伊藤博明 『神々の再生 ― ルネサンスの神秘思想』

「フィチーノによれば、人間の魂は万物の唯一の根源から、知性、理性、憶見、自然という四つの段階を経て、物体へと落下してきた。したがって、神へと向かう魂は、同じ四つの段階をたどって上昇していかなければならず、神的狂気こそがこれを可能とするのである。ところで、神的狂気には四つの種類がある。第一は詩の狂気、第二は秘儀の狂気、第三は予言の狂気、第四は愛の狂気である。」
(伊藤博明 『神々の再生』 より)


伊藤博明 
『神々の再生
― ルネサンスの神秘思想』


東京書籍 
1996年2月26日 第1刷発行
360p 口絵(カラー)4p
人名索引・出典一覧・参考文献39p
四六判 丸背紙装上製本 カバー
定価2,900円(本体2,816円)



本書「あとがき」より:

「本書は、ルネサンスにおける思想的軌跡の一端を明らかにしようとする意図から生まれた。(中略)一四世紀から一六世紀初頭までのイタリア思想を、フィレンツェのプラトン主義を中核におきながら、概括的に見通すことだけを目的としている。」
「本書が論じる範囲は狭くはあるが、しかし実際には複雑な要素が絡み合い、道筋を発見することは容易ではなかった。そこで、本書では思い切って、主要な人物とテクストを選択し、そこに注意を集中させることにした。」



本文中図版(モノクロ)多数。


伊藤博明 神々の再生 01


目次:

プロローグ ジョヴァンニ・ダ・コレッジョ、あるいは〈神々の再生〉
第一部 〈神々の再生〉の歴史
 第一章 蘇るオリュンポス神――詩の復興
  1 ペトラルカとヒューマニズム
  2 ペトラルカのスコラ哲学批判
  3 ペトラルカにおける道徳哲学と詩
  4 ムッサートと〈詩的神学〉
  5 ペトラルカによる詩の擁護
  6 ペトラルカによる寓意的解釈
  7 ボッカッチョの『異教の神々の系譜』
  8 サルターティの『ヘラクレスの功業について』
 第二章 異教哲学の再生
  1 ペトラルカとプラトン
  2 ペトラルカとアリストテレス
  3 一五世紀のプラトン復興
  4 市民的ヒューマニズムの勃興
  5 市民的ヒューマニズムと異教哲学
  6 プレトンの異教主義
  7 プラトンとアリストテレスの対立
  8 プラトンとアリストテレスの融和
 第三章 プラトン主義とキリスト教
  1 フィチーノとプラトン・アカデミー
  2 フィチーノの宗教理念
  3 キリスト教と〈古代神学〉
  4 キリスト教とプラトン主義的伝統
  5 天上のウェヌスと世俗のウェウヌス
  6 天上的愛と世俗的愛
  7 フィチーノにおける神的愛
  8 フィチーノと中世的伝統
  9 〈プラトン的愛〉
  10 ボッティチェリの神話画
  11 《春(プリマヴェーラ)》
  12 《ウェヌスの誕生》
 第四章 〈哲学的平和〉の夢
  1 ピコ・デッラ・ミランドラの知的遍歴
  2 プラトン・アカデミーの人間論
  3 ピコの『人間の尊厳について』
  4 ピコにおける修辞学と哲学
  5 ピコの〈哲学的平和〉
  6 ピコにおけるプラトンとアリストテレス
  7 ピコと〈詩的神学〉
  8 ピコにおける神的愛
  9 ラファエッロの《アテナイの学堂》
  10 エジディオ・ダ・ヴィテルボと〈哲学的平和〉
第二部 〈神々の再生〉の諸相
 第五章 エジプトの誘惑
  1 ヘルメス・トリスメギストスの復活
  2 〈魔術師〉ヘルメス
  3 〈神学者〉ヘルメス
  4 〈哲学者〉ヘルメス
  5 シエナ大聖堂のヘルメス像
  6 ジョヴァンニ・ダ・コレッジョとラザレッリ
  7 ラザレッリのヘルメス主義
  8 ホラポロンとヒエログリフ
  9 ヒエログリフの流布
  10 教皇庁のエジプト神話
 第六章 〈古代神学〉と魔術
  1 プラトン主義者と〈古代神学〉
  2 ゾロアスターと『カルデア人の託宣』
  3 〈神学者〉ゾロアスター
  4 〈マグス〉ゾロアスター
  5 ゾロアスターの魔術
  6 オルフェウスの神話
  7 オルフェウスと〈神的狂気〉
  8 オルフェウスと〈詩的神学〉
  9 オルフェウスの魔術
  10 〈神学者〉ピュタゴラス
  11 ピュタゴラスの教説
 第七章 占星術と宮廷芸術
  1 サン・ロレンツォ聖堂のホロスコープ
  2 占星術の復興
  3 宿命占星術とホロスコープ
  4 プラトンのホロスコープ
  5 フィチーノと占星術
  6 ピコ・デッラ・ミランドラの占星術批判
  7 リミニの占星術装飾
  8 〈惑星の子どもたち〉――スキファノイア宮Ⅰ
  9 デカンの神々――スキファノイア宮Ⅱ
  10 教皇庁の占星術
 第八章 カバラの秘儀
  1 ピコと〈隠された秘儀〉
  2 カバラの起源と教説
  3 ピコとカバラ
  4 カバラ・キリスト教・〈古代神学〉
  5 カバラと〈ルルスの術〉
  6 カバラと魔術
  7 フランチェスコ・ジョルジとカバラ
  8 エジディオ・ダ・ヴィテルボとカバラ
エピローグ ジャンフランチェスコ・ピコ、あるいは〈神々の黄昏〉

