福原麟太郎 『チャールズ・ラム伝』 (講談社文芸文庫)

福原麟太郎 
『チャールズ・ラム伝』
 
現代日本のエッセイ
講談社文芸文庫 ふ D2

講談社
1992年3月10日 第1刷発行
452p+1p
定価1,280円(本体1,243円)
デザイン: 菊地信義


「本書は、一九六八年研究社出版刊『福原麟太郎著作集 4 評伝チャールズ・ラム』を底本とし、多少ふりがなを加えた。」



初版単行本は1963年10月、垂水書房刊。
「人と作品」中図版10点(写真1点、書影9点)。


福原麟太郎 チャールズラム伝


カバー裏文:

「不朽の名著『エリア随筆集』の著者ラム。
著名な文壇人であり一市井人として生きたロンドン子ラム、
その陰翳に富む高雅な人生を深い愛情と共に辿る。
若き日に“ラム”に出会い、“ラム”に傾倒した著者の
豊かで繊細な文学的感性と学才を懸けて、
ラムの生涯を“人間の運命の物語”として鮮やかに捉えた
評伝文学の最高傑作。読売文学賞受賞。」



目次:

ラムのすべて――序に代えて
第一章 テムプルでの生い立ち
第二章 文学青年
第三章 人生模様
第四章 『エリア随筆』
第五章 古なじみの顔
第六章 ペントンヴィル
第七章 『シェイクスピア物語』
第八章 『劇詩人名作抄』
第九章 花ようやく開く
第十章 洒落と酒
第十一章 不惑に達したラム
第十二章 恋をするラム
第十三章 運の高みに立つ
第十四章 ラムの世界
第十五章 『エリア随筆後集』
第十六章 修羅の太鼓
第十七章 消えかかった灯火

チャールズ・ラム書目
 一 本邦文献
 二 ラムの本の思い出
 三 終りに

人と作品 (吉田健一)
 『チャールズ・ラム伝』について (昭和39年12月1日 NHK第二放送「学芸展望」)
年譜 (中村義勝 編)
著書目録 (作成: 中村義勝)




◆本書より◆


「ラムのすべて」より:

「私はそういう文学青年としてのラムに興味を持った。ロンドンでも古風なテムプルの地内に生れ育ち住んでいたとか、姉さんに精神病の発作があって、誤って母を殺した。その姉さんを看守るために自分の恋も結婚もあきらめて、一生姉さんと暮したという説明のしかたが、ラムをいちばんやさしく紹介する道であろう。ラム自身にもそういう遺伝の端緒が見えたこともあったと言えば、話は単に犠牲的姉弟愛の美しさばかりでなく、すこし悲劇的になってくる。そして発作の徴候が姉に見えてくると、姉弟は泣きながら手をたずさえて病院へゆくのを近所の人は見たものだという話になると、ついこちらも貰い泣きをするが、それはそういう話なので、『シェイクスピア物語』のうるわしい合作者たちの身の上についての、噂にきくあわれな話しでしかないと私は思っていた。しかし書簡集を読んでいると、文学青年としての身もだえは、しみじみと伝わってくる思いがしたものである。
 ところが或る日、寺西武夫君に私がラムの書簡集を読んでいる話をしたら「長い長い手紙をかくでしょう。ものに憑(つ)かれたようにいつまでたっても切れない手紙があるでしょう、すこし変なところがあるみたい」と言った。この寺西さんの言葉は私にとって開眼であった。それなのだ。身もだえは文学青年としてだけでなくラムのこの世に生きる全道程に横たわっていたものだ。」



「第七章 『シェイクスピア物語』」より:

「一八〇七年の正月末にラムは『シェイクスピア物語』二巻を(中略)出す。(中略)二十の沙翁戯曲をとりあげ、チャールズは悲劇六篇を書いただけで、のこり十四篇はメアリーの手になる。」
「「アセンスのタイモン」の物語は傑作の一つであろうと思われる。事柄は劇としても順序的に述べられているのだから、これを語るにむつかしくはなかったろうと思われるが、特に注意すべきは、その人間ぎらいの性行を写すに一種の気魄をもってしていることである。たとえば、零落遁世して乞食のようになっているタイモンが金塊を掘り出す。そこへ、アセンスに叛いたアルキビアデスの軍が通りかかるので、それを助けるために金塊を与え、条件をのべる。「戦勝の勢いを駆ってアセンスを荒地にしろ。すべての住民を焼き、切り、殺せ。白髪のゆえに老人の命を助けるな。何となれば、彼らは金貸しであったからだ。無邪気な微笑にだまされて幼児を、容赦するな。何となれば生かしておけば生長して謀反人になるからだ。同情を起させるような光景物声に対しては目をも耳をも冷酷にせよ。処女、赤ん坊、母親などの泣声にひかれて全市虐殺をはばかってははならぬ。すべて征服の轍にかけよ、とタイモンは言った。そして征服が終ったら、神々がその征服者をも打ち亡ぼしたまうことを祈った。タイモンはそれほどにもアセンス、アセンス人たち、すべての人類を徹底的に嫌ったのであった」というところは、原文を相当忠実にこなして書いてあるのだけれども、単に梗概ではなくて、文章が熱があり、ラムみずからタイモンの気魄を感じ持っていたように思われる。」



