松浦静山 『甲子夜話 2』 (東洋文庫)

松浦静山 
『甲子夜話 2』 

中村幸彦・中野三敏 校訂
東洋文庫 314

平凡社
1977年9月26日 初版第1刷発行
1981年5月20日 初版第4刷発行
xvi 366p 
17.3×11.7cm 
角背クロス装上製本 機械函
定価1,800円
装幀: 原弘



本書「凡例」より:

「本書は静山(せいざん)松浦清(まつらきよし)著『甲子夜話(かつしやわ)』正編百巻を六部に分かち、巻二十から巻三十五までを収録したものである。」
「底本には松浦素氏蔵、「平戸藩 楽歳堂蔵書」本を用いた。」



本文中図版多数。


甲子夜話 二


内容:

凡例

甲子夜話目録 巻之廿~巻之三十五

甲子夜話 
 巻二十~巻三十五




◆本書より◆


「巻二十」より:

「人魚のこと、大槻玄沢が『六物新志』に詳なり。且附考の中、吾国所見を載す。予が所聞は、延享の始め伯父母二君〔本覚君、光照夫人〕平戸より江都に赴(おもむき)給ひ、船玄海を渡るとき天気清朗なりければ、従行の者ども船櫓に上りて眺臨せしに、舳の方十余間の海中に物出たり。全く人体にして腹下は見へざれども、女容にして色青白く、髪は薄赤色にて長かりしとぞ。人々怪みて、かゝる洋中に蜑(あま)の出没すること有べからず抔(など)云ふ中に、船を望み微笑して海に没す。尋(つい)で魚身現れ、又没して魚尾出たり。此時人始て人魚ならんと云へり。」


「巻二十四」より:

「或日の坐話に聞(きく)。麻の初生の芽を食すれば発狂すと云。先年谷中妙伝寺と云にて、早朝人ゆきたるに、その住持、小僧、奴僕など皆沈睡して熟臥す。又視るに仏壇の本尊より、器具、戸障子の類悉く打砕(くだき)てあり。其人不審に思ひ、睡(ねむり)たる者を揺し起せども覚めず。頻に起してようやく覚(さめ)たり。因てその次第を問ふに、さてさて能(よく)寐たり。夜前は面白きことなりと云ゆゑ、夫(それ)は何(い)かにと尋(たづね)れば、かの打砕きし物を見て大に驚き、始て狂の所然を知りたりと云。かの毒消すれば故(もと)に復するにや。(中略)又かの寺にて数人発狂のとき、十二歳なる児、両手に箸を持ち、面白ひと云つゝくるひ出し、其次に住持が狂したりと云。」


「巻二十六」より:

「平戸、神崎の渓間に細竹繁生せる所あり。一日某士の僕、つれだちてこゝに来り竹を伐(きら)んとするに、渓そこに何やらん大なる松の木を横たへたる如きもの見ゆ。あやしく思ひ山腹の石を転したれば、かの大木動出たる故、驚てよく視れば蟒(うはばみ)なり。僕等大に懼れ、跡をも見ずして逃帰れり。その大さ二尺まわりもありしと云。又其辺に漁する蜑(あま)ありしが、或日舟行するあたりを、大魚あつて首を出して泳ゆくゆゑ、鱶ならんと思ひ、鋒〔鋒は方言モリ。これを擲て魚を刺すの用。手縄あり。数尋なり〕を擲てこれを突(つく)に、その身に中れりと覚しく、やがて反側して苦む体なり。見れば蟒なり。蜑大に怖れ、もりも手縄もそのまゝ捨て逃去れりと。これより後は此辺に蟒を見ること絶たりとなん。思ふに蟒の海を渡り近嶋に移り、その処の山に入(いら)んと為し、中途にて害に遭(あひ)しなるべしと人々云(いひ)あへり。」

「先年、府の近郷大百姓の家の台所、くゞり戸をしめておきし外に、夜更(ふけ)て物音するゆゑ、犬なるべし迚見れば、戸外より地ぶくの下を穿ち、手を入れて内なる戸の落しさるをおし上る体なり。主人始てその盗なることを知り、かの手を執(とり)て引詰(ひつつめ)、綱をつけて大こく柱に繋ぎつけ、夜明けて捕ふべしとて置たるに、その綱ゆるみたるゆゑ、不審に思ひくゞりを明て外を見れば、腕より切落して、その人は何づくへか逃去たり。六七日の後、夜、賊十余人その家におし入り、主人を始め男女悉く緊縛し、家財什器一物も遺さず盗去りしなり。前の怨に報ひたるなるべし。然れども腕より斬て立さりしは、賊の勇決と云べし。」



「巻二十七」より:

「一両年前の事と聞けり。一人の士、何れの処か群集の中に見物してゐたるとき、巾着剪(きんちやくきり)来り、士人の懐中に手を入れ、三徳を取(とら)んとせしを、士も早く心付(づき)しが、瞥見せるまゝにて驚かず。巾着剪はそのまゝ取り去るを、士徐(しづ)かに脇指を抜て、かの手首を打落す。盗は乃(すなはち)逃失たり。その跡にて三徳を取て懐中し、しづしづとその場を立去しとなり。その手早く事終りし様子は、風声の樹杪を吹過る如くなりしかば、見物の人も寂然として、音をも出す者無(なか)りしとなり。」


「巻二十八」より:

「男女の道は人の常なるに、又たまさかには偏気を受て生るゝ人も世にあり。信州を領せる或侯の、婦女を殊更に嫌(きらひ)て、そのにほひをも厭と云。夫ゆゑ奥方も有れど、対面せらる迄にて各所に離居し、すべて女は近づき寄せぬこととぞ。又領邑に鯨漁を業として富(とめ)る者あり。婦女嫌にて、下女など厨下に奔走するの外、身近くには女なし。然ども妻なきと云ては吝嗇のそしりを受(うく)とて、京都又は近領富家の娘を妻に迎ふに、もとより別居してたまさかに呼見(みる)のみの体ゆゑ、妻も倦はてゝ遂に別れ去るとぞ。此類の人は天地の偏気を受たるなるべし。」


「巻三十」より:

「世に云ふ。姫路の城中にヲサカベと云妖魅あり。城中に年久く住りと云ふ。或云(あるひはいふ)。天守櫓(やぐら)の上層に居て、常に人の入ることを嫌ふ。年に一度、其城主のみこれに対面す。其余は人怯(おそ)れて不登。城主対面する時、妖其形を現すに老婆なりと伝ふ。(中略)其後己酉の東覲、姫路に一宿せし時、宿主に又このこと問(とは)せければ、城中に左様のことも侍り。此処にてはヲサカベとは不言、ハツテンドウと申す。天守櫓の脇に此祠有り。社僧ありて其神に事(つか)ふ。」


「巻三十四」より:

「又小菅橋の側に住(すめ)る農夫の小女、大風雨中、戸隙より窺見ゐたるに、夜八半過の頃、殊更に風強く吹来るに、五歳ばかりと見へし子の、髪を被りたるが、両掌を組交へて額に当、地上八尺余計空中を走り行き、御殿趾の構の中に下りたる迄見留しとなり。何の妖なるにや。」



松浦静山 『甲子夜話 3』 (東洋文庫)



























































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