ルキアノス 『本当の話 ― ルキアノス短篇集』 呉茂一 他 訳 (ちくま文庫)

「たとえいうとおりに神様だろうと何だろうと、すぐにも手痛い目にあわせてくれるぞ。おれは人間も神々もいっしょくたにだれもかれも、みんな憎くてたまらないんだ。」
(ルキアノス 「ティモン」 より)


ルキアノス 
『本当の話
― ルキアノス短篇集』 
呉茂一 他 訳
 
ちくま文庫 る 3 1 

筑摩書房 
1989年8月29日 第1刷発行
472p 編集付記1p
文庫判 並装 カバー
定価780円(本体757円)
装幀: 安野光雅
カバー装画: 『別世界』(Un aurre monde par T. Drole, 1844)より



本書は、三人の訳者による既存の翻訳から10篇を選んだルキアノス作品集です。底本は『ルキアノス短篇集』、『世界文学大系』第63巻、『世界人生論全集』第2巻(以上、筑摩書房)および『世界短篇文学全集』第8巻(集英社)で、「新字新かなづかいに改め、ルビを多めにした」(本書「編集付記」より)ということです。

ところで、本書のカバー装画はグランヴィルによる『別世界』イラスト(挿絵)ですが、カバーそでの説明に「Un aurre monde par T. Drole」とあるのは、『別世界』の文章を書いたのがジャーナリストの Taxile Delord(タクシル・ドロール)なので、その誤記だとおもいます(Delord→ドロール→Drole)。本書収録作のタイトルをもじっていえば、「二重に間違えられて」いるわけですが(ついでにいうと「aurre」は「autre」の誤記なので厳密にいうと三重です)、「本当の話」をもじっていえば、「ところでそんな誤記に今さらどれほど出くわそうと、いい加減な仕事をするというかどでもっては、べつに大してその連中をとがめ立てようと思ってはいない。なぜといってこうしたことは出版人だと自称する人々のあいだにさえ、まえまえからもうありきたりの珍しくもない話なのだから」ということになるのですが、しかしながら、ものがものだけに、そういうツッコミをあらかじめ想定したボケ誤記である可能性もすてきれないです。


ルキアノス 本当の話


帯文:

「諷刺文学の粋!
鯨の胎内、ランプの国、キルクの島……「ガリヴァー旅行記」などの先駆となった奇話滑稽譚の数々。」



カバー裏文:

「これは単なるパロディスト? それとも、じつは、深刻過烈な思想家か? ローマ時代の作家中、ぬきんでて独創と構想力ゆたかな作家といわれるルキアノス。現代に生きても、卓越したジャーナリストたりえたにちがいないルキアノス。神々を含め、人間世界そのものの矛盾や撞着、愚かしさを笑いとともにほうり出してみせる、その凄さ、手際よさ! 地獄・極楽はもちろん、鯨の胎内の世界、ランプの国、キルクの島……「ガリヴァ旅行記」や「月世界旅行記」の先駆となった表題作他9篇でおくるルキアノス諷刺文学の粋。」


目次:

本当の話 (呉茂一 訳)
空を飛ぶメニッポス (山田潤二 訳)
メニッポス (高津春繁 訳)
トクサリス――友情について (呉茂一 訳)
ティモン――または人間嫌い (呉茂一 訳)
遊女の対話 (高津春繁 訳)
悲劇役者ゼウス (高津春繁 訳)
哲学諸派の売立て (山田潤二 訳)
漁師 (山田潤二 訳)
二重に訴えられて (高津春繁 訳)

訳者あとがき (呉茂一)
解説 ルキアノス讃 (四方田犬彦)




◆本書より◆


「本当の話」より:

「クニドスの人でクテーシオコスの子のクテーシアスは、インドの国々やその事物について、自分が見たのでも他の実地に見聞した人から聞いたのでもない話をいろいろと書きしるしている。またイアンブーロスも大洋中のことについてさまざまな不可思議を伝えているが、それはだれにでもうそっぱちをこね上げてるとわかってながら、それながらになお読み物として面白くないこともない物語である。その他にもたくさんな人たちが好んでこれと同様なやり方をして、自分の旅行記とか漫遊談とか称しては、巨大な動物や野蛮な人種のことや奇異な風俗などについてのべているが、さてこうした連中の先達ともかれらのでたらめの師匠ともいうべきは、かのホメロスに出るオデュッセウスであって、アルキノオスの宮廷の人々に風を閉じこめた話だの一つ目の巨人だの人食いの野蛮な人種のこと、さらにまた頭のいくつもある怪獣や、薬草を飲まされて自分の仲間が豚にされてしまった話とか、そうしたほらをうんとこさと、パイアキアの人たちが何もわからぬと思ってしゃべり立てたというわけなのだ。
 ところでそんな話に今さらどれほど出くわそうと、いい加減を書くというかどでもっては、べつに大してその連中をとがめ立てようと思ってはいない。なぜといってこうしたことは哲学者だと自称する人々のあいだにさえ、まえまえからもうありきたりの珍しくもない話なのだから――だが本当でもないことを書きしるしながら、それを見つかるまいと思ってるほうこそ、いつもながら驚くに耐えた事柄である。そこでもって私自身もまた虚栄を望む心から後世の人々に何物かを遺しておきたいと心がけているところ、自分だけがこうした好き勝手な話をつくりだす権限の相伴(しょうばん)をしないどくのももったいない話だし、さりといって本当のことを書きつづるだけの種も特別にないので――語るに足るというほどの経験をやってきたわけでもないものだから――いっそうのことうその捏造(ねつぞう)に取りかかろうと決心した次第である。がそれでもまだずっと他の人たちよりは筋がとおしてある、というのはこの一つのことだけは正真正銘間違いがないと申し上げられる。それはすなわち私の話がまったくのつくりごとだということで、かくのごとくに自分でもってなにも本当はいわないと白状しておけば、どんないろんな方角からの非難をさえも免れることができようと期待してるわけなのだ。されば私が以下にしるすことごとは、見たものでも経験したものでも他の人たちから聞いたものでもない、ぜんぜん存在もせずまたてんからありようもないといった事柄で、それゆえこれを読む方々はひらにひらにこの物語を信じてくださらぬようにとお願い申し上げる次第である。」

「さて私が月世界に滞在していたあいだに見た、いろんな珍しいかわったことをつぎに述べようと思う。……(この国では)人が年を取ると、死ぬということはせず、煙のように溶けて空気になってしまうのである。食物というのはだれでもみな同様で、つまり火を燃やして出来る燼(おき)でもって蛙を焼くのだが、この蛙は月世界にいくらも空中を飛んでるやつなので、その蛙がよく焼けると、ちょうど食卓を囲むようにそのまわりに坐って、それから立ち上る煙をすい、いい工合に腹をふくらすというわけである。食事のほうはこんなものを養いにする次第だが、かれらの飲料というのはまた空気を圧搾して杯に入れ、そこから出る露のような水気を飲むのであって、さればいっこうに排泄もせず、その機関も持ってないというありさまであった。」
「ところで月世界人はお腹を袋や鞄やの代りに使って、何でも入り用なものをそのなかに入れておく、というのはみんな腹が開いたりまた閉めたりできるようになってるからで、そのなかには腸(はらわた)といったものは少しも見えず、ただ内側にびっしりと毛が生えてもじゃもじゃしており、それゆえ赤ん坊までが寒さのおりにはそのなかへはいり込まされるという次第であった。」




こちらもご参照下さい:

ルキアーノス 作 『神々の対話 他六篇』 呉茂一・山田潤二 訳 (岩波文庫)
ルーキアーノス 『遊女の対話 他三篇』 高津春繁 訳 (岩波文庫)







































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