片山健 『わたしの遠足日記』

片山健 
『わたしの遠足日記』


晶文社 
1994年4月15日発行
153p
19.2×12cm
丸背紙装上製本 カバー
定価1,600円(本体1,553円)
ブックデザイン: 平野甲賀
カバー画: 片山健



本書「あとがき」より:

「この遠足日記は、雑誌「母の友」に三カ月に一度、九一年四月号から九三年一月号にかけて連載したものに、部分的に加筆し絵の数をふやしたものである。」
「そういえば私の子どもの頃の遠足は、ただボーッとして歩きつづけ、どこをどう歩いてきたのかはっきりしないことが多く、地元の駅で解散しながら、そのまま迷子になったことさえある。どうやら私はいまだにボーッとしたまま、子どもの頃と変わらぬ遠足をやってきたらしいのだ。」



本文中、旅のデッサンが50枚、えびちゃいろで印刷されています。


片山健 わたしの遠足日記 01


目次:

大井川鉄道井川線ガタンゴトン
とにかく枕崎
うるわしの青森
松代にて
丹後カミナリ雨あられ
石狩バンザイ
だいちゃんの海へ
上海の夜

あとがき



片山健 わたしの遠足日記 02



◆本書より◆


「とにかく枕崎」より:

「山から下りて道が平らになると多少足が楽になる。
 道路沿いに、朝タクシーの運転手が、コノハナノサクヤヒメが生まれたのは日本でここだけですといっていた岩屋があった。
 家ほどの大きさで、薄暗く、鳥居やしめ縄もあるが、どこにもコノハナノサクヤヒメなんて書いてない。岩の中央下に一升ビンが何本か供えてあって、神々の名前も書いてあるが、神々がここで蜜月を過ごしたにしても、ここから生まれたにしても、それらしい窪みも割れ目もなく、こんなに平らでは困ったな、それとも今は閉まっているのかなと見ていたが、バチが当たるといけないのですぐ立ち去る。
 しばらく行くと右側に広々とした感じの中学校があり、正面には堂々と、
 「青春とは花を咲かせるはなやかな時期ではない、実をみのらせる忍耐の時である」という言葉が掲げてあった。
 私は、花が咲かなきゃ実はならないし、中学で実をみのらせるためには、小学校で花を咲かせるのかな、それにしても、イカニモの言葉だなと思っていると、「コンニチハー」といって女子中学生が二人、私を足早に追い抜いていった。
 見知らぬ土地で私が女学生に「コンニチハ」と声を掛けられるわけはないが、でもどう考えても私にいったとしか思われない。」




◆感想◆


クラフト・エヴィング商會さんの『すぐそこの遠い場所』(単行本)がアマゾンマケプレで安く売られていたので買って読みおわって巻末の好評発売中のところに目を通していると本書を岸田今日子さんがほめているのが目にとまったのでアマゾンマケプレで購入してみました。
片山健さんというと私などは和風バルテュスともいうべき画集『美しい日々』や『迷子の独楽』の夢遊病少年少女が織り成す不安でアモラルでノスタルジックな夢魔的原風景の印象がトラウマ的に根強いのですが、しかしてその実体は「母の友」にも連載すれば、見知らぬ中学生に挨拶されてうれしくなって挨拶しかえしたりもする健全実直なる絵本作家なのであります。

本書はついつるつるっとよみながしてしまいがちですが、たとえば上記引用箇所だと、コノハナノサクヤヒメとイワナガヒメの神話の連想から、花を咲かせて実をみのらせて枯れて死んでゆかねばならない定めにある人間の社会と、人間に対して閉ざされてしまった、岩のように永遠なる神々の世界とが、学校と岩屋として対比され、切ない気持になりかけたところに、花のような咲顔(えがお)の女子中学生に挨拶されてうれしくなる、という、そういう構成になっています。
「コノハナノサクヤヒメが生まれたのは日本でここだけです」というのも、じつにおもしろい表現であって、そこまで限定されてしまうと、逆に、あたかもコノハナノサクヤヒメが世界中でぽこぽこと生まれているかのようではありませんか。
そしてまた、花を咲かそうとか実を実らせようとかそういう目的意識に囚われることなく、ただひたすらボーッとして歩きつづければ、桃源郷はそこかしこにぽこぽこと出現するのであります。




こちらもご参照下さい:

武田百合子 『遊覧日記』 (ちくま文庫)
種村季弘 『東海道寄り道紀行』
堀切直人 『迷子論』
















































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