小池滋 『ロンドン 世界の都市の物語』 (文春文庫)

小池滋 
『ロンドン 
世界の都市の物語』
 
文春文庫 こ 21 1

文藝春秋
1999年2月10日 第1刷
333p 
索引xii 参考文献vi ロンドン年表vii
文庫判 並装 カバー
定価514円+税
カバー: 安野光雅


「単行本 文藝春秋 一九九二年六月刊」



本書は「世界の都市の物語」シリーズの一冊として刊行されました。本書はその文庫化。本文中図版(モノクロ)多数。


小池滋 ロンドン 01


カバー裏文:

「伝統と繁栄を誇る大英帝国の首都ロンドン。その歴史ゆえに時と場所が交錯し、訪れる人々を混乱させる、このミステリアスな都市をディケンズ、亡命中のマルクス、フォールスタッフ、演奏旅行中のモーツァルト、切り裂き屋ジャックらこの街ゆかりの人物たちが案内してくれる、歴史と観光スポットを織りまぜたロンドン総合ガイド。」


目次:

序章 あの人と一緒にロンドン漫歩
 居間に座って時間旅行
 ローマ人の占領時代
 中世のロンドン

1 フォールスタッフと夜の散歩
 いざボアーズ・ヘッド亭へ
 辛口白ワインの効能
 ご馳走は一番乗り、いくさはどん尻
 爺さんの言うことにゃ
 曰く、勇気の神髄は分別
 ウィルの旦那とのお付き合い
 イーストチープの夢枕

2 ピープスとイーヴリンの火事見物
 シティ・オヴ・ロンドンが焼野原
 旦那さま火事です
 何と長い時間が経ったように思えたことか
 昼間同様の明るさ
 日記に見る性格

3 ジョナサン・ワイルド この世の最後の道行き
 ロンドンに名高い二つの監獄
 恐怖の司法制度
 「ロンドン犯科帳」
 ここは地獄の三丁目
 ニューゲイト紳士録
 タイバーンへの道
 悪人は死して名を残す
 
4 引越しにもあきなかったジョンソン博士
 博士の華麗なるロンドン遍歴
 シャツが清潔な日にぼくは人を訪ねた
 三文文士と大文豪
 引越し魔の跡を追う
 「オールド・チェシャー・チーズ」亭
 道楽者ボズウェルとグルメな博士
 ソーホーが出来るまで
 ダウニング街いまむかし

5 モーツァルト一家が歩いたロンドン
 八歳の神童
 クィーンズ・パレスの御前演奏
 縞馬とシンフォニー
 モーツァルトの崇拝者たち

6 ディケンズ少年の「ホーム」カミング
 ウォレン靴墨工場のある土地
 痩せても枯れてもホワイトカラー
 監獄の内と外
 チャールズくんのどたん場の知恵
 ウォータールー橋の南側
 作家ディケンズの誕生

7 カール・マルクスの放浪
 資本主義帝国へ亡命
 律義者の子沢山?
 降る日照る日も図書館通い
 大いなる遺産

8 英国式鉄道殺人事件
 走る密室
 犯行現場にて
 帽子と金時計の行方
 大西洋抜きつ抜かれつ
 処刑台への道
 ミューラー事件の波紋
 列車通勤の時代
 時代は三等へ

9 イースト・エンドの恐怖(その一)
 二つの未解決事件
 テムズ河のパーキング・エリア
 ドックのための産業城下町
 第一の殺人事件
 引き続く兇行
 真犯人は誰か?
 死体を“処刑”

10 イースト・エンドの恐怖(その二)
 「ジャック・ザ・リッパー」のあばれた街
 猟奇的な殺人
 元祖「怪人二十一面相」
 ジャック最後の犯行
 二〇世紀都市型犯罪

11 長谷川如是閑のロンドン 一九一〇年
 ジャーナリスト長谷川如是閑
 高級下宿の「ペイイング・ゲスト」
 レディとそろばん
 明治男の見たフェミニズム運動
 「女性に投票権を!」
 女の細腕で飲み干す大杯

ロンドン年表
参考文献
索引



小池滋 ロンドン 02



◆本書より◆


「ディケンズ少年の「ホーム」カミング」より:

