郡司正勝 『かぶき ― 様式と伝承』 (ちくま学芸文庫)

郡司正勝 
『かぶき
― 様式と伝承』
 
ちくま学芸文庫 ク-12-1 

筑摩書房
2005年2月10日 第1刷発行
511p
文庫判 並装 カバー
定価1,500円+税
装幀: 安野光雅
カバーデザイン: 渡辺千尋
装画: 「四条河原遊楽図屏風」(部分)


「本書は一九五四年、寧楽書房より刊行されたのち、一九六九年七月、學藝書林より再刊された。本文庫は、學藝書林版第二刷(一九七六年九月刊)を底本とした。」



本文中図版(モノクロ)多数。

本書収録論文中、「力者とその芸能」「河原者と芸術」「猿若の研究」「道化の誕生」は岩波現代文庫版『かぶき発生史論集』に、「「かるわざ」の系譜」「たての源流」「六法源流考」「猿若の研究」「三味線の登場」は『郡司正勝刪定集』に収録されています。


郡司正勝 かぶき


帯文:

「芸能研究の金字塔
かぶきに結実する芸の源流と変遷を追う」



カバー裏文:

「日本の芸能研究に大きな足跡を刻んだ著者の、幻の名著。荒事、悪態、かるわざ、六法などかぶきの様式の源流について、また猿若、道化といった役柄の出現と変遷について、さらにそうした芸能を担った人々の実像について、独自な視点で掘り下げた、克明な実証的研究。既成の演劇理論に捉われず、広く民俗芸能を視野に入れ、社会史・風俗史からのアプローチも取り入れて、時代の息吹のなかでのかぶき生成の実相に迫った本書は、その後の研究に大きな影響を与えた。」


目次:

序(初版) (河竹繁俊)

第一編 かぶきの様式
 饗宴の芸術――かぶきの本質とその様式
 荒事の成立
  荒事の意義
  荒事における民話力
  荒事とその表現
  見得とつけ
  「草摺引」の意義
  押戻しの意義
  力紙考
  仁王襷考
 悪態の芸術
  悪態の饗宴
  悪態の式典化
  悪態の家系
  悪態のスタイル
  悪態狂言の系譜
  悪態の環境と本質
 髪梳の系譜
  髪梳の発想
  風呂上り
  髪梳の演出
  髪梳の唄
  髪梳とめりやす
  髪梳という愛情の表現
  髪を梳く恐怖
  髪梳の伴奏
  嫉妬と変貌の様式
  怨恨と哀傷の唄
 「かるわざ」の系譜
  蜘舞の流行とその伝承
  蜘舞の源流と変貌
  蜘舞の行なわれた場所と携った人々
  早雲長吉とかぶきに入った蜘舞
  かぶきにおける蜘舞の技術
  かるわざと戯曲の結合
  かるわざと所作事
  怨霊事、ケレン、宙乗り
 たての源流
  「たて」と軽業
  かぶきに入った棒踊
  棒踊の流布と伝承
  棒の性質とその芸能化
 六法源流考
  「歩く芸」の系譜
  「練」とその伝統
  六方と六方衆
  技術としての「練」
  「振る」と「踏む」と
 出端と引込みのノート
  「出端」と「引込み」の意義と変遷
  出端の性格
  「引込み」の性格

第二編 かぶきの成立
 力者とその芸能
  力者の社会的地位
  力者の職業
  力者と芸能
 河原者と芸術
  河原者の芸術
  河原者とその職業
  河原者と劇場
  河原者とかぶき子
  河原者ときやり
 猿若の研究
  文献にあらわれた猿若および従来の学説
  猿若のあらわれた画証
  民俗舞踊における猿若の発見
  猿若とシンポチ
  猿楽と猿若の関係について
  狂言師と猿若の関係について
  猿若の扮装術
  猿若の芸能
  猿若狂言の変遷
  猿若狂言の成立
  道化としての猿若の性格
  猿若の喪失と道化方の出現
  猿若の史的位相
 道化の誕生
  「どうけ」という名称
  どうけの出現
  初期どうけの地位
  どうけの扮装術
  初期どうけ方の劇術
  どうけの役柄
  奴・六方・丹前
  半道について
  初期どうけ方一覧
 のろま管見
  のろまの発生
  のろまの先駆者
  のろまの後継者
  のろまとそろま
  間狂言としてののろま
  のろまの劇術
  のろまの扮装
  のろまの性格
  のろまの演出
  のろまの衰退
  のろまの復興
  佐渡ののろま
 茶かぶき
  「かぶき茶」とその性格
  唐様の茶会について
  茶会における芸能
  茶会から歌舞伎へ
  茶屋の街頭進出
  遊女の茶会とその演劇性
  茶会の狂言「茶湯丹前」
 三味線の登場
  三味線登場の日
  三味線の座とその弾奏者
  三味線の座席
  座席を飾るもの

