グリオール+ディテルラン 『青い狐 ― ドゴンの宇宙哲学』 坂井信三 訳

「狐は完全にできあがるずっと前に、不従順な性質を現わしアンマの計画に従うのを拒んだ。彼はしくじる運命を荷なって生まれて来た。彼の役割とつとめはそれ自体、彼自身の個別性を強化することにあった。彼は宇宙の秩序の破壊に手をつけたのと同じように、自分も未完成のままにとどまった。宇宙的な次元での〈記号〉すなわち ことば の追求と、人格の次元での双児の妹あるいは女性の魂の追求という、彼の二つの追求は、つねに必要なものである。彼は宇宙の混乱のもとになったと同時に、心理的な個別性の発揮に道を拓き、そうやって心理と宇宙の双方の領域に、対立関係という望ましい要因をもたらしたのである。」
(グリオール+ディテルラン 『青い狐』 より)


マルセル・グリオール
ジェルメーヌ・ディテルラン 
『青い狐
― ドゴンの宇宙哲学』 
坂井信三 訳


せりか書房 
1986年9月22日 発行
577p xvii 口絵36p(うちカラー6p)
A5判 丸背紙装上製本 カバー
定価6,800円
装幀: 工藤強勝



本書「訳者あとがき」より:

「本書は Marcel GRIAULE et Germaine DIETERLEN, "Le Renard Pâle" (Travaux et Mémoires de l'Institut d'Ethnologie LXXII, 1965) の全訳である。」
「ドゴン族という人々は西アフリカのサバンナの一画、現在のマリ共和国とブルキナファソ共和国にまたがる一帯に生活する農耕民で、本書はそのうちバンジャガラ断崖地方の主としてサンガ地域の人々に伝承されている秘儀的な創世神話を記述したものである。」
「この研究は(中略)グリオールが一九五六年に急逝したために、ディテルランがその後を受け継いで完成させたものである。したがって、本書はグリオールとディテルランの共著の形をとっているが、事実上の執筆者はディテルランひとりである。」
「本書には多数の図版が収録されている。原著は全巻アート紙で、図版もほとんどが色刷りになっているが、それをそのまま再現するのはかなり困難なことであった。そこで本訳書では、口絵部分に重要と思われる多色刷りの図版をほとんどすべて再録し、単色の図版は、そのうちいくつかを選んで原著のとおりに再現したものを口絵に収め、残りは白黒の図版にして本文中に織りこむことにした。原図は大半がベージュの地に白ぬきで図像を描き出している。これは土の上に穀物のかゆで描かれた図の印象を再現しようとしているものと思われ、配色自体には重要な意味はない。(中略)写真は原著にあるものをそのまま生かした。」



グリオール 青い狐 01


カバーそで文:

「西アフリカ、ニジェール河
大彎曲部の断崖地帯に
住むドゴン族の
なかへミッシェル・レリスらと
ともに分け入った
民族学者M・グリオールは、
彼らからドゴン族最高の
秘儀体系を伝授されることとなった。
それは、内部生命が
螺旋運動の形で生成発展して
いくものとして
世界を捉え、人間精神の
内奥への洞察をエレガントに
解明した、西欧ともアジアとも
まったく異なる
独自のアフリカ的世界観の極限を
開示するものであった。
本書はこのドゴン族の
秘教をたぐい稀な精密さで描き、
ドゥールーズ=ガタリを
始めとして世界に
衝撃を与えた民族誌の
全訳である。」



グリオール 青い狐 02


目次:

図版/写真/地図

凡例

はじめに

序論
 歴史
 言語
 衣食住
 社会
 人格の概念
 ドゴン族の思惟
 付記
 音声表記について
 地図・図・写真について

第一章 アンマ
 1 アンマ
  記号の創造と形態論
  記号の分類と増加
  記号から絵へ
  諸表象
  記号の役割
 2 一回目の創造
  アカシアの創造
  〈最初の世界〉の創造
  〈最初の世界〉の崩壊
 3 アンマの卵
  二回目の創造
  〈アンマの卵〉の最初のヤラ
  〈アンマの目〉が開く、〈アンマの卵〉の第二のヤラ
  諸表象
 4 フォニオの創造
  フォニオの創造
  八種の種子の創造
  ひょうたんとオクラ
  発酵
 5 ノンモ・アナゴンノの創造
  アンマの二重の胎盤
  ノンモ・アナゴンノの卵
  ノンモ・アナゴンノの形成
  魚の増加
 6 アンマの業
  アンマの業
  〈第二の世界〉の仕上げ

