『谷中安規 モダンとデカダン』 瀬尾典昭 他 編

「炎の頁 さうして本の残骸
残がいの中に君が座つてゐる
いま君はうまれたのか
さうだ おれはすべてを忘れたのだ。」

(谷中安規)


『谷中安規 モダンとデカダン』
瀬尾典昭・山田俊幸・辺見海 編

国書刊行会
2014年11月20日 初版第1刷発行
272p
22.6×16.4cm 
角背布装上製本 カバー
定価4,500円+税
造本・装丁: 河村杏奈



谷中安規の画集は岩崎美術社の『版画天国』も入手困難だし困ったなーとおもっていたら、国書刊行会から本書が出ていたことに気づいたので購入してみました。わたしは情報化社会というのがだいきらいなので情報を遮断して生きているので出ても気づかないことが多いですが、それはそれでよいです。本書はいろいろと不満な点もありますが、しかし現在入手可能な唯一の谷中安規画集であり、たいへんありがたいので、それはそれでよいです。

図版はほとんどカラー印刷で、谷中安規による詩や同時代人による安規評が適宜デザイン的に掲載されています。


谷中安規 モダンとデカダン 01


目次:

はじめに――大正デカダニズムと、昭和モダニズムと (瀬尾典昭)

第1章 大正デカダンスの長い助走路
 大正デカダンスの長い助走路
 朝鮮での青少年期から豊山中学へ
 放浪人生へ
 版画との出会い
 大正に潜む時代精神
 禁断のデカダンス
 日夏耿之介とビアズリー
 日夏耿之介と遺愛品
 黒のダンスとノイエ・タンツ
 永瀬義郎のアトリエで踊る
 文芸同人誌『莽魯聞葉(もうろもんよう)』
第2章 モダン都市とマシンエイジ
 龍善院での失恋
 創作版画という先端
 日本創作版画協会展への出品
 編集者料治熊太を訪れる
 版画同人誌『白と黒』と『版芸術』
 モダン都市とマシンエイジ
 《街の本》シリーズ
 版画の黒と白
 映画と演劇
 テアトル・マリオネットと人造人間
第3章 ストーリーテラー
 ストーリーテラー
 物語の版画
 『方寸版画 幻想集』
 『白と黒』第41号
 放浪生活の途中に
第4章 文学者たちと挿絵
 大いに挿絵を描く
 内田百閒と『王様の背中』
 『居候怱々』
 佐藤春夫と『FOU』
 紙上版画と多彩な摺り
 特殊な技法の効果
第5章 楽園を夢見る子供たち
 迫る戦争と楽園の子供たち
 駒込の本山ハウス
 最後の楽園 焼跡とおカボチャさま
 内田百閒との再会
 死とその後
 遺された一束の書簡

おわりに――もっとでっかい勲章を (瀬尾典昭)

谷中安規略年譜 (瀬尾典昭 編)
主な参考図書

【コラム】
筋肉と躍動を備えた風景 (藤野可織)
谷中安規の再評価 (宮内淳子)
愛書家本の時代と谷中安規 (山田俊幸)
ごく個人的な。 (大野隆司)



谷中安規 モダンとデカダン 02



◆本書より◆


「はじめに」より:

「内田百閒は『贋作吾輩は猫である』のなかで、風船画伯こと谷中安規と映画「カリガリ博士」のことを話題にしている。百閒は「風船さんがカリガリ博士を見ている風景はいいね」と言う。ヱルネル・クラウスの演じるカリガリ博士を真似て、風船さんがインバネスを着て歪んだ道を歩いて行ったならばさながら痩せたカリガリ博士だ、と評すのに対して、安規は、私は眠り男のコンラート・ファイトの役でございます、こんなに痩せていても骨が酔うと言うから術をかけられたら眠るでしょう、と応答している。」

「安規の奇行を語る言葉は多い。プライドが高く傍若無人でありながら、根っから人なつっこくて純真無垢、しかも極端に頼りなげな弱々しい存在感をまとっていて、決して憎めない人物であった。いつも芸術を求め他のことには頓着しなかったという安規は、聖者の香りがしたという人もいた。
 しかし、友人の妹にひどい失恋を経験することもあったし、いつも誰かに恋情を絶やさなかったらしい。(中略)日常的にもほとんどコーヒー中毒のようであった安規は、黒いコートを引きずるようにまとっては、カフェに入り浸り、好きだったシネマに通っていた。華奢で痩身の体躯をふらふらと幽霊のように歩いていた安規は、まさに大東京を彷徨っていたかのようである。」
「一九四五(昭和二十)の大空襲にも疎開することなく東京を離れなかったし、戦後は駒込の焼け跡に自分で建てた掘立小屋に住んでいた。一年ほど経た夏過ぎ、食べ物を差し入れて何かと世話をやいていた周りの人たちの甲斐もなく、栄養失調で亡くなった。四十九歳だった。居候を繰り返し、腹が減ると知り合いを訪ね歩いて何かと暮らしてきたのが、戦災で知人との伝手も断たれ孤立してしまったがために、生きながらえてゆく術がなかった、ということだろうか。」



「放浪人生へ」より:

「絵を描くようになると、安規は全くの独学であるが、土蔵に籠り蝋燭の灯火で素描や版画の制作に没頭していた。あるときは店の金庫からお金を持ち出し、芸妓をモデルに習作を重ねることもあったという。(中略)安規は長男だったにもかかわらず家業に見向きもせず、父子の関係はかなり険悪なものだった。」
「安規はなぜかめったやたらに居候を繰り返している。(中略)知り合いを訪ねては食べさせてもらい、それを許してくれる人たちの存在があることもまた不思議である。」



「日夏耿之介と遺愛品」より:

「長野・飯田市の日夏耿之介記念館には、彼らの親交を物語る日夏の遺品が保管されている。大正末から昭和初期にかけて朝鮮の京城滞在期の安規から送られた作品や書簡類である。そのひとつ《妄想》シリーズは小品の木版画ながら、性的でグロテスクな表現で安規らしさを発揮した初期版画の代表作である。
 仏教的な地獄絵図らしいものであるが、そのオドロオドロしい様子は暴力的ですらある。ロボットあるいは操り人形のようなものや、股間から生まれ出るヒトガタのものがあったりと、意味不明なものが満載なのも、安規ならではの妄想全開である。」



谷中安規 モダンとデカダン 03

「画稿 1 人造地震 1926年頃」


谷中安規 モダンとデカダン 04


「妄想 E 1925年頃」


谷中安規 モダンとデカダン 05


カバーは上下が折ってあるタイプで広げるとこんな感じです。

本書は布装ハードカバー(金押し)なのはぜいたくでよいですが、ページ面も余白を重視したぜいたくなデザインになっているので、作品図版が小さくなりがちで、全体的に余白が多く、見開きページの上端と下端に枠飾り図版が印刷されていてまんなかが余白になっているのなどは、それはそれでモダンでいさぎよいですが、わたしなどは貧乏性なので余白を減らせば作品図版をもっとたくさん入れられるのになー、そして諸家のコラムのかわりに谷中安規の書いた文章をのせてくれればよかったのになー、とおもわずにはいられませんでした。


谷中安規 モダンとデカダン 06




こちらもご参照下さい:

『現代詩文庫 1005 尾形亀之助詩集』



































































関連記事
スポンサーサイト
プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本