『ヘーローンダース 擬曲』 高津春繁 訳 (岩波文庫)

『ヘーローンダース 
擬曲』 
高津春繁 訳
 
岩波文庫 赤/32-113-1 

岩波書店 
1954年6月25日 第1刷発行
1990年10月5日 第2刷発行
105p
文庫判 並装 カバー
定価260円(本体252円)
カバー: 中野達彦



「ぎきょく」(ミーモス)。正字・新かな。


ヘーローンダース 擬曲


カバーそで文:

「「擬曲」とは日常生活のちょっとした情景を写した寸劇のこと。古代ギリシアの市井の茶飯事が軽妙なタッチで描かれている。」


目次:

凡例

なかだち または とりもち婆
おき家
先生
アスクレーピオスに奉獻し犠牲を捧げる女達
嫉妬深い女
ひそひそ話
靴屋

その他
 朝の食卓につく女達
 モルペイノス
 共に働く女達
所属不明(Ⅰ)
所属不明(Ⅱ)

解説




◆本書より◆


「先生」より:

メートロティーメー 日頃から信奉するミューズ様(文藝の女神)があなたに生の歡びを享けることを授けて下さいますように、ラムプリスコス先生。これのまがった心がもう脣まで出て來て、やっと留るまで、これの肩をうんと擲ってやって戴きたいものでございます。錢廻し、(銅錢を廻轉させて、優劣を決する遊び)をやって、憐れなこの私から屋根を奪いとってしまいました。アストラガロイ(一種の子供の骸子遊び)ではもう滿足しないのでございますからね、ラムプリスコス先生、そしてもう不幸は益〃ひどくなって參りました。讀み書きの先生のお宅が何處にあることやら、そして情ない月末の日が月謝を要求して、私がナンナコス(傳説的のプリュギア王。彼はデウカリオーンの大洪水を豫知して、人民を神殿に集め、涙を流して天に助を求めたと傳えられる。)王のように泣きましても、直ぐには言ってくれないのでございます。そのくせ荷擔人足や浮浪人共の住んでいる博奕場はようく知っていて、人にも教えることが出來ますのです。私が苦勞して蠟を毎月塗ってやる憐れなお習字板(蠟びきの板で、その上に習字をするもの)は、ベッドの壁の方の側の脚の前にほったらかしで轉っていて、それをばまるで死神でも見るように見むきもせず、碌なことは書かずに、綺麗にこすって仕舞うのでございます。ところが牌と來た日には、私共が何時も使っております油壺よりもずっとぴかぴかして、袋や網の中にはいっています。そして、いろはのいの字も、同じことを五度も怒鳴ってやらなくては、讀めないのでございます。二日前に父がこの子に「マローン」と書取させたところが、この秀才はマローンをシモーンにして仕舞いました。そこで、年とってからの助にもと思って、この子に驢馬を飼う法を教えないで、字を習わせたこの私は馬鹿だったと言ったんでございますよ。それから、私か(この子の)父が――もう眼と耳とが滿足でない年寄でございますが――お子さん方になさるように、暗誦を命じますと、「狩人アポローンよ」と穴のあいた容物から水をたらすように、ぽつんぽつんと申します、それで私は「なんだって、こんなことは字が讀めないけれど、お祖母さんでも、そんじょそこらの唐變木にだって、言えるんだよ」と言うんでございます。もっと酷く言ってやろうとすると、三日間も家の敷居を跨がず、細々と暮しているお祖母さんにたかるか、屋根の上に手足を伸ばして、猿かなんかのようにかがんで下を見下して坐っている。それを見た時の私の傷心はどんなでございますことか。それどころじゃございません。瓦という瓦はまるで煎餅のように粉微塵で、冬が近づく度に、泣きながら一枚について十八錢支拂うんでございます。アパート中は口を揃えて、これはメートロティーメーの息子のコッタロスの仕業だと言いますし、又それに相違ございませんので、返す言葉もないのでございます。そして、まるで、海で怠け者をしているデーロス島(エーゲ海中の、アポローンの神殿で有名な小島)の漁師のように、どんなに森で脊骨をすりむいて來るか、御覽下さい。ところが月の七日と二十日(七日と二十日はアポローンの日で、ギリシアの多くの地で休日となっていた。)は天文學者よりもよく知っていて、あなた方が休日にしていらっしゃる日を考えている時には、眠ることも出來ないんでございますよ。ですが、ラムプリスコス先生、ここにおいでの女神樣達(ミューズを指す)が先生に人生の成功を授けられ、また幸運にお遇いになりたければ、これに少くとも…………
ラムプリスコス メートロティーメーさん、神樣の名を出すのはやめにして下さい。少しだって減しはしませんから。(子供達にむかって)エウティエースは何處だ、コッカロスは、ピッロスは。さっさとこいつを肩に擔いで、もう堪忍袋の緒が切れた。百年河清をまつ。(子供達は命令通りにする)コッタロス、お前の仕業は見上げたもんだな。ここのみんながやっているように、アストラガロイで遊ぶのじゃもの足りなくって、博奕場に行って、荷擔人夫共と錢廻しをしないじゃいられないのかい。お望みなら、箸より重いものを持ったことのないお嬢さんよりももっとおとなしくさせてやるぞ。足械を箝められている奴や、言うことをきかない奴等をひどい目に合わせるのに用う、あの凄い革紐、牛のしっぽは何處にあるんだ。餘り怒って息のつまらぬ中に、そいつをわしに手渡してくれ。」


























































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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