『定本 柳田國男集 第三卷 北國紀行 菅江眞澄 他』 (新裝版)

「岡の上には大昔の城迹や寺院があつて、それから眺望すると東には群山が起伏して、自然に水の道がわかります。ソーヌと云ふ川が今一つ町の中を流れて居ます。フランス人の語ではソーヌは女性でローヌが男性にしてあります。町を僅か出た處で二つの川は合しますが、そこをマリアージ(婚姻)と呼んで居るのはしやれたものです。」
(柳田國男 「將來のチョコレート」 より)


『定本 柳田國男集 
第三卷 (新裝版)』

水曜手帖 北國紀行 菅江眞澄 他

筑摩書房 
昭和43年8月25日 第1刷発行
497p 目次1p 口絵(モノクロ)1葉 
別丁図版(モノクロ)2p
菊判 丸背バクラム装上製本 機械函
定価980円

月報 3 (8p):
八十歳の頃の柳田先生(最上孝敬)/叔父の事など(矢田部勁吉)/文殊菩薩としての柳田先生(大月松二)/晩年の柳田先生(桂井和雄)/全卷略内容/図版(モノクロ)3点



全31巻・別巻5巻。本文正字・正かな。


本書「あとがき」より:

「○「水曜手帖」は、水曜日毎に、武藏、相模の境附近を散歩した折の小紀行文である。雜誌「民間傳承」に連載したもので、これに他の數篇を加えて「水曜手帖」なる表題のもとに、一冊にまとめて出版する予定であつた。」
「○「北國紀行」は、昭和二十三年十一月、實業之日本社より、柳田國男先生著作集第六冊として刊行したものである。」
「○「瑞西日記」は、大正十一年、十二年のスイス滯在の時の日記である。後年出版する豫定で整理したものであるが、未發表であつた。」
○「菅江眞澄」は、昭和十七年三月、創元選書の一冊として、創元社より出版されたものである。」



柳田国男集 三


内容 (初出):

水曜手帖
 深見 (昭和十五年十一月、民間傳承六卷二號)
 柳明 (昭和十六年四月、民間傳承六卷七號)
 湯河原 (昭和十八年一月、民間傳承八卷九號)
 武藏關 (昭和十八年二月、民間傳承八卷十號)
 廣袴 (昭和十八年十二月、民間傳承九卷八號)
 乞田 (昭和十九年二月、民間傳承十卷二號)
 王禅寺 (昭和十九年五月、民間傳承十卷五號)
 野中の淸水 (昭和十五年五月、知性三卷五號)
 榎戸懷古 (昭和二十八年十一月、「初瀨とこれさまと五反田節」)
 旅と故郷 (昭和五年五月、成城學園時報)
 海と小舟と船頭さん(大野若三郎君を憶ふ) (大正九年十一月、同人五十號)
 大きな鱏の話 (大正八年六月、同人三十六號)(原題、「小さな手帖から」)
 笑はれる馬 (大正八年八月、同人三十八號)(原題、「小さな手帖から」)
 大日塚の話 (明治四十三年七月三日、讀賣新聞)
 村の址 (明治四十三年十二月、中學世界十三卷十六號)
 將來のチョコレート(歡迎會席上談) (大正十年三月)
 扇と人の命(松本市坐談) (大正六年八月)
 對馬北部見聞 (昭和十五年五月、民間傳承五卷八號)
 古い手帖から (昭和十五年六月、民間傳承五卷九號)
 紋つきの村 (昭和十九年一月、アサヒグラフ四十二卷一號)
 竝木の衰微 (大正十四年十一月、朝日新聞)
 古い家と古い村 (大正七年九月、土俗と傳説一卷二號)
 津久井の山村より (大正七年九月、土俗と傳説一卷二號)

北國紀行
 自序
 越後へ (明治四十年)
 歌集「山さと」序文 (昭和八年十二月)
 北國紀行 (明治四十二年)
 美濃越前往復 (明治四十四年)
 旅行の話 その一 (大正五年七月~十二月、大正六年一月~三月、奉公)
 旅行の話 その二 (昭和二十二年八月、手帖一號)(原題、「旅行史話」)

五十年前の伊豆日記 (昭和三十四年十二月、昭和三十五年一月、二月、伊豆十號~十二號)
瑞西日記 (大正十一年)

ジュネーヴの思ひ出 その他
 ジュネーヴの思ひ出――初期の委任統治委員會 (昭和二十一年十一月、國際聯合一卷一號)
 瑞西の鐘と時計 (大正十三年一月、太陽三十卷一號)
 本場の廣東料理 (大正七年四月、新家庭三卷四號)
  美味な蛇料理と蛇酒
  廣東は支那食通の洗禮場
  食物の一點で世界の征服
  市全體が一種の臺所
  美的生活の大缺點
 魚の移住 (大正十三年五月二十八日、アサヒグラフ二卷廿二號)
 海豚文明 (大正十三年六月十一日、アサヒグラフ二卷廿四號)
 ある日の日記――「鳥の來る日」
 風土と美人系 (昭和四年四月三日、十日、十七日、アサヒグラフ十二卷十四號~十六號)
 旅行の上手下手 (昭和九年五月、婦人の友二十八卷五號)