第二章 オゴ
 オゴの反抗
 オゴの一回目の降下
 大地の形成
 オゴの最初の箱舟の表象
 異伝
 オゴが再び天に昇る
 異伝
 太陽と亀の創造
 オゴがアンマの種子を盗む
 異伝
 創造の諸要素が白いフォニオの中に戻される
 オゴが再び降下する
 オゴの第二の箱舟
 オゴの種子播き
 ノンモ・ティティヤイネが胎盤を踏みつぶす
 アカシアとくもの働き

第三章 ノンモの供犠と再生
 1 ノンモの去勢
  アンマによる供犠執行者と犠牲者の選定
  犠牲者の魂の分割
  ノンモの去勢
 2 オゴの割礼
  オゴが再び天に昇る
  オゴの割礼
  最後の三度目のオゴの降下
  オゴが青い狐に変えられる
  狐の占いの図表
 3 ノンモの供犠
  犠牲者の喉を切る
  犠牲者の体の分割
  体の諸部分を空間に投げる
 4 ノンモの再生
  ノンモの再生
  供犠と再生の図――レベ・ダラの祭壇と血の線の祭壇
  諸表象
  ノンモの供犠と再生の価値と機能
 5 人間の創造
  鎖骨
  アナゴンノ・ビレとアナゴンノ・サラ
  霊的原理
  鍛治師、語り部、ヤシギ
  死――アナゴンノ・アラガラ
  再生したノンモの胎盤と亀

第四章 白いフォニオの仕事
 創造の諸要素と女性の白いフォニオ
 ノンモが男性の白いフォニオを呑みこむ
 女性の白いフォニオの中にあった諸要素の分類
 諸表象

第五章 ノンモの箱舟
 箱舟に積まれていたもの
 箱舟の降下
 大地に降りた箱舟
 ノンモの箱舟の諸表象
 水の中に入った再生したノンモ
 天体と暦

第六章 アンマの鎖骨の閉鎖
 ひょうたんとオクラの降下
 アンマの鎖骨の中の記号
 アンマは閉じる

原注
付録
神話の概要

訳者あとがき

図版一覧
ドゴン語の動物、植物、星の名称一覧表
参考文献



グリオール 青い狐 03



◆本書より◆


「アンマ」より:

「はじめに、すべてのものに先立って、アンマ(Amma)すなわち神があった。彼は空無の上にいた。〈アンマの丸い卵〉は閉じていた。だがその卵は〈鎖骨〉とよばれる四つの部分からなっていて、それ自体も卵型をした四つの部分は互いに癒着したようなかたちでひとつになっていた。アンマとは接合した四つの鎖骨であり、アンマはこの四つの鎖骨に他ならない。〈アンマのつながった(くっついた)四つの鎖骨は、ひとつの玉をなしていた(玉である)〉といわれる。〈そのあとには何もない〉、つまりそれ以外には何も存在しなかった。
 この卵は全体として、いくつもの角を出した白蟻塚になぞらえられる。それは単一性と多様性を同時に思いおこさせるのである。」
「これらの鎖骨は、原初的なかたちで四つの元素を先取りするものであった。四つの元素すなわち〈四つのもの〉とは、水、気、火、土である。同時に、これらの鎖骨を二等分する線が、後に東南、西南、西北、東北といった中間方位を指示することになる。これが(中略)すなわち空間である。このように、原初の〈卵〉の中には根元的な四つの元素と将来の空間とが存在していたわけである。」
「〈アンマの鎖骨はひえの形に似ている〉といわれる。それは〈アンマが生命、つまりひえを支えている〉からであり、ひえの実が白いのは、〈アンマは真白だ〉からである。
 アンマという語は、しっかりとつかむ、強く抱く、同じところに保つ、といった意味をもっている。」

