メルヴィル 『白鯨 下』 阿部知二 訳 (岩波文庫)

「「さくらんぼ、さくらんぼ、さくらんぼ! おい。フラスクよ、死ぬ前に、ひとつだけでも真紅なさくらんぼ食いたいなあ」
 「さくらんぼ? おれはただ、そいつが生えてるとこにゆきたいよ。スタッブよ」」

(メルヴィル 『白鯨』 より)


メルヴィル 
『白鯨 下』 
阿部知二 訳

岩波文庫 5731-5733/赤 943 

岩波書店 
昭和32年7月5日 第1刷発行
昭和49年3月30日 第17刷発行
291p
文庫判 並装
定価★★★



上巻解説より:

「版画はシカゴ、レイクサイド・プレス版(一九三〇年)から使用した。」


全三冊。
本文中挿絵図版23点(カット16点、フルページ7点)。


メルヴィル 白鯨 下 01


帯文:

「ついに波間に姿を現わした白鯨モゥビ・ディクとエイハブ船長以下海の男たちとの凄惨な戦い、そして悲劇は終る。唯一人を残して。」


目次:

九十章 頭と尾・何が何やら
九十一章 ピークォド号が薔薇蕾号に遭う
九十二章 竜涎香
九十三章 海に漂うもの
九十四章 手絞り
九十五章 法衣
九十六章 油煮釜
九十七章 灯火
九十八章 積込みと片づけ
九十九章 スペイン金貨
百章 脚と腕。ナンタケットのピークォド号、ロンドンのサミュエル・エンダービ号と遭う
百一章 酒の壜
百二章 アーササイディーズの島の木蔭
百三章 鯨骨の測量
百四章 化石鯨
百五章 鯨は縮小しつつあるか――彼は滅びるか
百六章 エイハブの脚
百七章 船大工
百八章 エイハブと船大工
百九章 船長室におけるエイハブとスターバック
百十章 棺の中のクィークェグ
百十一章 太平洋
百十二章 鍛工
百十三章 炉
百十四章 鍍金師
百十五章 ピークォド号は若衆号に遭う
百十六章 死にゆく鯨
百十七章 夜直
百十八章 四分儀
百十九章 蠟燭
百二十章 初夜直が終る頃の甲板
百二十一章 深夜――船首楼、舷牆
百二十二章 深夜、檣上。雷鳴と稲妻
百二十三章 マスケット銃
百二十四章 羅針
百二十五章 測程器と線
百二十六章 救命浮標
百二十七章 甲板
百二十八章 ピークォド号、レイチェル号に遭う
百二十九章 船室
百三十章 帽子
百三十一章 ピークォド号、歓喜号と遭う
百三十二章 交響曲
百三十三章 追跡―第一日
百三十四章 追跡―第二日
百三十五章 追跡―第三日
結尾

訳註
ハーマン・メルヴィル年譜



メルヴィル 白鯨 下 02



◆本書より◆


「九十二章 竜涎香」より:

「そういうわけであるから、こよなく高貴な淑女や紳士は、病鯨の穢れはてた腸の中から取った香料を楽しんでいるのだ、とわれわれは考えざるを得ないが、まさにそうなのだから致方ない。人によっては、竜涎香は鯨の消化不良の原因だといい、人によっては結果だという。いかにしてそのような消化不良を直すかといえば、むつかしい話であって、短艇三四隻に積みこんだブランドレスの丸薬を呑みこませてから、土工が岩石を爆破するときのように、生命からがら逃げ出してくるでもするより他はあるまい。」
「ところで、このかぎりなく香わしい竜涎香の純粋なるものが、このような腐蝕の真只中に見出されるというのは、ふと したことであろうか。諸君は、「コリント書」中の聖ポオロの、腐敗と純潔とについての言を思い、人は汚辱のうちに投じられ光栄のうちによみがえる、ということを知るべきであろう。また同様にして、最高の麝香を生み出すものは何かというパラセルソスの言をも思うべきであろう。またあらゆる悪臭のものの中でも、製造の第一過程にあるコローン香水は最悪のものである、という奇異な事実を忘れるべきでなかろう。」



「百三十二章 交響曲」より:

「おお、スターバック。何という穏かな、穏かな風だ。何と穏かに見える空だ。ちょうどこんな日に――まったくこんなに麗しい日に――わしは最初の鯨を撃ったのだ――十八歳の少年銛手だったのだ。――四十……四十……四十年の昔だった。――昔だった! 四十年間、鯨を追いつづけた。四十年間の困苦欠乏、危難、そして生の嵐。四十年間、冷酷の海にいた。四十年間、エイハブは海洋の恐怖に戦を挑んで、四十年間、平和な地上を棄てた。真実のところ、スターバックよ、わしはその四十年のうち、三年とは陸にいなかった。このわしの生涯を思えば、荒涼たる孤独というほかはない。船長の孤立とは、石できずかれ城壁にかこまれた城市のようなもんだ。外の青々とした野からの同情は、ほとんど入りこむ隙もないのだ。」

「これは何ものか。いかなる、名状しがたい、測りがたい、この世ならぬものが、いかなる欺瞞の見えざる主人が、暴虐残忍の皇帝が、わしに命令して、わしをあらゆる本然の愛と情とに背かせ、この身を絶間なく突っこみ押しこみぶつからせてゆき、わしの正しい本来の心では夢にも思いがけぬことに、愚かにもいそいそと立ち向わせるのか。エイハブは、はたしてエイハブであるのか。この腕をいま挙げるものは、わしか、神か、それとも何ものか。しかし、もし雄偉な太陽も自ら動くのではなく、天の使小僧にすぎぬとすれば、また、ただ一つの星とても、何かの見えざる力によらずしては廻転せぬとすれば、このちっぽけな一つの心臓が鼓動し、このちっぽけな一つの頭脳が思索するのも、ただ神がその鼓動をさせ、その思索をさせるからのみであり、生をいとなむのは、わしではなく神であろう。神かけていうが、われわれはこの世においては、あそこにある揚錨機みたいに、くるくると廻され、運命が梃子なのだ。そして見よ、悠遠に微笑むあの空と、測り知れぬこの海とを。見よ、あの魚、めばちを。だれがあいつに、あの飛魚を追って咬むという料簡をおこさせるのか。人殺しのゆく先はどこか。裁くべきものが法廷に引き出されるとき、劫罰を受けるのはだれか。それにしても、穏かな穏かな風よ、穏かにかがよう空よ。空気は遠い牧場から吹き流れてくるように匂っている。スターバックよ、どこかアンデスの山の斜面のあたりで乾草をつくっておって、草刈りらは、刈り立ての草の中に眠っておるのでもあろうか。眠りか。なるほど、われわれはいかに働こうとも、みなついには野辺に眠るのだ。眠りか。なるほど、投げすてられた去年の大鎌が、刈りさしの草かげに横たわるように、青々たる中に錆びてゆくのか。――スターバック!」」



メルヴィル 白鯨 下 03




こちらもご参照下さい:

メルヴィル 『白鯨 上』 阿部知二 訳 (岩波文庫)
メルヴィル 『白鯨 中』 阿部知二 訳 (岩波文庫)












































































関連記事
スポンサーサイト
プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本