塚本靑史 『わが父塚本邦雄』

「この頃から、邦雄は私に対して敬語を使うようになった。不思議に思って聞き質す。
 「僕が誰か判ってるんやろな?」
 「私の、兄上とお見かけいたします」
 「何で兄の方が若いねん?」
 「それが唯一、不思議でした」
 あまり笑えない掛け合い漫才である。」

(塚本靑史 『わが父塚本邦雄』 より)


塚本靑史 
『わが父塚本邦雄』


白水社 
2014年12月5日 印刷
2014年12月25日 発行
285p
四六判 丸背紙装上製本 カバー
定価2,600円+税
装幀: 間村俊一
カバー・表紙写真: 小方悟



本書「後記」より:

「今回、塚本邦雄の生涯を息子の目から書くという作業に挑戦してみた。したがって、学者が詳細に作品を検討した塚本邦雄論とは、明らかに趣を異にしよう。」
「私の邦雄についての話は、記憶から時系列的に出してきたものだ。無論、裏付けできるものは確認を取っている。
 もともと父親の日常など、息子は問題にしていない。しかし、同じ空間で日常生活してきたことから、不断は公にしていない卑近なことを見聞きしている。無論、他人に語るべきではないこともあろうが、私しか書けず伝えなければならないこともある。」
「文学史に名を留めるということは、只の個人ではない。そのための情報公開は、作品(資料や遺品を含めて)を守ることにもなり、今回の文章となった次第だ。」



はっ (`・ω・´)ゞ
自分は子どものころから塚本邦雄さんの本を集めて愛読している者でありますが
じつは塚本さんがどういう人なのかよく知らないので
本書をよんでみたであります (`・ω・´)ゞ
本書をよむと塚本邦雄さんについてもそこそこわかるでありますが
著者の塚本靑史さんについてもわかるので一石二鳥であります (`・ω・´)ゞ
そういえば著者の小説『霍去病』は
東方朔がでてくるので自分も文庫版を買ってよんだであります (`・ω・´)ゞ
本書によると中井英夫さんは
酔っぱらって電話してきてからむので塚本さんから嫌われていたらしく、
寺山修司さん宛書簡では「あんなやつと一緒に書籍を作るぐらいなら、大山デブ子と子供でも作る方がましだ」
さんざんないわれようであります (`・ω・´)ゞ
そういえば中井さんのエッセイにも塚本さんと寺山さんが仲よしなので
嫉妬するくだりがあったでありますなっ (`・ω・´)ゞ
あと著者が塚本邦雄さんに山上たつひこさんのまんがを贈ったら
「ファーブル新婚記」を激賞していたというのは耳寄りでありました (`・ω・´)ゞ
あと本書の奥付裏ページには「白水社の本」として
『わが父 波郷』 『父 荷風』 『父 水上勉』
の広告が掲載されているであります (`・ω・´)ゞ
ちなみに自分がすきな父ものは
『父・萩原朔太郎』と『月の家族』であります (`・ω・´)ゞ

本文中図版(モノクロ)多数であります (`・ω・´)ゞ


塚本青史 わが父塚本邦雄 01


塚本青史 わが父塚本邦雄 02


目次:

第一章 生誕 ― 敗戦まで (一九二〇~一九四五)年
第二章 青年 ― 結婚と闘病 (一九四五~一九五四)年
第三章 壮年Ⅰ ― 社会復帰と「極」 (一九五五~一九六五)年
第四章 壮年Ⅱ ― 寺山修司と百合若 (一九六六~一九七五)年
第五章 壮年Ⅲ ― 執筆専業と政田岑生 (一九七六~一九八四)年
第六章 初老 ― 玲瓏と賞(章) (一九八五~一九九五)年
第七章 晩年 ― 全集 (一九九五~二〇〇五)年

付記
後記
塚本邦雄略年譜
塚本邦雄著作一覧



塚本青史 わが父塚本邦雄 03



◆本書より◆


「第二章」より:

「この頃、飼い犬(ノエル)は成長して、もう成犬の風格を示していた。そういえば今と違って、当時は放し飼いのような状態で、四歳児になった私と母(慶子)が出かけようとしたとき、ノエルは鴻池新田の駅まで付いてきて、もう少しで片町線の電車にまで乗り込むところだった。
 慶子が追い出すと、なんとか家まで帰っていた。飼い方にも問題はあったろうが、大して芸も覚えず、あまり賢い犬とは言いがたかった。
 一度は、調教しようとした私の顔に噛みついた程だった。それには、さすがに両親も怒っていた。もっとも、私も薪を持って命令を素直に肯かないノエルを叩いたので、犬もよほど嫌がったのだ。

