『ペトラルカ ルネサンス書簡集』 近藤恒一 編訳 (岩波文庫)

『ペトラルカ 
ルネサンス書簡集』 
近藤恒一 編訳
 
岩波文庫 赤/32-712-1 

岩波書店 
1989年9月18日 第1刷発行
306p 地図3p
文庫判 並装 カバー
定価520円(本体505円)



本書「解説」より:

「ペトラルカの書簡は、四つの散文書簡集と一つの韻文書簡集におさめられている。かれがまず『親近書簡集』の編纂を思い立ったのは、おそらく一三四五年で、(中略)おそくとも五〇年までには、この書簡集の編纂に着手している。著者の二十歳代末から六十過ぎまでの書簡をおさめていて、全二四巻三五〇通から成る。『無名書簡集』は、(中略)四七年ころから五八年ころまでに書かれた書簡一九通をおさめている。いずれもアヴィニョン教皇庁や教会人の堕落にたいする激しい攻撃の書なので、(中略)べつの書簡集として独立させたのである。(中略)全一八巻一二八通ほどの書簡から成る。
 以上の書簡集におさめられていない書簡で、その受取人や収集家たちによって保存されたものは、『雑纂書簡集』におさめられている。」
「『親近書簡集』と、その続篇ともいうべき『老年書簡集』とは、いわば一つの長大な山脈をなして連続しており、『無名書簡集』と『雑纂書簡集』は実質的にこの山脈の一部をなしている。そしてこの山脈とならんで『韻文書簡集』が、独立の小山脈として存在する。青年期から五五年ころまでに書かれた韻文書簡をおさめ、全三巻六六篇から成る。」
「ペトラルカの書簡集では、書簡はだいたい書かれた順に配列されている。が、例外も多い。ひとつには、かれの書簡も書簡集も文学作品として書かれているからである。つまりかれは、各書簡集の全体的構成や各巻の構成にも気をくばる。だから、時間的順序よりも内容上の関連性を重んじて書簡を配列する場合もすくなくない。おなじ文学的要求から、書簡に大幅な推敲の手を加えることもしばしばである。また、文通の当事者にしかわからないような文面にはあとから改変の手を加え、書簡に普遍性をあたえようとする。」
「このささやかな書簡選集は、多様で豊かなペトラルカ文学をその一端なりとも味わっていただきたいと思って編訳したものである。」



口絵(モノクロ)1点。巻末地図3点。
各セクションの冒頭に編訳者による解説が付されています。


ペトラルカ ルネサンス書簡集 01


カバー文:

「イタリア文学の三巨星の一人で、ルネサンス運動の首唱者であったペトラルカ(1304-1374)は、偉大な詩人であるとともに、つねに自己自身を問いつつ哲学するモラリストであった。ここに収められた23篇の手紙は、ペトラルカが親しく同時代人や古代人、後世の人に呼びかけたもので、モラリストとしての真骨頂が浮彫りにされる。本邦初訳書簡多数。」


目次:

凡例

I 文学的栄光を夢みて
 早すぎる名誉欲について トンマーゾ・ダ・メッシーナに
 雄弁の研究について おなじくトンマーゾに
II 祖国の解放と再生のために
 エネーア・ダ・シエナに
III 自然と人間との再発見――ヴァントゥウ登攀記
 自己の悩みについて 聖アウグスティノ会士にして神学教授なるディオニジ・ダ・ボルゴ=サン=セポルクロに
IV 二つの憧憬――ローマとラウラ
 戯れの手紙にこたえて ロンベス司教ジァコモ・コロンナに
V ローマの再発見
 都ローマから ジョヴァンニ・コロンナ枢機卿に
VI 孤独生活――自由と文学研究のために
 ジァコモ・コロンナに
VII 文学的栄光の獲得――桂冠詩人の誕生
 桂冠をどこで受けるべきかをたずねて ローマ教会枢機卿ジョヴァンニ・コロンナに
 おなじ桂冠について シチリア王秘書官バルバート・ダ・スルモーナに
VIII 文体について
 範例の効用を範例で示して フラ・ジョヴァンニ・コロンナに
IX 古代人への書簡
 マルクス・トゥリウス・キケロに
 おなじくキケロに
X 古代文化〈再生〉のために――古典収集活動
 書物の探索を依頼して ジョヴァンニ・デリンチーザに
XI 古代ローマ再生のために――コーラ革命をめぐって
 護民官コーラとローマ人民に
 都ローマの護民官コーラに その声望の失墜を慨嘆し忠告をよせて
XII 自己自身への書簡
 自己自身に
XIII 教皇庁批判
 無名氏に
XIV 祖国への書簡
 イタリアに
XV 文学と政治のはざまで
 時間の貴重さについて フランチェスコ・ネッリに
 宗教文学と世俗文学との融合について フランチェスコ・ネッリに
 皇帝自身に イタリア帰還を勧め懇願して
XVI 後継者への書簡
 聖アウグスティヌスの書『告白』にそえて ルイージ・マルシリに
XVII 後世への書簡――書簡体自叙伝の試み
 後世の人に