「アンマは、世界と世界の展開についての見取図を自分自身の上に書き記していたので、創造の総体を保持していた。というのもアンマは、世界を創造するまえにまず描いたからである。絵の材料は水で、それを用いてアンマは空間に図を描いたのである。
 アンマの卵は楕円形の図表で示され、記号(ブンモン)が書きこまれている。これは〈世界の一切の記号の胎〉とよばれる。その中心は臍である。二本の軸の交点からは二等分線にあたる交叉した記号が出ていて、これが四つの方角を印していた。こうしてできた四つの区画は、最初の八つの記号を含んでおり、その各々がまた八つの記号を生み出した。かくして卵は4×8×8、つまり二五六のしるしを含んでいた。それに軸を半分に区切って、一本に二つずつとして八つ、中央の分として二つを加えた二六六の〈アンマの記号〉があった。
 各々の区画にはひとつの元素が割りふられている。(中略)中央の軸の交点にある二つの記号は〈先導-記号〉、四つの区画に置かれた四対の記号は〈主-記号〉といわれ、あとの二五六の記号は〈世界の完全な記号〉という。またこれらの記号の全体は〈目に見えないアンマ〉ともいわれる。
 中心的な図表を構成するこれらの図の組織は、世界の〈降下と展開〉の過程と一致していて、〈降下する世界の分節化した(組織立った)記号〉という名をもっている。」
「ということは、記号、つまり創造の意志の表現がすべてに先立って存在し、それが一切を規定しているということである。〈ドゴンのことば(〈思想〉)では、すべてのものは考えをとおして現われるのであって、ものは自分自身を知らないのだ(それ自体では存在しない)〉。
 図像による創造というメカニズムは、したがって一〇の不動の記号が、動いていく記号に生命を与え、それが物を存在させるのだ、ということになる。」
「(1) 二つの〈先導-記号〉の第一のものは〈概念の出現〉といわれる。」
「(2) 次の〈先導-記号〉は〈脱けがらの記号〉とよばれ、存在の脱けがらを表わす簡単な縦の線からなる。」
「脱けがらは実在する物の証拠としてアンマの内部にとどまり、原初に、アンマが自分自身の双児つまり宇宙そのものをまず創造したことを思いおこさせるものとなる。宇宙がアンマの似姿であり、アンマを内に含んでいると同じように、宇宙もまた記号のかたちでアンマの中に含まれ、とどまるのである。」



「オゴ」より:

「オゴの形成がどうやって遂行されたか、そして彼が存在しはじめてから何がおこったかについては、多くの異伝がある。それらのもつ意味は深いところでは一致しているが、ひとつひとつの異伝の表現は個性的である。しかしどの異伝も、オゴという最初の存在、アンマに逆らいつつ個性を発展させていき、そうすることで宇宙における心性を多様化させたオゴの性格を描写している以上、価値のないものではない。」

「オゴの反抗
 オゴは、その双児兄弟たちと同様に、四元素のしるしである四つの〈体の魂〉をそなえ、完璧な存在としてつくられた胎盤につながっていた。だが彼はまだ単独だった。(中略)オゴはこの時期すでに落ち着きのなさとこらえ性のなさを示したのである。アンマは双児の妹をつくって、オゴとその他のノンモたちに授けてやろうと思っていたのに、オゴは不安と所有欲にかられて、自分には妹が授けられないに違いないと思いこみ、いても立ってもいられず動きまわった。(中略)アンマはオゴに対して、彼が生まれるとき、つまり〈胎から出る〉ときに、ちゃんと双児の妹を受け取るだろうと言いきかせた。だがオゴはそれを信じないで、今すぐくれと要求して反抗し、アンマが雌のノンモを作りあげるのを待たずに自分で探し始めた。」

「充たされないオゴは、すべての規則をひっくり返しながら、今度は形成途上にある宇宙の秘密を見破ろうとして動きはじめた。」
「彼は進行中のアンマの作品のまわりじゅうを行ったり来たりした。」
「ところで宇宙は、アンマの胎の中にあって、未だに非時間的・非空間的であった。(中略)オゴが、その行為によってはじめてひとつの連続というものを規定したのである。つまりその連続こそが、長さ(彼が測るのに利用した〈歩幅〉)と同時に、時間(彼がその〈歩み〉をした期間)を、現実的な形で予示したのである。」

「さてオゴはこうして創造界の限界を〈見る〉ために宇宙を一周した。この旅を実行してからアンマの胎の中央にもどったオゴは、自分が〈アンマのように賢く〉、自分にも世界を創ることができると公言した。彼は〈アンマよ、私はあなたの創った世界を見た〉といった。アンマは答えていった。〈私が創造したように、(おまえはおまえでひとつのものを)太陽の下でもなく陰の中でもなく創れ。おまえはそこに残るがいい。私はまたあとで来よう〉。アンマは不可能なことを実現するよう命じてオゴを困らせるためにこういったのである。
 オゴは、アンマに命じられて中央を去り、西の方へ行ってアンマの〈神経〉つまり卵の中の細い筋を盗んだ。これはあとで四つの鎖骨として開くことになっていたものである。オゴは広がっていこうとしていた筋を手に取って、縁なし帽のような形の器を編み上げた。彼はそれを作るとき、まず上の方から始めて、下の方で編み終った。その結果、編み終ってみると、オゴはちょうどアンマが原初の卵の中に納まっていたように、器の中に閉じこめられたような形になった。この器は丸く、〈アンマの空〉を象って卵の形をしていた。」
「オゴはこのざるをアンマの創造にならって作った。すなわちそこには、アンマが原初の種子と世界に授けた螺旋運動と振動という二つの運動が、ざるを編むときのぐるぐる回る動きと、中心から放射状に出た芯とで示されている。オゴはこのようにアンマの螺旋-振動運動を反復したわけである。したがってこの作業はアンマに対する挑戦状であった。アンマは〈これは私の創った世界の姿に似ているではないか。私と競うのはやめろ〉といった。というのも、アンマはそれを見て、自分が世界を作っているように、オゴも世界を作りはしまいかと恐れたからである。
 しかしオゴは、たるんだ編み方のために〈陰でも光でもない〉場所になった、伏せたざるの下に隠れて、アンマをせせら笑った。オゴの仕事の首尾にいら立ったアンマが、オゴの舌の一部を、正確にいうと〈舌の静脈〉を切ったのはこのときである。このためにオゴは、それまでは出せた声の張りを奪われてしまった。」