「第十章 洒落と酒」より:

「ラムの洒落についてはそのロビンソンの日記の六月十三日の項に、ラムと洒落を論じたという記入があり、ラムの洒落の一、二例をあげた中に、東印度会社の会計係の室は数個の小部屋に分れ、一部屋に六人ずついる。ラムもそうして坐っている書記の一人だが、その部屋をコムパウンド(合部屋)と呼んでいるという。どうしてそんな名をつけたのだと訊かれ、ラムが答えて、なにしろシムプル(単個、お馬鹿さん)の集まりだからコムパウンド(複合)なのさ、と言ったというのは良い洒落である。また、ラムがほめている洒落がある。それはスウィフト著『雑纂』中にあるというのを、『エリア随筆後集』の最後の「世上の謬見」という章の中に引用してあるものだが、「あるオックスフォードの学者が、往来を一匹の野兎(ヘアー)を荷つて行く荷かつぎに会つて、次のやうな異常な質問で挨拶に及ぶ――『ちよつと訊ねるが、君、それや、君の野兎(ヘアー)かね、それとも仮髪(かつら)なので?』」(平田禿木訳)というのである。」
「このラムの時代は洒落の時代なのだ。ウォルター・ローレー先生はそれを次のようにわれわれに教えてくれる。

  冗談にまぎらして責任を回避したり、物事を軽く片づけたりすることは、ラムに出来なかった。助けの手を出す代りに軽口を叩くということはしなかった。軽口が生真面目以上に如実であり真実である場合に彼は冗談を言った。ラムの地口には、弁明を必要とするようなのもあろう。現在地口(パン)はほとんど死んでいる。〔古伝説の「牧神(パン)は死んだ」という名句にかけたもの。〕地口はラムの時代の流行であったのだ。一夕の座興に最上の地口を発したとなれば、それは栄誉であったのだ。地口の上手は、社交界で歓迎されたのだ。(Sir Walter Paleigh : On Writing and Writers, pp. 122-3)」

「この一八一三年にラムは『フィランスロピスト』(博愛主義者)という雑誌の一月号に「泥酔者の告白」というはげしい文章を載せた。」
「酒を飲んじゃいけないという論は、いつの時代にも、水飲み批評家たちの喝采を受けるが、酒飲みの本人にとってはそうはいかない。「悪いことはわかっている。それを直すことも簡単だ。飲むのを止めればいいんだ。いかなる力も本人の意志に逆らって酒杯を面前に上げさせることはできない。盗むなかれ、嘘を吐くなかれ、というのと同じにいくはずなのだ。」が、酒はそう易々とは止まない。身体が欲しているのだ。君子たちよ、酒とはいかなるものかをまず知って、願わくは、「人間の廃墟の上を蹂躙するなかれ。」
 酒を止めることがいかに苦しいものか、僕は知っている。僕は禁酒しようとして、ほとんど狂せんとした。「僕らは弱いから酒がいるんだ。強い奴は別だ。酒など入っていなくても平気で世間をあるいている奴らにくらべて、僕らは何か景気をつけなければ気がめいって顔が上げられない意気地なしなんだ。なぜ酒を飲むかという、わけはそれだ。」
「中道は無いのだ。なまじっか少しくらい飲むなら、飲まない方がよい。この悪習になじんだ人にとっては、酔ったときが正気な時なのだ。僕にも青春の健康な時があった。そのころ、朝は喜びの歌をもって目ざめたものだ。しかるに今は、「まひるまも、暗い山に躓く。」
 ラムはそのように歎いて終るのだが、これは戯文であると書いている批評家もある。しかし、真実に近いところもあったろうと言っても反対する理由は無いではないか。」



「第十一章 不惑に達したラム」より:

「ラムはキーツを買っている。そして「聖アグネスの前夜」をほめ、ワーヅワスに次ぐ詩人だと言っている。しかしキーツはラムの悪洒落や地口に閉口している。シェリーについては、ラムはシェリーが嫌いである。その声が嫌いで、「ロザリンドとヘレン」のほかは彼のどの詩も好まぬ。ところがシェリーはラムが好きで、リー・ハントへの手紙では「あのロザマンド・グレイの話は何と美しいものだろう」と褒め、また別の手紙では、ロンドンにいないためラムに付き合えないのが残念だと言っている。」














































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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