『定本 柳田國男集 第十七卷 民謠覺書 俳諧評釋 他』 (新裝版)

「童謠は星が小兒をして歌はしめるのだといふ俗信すらあつた。」
(柳田國男 「歌と「うたげ」」 より)


『定本 柳田國男集 
第十七卷 (新裝版)』

民謠覺書 民謠の今と昔 俳諧評釋 續俳諧評釋

筑摩書房 
昭和44年10月20日 第1刷発行
566p 目次1p 口絵(モノクロ)1葉
菊判 丸背バクラム装上製本 機械函
定価980円

月報 17 (8p):
私が柳田先生から受けた大恩(町田嘉章)/詩人、柳田國男さん(荒正人)/柳田先生と金沢(長岡博男)/柳田さんとの四五回(杉森久英)/柳田先生と内閣文庫(岩倉規夫)/次回配本/図版(モノクロ)4点



本書「あとがき」より:

「○「民謠覺書」は、昭和十五年五月創元社より刊行。
○「民謠の今と昔」は、昭和四年六月地平社書房より刊行。(中略)卷末の「能美郡民謠集序」「東石見田唄集序」は、他の卷にまわした。
○「俳諧評釋」は、昭和二十二年八月民友社より初版刊行。」
「○「續俳諧評釋」は、こういう題名のもとに出版計畫のあつた論文の一部をこゝに掲載した。」



全31巻・別巻5巻。本文正字・正かな。


柳田国男集 十七


内容 (初出):

民謠覺書
 自序
 民謠覺書(一) (昭和十年四月、文學三ノ四)
 民謠覺書(二) (同年十月、同誌三ノ十)
 鼻唄考 (昭和六年十月、十一月、十二月、七年一月、二月、ごぎやう十ノ十、十一、十二、十一ノ一、二)
 歌と「うたげ」 (昭和十三年六月、短歌研究七ノ六)
 山歌のことなど (昭和七年十一月、短歌民族一)
 酒田節 (昭和十三年五月十六、十七日、朝日新聞)
 廣遠野譚 (昭和七年一月、古東多萬二ノ一)
 絲と民謠 (昭和十二年八月、近畿民俗一ノ四)
 民謠と越後 (昭和十四年六月、高志路五ノ六、原題「越佐偶記」)
 民謠と都會 (大正十四年九月、婦人の友十九ノ九、原題「民謠の末期」)
 採集の栞 (大正十五年一月~十二月、朝日グラフ六ノ五~七ノ二十五、原題「民謠の國」)
 一つの分類案
  民謡種目
   一 田歌
   二 庭歌
   三 山歌
   四 海歌
   五 業歌
   六 道歌
   七 祝歌
   八 祭歌
   九 遊歌
   十 童歌
 田植唄の話 (昭和十年七月、現代農業一ノ七)
 手毬唄の話
  一 梅の折枝 (大正十五年一月、民族一ノ二、原題「手毬唄の蒐集と整理」)
  二 井筒屋お駒 (同年七月、同誌一ノ五、原題「手毬唄の蒐集と整理」)
 鹿角郡の童謠 (昭和三年三月、民族三ノ三、原題「花折りに」)
 宮古島のアヤゴ (大正十四年十一月、民族一ノ一)

民謠の今と昔
 民謠の今と昔 (昭和二年一月、日本文學講座三)
  序説
  民謠發生の條件
  歌の日歌の時
  歌と物語と
  歌ふ人と歌はぬ人
  何が消え何が殘る
 流行唄と民謠と (大正十五年六月、詩歌時代一ノ二)
 民謠雜記

俳諧評釋
 はしがき
 水鳥の歌仙 (昭和二十一年十一・十二月、鶴九ノ七、原題「芭蕉俳諧鑑賞(一)」)
 種芋の歌仙 (同二十二年一月、鶴十ノ一、原題「芭蕉俳諧鑑賞(二)」)
 秣負ふの歌仙
 最上川の歌仙 (昭和二十二年二月、展望十四)
 あつみ山の歌仙
 年忘れの歌仙 (同年四月、四季 四)
 磨直す鏡の歌仙 (同年同月、苦樂二ノ四、原題「俳諧評釋」)
 新麥の歌仙 (昭和十七年七月、八月、俳句研究九ノ七號、八號)
 秋の空の歌仙
 早苗舟の百韻
 紅梅に筧の歌仙
 靑鷺の歌仙
 夜半の鐘の歌仙
 花を折るの歌仙

俳諧評釋續篇
 別座鋪の歌仙
 子規一門の連句 (昭和二十三年八月、俳句研究五卷七號)
 芭蕉の戀の句 (昭和二十三年十二月、風花十號)

内容細目
あとがき




◆本書より◆


「歌と「うたげ」」より:

「だから歌謠は恐らくは一つの救濟であつた。是によつて日常には需要の無い多くの美しい感覺が養はれ、飛びまはる我々の空想には一つ一つのとまり木が出來、人は寂しい時にも又不如意な時にも、なほ折々の安養の地を見出し、同時に又次の代の爲に、一段と精微なる情操を貯へて行くことが出來たのである。」
「物靜かな婦人が、歌となると思ひ切つたことを歌つたり、又はあて歌と稱して常ならば喧嘩になるほどの惡口を言つたりする。歌だけは別の世界だといふことを、自他ともに認めて居るのである。」
「童謠は星が小兒をして歌はしめるのだといふ俗信すらあつた。」



