赤松宗旦 著/柳田国男 校訂 『利根川図志』 (岩波文庫)

赤松宗旦 
『利根川図志』 
柳田国男 校訂

岩波文庫 黄/30-203-1 

岩波書店
1938年11月15日 第1刷発行
1979年6月20日 第9刷発行
394p
文庫判 並装
定価400円(☆☆☆☆)



著者による「凡例」より:

「この書題して利根川圖志といふ時は、その本源の方より記すべき事(わざ)なれど、そは余が郷里よりは遠く隔りたる境にて、考索の便あしければ、こたびは上利根川の下なる房川ノ渡以下、赤堀川權現堂川と分れし處より筆を起し、中下利根川及びそれに流れ入る手賀沼印旛沼等を始め、神社佛閣名所舊迹物産を記し、銚子ノ浦に終る。」
「卷中の畫圖、名印無きは葛飾北齋なり。」



本文中図版多数。


利根川図志 01


帯文:

「下総国布川の一医師の篤志に成る著作。大利根流域の地誌を図説した興趣尽きない読み物であり、民俗学的にも示唆に富む文献である。」


目次:

解題 (柳田國男)


自序
凡例
利根川全圖

卷一
 總論
  運輸
  天候
  物産

卷二  利根川上中連合
 鳥喰
 茶屋新田
 中田
 靜女舞衣
 大櫻
 熊澤蕃山墓
 三島大明神社
 五ヶ村嶋
 川妻
 古河城舊址
 沙山
 富士見ノ渡
 六國山東昌寺
 關宿城
 古河晴氏朝臣墓
 大柳
 掘割
 おゝ腹くつてう明神
 我慢
 布施辨才天社
 日天子社
 御寮法性墓
 下利根川
 堺町
 女夫松
 鵠戸沼
 保地沼
 衣川落口
 普門山禅福寺
 平將門舊址
 眞王山延命寺
 大鹿城址
 大鹿山弘經寺
 大鹿山長禅寺
 取手宿
 本多氏城址
 小堀河岸
 第六天山
 御墓松
 一色氏城址
 戸田井ノ渡
 書卷川
 水神社

卷三
 新利根川
 奧山
 文間明神ノ社
 布川
 海珠山德滿寺
 金比羅社
 瑞龍山來見寺
 布川大明神
 布佐
 六軒堀
 手賀沼
 大森
 雲冷山長樂寺
 鹿黑橋
 竹袋城山
 水神社
 木下河岸
 貉池
 稻荷山神宮寺
 地藏堂
 石神社
 雲林山瀧水寺
 鳴澤
 天龍山龍腹寺
 草深野
 印西合戰
 埜原新田
 吉次沼

卷四
 印旛沼
 佐久知穴
 鳥見ヶ丘
 松蟲皇女廟
 松蟲の陣場
 吉高代介城跡
 吉高鮒
 カハボタル
 花鳥山
 雨祈
 瀨戸渡
 印西産物
 師戸渡
 巖戸壘
 吉田渡
 源賴政塚
 神崎橋
 平戸橋
 米本城跡
 村上綱淸墓
 臼井城跡
 大楠樹
 太田圖書墓
 おたつ樣
 臼井八景
 鹿島橋
 物井川
 高崎川
 佐倉
 土産
 本佐倉
 將門大明神
 稻荷藤兵衞
 酒々井町
 中川
 大佛頂寺
 野馬取
 三度栗
 成田山新勝寺

卷五
 麻賀多大明神
 神津八十墓
 超林寺
 平貞胤墓
 公津宗吾墓
 鷺山壘
 藥師寺
 船形神社
 根山神社
 谷原イボ
 ポンポン鳥
 天竺山龍角寺
 駒形明神
 鷺宮
 布鎌新田
 藤藏河岸
 龍ヶ崎
 稻敷郷
 栗林義長傳
 慈雲山逢善寺
 高田權現
 大杉大明神
 信田の浮島
 霞ヶ浦船軍
 一ノ宮大明神
 二ノ宮大明神
 三ノ宮大明神
 三熊野大明神
 おはつ稻荷社
 長沼
 新妻川
 飯岡川
 水掛川
 長沼ノ城跡
 源太河岸
 滑川觀世音
 朝日ヶ淵
 菊水井
 菊水山城跡
 耀窟大明神
 八幡大明神
 東三井寺
 西大須賀城
 兒塚
 助崎城
 公家塚
 高岡
 龍安寺
 迎接寺
 名木古城
 神宮寺
 神崎明神
 押砂河岸
 大須賀川
 大戸神社
 佐原川
 津宮河岸
 香取大神宮

