池内紀 『ドイツ 町から町へ』 (中公新書)

「ヨーロッパでは富の大半は地下にある。地上ではつつましく、質素な生活ぶりであっても、貧しいなどと早合点してはならない。家々の地下には、先祖代々の貯えが眠っている。」
(池内紀 「ベルンカステル」 より)


池内紀 
『ドイツ 町から町へ』 

中公新書 1670 

中央公論新社
2002年11月15日 印刷
2002年11月25日 発行
224p まえがきii 
目次・地図(「ドイツの各州とその州都」)6p
新書判 並装 カバー
定価760円+税
写真: 池内紀



本書「あとがき」より:

「「ドイツ 宝さがし」というタイトルで読売新聞日曜版に連載した。一九九八年六月から二〇〇〇年四月にかけてのこと。活字では足かけ三年、日曜日ごとにドイツ旅行をしていたことになる。」
「連載分から三分の一ちかくを捨て、新しく十五の都市を書き足した。」



本文中図版(モノクロ)多数。


池内紀 ドイツ町から町へ


カバーそで文:

「ドイツの町には、おどろくほど個性がある。通りや建物、広場から、民家の屋根や壁の色、窓のつくりにいたるまで、土地ごとに様式があり、みごとな造形美を生み出している。長らく領邦国家が分立していた歴史的背景から、町ごとの自治意識が強く、伝統や風習に誇りを持っている。港町、川沿いの町、森の町、温泉の町――。ドイツ各地をめぐり、見過ごされがちな風物や土地に根ざした人々の息づかいを伝える紀行エッセイ。」


目次:

まえがき

Ⅰ 北ドイツ
 リューゲン島
 フーズム
 リューベック
 フランクフルト・アン・デア・オーダー
 ベルリン
 ケペニック
 ポツダム
 散歩道 『三文オペラ』
 ボーデンヴェルダー
 ハンブルク
 ブレーメン
 ゲルリッツ
 バウツェン
 リューネブルク
 イェーナ
 散歩道 漫画『マックスとモーリッツ』
 ハルツ地方
 ヴェルニゲローデ
 クヴェートリンブルク
 マグデブルク
 デッサウ
 散歩道 カバレット
 ドレスデン
 マイセン
 ケーニヒシュタイン
 ピルナ
 ライプツィヒ
 ワイマール
 ゼーバッハ
 ゴータ
 散歩道 道化ティル・オイレンシュピーゲル

Ⅱ 中部ドイツ
 ボン
 ケルン
 アーヘン
 アレンドルフ
 ハーナウ
 カッセル
 フルダ
 散歩道 『ぼうぼうあたま』
 ヴィースバーデン
 ヴュルツブルク
 ゾーリンゲン
 シンデルフィンゲン
 フランクフルト
 バート・ホンブルク
 マンハイム
 散歩道 大盗シンデルハンネス
 ダルムシュタット
 ハーメルン
 バイロイト
 アイゼナッハ
 マールブルク
 ゴスラー
 散歩道 ライン下り

Ⅲ 南ドイツ
 トリアー
 フロイデンシュタット
 シュヴェニンゲン
 テュービンゲン
 ハイデルベルク
 散歩道 組曲「カルミナ・ブラーナ」
 ミュンヘン
 シュタルンベルク
 ダッハウ
 アウクスブルク
 ネルトリンゲン
 ハイルブロン
 ニュルンベルク
 散歩道 みなし児カスパール・ハウザー
 エルヴァンゲン
 ベルンカステル
 カールスルーエ
 バーデン・バーデン
 レンヒェン
 ドナウエッシンゲン
 シグマリンゲン
 ウルム
 ケンプテン
 散歩道 ボイロン修道院
 パッサウ
 ベルヒテスガーデン
 ガルミッシュ=パルテンキルヒェン
 ヘーガウ地方
 メールスブルク
 コンスタンツ
 バーデンワイラー
 カイザーシュトゥール地方

あとがき




◆本書より◆


「ゲルリッツ」より:

「町の人々が川岸のベンチにすわり、のんびりとポーランドをながめていた。対岸の家族が、同じくのんびりとドイツをながめている。人間は国境などというへんてこなものをつくりたがるが、魚や鳥たちはおかまいなしだ。キラキラ光る川波のなか、こちら、またあちらでポチャリとはね、あるいは忙しく水面を飛びまわり、気ままに「国境侵犯」をやらかしていた。」


「散歩道 漫画『マックスとモーリッツ』」より:

「マックスとモーリッツのいたずらは、とびきり残酷で、容赦がない。とどのつまり二人は、これまたとびきり残酷な仕方で、この世からあとかたもなく消え失せる。これが名作となり、三代にわたり読みつがれてきたのは、どうやらいたずらの引きおこすおかしさのせいではなさそうだ。
 レンペルさん、ボルテおばさん、ベック氏は、いずれも村の好人物であって、「この世に満ち足りている」人々である。その人々がいたずらをされて、ふらつき、よろけ、頭から落下し、お尻をつき上げてすっころぶ。好人物性のもとにうぬぼれ、自己満足にひたり、温和に固定していた日常世界が、「ズドン」の一発でふっとんだ。」



「ハルツ地方」より:

「詩人ハイネは若いころハルツめぐりをして『ハルツ紀行』を書いた。口の悪い詩人は小さな町の貴族や市民たちをからかったが、樅(もみ)の木には脱帽した。ハイネによると、この地方の生きもののなかで、この木がもっとも高貴なのだそうだ。」


「ピルナ」より:

「ピルナの本来の見ものは、町ではなく背後の丘である。ゾネンシュタイン城がそびえている。「太陽石」といった意味。いつのころか城が使われなくなって、一八一一年、ドイツで最初の精神・神経科専用病院が開かれた。やがて背後の高台に一つ、また一つと病棟がふえていった。
 それは町の名誉であった。ところがナチス・ドイツ時代の到来とともに一変した。一九三九年から四一年にかけて、ここで一万三千人にあまる患者たちが「生きるに値しない生命の持ち主」として「処理」された。ふだんはせいぜい数百が住人だったところへ、千単位の人々が送られてきた。丘に上がったきり、もどってこない。その異様さを町の人々が気づかなかったはずはない。町当局は一切関知しない方針をつらぬいた。
 現在、ピルナの病棟跡は当時のままのこされている。」



「散歩道 『ぼうぼうあたま』」より:

「すべて「わるい子」が主人公で、散髪がいや、爪を切るのが嫌い、スープもいや、強風の日に親の目を盗んで凧(たこ)あげにいく……。そんなペーターやカスパールやパウリの物語。」
「『ぼうぼうあたま』が大ベストセラーになったのは、子供にとって「よい子」のはなしがつまらなく、「わるい子」であるのがとても楽しいからだ。「スープいやいや、だいきらい」などといっていると、カスパールのように糸みたいに痩(や)せてしまうかもしれないが、しかし、いやなスープはやはりいやなものなのだ。大嵐の日に凧あげにいった少年は風に吹きあげられて帰ってこなかったが、「だれもしらない、くものうえ」にいるほうが、学校に行くよりずっとおもしろい。」



「フランクフルト」より:

「オフィス街のまっただ中に、お伽噺(とぎばなし)から抜け出てきたような白い塔がそびえている。「エッシェンハイムの城門の塔」といって、この町がまだ城壁に囲まれていたころ、こんな塔が六十ばかりもあった。十五世紀に建てられたもので、高さ四十二メートル、中世のフランクフルトを伝える唯一の生きのこりだ。外に向いて帝国の鷲(わし)が、市中に向かってもう一つの鷲が紋章として羽ばたいている。
 上に四つの可愛らしい小塔があって見張りの窓がのぞいている。てっぺんに旗の形をした鉄の風見がついている。双眼鏡でながめると、その風見に九つの穴があるのがわかる。
 由緒ある穴だそうだ。むかし、ハンス・ヴィンケルゼーという野盗がいて、この塔を根城にしていた。射撃の名手で、あるとき賭(か)けをして、みごとに九発を命中させた。
 鉄が朽ちるので百年おきぐらいに取りかえられる。そのたびにきちんと九つの穴あき風見鶏をとりつける。」



「散歩道 大盗シンデルハンネス」より:

「昔、ひとりの泥棒がいた。名前はシンデルハンネス。」
「ちょっとした悪さを親方にとっちめられて、人前で鞭(むち)打たれた。それで悪の道に走ったといわれている。」
「文豪シラーが『群盗』という劇を書いている。当時、ドイツ各地に野盗がいた。盗みをするだけではない。シラーがえがいたように、封建領主にたてついて自由に生き、権力を笠にきる連中の鼻をあかした。シンデルハンネスが民衆のヒーローになったのは、そんな背景があったからだ。」



「ゴスラー」より:

「古い町並みだが、むろん人々が日々、生活しており、内部はきれいにつくり換えてある。スーパーもあれば安売り店もあり、週末には広場いっぱいに市(いち)がたつ。古いものと新しいものとの組み合わせが、なんとも絶妙だ。古い建物を維持しながら新しくつくるというのは、手間も費用もずっとかかると思うが、人々は永い時間をかけて、古くて新しい町をつくってきた。」


「散歩道 ライン下り」より:

「ハイネは詩人のかたわら、ドイツ各地の伝えばなしや民俗を丹念に集めた人だった。『精霊物語』という、とてもすてきな本がある。古いドイツの山や峡谷に棲んでいた木の精や水の精や巨人たちを探してまわった記録で、この世の気の好い仲間たちだった。山の精が宝のありかを教えてくれたし、水の精が危険を警告してくれた。やがて意地悪な人間に追われて姿を消した。」


「ベルンカステル」より:

「ホテルにたのんでワイン蔵を紹介してもらうといい。たいていワイン造りの家に隣合っている。見かけは小さな建物だが、階段を下りていくと、地下室が途方もなく広い。ほの暗くて、隅は闇(やみ)に沈んでいる。そのなかに古酒、新酒が整然とならんでいる。これはブドウ酒にかぎらず、またドイツにかぎったことでもないが、ヨーロッパでは富の大半は地下にある。地上ではつつましく、質素な生活ぶりであっても、貧しいなどと早合点してはならない。家々の地下には、先祖代々の貯えが眠っている。」


「ガルミッシュ=パルテンキルヒェン」より:

「二百年あまり前に、民家の壁に絵を描く風習がはじまった。代々の壁絵描きがいて、腕を振るってきた。素朴な宗教画や風景画、またグリム童話の場面もある。壁を見て歩くだけで夢のような一日が暮れていく。
 観光地として知られたところだが、ミュンヘンからの高速道路は町の手前十キロほどのところでプツリと切れる。町の人々が拒否したからだ。より多くの観光客が来てくれるのはありがたいが、それよりも自分たちの生活環境のほうが大切だ。発展するのはうれしいが、それは一定の範囲にとどめておく。
 何よりも自分たちの町であって、自分たちが町を守る。環境は自分たちでつくっていく。そのための権限が市民の手にあり、地域の行政にゆだねられているからこそ実現した「ノー」だった。」














































































































関連記事
スポンサーサイト
プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本