池内紀 『幻獣の話』 (講談社現代新書)

「自分たちのなかにもまた、ひそかなフリークスがひそんでいるのではあるまいか。」
(池内紀 『幻獣の話』 より)


池内紀 
『幻獣の話』
 
講談社現代新書 1188 

講談社
1994年2月20日第1刷発行
201p 
新書判 並装 カバー
定価600円(本体583円)
装幀: 杉浦康平+赤崎正一



本書「あとがき」より:

「ボルヘスは『幻獣辞典』英語版の序(一九六九年)のなかで述べている。「むだで横道にそれた知識には一種のけだるい喜びがある」」
「想像のなかの生きものをめぐるこの本は、三年前に出した同じ現代新書の『悪魔の話』の姉妹篇にあたる。むろん、それぞれ別個に読んでもらってかまわないが、もし二つをともにお読みになったかたがいれば、きっと著者の意図がおわかりになるはずだ。幻獣をめぐってひととおりのことはあげているが、もっとも語りたかったのは幻獣そのものではない。これら奇妙な生きものを生み出した人間である。その意識のなかに、あるいは無意識のうちにひそんでいる「幻の獣」について書きたかった。」



図版(モノクロ)多数。


池内紀 幻獣の話 01


カバー文:

「一角獣(ユニコーン)から鳳凰、ゴジラまで――。人はどこまで空想の翼を翔(はばた)かせえたか?
神話・伝説、宗教、芸術が生んだおびただしい幻獣は、何を物語るか?
絶対の美、恐怖の極、珍妙笑止な獣など、
人間の華麗な精神絵巻をひもとく。」



カバーそで文:

「輪廻転生する幻獣――いたるところに奇妙な生きものがいる。……
ロンドンのウェストミンスター寺院付属の図書室には、この種の一覧表といったものがあり、
ベルギーの古都ブリュージュにも、ドイツの古都アウグスブルクにも同様のものがそなわっている。……
架空の生きものが博物誌から消えるのは十八世紀後半以降で、
リンネの分類体系にはサテュロスなど若干の生きのこりはあったものの、
ビュフォンの『博物誌』にいたり、現実の生物分類から完全に消し去られた。……
おもてだっては地上から姿も消したが、
この知的遺産は目に見えない水路によるかのようにして、のちのちの時代につたわっている。
しずかに意識の下を流れ、イメージの重なりのなかにまじって、
やがてときならぬところにあふれ出る。
――本書より」



目次:

1 一角獣――マルコ・ポーロが見たもの
 ホラ吹きマルコ 
 樽のような蛇がのし歩く
 一角獣はスマトラにすむ
 マルコ・ポーロのメモ
 一角獣とは何だったか
 チパング島の金と真珠

2 アジアとヨーロッパ――幻獣という知の遺産
 不思議の国、インド
 ヨーロッパ千五百年を呪縛
 耳で全身をつつむ
 神は幻獣を認めない
 いたるところに奇妙な生きものがいる
 目に見えない水路
 時がいのちをくらい
 頭が星に接する巨竜
 ケンタウロス
 獣性と精神性
 わが子をくらうサトゥルヌス
 ヨーロッパの文化的鉱脈

3 不思議な生きもの、不思議な人――狂気と文学のあいだ
 女になりたい
 世界没落の幻覚
 数ミリの大きさの男たち
 奇妙な二人組
 謎のオドラデク
 カフカとシュレーバー
 刻一刻と崩れてゆく内面

4 幻獣紳士録Ⅰ
 幻獣界の名士を収める
 アスカラポス――不幸を告知するみみずく
 アンティオクス――人間麒麟
 海の司祭――海底の住人
 エコー――悲しい恋の妖精
 カトブレパス――巨頭カモシカ
 ゴジラ――水爆実験が生んだ巨獣
 コーボルト――こびと伝説
 サデュザーク――無数の角をもつ獣
 サラマンドラ――火の中の竜
 黒眚(しい)――俊足の狸犬
 スキヤポデス――単脚族
 スフィンクス――人面獅子胴
 スマラ――悪夢をひきおこす夜の霊

5 幻獣紳士録Ⅱ
 現実と空想、どちらが創造的か
 セイレーン――美しい声の妖鳥
 つつが(漢字は犭+恙)――虎、豹を食べる獣
 トッカッピ――放火する独脚鬼
 ニクセ――水の精
 ニスナス――半人半魔
 鵺(ぬえ)――『平家物語』の怪物
 馬頭人――半人半馬
 バルトアンデルス――千変万化
 鼻行類――南海の珍獣
 ブロントサウロス――世界の果ての獣
 マルティコラス――サソリやまあらし
 マンドラゴラ――人の形の植物
 ミユルミドン――蟻男
 ヤマタノオロチ――八頭八尾の怪物
 蜮(よく)――水中の淫毒

