オウィディウス 『変身物語』 中村善也 訳 (岩波文庫) 全二冊

「『さようなら、大地よ! 二度ともうおまえのところへはもどらないだろう』
 わたしはこういうと、海中へ飛びこんだ。
 海の神々は、わたしを受けいれ、彼らの一員として遇するという栄誉をわたしに与えてくれた。そして、わたしが身につけている人間的な部分をすっかり洗い流すことを、オケアノスとテテュスに命じた。」

(オウィディウス 『変身物語』 「グラウコス」 より)


オウィディウス 
『変身物語 (上)』 
中村善也 訳
 
岩波文庫 赤/32-120-1 

岩波書店 
1981年9月16日 第1刷発行
1983年12月20日 第2刷発行
366p
文庫判 並装
定価500円



オウィディウス 
『変身物語 (下)』 
中村善也 訳
 
岩波文庫 赤/32-120-2 

岩波書店 
1984年2月16日 第1刷発行
371p
文庫判 並装
定価500円



オウィディウス 変身物語


上巻帯文:

「おのが姿に恋して水仙と化したナルキッソスの物語など、変身を主要モチーフとするギリシア・ローマの神話・伝説の一大集成(全2冊)」


下巻帯文:

「古代ローマの天成の詩人(前 43-後 18)が物語作者としての手腕を存分にふるってギリシア・ローマの神話・伝説の世界にいざなう。」


上巻目次:

凡例

巻 一
 世界の始まり
 人間の誕生
 四つの時代
 巨人族(ギガンテス)
 リュカオン
 大洪水
 デウカリオンとピュラ
 ピュトン
 ダプネ
 イオ
 アルゴス
 シュリンクス
 エパポスとパエトン
巻 二
 パエトン
 太陽の娘たち(ヘリアデス)
 キュクノス
 カリスト
 大鴉・コロニス・小烏
 オーキュロエ
 バットス
 ケクロプスの娘たち
 アグラウロスと「嫉妬」
 エウロペ
巻 三
 カドモス
 アクタイオン
 セメレ
 テイレシアス
 ナルキッソスとエコー
 バッコスとペンテウス
 リュディアの船乗りたち
 ペンテウス
巻 四
 ミニュアスの娘たち
 ピュラモスとティスベ
 マルスとウェヌス
 レウコトエとクリュティエ
 サルマキス
 ミニュアスの娘たち(こうもり)
 アタマスとイノー
 カドモスとハルモニア
 ペルセウスとアトラス
 ペルセウスとアンドロメダ
 メドゥーサ
巻 五
 ピネウス
 プロイトス ポリュデクテス
 詩神(ムーサ)たち ピュレネウス
 ピエロスの娘たち
 プロセルピナの略奪
 キュアネ
 ケレス
 アスカラポス
 セイレンたち
 アレトゥーサ
 トリプトレモス
巻 六
 アラクネ
 ニオベ
 リュキアの農夫たち
 マルシュアス
 ペロプス
 テレウスとプロクネとピロメラ
 ボレアスとオレイテュイア
巻 七
 イアソンとメデイア
 アイソン
 ペリアスとその娘たち
 メデイアの逃亡
 テセウス
 ミノス
 アイアコスとケパロス
 アイギナの疫病
 「蟻男(ミュルミドン)」たち
 ケパロスとプロクリス
巻 八
 ニーソスとスキュラ
 アリアドネ
 ダイダロスとイカロス
 ペルディクス
 カリュドンの猪
 メレアグロスとアタランタ
 アルタイア
 メレアグロスの姉妹たち
 テセウスとアケロオス
 エキナデスの島々とペリメレ
 ピレモンとバウキス
 エリュシクトン

訳注



下巻目次:

