいるに堪えられない。いわゆる群集の人なのだ。後を尾けてもなにになろう。彼自身についても、彼の行為についても、所詮知ることはできないのだ。」」


ポオ全集1 04


ポオ全集1 06























































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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