美濃瓢吾 『浅草木馬館日記』

「「蘭蟲の色が変わってしまったよ」。大きな声を張り上げて業者らしき男が入ってきた。「あまり水深があると、蘭蟲はやはりだめなのかなあ」。素人の私にはよく判らないが、喜びが込み上げてきた。」
(美濃瓢吾 「動く浅草」 より)


美濃瓢吾 
『浅草木馬館日記』


筑摩書房 
1996年4月20日 第1刷発行
206p
四六判 丸背紙装上製本 カバー
定価1,600円(本体1,553円)
装画・挿絵: 美濃瓢吾



種村季弘「夢の皮、あるいはどこにいても浅草」(『断片からの世界』所収)より:

「それはそうと『浅草木馬館日記』は一風変わった本である。とてもあたたかくて、とても無気味なのだ。作家でいえば、深沢七郎と武田百合子を一つにして二で割ったような味とでもいおうか。そこには、人生をオリた人、落伍した人、生きることをだんだん減らして何もしなくなってしまった人が、うようよいる。ここに登場する浅草の人たちは人生を加速しないで減速してきた。だから骨や肉がそげ落ちて、みごとに皮だけになってしまった。世間並みの欲望はとっくにない。人生の中身がなくなり、夢の皮だけが残った。その皮だけの夢を刺青みたいに人前に見せるのが芸人なら、それにも失敗した元芸人志望の旅路のはての、ああ花の浅草木馬館。」
「そうはいってもこの浅草は昼間の観光用の浅草ではない。お化粧がまだらに剥げ、やがては闇に塗り込められて、五重塔や花屋敷のジェットコースターのシルエットだけが黒々と月光照明のなかに浮かび上がり、浅草が絶景人間と犬と花屋敷の子供たちと金魚の住み処であるところの正体をさらけ出す瞬間の、昼と夜、大人と子供、人間と動物、もう一ついえば生と死が、あいまいに混ざり合い共生している場としての浅草である。
 そうなるともう、ここは浅草でなくてもいい、ということにさえなりかねない。」



本文中、著者によるさしえ(モノクロ)19点、自筆見開き地図(浅草木馬館日記内覧図)1点。


美濃瓢吾 浅草木馬館日記 01


帯文:

「夜でも昼でもない、
この世でもあの世
でもない、この一時(いっとき)の
饗応に集まる人たち。

「祝額」大入看板画を描きながら、木馬館売店で丸煎餅やピーナッツを売りながら、ありのままの浅草の町や人々に馴染んで悠々と漂う画家の、初めての書き下ろしエッセイ。」



帯背:

「大願成就」


帯裏:

「たとえ一本の枯木、一本の電柱が残る浅草になろうとも、
消えた浅草を嘆くことはない。私は絶望だらけの浅草が
愉しくてならない。絶望もまた本懐なり。
(本文「木馬館日記」より)」



美濃瓢吾 浅草木馬館日記 02


目次:

浅草へ
   *
木馬館日記
 部屋
 火災報知器
 携帯ラジオ
 顔
 夕顔
 坐る
 楽屋
 罵声
 額縁
 マッサージ
 自転車
 台本
 裸足
 人間ポンプ
 クッキー
 アンパンマンとメガネ氏
 プロマイド
 涙腺と裏声
 ビビンバ
 墓石
 オランダ人
 フクスケは暗躍する
 松島
 輪唱
 四月
 成田山詣で
 転倒
 アイスモナカ
 コーヒー一杯
 インタビュー
 琵琶法師
 ハンカチ
 東京ラッシャイ
 駄菓子
 割箸音頭
 新仲見世
   *
浅草十三句
浅草オアシス
隅田川ゴールド
花やしき商店街小史
浅草月見十六景
南千住トワイライト――饗応の法則
   *
動く浅草

あとがき



美濃瓢吾 浅草木馬館日記 03



◆本書より◆


「坐る」より:

「「坐る」とは一体何だろうか。彼女は椅子にポツンと腰かけて、毎日木馬亭の入口の扉から、外を歩く人たちを眺め続けている。座禅のような、意を決した坐り方も道理もない。夏は扇風機、冬は石油ストーブをつけ、気楽にお茶やお菓子をつまむ。エアコンのような閉鎖性をもたらす利器もいらない。このほどほどにということができるようで、なかなか私のような宙ぶらりんにはできない。ただ坐るという日常だけが時間を刻む。」


「動く浅草」より:

「私はしばらく池のほとりに立ちつくしていたが、また、どこからともなく屋上で金網の外をみつめていた男の呟きが聞こえてきた。「辛い世の中になったよ、お兄さん」。すると、蓮池の底から声がする。「だから、それが何さ」。私には和金たちが屋上の金網男に、そっと囁きかけてきたようにも思えた。ワルフザケが過ぎるだろうか。願わくは私も金魚となり彼らの後を追いかけたかった。」




こちらもご参照下さい:

美濃瓢吾 『逐電日記』
















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