ルーキアーノス 『遊女の対話 他三篇』 高津春繁 訳 (岩波文庫)

ルーキアーノス 作 
『遊女の対話 他三篇』 
高津春繁 訳
 
岩波文庫 赤/32-111-2 

岩波書店 
1961年4月25日 第1刷発行
1983年11月7日 第2刷発行
223p
文庫判 並装 
定価350円



モノクロ図版(各篇タイトルページ)4点。


ルーキアーノス 遊女の対話 01


帯文:

「ギリシアの諷刺詩人ルーキアーノスの代表作四篇。軽妙な筆致で迷信を嘲笑、えせ哲学を難じ、滑稽な皮肉を交じえて恋の戯れを描く。」


目次:

遊女の対話
嘘好き、または懐疑者
偽予言者アレクサンドロス
ペレグリーノスの昇天

解説



ルーキアーノス 遊女の対話 02



◆本書より◆


「嘘好き、または懐疑者」より:

「「私がまだ若かった頃だ、父に教育の目的でエジプトにやられて暮していた時に、コプトスへと河を上って、かのメムノーンの像のところに行き、日の出に応じて彼が発するかの驚くべき響を聞きたいと思った。彼から私の聞いたのは大衆が普通に聞くというがごとき無意味の声ではなくて、私に対してメムノーンは実際にその口を開いて七聯の句でもって神託を下したのだ。余り余計なことでさえなければ、まさにその言葉を諸君にお聞かせするところなのだがね。
 遡航の途中神殿の書記でその智は驚くべく、あらゆるエジプトの学問に通暁しているメムピスの人が偶然われわれと行をともにしていた。彼は二十三年の間聖所の内で、イーシス女神より魔法を修得しつつ、地下で暮したということだった。」
 「君の言うのはパンクラテースのことだ、」とアリグノートスが言った、「私の先生、聖者、頭をそって、麻衣を身に纏い、つねに思いにふけっている、そのギリシア語は純粋ではなく、脊の高い、鼻の偏平な、唇の突出した、脚がどっちかと言えば細い。」「まさにそのパンクラテースだ。」と彼が言った、「そして初めは誰だか知らなかったが、船を碇泊させている時、常に彼が多くの様々の不思議を行い、その中でも特に鰐の脊に乗り、この猛獣とともに泳ぎ、また獣の方ではその側にうずくまり、尾を振るのを見たので、彼が聖者であることを知り、次第に彼に友情を示して、知らぬ間に彼の連れ仲間となり、その結果彼は私にあらゆる秘術を頒(わか)ってくれたのだ。」
 「遂に彼は家僕全部をメムピスに残しておいて、自分だけで彼について来るように私を説き伏せた。われわれは召使に事かくようなことはないのだからと言って。そしてその後このようにして日を過した。宿泊所に来るごとにかの男は扉の閂とか箒とか、いや擂木(すりこぎ)さえも用いたが、こういうものを取り上げて着物をきせかけ、ある呪文をとなえて歩かせた。外のすべての人々には人間に見えるのだ。こいつが行っては水を汲む、食物を買って来る、食事の用意をする、あらゆる点で器用にわれわれに給仕した。それから給仕が終ると彼は他の呪文をとなえて、箒はまた箒に、擂木は擂木にかえす。」
 「これを彼から何んとかして教わりたいと思ったが、だめなのだ。外の事はよろこんでやってくれるのだが、惜しかったんだね。ある日のこと私は暗いところに立って、そっとその呪文――きっかり三音節だった――を立ち聞きした。そして彼は擂木に必要なことを命じておいて市場へ立ち去った。私は次の日に彼が市場で何か用を足している間に、その擂木を手にとって同じように着物をきせ、例の音節をとなえて、水を汲んで来るように命じた。水甕(みずがめ)をいっぱいにして持って来た時に、「やめよ、もう水を汲んで来ずに元の擂木にもどれ。」と言ったが、そいつは一向にわしの言うことを聞こうとしないで、どんどん水を汲んで来るので、遂にそいつは水を注ぎこんで家をいっぱいにしてしまった。私はこの事態に閉口して――パンクラテースが帰って来て怒るだろうと恐れていたし、またその通りになったのだが――斧(おの)を取って擂木を真二つに叩き割った。ところが両方が水甕を取って水を汲み始め、わしには一人の代りに二人の召使が出来てしまったんだ。そうしているうちにパンクラテースがその場に現われて事態を知り、かのものを呪文の前のようにふたたび木切れにもどし、自分はわしを捨てて立ち去り、知らぬ間にどこへか知らぬが消え去ってしまった。」
 「それではあなたは今でも」とデイノマコスが言った、「その擂木から人間を造る方法を知っていられるのですか。」「さよう」と彼が答えた。「半分だけはね。一度水汲になったが最後そいつを元の形にもどすことはわしには出来ないのだからな。いや、われわれは水を注ぎ込まれて家中大洪水にされねばならんだろう。」」




こちらもご参照下さい:

ルキアーノス 『神々の対話 他六篇』 呉茂一・山田潤二 訳 (岩波文庫)

ルキアノス 『本当の話 ― ルキアノス短篇集』 呉茂一 他 訳 (ちくま文庫)




































































































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