巻 九
 アケロオスとヘラクレス
 ネッソスとデイアネイラ
 ヘラクレスと死の衣
 リカス
 ヘラクレスの神化
 アルクメネとガランティス
 ドリュオペとローティス
 イオラオスと若返りの恵み
 ビュブリスとカウノス
 イピスとイアンテ
巻 十
 オルペウスとエウリュディケ
 木々の飛来
 キュパリッソス
 ガニュメデス
 ヒュアキントス
 プロポイトスの娘たちと「角男(つのおとこ)」
 ピュグマリオン
 ミュラと父キニュラス
 ウェヌスとアドニス
 アタランタとヒッポメネス
 アドニスの変身
巻 十一
 オルペウスの死
 トラキア女たちへの懲罰
 ミダス王
 ラオメドン王
 テティスとペレウス
 ケユクス
 ダイダリオン キオネ
 プサマテの狼
 ケユクスとアルキュオネ
 ケユクス王の遭難
 「眠り」の神
 モルペウス
 かわせみ
 潜水鳥
巻 十二
 アウリスのイピゲネイア
 「噂(ファーマ)」とその住まい
 アキレウスとキュクノス
 カイネウス
 ラピタイ族とケンタウロスたちとの戦い
 キュラロスとヒュロノメー
 カイネウスの最期
 ヘラクレスとペリクリュメノス
 アキレウスの死
 アキレウスの武具をめぐる争い
巻 十三
 アイアスの言い分
 オデュッセウスの主張
 アイアスの死
 ヘカベとトロイアの女たち
 ポリュクセナ
 ポリュドロス
 メムノン
 アイネイアスとアニオス王
 アニオスの娘たち
 オリオンの娘たち
 スキュラ
 ガラテイアとアキス ポリュペモス
 グラウコス
巻 十四
 スキュラとキルケ
 ケルコプスたちと「猿ヶ島」
 巫女シビュラ
 アカイメニデスとポリュペモス
 マカレウス オデュッセウス キルケ
 ピクスとカネンス
 ディオメデスの仲間たち
 野生オリーブ
 妖精(ニンフ)たちに変わったトロイアの船団
 アルデア
 アイネイアスの神化
 ポモナとウェルトゥムヌス
 イポスとアナクサレテ
 タルペイア ロムルス
 ロムルスと妻ヘルシリア
巻 十五
 ヌマ
 ミュスケロスとクロトン市
 ピュタゴラスの教え
 ヌマの妻エゲリアとヒッポリュトス
 タゲスとキプス
 アスクレピオス
 カエサルの神化とアウグストゥス

訳注
解説




◆本書より◆


「ピュタゴラスの教え」より:

「この地にピュタゴラスという人物がいた。サモスの生まれではあったが、この島とそこの支配者たちをのがれ、圧政を憎んで、進んで亡命者となったのだ。この男は、もとより天界からは隔(へだ)てられた存在であったにしても、知性によって神々の世界にまで分けいった。そして、本来、人間が見てとることを禁じられているものを、心の目で読みとった。深く思いをいたし、不断の苦心を重ねることですべてを洞察すると、これをみんなに知らせた。そして、ただ黙々と、驚嘆しながら彼の言葉を聞いている会衆たちに、大宇宙の起源や、万物の原因を教えた。(中略)そのほか、あらゆる不可思議なことを説き明かしたのだ。
 獣肉を食膳に供することを非とした最初の人は、このピュタゴラスだったし、はじめてつぎのようなことを語ったのも彼だ。もっとも、彼のこの賢明な言葉は、ひとの信を得るにはいたらなかった。
  「人間たちよ、忌まわしい食べ物によって自分のからだを汚すようなことは、しないことだ! 穀類というものがあり、枝もたわわな果実がある。葡萄(ぶどう)の樹(き)には、はちきれそうな葡萄もなっている。生(なま)でもうまい草木もあれば、火を通すことで柔らかくなる野菜もあるのだ。乳もあれば、麝香草(じゃこうそう)の花の香にみちた蜂蜜にも、こと欠きはしない。大地は、惜しげもなく、その富と快適な食糧とを供給し、血なまぐさい殺戮(さつりく)によらない食べ物を与えてくれる。(中略)こよなく慈愛深い母である『大地』が生み出す、こんなにも豊かな富に囲まれていながら、荒々しい歯で痛ましい肉を噛み裂き、あの『一つ目族(キュクロペス)』の習わしを再現することだけが喜びだというのか? 他の生命を滅ぼすことなしには、飽くなき貪婪(どんらん)な口腹の欲を鎮(しず)めることができないというのか?
 だが、われわれが『黄金時代』と呼んでいるあのむかしの時代は、木の実や、大地が生む草木だけでしあわせだった。みずからの口を血で汚すような者は、誰もいなかった。そのころは、空飛ぶ鳥も安全であり、野なかをさまよう兎も恐れを知らなかった。疑いを知らぬ魚が、釣針にかかることもなかったのだ。生けるものみなは、罠(わな)を知らず、欺瞞(ぎまん)を恐れる必要もなかった。いたるところに平和がみちていたのだ。
 が、どこかの誰かが、余計にも、獅子たちの食べ物を羨やんで肉をくらい、それを意地きたない腹へ送りこむことを始めたのだ。こうしたことから、罪への道が開かれた。おそらく、最初は、剣が血にまみれてあたたかくなったのは、野獣を殺すことによってであっただろう。そして、それだけならよかったのだ。われわれの生命を奪おうとする動物を殺すことは、道にはずれたことではないとおもう。が、殺すのはよいとしても、食ってもよいというわけではなかった。」」
「「冷たい死の恐怖におびえている人間たちよ、どうしてあの世を恐れるのか? 暗闇(くらやみ)と、名前だけの虚像を? 詩人たちのたわごと、架空の世界のあの危難を、どうしてこわがるのか? われわれのからだは、火葬堆(かそうづみ)の炎に焼かれようとも、ながい年月のうちに朽ち果てようとも、何の苦しみも受けるものではないと知るべきなのだ。霊魂にいたっては、これは死ぬことがなく、以前のすみかを去っても、つねに新居に迎えられて、そこに生きつづけ、そこをすみかとする。
 いまも記憶に残っているが、このわたしにしても、トロイア戦争の時代には、パントオスの子のエウポルボスだったのだ。もうむかしのことだが、メネラオスの重い槍を、真っ向(こう)から胸に受けたものだ。これは最近になるが、いつもわたしが左手に持っていた盾が、アバス王の都アルゴスのユノー神殿に奉納されているのを見つけて、なつかしくおもったことだ。
 万物は変転するが、何ひとつとして滅びはしない。魂は、さまよい、こちらからあちらへ、あちらからこちらへと移動して、気にいったからだに住みつく。獣から人間のからだへ、われわれ人間から獣へと移り、けっして滅びはしないのだ。柔らかな蠟には新しい型を押すことができ、したがって、それはもとのままではいられないし、いつも同じ形をたもつことはできないが、しかし同じ蠟であることには変わりがない。それと同じように、霊魂も、つねに同じものではありながら、いろんな姿のなかへ移り住む――それがわたしの説くところだ。」」
「「どんなものも、固有の姿を持ちつづけるということはない。万物の更新者である自然が、ひとつの形を別の形につくり変えてゆく。わたしの言葉を信じてもらいたいのだが、この全世界に、何ひとつ滅びるものはないのだ。さまざまに変化し、新しい姿をとってゆくというだけのことなのだ。生まれるとは、前とは違ったものになることの始まりをいい、死とは、前と同じ状態をやめることをいう。あちらのものがこちらへ、こちらのものがあちらへ移行することがあるかもしれないが、しかし、総体からいえば、すべては不変だ。
 わたしは確信するが、ながいあいだ同じ姿のままでいるものは何ひとつないのだ。たとえば、時代というものも、『黄金時代』から『鉄の時代』へまで推移した。土地の状態も、しばしば変わった。現にこの目で見たのだが、かつては固い地面であったところが海に変わっている。逆に、海が陸になった例も知っている。海洋から遠く離れたところに、海の貝殻がころがっていたし、山のてっぺんで古い錨(いかり)が見つかったこともある。平野であったところが、浸水によって谷になり、山が洪水によって平地になりもした。沼地であったところが、からからに干あがった砂地になるかとおもうと、乾きに苦しんでいた場所に水がたまり、そこが沼に変わることもある。」」
「「要するに、天空と、その下にあるものはみな、姿を変えてゆく。大地も、そこにあるすべてのものもだ。この世界の一部であるわれわれも、その例にもれない。それというのは、われわれは単に肉体であるだけでなく、飛びまわる霊魂でもあり、野獣のなかに住むことも、家畜の胸へはいりこむこともできるからだ。だから、それらの動物たちのからだが完全無事で、敬意をもって遇せられるようにしてやろうではないか。そこには、われわれの親兄弟や、あるいは、ほかの何かのきずなによってわれわれと結ばれた者たちの、それとも、少なくともわれわれと同じ人間の、霊魂が宿ったかもしれないのだ。」」




こちらもご参照下さい:

オウィディウス 『転身物語』 田中秀央・前田敬作 訳






































































































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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

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将来の夢: 石ころ。

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