卷六
 香取浦
 十六島
 牛堀
 潮來
 海雲山長勝禅寺
 小里姫の塚
 園邊川
 なまづ川
 浪逆海
 大船津
 鹿島の故城
 鹿島大神宮
 彌勒謠
 經石
 息洲神社
 神の池
 苅野橋
 童子女松原
 手子崎明神
 羽崎
 側高明神
 粟飯原氏城跡
 木内大明神
 小見川
 黑部川
 七本木
 淸水觀音
 夕顏觀世音
 四季咲の櫻
 千丈ヶ谷
 椿の海
 石出
 岩井不動
 猿田大權現
 高田川對陣
 海上八幡宮
 松岸
 銚子
 飯沼觀世音
 名物
 淸水の井
 和田不動堂
 川口明神
 千人塚
 川口
 目戸ヶ鼻
 葦鹿島
 カン石
 犬吠ヶ崎
 長崎ヶ鼻
 外川の濱
 仙ヶ岩屋
 犬若
 名洗浦

索引



利根川図志 04



◆本書より◆


「カハボタル 俚言にカハボタルといふものあり。亡者の陰火なる由。形丸くして大さ蹴鞠の如く、光りは螢火の色に似たり。夏秋の夜あらはるゝ。雨の夜は至つて多し。水上一二尺離れていくつも出でて遊行するが如し。或は聚り或は散じ、又は高くまた低く、はしる時は矢のごとし。久雨の節は夜な夜な多く是を見る。また花鳥山へ龍燈(りやうとう)の上ることあり。さて陰火龍燈のたぐひ、種々(くさぐさ)の書に多く見ゆれど、詳かなるは春暉が見たるとて、西遊記にしるしたる筑紫のしらぬ火、また越後國新道村(しんだうむら)飯塚氏の咄しを、牧之老人雪譜に出したる、頸城(くびき)郡米山(よねやま)の龍燈なり。こゝに又一奇説を擧ぐ。義知 壯年の頃、印旛江の邊り、吉高(中略)にありしとき、頃は五月の末なりしが、朋友(ともだち)來りて云ひけるやう、今宵はそらもはれていと靜かなれば、慰みに釣に行べしといひけるゆゑ、予も幸ひの事なりと思ひ、早速仕度(したく)とゝのへ二人連立ち河岸(かし)に行き、手に手に小舟にうち乘り、江の半に至り、朋友(ともだち)の舟と十間ばかり隔てて、棹つき立て舟を繋ぎ、釣をたれて居たりけるに、最早子刻(よなか)ともおぼしき頃、俄に空かき曇り朦朧として物さびしく、程なく大風吹起り雨降りいだし、誠にしんの闇となり、十間計りはなれ居たる朋友(ともだち)の舟も見えずなりぬ。こはいぶかしと思ふ内、幽かに遠き水中より、一つの靑き火閃々(ひらひら)と燃えあがりぬ。是なんかの亡者のカハボタルならんと見居たるに、だんだんとわが方に近付き來りぬ。逃げかへらんと思へども、風つよければ、舟を動かす事もならず、衣服はぬれて戰慄(ぞつと)するに、心をしづめ朋友を呼ばんとすれど更に聲も出ず、如何がはせんとためらふ内、カハボタルはわがふねの舳さきに乘りたり。こはかなはじと思へどもすべきやうなく、たゞ目をとぢて一心に念佛するのみなり。暫くして雨やみ、風もちと靜まりぬれば、こはごはと目を開き見るに、はやカハボタルは何處(いづこ)へか消えうせ、空も少し晴れて朋友の舟もとの處に居たり。このときはじめてこゑをいだし、今のカハボタルを見しやと問へば、我も見たれ共おそろしさに物も云はずと答ふ。やうやう人心地付きて早々我家にかへり來りぬ。翌朝漁師ども大勢居たる所にて、右の咄をくはしく物語せしに、獵師ども云けるは、其くらゐの事は度々のことなり。我らは一昨夜漁に出でしに、彼カハボタル我が舟に乘りたり。其時は大勢ゆゑおそろしとも思はず、舟棹を以て力に任(まか)せ打たゝきし所、碎け散りて舟一面に火となり、塗付けたる如く、その腥(なまぐさ)きこと譬(たと)ふべき物なし。其質油の如く阿膠(にかは)の如く、ぬるぬるひかひかとして落ちず。みなみな打寄りやうやうと洗ひ落しぬと、大勢の物語なり。又其内一人の云ひけるは、四五年以前の事なるが、われ或夜投網(とあみ)うちの艫漕(ともこぎ)に出でし所、彼(かの)カハボタルいくつともなく出で來り、舟近くふはふはと飛びめぐる。網とりは剛氣の男ゆゑ、此時小聲にて我にさとしければ、我もうなづきながら舟を廻(めぐ)らし、かのカハボタルを追ひかけまはす。網とりはあみを小脇に引かまへ舟の舳さきに突立ちあがり、手頃を見さだめこゝぞと網を投(うち)ければ、按にたがはずカハボタル一つを打かぶせぬ。其時も腥きこといはん方なく、網(あみ)の中は一面に靑き火となり、ぬるぬるして落ちず。いかんともすべきやうなく、手にてもみ洗ひければ、其手二三日も腥かりし故、一昨夜も大勢にて舟を洗ひしが、我は以前にこりて居りしゆゑ、それと云はず手を付けざりしといひて大に笑ひぬ。かのカハボタルといふものを生捕りてその形質をあらはししは、印旛江の獵師なるべし。」


利根川図志 03


これは河童の図。


利根川図志 02
































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