解説
地図



ペトラルカ ルネサンス書簡集 02



◆本書より◆


「書物の探索を依頼して」より:

「とはいえ私は、人間のあらゆる罪をまぬがれているわけではなく、一つの飽くことなき欲望のとりこになっています。この欲望を私はこれまで、おさえつけることができなかったし、おさえつけようともしませんでした。」
「どういう病気かお知りになりたいでしょうか。私は書物に飽きることができないのです。しかも私は、おそらく必要以上に多くの書物をもっています。ところが、ほかの事物におけると同様のことが書物においても生じるのです。すなわち、欲求の充足はいっそう貪欲をかきたてるのです。それどころか、書物にはなにか特別のものがあります。――金銀、宝玉、豪華な衣服、大理石の邸宅、みごとな耕地、絵画、飾りたてた馬、その他この種のものがあたえてくれるのは、ものいわぬ表面的な快楽です。ところが書物は、われわれを心底から楽しませてくれ、対話し、助言し、あるいきいきとした深い親密さをもってわれわれと結ばれあうのです。しかも書物は、それぞれが読者の心にはいりこむばかりか、ほかの書物の名前をも忍びこませて、相互に欲望をかきたてあいます。
 具体例を挙げましょう。私はキケロの書『アカデメイア派』によってマルクス・ウァローを愛好するようになりました。おなじキケロの『義務論』によってエンニウスの名を知り、『トゥスクルム論議』を読んではじめてテレンティウスが好きになりました。『老年論』によって大カトーのローマ史『起源論』やクセノフォンの『家政論』を知ったし、この『家政論』をキケロが訳出したことも『義務論』によって教えられました。同様に、プラトンの『ティマイオス』はソロンの英知をたたえ、小カトーの死はプラトンの『パイドン』を推奨してくれました。プトレマイオス王の禁令はキュレネーのヘゲシアスのことを教えてくれました。そしてキケロの書簡集については、自分の眼で確かめもしないうちからセネカのことばを信じたものです。そのセネカの書『迷信批判』を私がさがしはじめたのはアウグスティヌスの教示によりますし、アポロニオスの叙事詩『アルゴナウティカ』への関心をそそられたのはセルウィウスによってです。キケロの『国家論』への欲望をかきたててくれた著作家はたくさんいますが、とくにラクタンティウスです。そして史家スエトニウスは私に大プリニウスのローマ史をさがさせ、ゲリウスはファヴォリヌスの雄弁への関心をそそり、フロルスの名文に成る『ローマ史要』はリウィウスの残存諸巻の収集へと駆りたてました。」
「私は必要以上に事例を挙げてきました。じっさい、私がかつて若かりしころ文法学者プリスキアヌスを読んで、そしてのちには大プリニウスを読み、また最近はノニウス・マルケルスを読んで、どれほど多くの未知の書名を知り、どれほどしばしば垂涎(すいぜん)の思いをしたことか。それを逐一思い出していては切りがないでしょう。(中略)それらの書はそれ自体、それぞれの魅力をあからさまに示していますが、しかも他の書物の魅力をもひそかに深く蔵していて、両者が互いに増幅しあうのです。」



「聖アウグスティヌスの書『告白』にそえて」より:

「あなたがお求めの小さな書物を、いま喜んで贈りましょう。この書物は、かつて私が青年のころあのディオニジ師から贈られたものです。(中略)この書物がもしあのときと同じ姿のままであったなら、いっそう喜んでお贈りすることができたでしょう。ところが、そのころ私は、おそらく生まれつきと若さのせいでよく旅に出ていましたが、この書物は(中略)ひじょうに気に入り、しかも掌(て)の中におさまるほどの小型であって持ち運びに便利であるため、私はほとんどイタリア中を、またフランスやドイツのいたるところを、しばしば持ち歩くことになりました。こうしてこの書物は、不断の使用のために片時も手放せなくなり、ほとんど私の手と一体であるように思われました。
 びっくりするようなことを話しましょう。この書物が川や地面に落ちたことについては黙っておきますが、一度ヴァール川の近くのニースで私とともに海中に沈んだことがあります。そのときキリストが私たちを危難から救ってくださらなかったら、万事休すだったにちがいありません。
 このようにして、私とともに往(い)ったり戻ったりしているうちに、この書物もまた年老いました。」




こちらもご参照下さい:

ペトラルカ 『わが秘密』 近藤恒一 訳 (岩波文庫)
近藤恒一 『ペトラルカ研究』
伊藤博明 『神々の再生 ― ルネサンスの神秘思想』
森銑三・柴田宵曲 『書物』 (岩波文庫)














































































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