テオプラストス 『人さまざま』 森進一 訳 (岩波文庫)

テオプラストス 
『人さまざま』 
森進一 訳
 
岩波文庫 青/33-609-1 

岩波書店 
1982年1月18日 第1刷発行
1990年4月5日 第12刷発行
162p
文庫判 並装 カバー
定価310円(本体301円)



本書「解説」より、テオプラストスの言葉:

「人生を支配するものは、運であって知恵にあらず」
「われわれは、いざ生きようと思うとき、世を去るのだ。されば、名声名誉への欲望ほど、世に空しいものはない」
「人の一生には、良いことよりも失意の方が多い」



テオプラストス 人さまざま


カバー文:

「哲人でも賢人でもない古代ギリシアの平凡な人びとの世態人情、それを明かしてくれるのがこの愛すべき小品だ。アリストテレスの愛弟子テオプラストス(前372-288)が、つれづれの興にまかせて軽妙犀利な筆をふるった人物スケッチ30篇。どのページを開けても、そこにはいにしえのギリシア庶民のさざめきがこだましている。」


目次:

凡例

前書き
一 空とぼけ
二 へつらい
三 無駄口
四 粗野
五 お愛想
六 無頼
七 おしゃべり
八 噂好き
九 恥知らず
一〇 けち
一一 いやがらせ
一二 頓馬
一三 お節介
一四 上の空
一五 へそまがり
一六 迷信
一七 不平
一八 疑い深さ
一九 不潔
二〇 無作法
二一 虚栄
二二 しみったれ
二三 ほら吹き
二四 横柄
二五 臆病
二六 独裁好み
二七 年寄の冷水
二八 悪態
二九 悪人びいき
三〇 貪欲

校訂注
解説 (森進一)




◆本書より◆


「いやがらせ」より:

「さて、いやがらせを定義するのは、むずかしいことではない。すなわち、いやがらせとは、露骨で、無作法きわまる悪ふざけである。そこで、いやがらせをする人とは、およそつぎのようなものである。
 すなわち、淑女に出逢うと、自分の外衣をまくしあげて、隠しどころを見せびらかす。
 また、劇場では、他の客たちが拍手をやめたときに拍手をし、彼以外のものたちが、うっとりとなって観ている俳優を、口笛で野次(やじ)る。そして、場内がしんと静まりかえっていると、席についている客たちを自分の方へふり向かせるために、頭をうしろへそらして、げっぷをやってみせる。
 また、広場(アゴラ)に人びとの出さかっている時刻には、くるみ屋やてんにんかの店や果物屋に近づき、店の者に、なにくわぬおしゃべりをしかけながら、立ったまま盗み食いをする。そうして、その場に居合わせた人びとの誰彼かまわず、とくべつの知り合いでもないのに、その人の名を呼びかける。
 さらにまた、どうやら急いでいるらしい人を見かけると、ちょっと待ちたまえ、と命じる。
 さらにまた、大きな訴訟事に敗れて、法廷から退場してゆく人があると、近寄って、祝いの言葉をかける。」



「頓馬(とんま)」:

「頓馬とは、たまたまかかわりをもった人たちに、相手を苛立(いらだ)たせるような話をしかけることである。そこで、頓馬な人とは、およそつぎのようなものである。
 すなわち、忙しくしている人のところへ出かけて、相談をもちかける。
 また、自分の恋人が病気で熱を出しているときに、彼女の前でセレナーデ(恋の唄)をうたう。
 また、保釈保証人を請け負って、その裁判に負けた人のところへ出かけ、自分の保釈保証人になってもらいたいと依頼する。
 また、事件の判決はすでに下されたのに、証人に立つつもりで出頭する。
 また、結婚式に招待されると、女性のことを悪く言う。
 また、長旅から戻ってきたばかりの人を、散歩に誘う。
 さらにまた、これも彼のよくやることだが、すでに取引き契約を終えた人のところへ、もっと高値を出す買手をつれてくる。
 また、すでに聞き終り、充分に理解した人を相手に、初めから説明しようと立ち上がる。
 また、相手の人が、そのことの実現を望んではいない事がら、かといって、断るのも気恥ずかしいと思っているような事がらを、自分が引きうけましょうと、熱心に申し出る。
 また、人が犠牲をささげ、大きな出費をしたばかりのときに、貸した金の利息を請求しにやってくる。
 また、召使いが鞭を打たれているときに、その傍に立って言う、かつて自分のところの召使いも、こんなふうに鞭打ちをくらったとき、首をくくって死んだものでした、と。
 また、仲裁に立ち合うと、双方とも和解を望んでいるのに、争いへとけしかける。
 また、踊りたいと思うと、まだすこしも酔っていない相手の手をとる。」



「上の空」より:

「上の空とは、これを定義すれば、言語動作における心の動きの遅鈍さである。そこで、上の空の人とは、およそつぎのようなものである。
 すなわち、計算早見表を使って勘定し、総計を出しておきながら、隣席の人に、「いくらになるんですかな」などと尋ねる。
 また、告訴され、出廷する心づもりをしていながら、うっかり忘れて田舎へ出かける。
 また、劇場で芝居を見ると、自分一人だけが居眠りをしながら居残っている。
 また、夕食をとりすぎ、夜中に起きて戸外の便所へゆこうとして、隣家の犬にかみつかれる。
 また、なにかよいものを貰い、自分でそれをしまいこんだものの、さてそれを探す段になると、見つけることができない。」



「へそまがり」より:

「へそまがりとは、言葉使いの点で、態度の無礼なことである。そこで、へそまがりの人とは、およそつぎのようなものである。
 すなわち、「誰それはどこにいますか?」と人から尋ねられると、「私をそっとしておいてもらいたいですね」と答える。
 また、挨拶をされても、挨拶を返さない。」
「また、ついうっかり自分に泥をかけたり、押したり、足のつま先を踏んだりした人を、断じて許さない。」
「また、道でつまずきでもすれば、きまってその石に悪態をつく。
 また、相手が誰であれ、長い間待つという辛抱はしない。
 また、唄うことも、詩句の朗唱も、踊ることも拒む。
 また、神々にすらお祈りをしないのが、彼のつねである。」














































































































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ひとでなしの猫

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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

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趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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