あとがき
年表
地図
参考文献
出典一覧
索引



伊藤博明 神々の再生 02



◆本書より◆


「第一章 蘇るオリュンポス神――詩の復興」より:

「ボッカッチョの神話解釈は、実際、融通無碍と称してよいほど変化に富んでいる。」
「またボッカッチョは、一つの物語がさまざまに解釈されることを示唆する。たとえば、ゴルゴンの首を打ち取り、翼のついたサンダルによって上空に昇るペルセウスの物語は、現実に起こった出来事として「字義どおりに」受け取ることもできる。またこの物語は、罪業を屈服させたのちに徳を目指して上昇する賢人の勝利の象徴として「道徳的に」受け取ることもできる。さらには、現世の王侯に対して勝利を収め、父なる神のもとへと昇っていくキリストの一つの象徴として「寓意的に」受け取ることも可能なのである。この方法は中世の聖書解釈に範を得ている。たとえばトマス・アクィナスの『ガラテヤ書注解』によれば、『創世記』の章句「光あれ」は次のように解釈できる。〈字義的意味〉では物体的光として、〈比喩的意味〉ではキリストの教会における誕生として、〈上昇的意味〉ではキリストによる栄光の生への導きとして、〈道徳的意味〉ではキリストにおいてわれわれが心を照らされ愛を燃え立たせることとして理解される。ボッカッチョはこうした〈スコラ的〉方法をいわば換骨奪胎して、異教神話の解釈に応用したのである。」



「第四章 〈哲学的平和〉の夢」より:

「ピコによれば、人間以外の被造物は「限定された本性」をもち、神によって予め定められた法の内に制限されている。他方、人間にはいかなる束縛もなく、自己の「自由意志」に従って自己の本性を決定する。換言すれば、人間の本性は「不定なるもの」なのであって、それゆえに人間は望むものをもち欲するものになることができる。人間には「あらゆる種類の種子とあらゆる種類の生命の芽」が挿入されており、彼はそこから自らの生を選択するのである。ピコはこうした人間の本性を「カメレオン」と呼んでいる。」

「ピコがはたして〈プラトンとアリストテレスの協和〉に成功しているのか、その論証の際に両哲学者の教説を正しく理解して引用しているのかについては疑問の余地があるだろう。だが、われわれがピコにおいて注目すべきなのは、むしろ〈プラトンとアリストテレスの協和〉をもくろんだ彼の心的企図であり、それへ向けての彼の知的営為、すなわち彼自身の哲学なのである。『演説』において、ピコがプロペルティウスの詩句を借りて述べているように、「たとえ力が尽き果てるとも、勇気が必ずや誉れとなろう。大いなる事柄においては、欲したことで十分なのである」。」



「第五章 エジプトの誘惑」より:

「ヘルメスがエジプト人に伝えた、「動物や樹木の形象」とは、フィチーノにとってホラポロンが解説したヒエログリフであった。そしてここで留意すべきは、フィチーノの説明からも明らかなように、ルネサンス期の人々にとってヒエログリフは、ある観念を表現する純粋な〈象形文字〉を意味したことである。(中略)フィチーノたちは、〈象形文字〉としてヒエログリフを寓意あるいは象徴と見なし、俗衆には近づくことのできない秘儀的言語として尊重したのであった。」
「レオン・バッティスタ・アルベルティも、ヒエログリフに魅せられた一人であった。彼は『建築論』において、古代のエジプト人が象徴を用いた方法を述べている。『彼らは目を刻み、それによって神と考えた。禿鷲を自然と、蜜蜂を王と、円を時と、牡牛を平和と考えたのである」。」
「アルベルティは、古代のローマ人がエジプト人の方法を受け継ぎ、自らヒエログリフを案出して記念物に刻んだと述べていた。(中略)これらのどれにも、動物やさまざまな事物が描かれ、古代のヒエログリフとして、ある意味内容をもつものと考えられたが、もちろんその正確な解釈は失われていた。だが、これらのヒエログリフを読み解き、さらにはそれを参考に自らヒエログリフを考案する人物が現われた。ヴェネツィアで活躍した僧侶フランチェスコ・コロンナである。彼の数々のヒエログリフは、自著『ヒュプネロトマキ・ポリフィリ』に見いだされる。
 この著作の題名は、「ポリフィロの眠りにおける愛の闘い」というほどの意味で、夢の中で主人公のポリフィロが恋するポリアを求めてさまよい、最後に結ばれる長編小説である。その過程でポリフィロは、古代風の神殿や庭園に迷い込み、神話上の怪物やニンフに出会い、またウェヌスの祝宴を目の当たりにする。ラテン語とイタリア語の雅俗混淆体で書かれており、その内容と相俟って一大奇書と評されている作品である。ポリフィロが見た、巨大な象を据えられた台座にはヒエログリフが刻まれている。」
「ポリフィロが遭遇した、ある橋にも二つのヒエログリフが刻まれている。第一のものは、犬の頭部をつけた兜、小枝が巻きついたブクラニウム(牛頭模様)、古代のランプであり、その意味は「忍耐(ブクラニウム)は、生(ランプ)の飾り(小枝)であり、監視者(犬)であり、保護者(兜)である」となる。(中略)また第二のものは、円とイルカが巻きついた鎖であり、その意味は、「いつも(円)、ゆっくり(錨)、急げ(イルカ)」と、つまり「急がば回れ」となる。この言葉は、他のヒエログリフでも表されている。ポリフィロは次に別の橋に至るが、そこには右手に翼をもち、左手に亀をもった女性が刻まれている。その解釈は比較的簡単で、翼が〈迅速さ〉を、亀が〈遅さ〉を表している。」
「ホラポロンの発見から始まり、コロンナの創意を呼び起こしたヒエログリフへの関心は一六世紀まで伝えられた。一五五八年には、ピエリオ・ヴァレリアーノが、ヒエログリフの集大成である『ヒエログリフ集』を上梓した。(中略)ヴァレリアーノにとってヒエログリフは、単なる絵文字ではなく、むしろ寓意を表示する象徴であった。彼は、「ヒエログリフ的に語るとは、聖俗の両方に関わる事物の性質を明示することに他ならない」と述べている。またヒエログリフの流行は、一六世紀においてエンブレム・ブックと総称される新しいジャンルを創出する一つの誘因となった。」



「第六章 〈古代神学〉と魔術」より:

「さて、ピコが『演説』で述べているところによれば、魔術には二通りにある。その一方は、すべてが悪霊(ダイモン)の業と権威に基づいており、(中略)他方は、正しく探究される限りにおいて、「自然哲学の絶対的完成」である。ピコが擁護するのはもちろん後者の魔術であって、(中略)それを「自然学の実践的部門」、あるいは「自然学の最も高貴な部分」と呼び、端的に「自然魔術」と呼んでいる。」
「後者の魔術はきわめて深い秘儀に満ちており、全自然の認識を獲得させるものである。この術は、神の恩恵によってこの世界の中に種まかれた「もろもろの力」のあるものを、いわば隠れ家から光の中に呼び出す。(中略)この術は、ギリシア人が「シュンパテイア」と呼んでいる「宇宙の交感」を内部で探索する。そして、自然の相互認識を洞察して所有し、各々の事物に備わっている生来の固有の呪力、すなわち「マグスたちのイユンクス」と呼ばれている呪力を用いて、世界の奥深く、自然の懐深くに隠れている「奇跡」を公衆に面前に示すことができるのである。」
「〈イユンクス〉とは本来、啄木鳥科に属する蟻吸のことで、この鳥の特徴の一つは、たえず首や舌や尾を動かしていることである。ギリシア神話では、ペイト(あるいはエコ)の娘で、魔術的呪力によってゼウスに働きかけ、自分自身(あるいはイオ)を愛させたので、ヘラによって鳥に変容させられたと伝えられる。この神話は、イユンクスを用いた呪具の機能に由来するのであろう。ピンダロスの『ピュティア頌歌』によれば、アプロディテ(=ウェヌス)は、イアソンがメディアの愛を勝ちうるようにある呪具を制作した。この呪具は蟻吸の四肢を回転する車輪に結びつけたものであった。そして、車輪形のものに二つの穴を開け、そこに糸を通して全体を回転させる呪具がイユンクスと呼ばれていた。この呪具の目的は、不実な恋人を自らに惹き寄せるという性愛魔術的なものであった。そしてこうした魔術的呪力自体が、イユンクスと呼ばれるようになったのである。
 『カルデア人の託宣』において、一般にイユンクスは、宇宙の中に存在する知性的力、あるいは神性を表現する概念である。」



















































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Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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