  わが飼へる犬が卑しき耳垂れて眠りをり誰からも愛さるるな  『裝飾樂句(カデンツァ)』
 
 邦雄もこの犬が、それほど好きではなかった。ノエルには悪いが、それは右の歌に表れている。」

「ノエルが野犬捕獲人の罠にかかった。目撃者によると、野良犬が入れられている檻付きの車を追っていったからだという。
 針金の輪で深く絞められていたので、もう助からないとのことだった。」
「実は、ノエルの捕獲は、これで二度目だった。前回は捕獲の針金の締め具合が軽かったので一命を取り留めた。そこで、母が数百円払って解放して貰ったのだった。それでも、今回再度捕まったのなら、さっぱり学習能力がない無能犬と、自ら証明したようなものだ。五歳児がノエルを最後に目にしたのは、前日の夕食時だった。それは、実に呆気ない別れであった。

  死の自由われにもありて翳のごと初夏(はつなつ)の町ゆく犬殺し  『日本人靈歌』」



「第四章」より:

「その後、寺山修司と邦雄の間で、次のような会話が交わされた。
 「塚本さん、犬を飼うの初めて?」
 「いや、昔ィ、ノエルっていう阿呆な犬を飼うたら、息子の顔を咬みよってな」
 「へえ、それじゃ、随分叱(しか)られたろうね?」
 「いや、堪(こた)えんやつやったわァ。格子の付いた野犬捕獲の車に付いていって御用になったくらいやから、犬としては相当ォ鈍かったんやろな」
 「それは違うよ」
 「なにが?」
 「それはさあ、そのノエルが靑史君の顔を咬んで以来、塚本家の、犬に対する態度ががらりと変わって、犬に辛く当たるようになったんだよ」
 「いや、そんなことはない」
 「きっとそうだよ。それでさあ、犬は世を儚(はかな)んで、犬捕りの後を追って自殺したんだ」
 寺山修司の即興小説は傑作だった。そう言えば、野球を全く知らない邦雄に、どういうゲームか解説したという。
 「投手と捕手という恋人同士がいてさあ。彼らはボールを投げることによって初めて意思を伝え合えるんだ。それを、バッターっていう横恋慕男が邪魔をしてボールを打つんだ。でも二人には、内野と外野と呼ばれる七人の味方がいて、ボールを取って返してくれる。野球ってそんなゲームなんだよ」
 寺山修司からこのように説明されて、邦雄は解ったというから恐ろしい。」



「第五章」より:

「邦雄が、東洋工業株式会社(現マツダ株式会社)PRのために広島へ行ったのは、一九七六年(昭和五十一年)の二月である。」
「マツダの車種を織り込んだ邦雄の歌が、月刊誌のグラビア印刷広告頁を飾ったのは、それから二ヶ月後となる。

  柹若葉(かきわかば)匂ふ夜の街縦横の光の澪(みを)にきらめく「川鱒(ルーチェ)」

  わが愛の眞紅(しんく)の「コスモ」春眞晝二つの夢の境を越すも

  草の上の晝餉(ひるげ)終りて背合せにはらから眠る靑き「ファミリア」

  しなやかに罌粟(けし)の花群(はなむら)分けて過ぐ羅馬皇帝(カエサル)も知らざりし「牝山羊(カペラ)」よ

                右四首 月刊『文藝春秋』76年5月号 (歌集未収録)

 一見、塚本邦雄と何の関係があるのかと思われるような仕事を、この後にも邦雄は幾つか手を付けている。
 例えば『北畠親房公歌集』(北畠親房公顯彰會)の解題鑑賞がある。
 これは、読んで字のごとき仕事をしたものだ。しかし、なぜ、北畠親房なのかと誰でも思おう。」



「第七章」より:

「翌二〇〇二年(平成十四年)一月二十二日(火)だったと記憶する。雨がしとしと降る夜明け前に、病院からの電話が鳴った。
 「お父様が、骨折で入院されました」
 何のことか判らなかった。
 「父親は、二階で寝ていますが」
 応えながら、寝床へ行ってみた。だが、蛻(もぬけ)の殻(から)だった。
 邦雄は自宅から二百メートルばかり北西の溝で倒れ、右腕を骨折したらしい。通りかかった新聞配達の青年が通報してくれ、救急車で運ばれたのだ。
 雨の未明に、邦雄は読んでいた本(陣内秀信著『ヴェネツィア――水上の迷宮都市』)を持って家を出た。推し量ってみるに、ある頁に重要な何かを見つけ出し、近くのコンビニへコピーを取りに行こうとしたらしい。
 だが、暗かったので道に迷い、おまけに蹴躓(けつまず)いて溝へ倒れたのだろう。その際、打ちどころが悪く右腕を折ったのだ。
 本は泥だらけにしながらも、しっかり握っていたという。」



塚本青史 わが父塚本邦雄 04



こちらもご参照下さい:

塚本邦雄 『麒麟騎手 ― 寺山修司論』 (新装版)
寺山修司 『黄金時代』 (河出文庫)
本多正一 『プラネタリウムにて ― 中井英夫に』
陣内秀信 『ヴェネツィア ― 水上の迷宮都市』 (講談社現代新書)































































































































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