「さて、オゴは土の中で、自分に欠けているものを見つけようとした。彼は土に変わった胎盤のかけらの中に、自分の双児の妹と失くしてしまった魂を探し求めたのである。」
「ところで、オゴは自分の胎盤を素材とする土の中に入りこんだのだから、自分の母と交わったことになる。またある面からいえば、自分の胎盤の中に入りこむ探求は、自分の双児の妹を失って霊的原理を一部分しかもっていない単独の存在が、自分のつくられた胎の中を探しまわる、ということでもある。オゴは〈母〉である大地の口から入って性器から出たといわれるが、こうしてとてつもなく重大な近親相姦の罪を構成したのである。この最初の試みにつづいて、オゴは何度もやり直すことになる。彼は将来の世界において、霊的完全性と失われた存在を永遠に追い求めて努力することになるのである。」

「オゴが青い狐に変えられる
 大地についたオゴは、仕事を続けようと思った。しかしアンマは、〈彼を動物のしるしの中に置いて〉変身させ、倒して地面にはわせ、四足動物のように動くよう強制した。彼はオゴという名を失って、ユルグという名を取った。彼は学名で Vulpes pallidus すなわち〈青い狐〉とよばれる狐になったのである。」
「こうして変身させられ、霊的原理の一部を失くしてしまった狐は、主として虫を食べて生き、ちょうど胎盤の中に入るように、洞穴の岩の裂け目に隠れ住むようになる。」
「このとき以来、狐は別の世界で流浪の身になった。この追放の理由は彼の不浄性である。孤独で、不完全で、つねに反抗的でかつ活動的な彼は、しかしながら、大地の上での生命の展開に必要な仲介者となる。なぜなら、アンマは形成途上の宇宙を試すためにオゴの行為を唆したのだといわれるからである。〈アンマは、世界の中で狐を試すためにこれらすべてのことを狐にやらせたのだ〉。」

「狐は完全にできあがるずっと前に、不従順な性質を現わしアンマの計画に従うのを拒んだ。彼はしくじる運命を荷なって生まれて来た。彼の役割とつとめはそれ自体、彼自身の個別性を強化することにあった。彼は宇宙の秩序の破壊に手をつけたのと同じように、自分も未完成のままにとどまった。宇宙的な次元での〈記号〉すなわち ことば の追求と、人格の次元での双児の妹あるいは女性の魂の追求という、彼の二つの追求は、つねに必要なものである。彼は宇宙の混乱のもとになったと同時に、心理的な個別性の発揮に道を拓き、そうやって心理と宇宙の双方の領域に、対立関係という望ましい要因をもたらしたのである。なぜならアンマは、すべてを見通していたので、原初の胎盤を二つの部分に分けることで、宇宙の二元的組織化を予示してもいたからである。この分割、ノンモ・アナゴンノの創造、そしてオゴの行為については、〈アンマがノンモと狐を創ったことの理由は、彼が世界を混乱させ、彼がそれを組織することである〉と説明される。なぜならアンマは、ノンモ・アナゴンノを宇宙の主人にするために創造したのであり、彼らは対立しているが補い合うものであって、オゴが無秩序を助長し、その〈双児の兄弟たち〉がオゴと戦って、宇宙の管理と働きにたずさわるものになるからである。」

「狐の占いの図表
 言語では話せなくなったが、狐は〈ことば〉をもっており、歩くことによって地面に残す〈跡〉を用いて、人間にそれを開示することになる。」



グリオール 青い狐 04



こちらもご参照下さい:

ラディン/ケレーニイ/ユング 『トリックスター』 皆河宗一 他 訳 (晶文全書)































































































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

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分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

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