「既に述べたように、当時の法によると、個人間の借金でも返済しないと、訴えられれば投獄されることになっていたのである。これはひどく残酷非道のように思えるかもしれないが、実はそれほどでもない。というのも、借金が払えない人の入れられる監獄は、(中略)人殺しや泥棒が入れられる監獄とは別種の、債務者監獄という場所であった。ここは普通の監獄とはかなり規則が違っていて、より寛大だった。なにしろ、ここは家族ぐるみで入ってもよい監獄で、もちろん当人は外へ出ることは許されないが、家族は門の開いている昼間は自由に出入りできる。」
「何のことはない宿泊費無料の公営住宅のようなもので、ここにいる限り外の債鬼に責めたてられることはなく安全なのだから、一生入っていたくなるくらいなものだ。(中略)ジョン・ディケンズも監獄の門を入る時には息子チャールズに向って、「わしにとって太陽は永久に沈んでしまったのだ」なんぞと芝居がかったセリフを吐いたものの、むしろ塀の中の生活の方が気楽と思っていたのではあるまいか。」

「両親がチャールズに労働を強いたのは、決して意地悪からではなかった。むしろ、悪意からであった方が、少年にとっては楽であったろう。父母を公然と責めることができたろうから。ところが、両親は善意から、チャールズのためによかれと思って、彼に仕事を課したのだ。つまり、息子の繊細な気持を想像すらできないという、善意の無知がその原因であった。これがチャールズにとっては故意の悪意よりも我慢できなかった。
 ボブの場合も同じで、もともとは彼の善意から生じた迷惑だった。いやみや底意地悪いいじめから、家まで送ってやるとしつこく言い張ったのなら、ボブを憎み返す正当な理由を見つけ出すことができたはずだ。ところが友人の心中を察することができないという、善意の無知から生じた行為だから、相手を憎んで、それで忘れるという単純な意趣返しで自分の気持を鎮めることができない。
 チャールズの憎悪はうっ積屈折した形でしか復讐(ふくしゅう)の方法を見出すことができなかった。善意の無知ほど世の中で恐ろしい迷惑はない、ということを思い知らされたのだ。自分で気付かぬうちに他人を迫害している人間ほど、始末に負えぬ悪人はいない、とつくづく思ったのだ。なぜなら、そうした加害者に対しては、正当単純な形での復讐が許されないというのが世の常識だから。
 チャールズに残された唯一の意趣返しは、想像力によって架空(フィクション)の世界の中で行なうことだった。」



「イースト・エンドの恐怖(その一)」より:

「ロンドンのイースト・エンド――と、こう書いただけで、いつまでも変らない一つのイメージが人びとの頭の中に定着してしまいそうだ。貧困、無法、暴力、などなどが、霧の中に渦巻いて、恐ろしい地獄絵図を展開させる。水夫たちが飲んだくれて、殴り合い、殺し合いが日常茶飯事の安酒場。中国人が経営する地下のアヘン窟、その裏の落し戸から夜な夜な何者かの死体がテムズの底知れぬ水面に葬られる。狭い路地には売春婦が立ち並んで客を待つ。」
「だが、現実はこうした悲惨さを売りものにしたロマンチシズムのヴェールを、どんどんはぎ取ってしまった。二〇世紀になってから再開発と社会福祉の波が、真先にこの地区に押し寄せた。そこへ第二次世界大戦中の空爆が重なり合って、多くの地表面を瓦礫(がれき)の山に変え、その整理が終ったところには、現代的な――しかしながら散文的な都市風景が姿を現わした。
 ことに最近急激に押しよせたドックランド再開発は、東京におけるウォーターフロント計画と同じように、テムズ河下流沿岸地域の様相を、よかれ悪しかれ、目ざましく変えてしまった。これを非難するか支持するかは人によってさまざまであろうが、ともかく今では切り裂き屋ジャックの幽霊が一〇〇年後に甦(よみがえ)ったとしても、戸惑うしかあるまい。
 というわけで、今日のイースト・エンドを通る人は、周囲を見まわして他のロンドンとほとんど変るところがない――いや、他のロンドンよりもずっと新しく、整然とした街頭が見られることで驚き、かつ失望させられたような気持になるようである。」










































































































































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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