菅江眞澄
 序
 白井秀雄と其著述――「紙魚」といふ名古屋の雜誌に、昭和三年十一月 (昭和四年一月、紙魚二十六號)
 秋田縣と菅江眞澄――秋田考古會菅江翁百年記念會講演、昭和三年九月 (昭和六年二月、秋田考古會誌二卷三號)
  緒言
  百年後の批評
  行つて又來る
  十七年ぶりに
  花の出羽路
  長處は終に認めらる
  偶然記録の價値
  忠實なる記述
  文品と思藻
  半生の秘密
  故郷の消息
  文章と友情
  學問の系統
  寧ろ將來の爲に
 信州と菅江眞澄――「來目路の橋」活字本の端に、昭和四年七月 (昭和四年八月、「來目路の橋」序説)(原題、「百年を隔てゝ」)
 遊歴文人のこと――「わがこゝろ」活字本の奧に、昭和四年十一月 (昭和四年十一月、「わがこゝろ」跋)
 正月及び鳥――「奧の手風俗」活字本の端に、昭和五年二月 (昭和五年二月、「奧の手ぶり」序)
 菅江眞澄の旅

内容細目
あとがき




◆本書より◆


「水曜手帖」所収「野中の淸水」より:

「世の水源を論ずる人々には、かういふのが屡〃問題になる。どこに分堺を設けるのがよいのかと、少しばかり私は考へ込んで見たが、これに對する村人の言葉も簡單なものであつた。なあにやつぱり多摩川の水ですよ。砂川の方から引いて來ますがね、これもあれもみんな一つの水ですよと。成程さういへば確かにその通りで、段々遡つて行くと猫に名を付ける昔話のやうに、野川の源は野川だといふことになつてしまふかも知れない。とにかくに廣い武藏野の處々の泉が、地下に通ふといふことをこの人たちはもう知つて居る。逃水や堀兼の井の昔の名所は、こゝだかしこだと今でも爭つて居る人があるが、流れて止まざるものに、定まつた場處や變らぬ形が有らう筈は無い。たゞその地下といふ未知數の全體を實驗する方法が無いばかりに、まだ當分は細い水筋を辿つて、古い世の名歌を口ずさまなければならぬのである。
   いにしへの野中の淸水ぬるけれどもとの心を知る人ぞ汲む」



同「旅と故郷」:

「庭に來年の花の木を栽ゑようとして、土を掘りかへして見ると色々の土器の破片が出てくる。この中には數千年も前に、貝を主食として居た人の造つたものも有るといふが、たゞの茶碗や擂鉢見たやうなかけらでも、どうしてこんな所に落ち散つて居たのか、理由のわかつて居るものなどは一つも無い。我々は單に無數の隱れたる意思の、積み重なりを感ずるばかりである。
 この草の根の朽ちて成つた黑土には、富士や淺間のある時代の火花が、今は灰になつて交つて居る。さうしてその底には奧多摩の山の岩の兄弟が、あどけなく睡つて居るのである。彼等の故郷の谿間から流れ出て、人知れずその小石の群を訪ね寄る水こそは、我々の空の昨日の雲であつた。それを掬みあげて我々は、再びこの庭前の花に灌がうとして居るのである。
 曾てこの野の林が國境の嶺まで續いて居た頃には、濕地を慕うて多くの山の獸が遊びに來た。喜多見世田ヶ谷の殿樣たちはそれを獵する面白さに由つて、家の零落を忘れようとして居たやうである。その獵人も獸も去つて後、こゝは暫くの間もつとも淋しく、又安らかなる田舎であつた。私などもまだ學生の時に、どこかこの高臺のはづれに來て、晴れたる川の水煙を眺めたことがある。或はくぬぎ原の暖い草地に寢ころんで、年とつてからどこに行つて住むだらうかを、考へて見たこともあつた。その林の間には、めつたに人の通らない細路があつた。それがちやうど今の家の、庭のあたりであつた樣な氣がして仕方がない。
 我々の歴史がこれから出來ようとする心持、それが共に住む者の感覺以外には、跡を遺さぬだらうといふ心持が、故郷といふものゝ本の味では無かつたか。もしさうだとすれば現在に限らるゝ人生は、幾ら珍しくてもやつぱり旅である。」



「ジュネーヴの思ひ出 その他」所収「瑞西の鐘と時計」より:

「私は天氣のよく晴れた日曜日に、北伊太利のコモの湖水を船で渡つたことがある。湖岸の村々から、お寺の鐘が鮮かに響いて來た。處がよく聞き分けて見ると、村々の鐘の音色にはそれぞれの特長があり、古い音節が含まれてゐる。
 それは鐘の置き方、吊るし方、或は鑄造の方法にもよるのであらうが、ゼンマイの仕掛けでそれぞれ異つた工夫が凝らされてゐる爲らしい。」


































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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