あとがき
復刊あとがき

解説 いまここにない歌舞伎への憧憬 (古井戸秀夫)

索引




◆本書より◆


「饗宴の芸術」より:

「かぶき十八番に「毛抜」という狂言がある。その主人公は、しばしば演技なかばで見物に話しかけ、相談をもちかけるのである。侍女や若衆にしなだれかかって、振られると、この英雄の主人公は、自分の醜態を見物に向かって「近頃面目次第もありませぬ」と謝る。見物は、ここで劇中人物と俳優の二重の親近性を感じて声をあげて喜び、この一齣は完成するのである。(中略)また「義経腰越状」の五斗兵衛は、花道に立って「俺が酒をのむのが無理か、どうだ」と見物席に向って意見を求める。観客の中から「尤(もっと)もだ」という声がかかると、劇はさらに進行する。『ピーターパン』のフィヤリーが弱ってくると、見物に拍手を求め、ふたたび元気を吹き返す格であるが、これらを仮に見物との共同演出といったのである。演劇の始原には純粋な見物というものは存在しなかった。すべてが執行人である。その場に集まった人々は少なくとも囃子詞(はやしことば)やかけ声をかけねばならぬ義務があったのである。かぶきはこの原始的饗宴性の上に居心地よく坐り込んでいるのである。」

「当時のかぶき役者の人気というものは、ほとんど庶民の王者であって、風俗流行の源泉であり、美人の標準であり、小説の挿絵はすべて彼らを似顔とし、錦絵は争ってかれらの舞台姿を彩り、商標はこれを利用したものである。(中略)しかるにその人気に反して彼らの社会的待遇は、士農工商の四つの人間階級にも入れられぬ「河原乞食」であり、正式には社会との交際を禁じられ、種々の生活制限をうけたので、このことはあるゆがんだ暗い蔭をかぶき芸術に落さずにはおかなかったのである。」

「またかぶきの化粧のなかには、眼球や舌に化粧するというすさまじいものがあった。碇知盛(いかりとももり)の血走った目を表現するのに、紅を眼の中に入れ、舌を出したり、カッと口を開けてみせるために、口に紅を含んだのである。これは怒りや恐ろしさをリアルに表現するというより、いわゆる蕪村の「閻王の口や牡丹をはかんとす」の華麗さをねらったものであった。かぶきはこんな表現に身命を賭ける。」



「荒事の成立」より:

「柳田国男は『妹の力』のなかで御霊信仰を説き、その「ごりょう」ということばから「五郎」という英雄神を生み出し、鎌倉権五郎景政や、大人弥五郎などの人物を作り出したといわれているが、曾我の五郎という名において荒人神になったのには、やはりこの御霊信仰の基盤があったのである。そのほか、荒事の主人公たちが多く、この五郎の名をもっていることも無意味のこととはおもわれない。「暫」の篠塚五郎・鎌倉権五郎、「押戻」の大館左馬五郎とか竹抜五郎などの役名は、みな荒人神の御霊信仰から生まれた荒事神であったというべきである。」

「さて、逆境にあって臥薪嘗胆の末、復讐を遂げるという異状な抵抗と、時の権威の圧力のためにその結果が死刑に終わったことによる民衆の恐れと同情が、憤怒の神を形成せしめ、荒神となって権力者に祟るという民衆の発想と、その一連の民話の様式が、かぶきの荒事を形成せしめている原動力となっているとおもう。」



「「かるわざ」の系譜」より:

「この「かるわざ」「早替」「ケレン」「宙乗」という曲芸が、歌舞伎史上に、いかに、舞台機巧・装置・衣裳・鬘等を進展せしめたかは想像以上であって、歌舞伎の本質と考えられるスペクタクル性の大半は、ここに発しているといってもよく、その源流は早雲長吉およびその一派の河原者、放下、力者らの賤民が、散楽・田楽と、連綿と受け継いで、かぶきに渡した蜘舞とその一連の技芸の展開に帰すべきものであろうと思う。」




こちらもご参照下さい:

郡司正勝 『かぶき発生史論集』 鳥越文藏 編 (岩波現代文庫)









































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