「廣遠野譚」より:

「遠野物語が世に出てから、遠野の生活にも色々の變化があつた。佐々木君も故郷の家をあけて置いて、近頃では仙臺に出て住んで居る。さうして此夏は二十一まで育てた女の子を亡くしたのである。
 常から病身な又しをらしい、自分でも長くは生きられぬといふことを、思つてゐる樣子の哀れな娘であつたが、病が腦に來てうは言を言ふやうになつてからは、始終手を摩つて何か尊いまぼろしを見るらしかつた。いよいよ早致し方が無いといふ頃に、或る朝次の弟が斯んなことを母にさゝやいた。昨晩は姉さんがとてもモダンななりをして、あるいてゐる處を夢に見たと謂つた。乃ち解脱の日が近づいて居たのである。臨終の後先にも幾つかの不思議があつたといふが、強ひて其樣な前置きを積み重ねて、この話の背景を彩どるべき必要を私は認めない。
 私の記録して置きたいと思ふのは、此子の父が見たといふたつた三つの夢だけである。三十日の祭を營まうといふ前の夜には、巖石の聳え立つ山の中腹を、この少女が行き巡つて、路を覓(もと)めるらしき姿を見た。四十日祭の前夜には、靑空が照りかゞやいて、何とも言へぬほど朗らかな中を、たゞ一人宙を踏んで行くのを見た。其時にどこからともなく追分節の、長々とした歌の聲が聞えて、其節に合せて歩みを運んで居たことを覺えてゐるといふ。それから暫くして五十日も近い頃には、もう一度同じやうな美しい靑空の下に、長い橋の上で亡き娘に行逢うた夢を見たのださうである。
 此時に聲をかけて、おまへは今何處にゐるのかと尋ねて見た。さうすると私は早池峰(はやちね)の山の上に居ますと、答へたと見て夢が醒めたといふ。遠野物語を讀んで下さつた人ならば、誰でも一度はこの山の姿を、胸に描いて居られることであらう。私は殊に昭和四年の七月に、北から空を飛んで來て此峰の眞上を通つて居る。根張りが廣い爲に山の姿は眼に立たぬが、五葉山と向き合つて陸中の東半分を、抱きすくめてゐるかと思ふ程の深山である。人の魂が身を離れて自由になつた場合、いつでも先づ訪はねばならぬやうな靈山である。從つて又歴代の空想が、土地では此峰を中心として常に成長してゐたのである。」
「しかし夢を見た人の心理は簡單であつた。此時は唯さういふことも有るかと考へただけで、それを悲しみ傷む親の心遣りに、記憶してゐたに過ぎなかつた。ところがそれから月を重ねて、秋の彼岸の頃に秋田縣に旅行して、偶然に此夢を考へ直さねばならぬやうな經驗を得たと、佐々木氏は言つてゐる。横手の町の近くとかいふことで、(中略)彼處でイダコといふ盲の巫女の、神降しの歌を聽いてみると、それが前半分は丸で追分の通りの節であつた。今まで少しも知らなかつたことだが、羽後では必ずしも稀な例では無かつた。(中略)何でも巫女には此邊は二つの系統があつて、羽黑を本山と仰ぐ者は、總體に歌が追分節に近いといふことであつた。羽黑では精靈の此世の苦艱を脱ぎ棄てた者が、昇つてあの御山の頂上に行つて住むといふ信仰があつた。さうして因縁ある者の切なる望みに基いて、暫くの間之を故郷の村に迎へて來る爲に、この歌を高く唱へるのださうである。」

「遠野物語が世に出てから、今年は既に廿三年目になる。あの時我々が發願した學問は、答としては幾らも成長せずに、問としては寧ろ大いに痩せてゐる。夢の理論の辨證が許さるゝ世であるならば、まぼろしの歴史を推究することも徒事であるまい。」

「死者の靈が天に近い高山の峯に行くといふことが、もしも佛法以前の我民族の信仰であり、祭の日にそれを招き降す方式に歌があつたとすれば、其風が東北の端々に殘つて居ると同樣に、稀には早く開けた地方の山間にも、保存せられてあつたとして不思議は無い。寧ろ偶然とは認められぬ曲調の一致に基いて、逆にさういふ共通の理由の、隱れて存するものを確かめることが出來るかも知れぬのである。吉野の御嶽を始めとし、古く知られて居る靈山の信仰が大和には多い。曾ては爰にも立山や恐山のやうな、人の魂の宿があつたのでは無いか。」



「民謠と越後」より:

「次の一つも他ではまだ存否を知らぬが、趣向が面白いから或は記憶して居る人が無いとも言はれぬ。眞澄翁の集録では田植唄とあつて、

  沖のとなかの三本杉に
  鹿が寢伏したそりや解きやれ

  それを解くことは絲よりやすい
  みすぎしかねたそりや解いた

といふのだが、是だけでは一寸呑込めないから、却つて俚謠集の中蒲原郡口説歌に、出て居る方が元に近いものかと思はれる。最初は是も盲坊主などの三味線に合せた歌で、農夫にも意味が取れるやうな簡單な謎問答であつた。三本の杉だから「身過ぎ」、鹿が寢たから「しかねた」といふだけの口合ひに過ぎぬのだが、斯んな何でも無い淡々とした滑稽を、歴代笑ひ興じて覺えて居た、越後の農民は律儀だと言つてよい。」

























































































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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

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