6 百鬼の奇――日本の幻獣
 筆の先から幻獣があらわれる
 怪なるかな怪なるかな
 柳田国男と河童
 河童を描きつづけた小川芋銭
 傍流の人
 水魅山妖への偏愛

7 霊獣たちの饗宴――日光東照宮の場合
 八百体の霊獣
 家光の家康崇拝
 東照宮の謎
 将軍が頭を下げる
 建物がかたる物語

8 中国の宝の書――『山海経』入門
 魯迅の驚き
 天下の賢者だけが理解する
 奇想の大盤ぶるまい
 さらに奇怪な海外篇
 日本に渡る幻獣たち
 常ならぬ何かを前触れする

9 私という幻の獣――寺山修司の夢
 超自然的恐怖
 娯楽や見世物から国民をよむ
 寺山修司が問題としたもの
 等身大の人間の限界
 イメージの略歴
 顔三つ、腕千本の神
 私の意識深くに隠れているもの
 
10 ゴーレムからロボットへ――二十世紀の幻獣
 ロボット誕生
 ゴーレムを生んだ都プラハ
 土にもどるゴーレム
 苦役を代わってくれる別の生きもの
 ロボットへの恋
 文学のあとを科学が追いかける
 人間が幻獣になるとき

あとがき



池内紀 幻獣の話 02



◆本書より◆


「不思議な生きもの、不思議な人――狂気と文学のあいだ」より:

「『シュレーバー回想録』には世界没落のイメージが克明に記されている。」
「ある夕方おそく、病院の庭の木々の上に、燃えるような目をもった猫たちが現われた。」
「その間にも女性への変身は刻々とすすんでいた。まず男性生殖器(中略)が体内へと「撤収(てっしゅう)」され、ついで内生殖器の同時的改造のもとで、相当する女性生殖器へと変化せしめられる、というぐあいに生じたという。それはおそらく「幾百年もの眠りの中」で起こったのだろうとシュレーバーは述べている。退化あるいは発達過程の逆転が生じたのであって、そのような「脱男性化の奇蹟」を彼は二度にわたって体験した。」
「『シュレーバー回想録』は、刻一刻と崩れていく内面を書きとめた、もっとも壮烈な記録として知られている。ところで、これをつづった人の外的生活は、極端なまでに単調だった。一日に二度、病院の庭を散歩する。庭でも彼はいつも好んで同じ場所にすわりつづけた。黒い外套(がいとう)と黒いシルクハット。彼は部屋にもどっても机の前にじっとすわったままで、窓から外をながめたりもしなかった。」



「百鬼の奇――日本の幻獣」より:

「明治以後の日本画のなかで、小川芋銭は終始、傍流の画家だった。時流からそれ、みずからも世間から遠ざかって、ひっそりと、反時代的な、あるいは超時代な絵をかきつづけた。南画風のその絵は既成の南画のかたちからはみ出した一種独特のものだった。南画あるいは文人画は、そもそも画壇の主流をなす官展の流派やアカデミズムに追随しようとしない自由な精神から生まれたものであって、傍流は当然だとしても、反官展の日本美術院の同人になってからも、芋銭はきわだった孤立のままに終始した。」
「昭和七年(一九三二)、彼はある人への手紙に近況をつたえている。毎朝五時に起きて観音経二百遍を誦(しょう)しているという。声をはりあげ、声帯も破れよとばかり唱えている。
 「夜の漸くしらしら明けんとする時木菟及名も知らぬ野鳥の一斉に和して歌ひ候、此時宇宙と一体になりたる心地芸術三昧ここにありと歓喜至極に存候」」



「私という幻の獣――寺山修司の夢」より:

「たとえば一寸法師だが、それはしばしば権力者のかたわらにいる道化として、ふつうの人間の及びもつかない特権を享受(きょうじゅ)してきた。お伽噺(とぎばなし)にはいろいろなフリークスが出てくるが、彼らはたいてい、夢のような幸運にめぐまれる。あるいは畸形のおかげで並の人間には閉ざされている世界へと入っていける。いいかえれば「選ばれた者たち」であり、地上のもうひとりの王なのだ。あるいは一身に男と女の特徴を合わせもっている。あるいは一人にして二人である。人間であって同時にすこぶる幻想的な生きものとして、なんなく人間の条件を踏みこえる。それは人体において示された最後の辺境というものだ。
 寺山修司が「シンボリズム」の名のもとに意図したところは、この先だろう。並の人間にとって無限に遠いはずのその辺境は、しかしながら私たちのほんの身近なところにありはしないか。(中略)自分たちのなかにもまた、ひそかなフリークスがひそんでいるのではあるまいか。自分の内なる逸脱者である。意識をかすめ、血のなかに、生理のなかに生きつづけている畸形である。
 くり返しいえば、神話や伝説やメルヘンや民話のなかには、さまざまな「はずれ者」がひしめいている。ドラキュラやフランケンシュタインやせむし男や一寸法師など、人々はくり返しフリークスを生み出してきた。人類の想像力の根源には畸形の記憶といったものがしみついているとしか思えない。」
「たしかに私の記憶のなかには、フリークスが忍んでいる。意識と無意識の合わせ目に佇(たたず)んでいる。」
「私自身、「ヘンな生きもの」にちがいない。たえず巧みに鏡から目をそらして、みずからの畸形を見逃しているだけなのだ。」















































































































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プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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