松浦静山 『甲子夜話続篇 4』 (東洋文庫)

松浦静山 
『甲子夜話続篇 4』 

東洋文庫 375
中村幸彦・中野三敏 校訂

平凡社
1980年4月23日 初版第1刷発行
ix 259p 
17.3×11.7cm 
角背クロス装上製本 機械函
定価1,200円
装幀: 原弘



本書「凡例」より:

「本書は静山(せいざん)松浦清(まつらきよし)著『甲子夜話(かつしやわ)』続篇百巻を八部に分かち、巻四十二から巻五十三までを収録したものである。」
「底本には松浦素氏蔵、「平戸藩 楽歳堂蔵書」本を用いた。」



本文新字・正仮名。本文中図版多数。


甲子夜話続篇 四


内容:

凡例

甲子夜話続篇目録 続篇巻之四十二~巻之五十三

甲子夜話続篇 
 巻四十二~巻五十三




◆本書より◆


「巻四十七」より:

「予両国橋を往来するに、所謂見せ物なる者の看版(カンバン)に、唐子(カラコ)の形なる者三つ。一は両眼左右に突出(トビイデ)たると、一は片眼を扇を以て押出(オシダ)す体、一は唐子の小鼓(コダイコ)を撾(う)つ体を画く。一日人を遣して見せしむ。返て曰。男子年二十ばかりと覚しく、髪を剃り唐子頭(カラコアタマ)の如くし、左右に髪をのこし総角とし、筒袖ぼたんがけの服をし、下は股ひき、上は袖無(ソデナシ)羽織を着(キ)、唐子の容を為し、一帖なる台の上に坐せり。其前に大小鼓(タイコ)二つあり。見る者凡十人にも満れば、其者自身大鼓を鳴し、又自ら出眼(シュツガン)のいわれを唱へ、まづ左眼を出さん迚外眥(マジリ)を指(ユビ)にて推(オセ)ば、眼忽ち脱(ヌケ)いづ〔この出たる体は、大鯛の眼を抜きたるよりも大にして、白睛(シロメ)の所に紅(アカ)き筋ひきて見ゆると〕。其形円(マル)く、臉(マブタ)に酸醤(ハウヅキ)〔草実なり〕をつけたる如く見ゆ。夫より又出たる眼を撫るかと見れば、眼入て元の如し。次に右眼を出すと云へば、脱出すること前に同じ。これより両眼一同に出さん迚、左右の指にて眥を推せば双目発露せり。是も撫入れ畢て、自ら復(マタ)小鼓(コダイコ)を鳴し見物の者を散ぜしむと。
観者又曰。此こと術ありて欺くかと。近く寄りて目をつけて能く視るに、実にして偽りならず。皆驚かざるは無し。
又曰。彼れ眼の出(イデ)ざる常顔を見れば、物を視る半眼にして開目の状なし。たゞ目側(メノハタ)凹(クボミ)て、瞳子(クロメ)には白膜(クモリ)かゝり黒み少く、病眼とも云べき体なり。察するに物を視ては分明ならざるかと覚ゆ。
又その眼を推出せしを見るに、甚醜穢にして見る者厭悪を生ず。
又この出処を問へば、遠来に非ずして、言舌江戸の産ならんと云。
予甚疑ふ。因て侍医をして官医桂川氏に質すに、曰。この如く眼睛の自在に出入することは、人に於て曾て無し。夫れ眼睛は六筋と謂て臓腑よりつゞき、これにて維(ツリ)たる者ゆゑ、なかなか自由に脱出する者に非ず。若(モ)しけが抔して睛出るは勢を以て有らん。斯(カ)く平常に出入すること医道に曾て無き所と。桂川氏は外科。同所に蛮学の医も居て倶に言ふ所。又曰。是れ蛮の書籍に於ても見る所なしと。
予尚疑ふ。故に眼医馬嶋某〔浅草諏訪町に住す〕に人を遣はし問はしめたるに、曰。総じて眼竅の内は臉(マブタ)の皮肉と続き、たとへ眼疾ありとも曾て外へ出る者ならず。或は万一に出ること有りとも治療の及ぶべきなし。若又療治すとも眼再び明かならず。先年尾州の婦人子を産して胞下らず、逆上して両眼出露す。このときは手触るべからざるに由て、柔綿を以て包み漸く中に容れたり。然ども遂に盲となれり。然るときはこの見せ者は異病と為んか。抑(そもそも)又怪術(マホウ)か。理外のことなり。古今書冊所見有べからずと。」

「予が侍医の子に修徳と云者あり。一日両国に遣し、彼の出目の人を観せしむ。帰て其自記を出し示す。廼こゝに続綴す。
某(それがし)命を承て、両国の観せ物目玉小僧を見るに、年二十一二と覚しく、其容唐子の姿を為せり。踞床の前鼓を置て自ら鳴らす。是見物に始りを告るなり。某その眼をみるに、恍惚睛光なし。開くこと常人より少くして、眼辺凹かなり。流視すれば眼疾の人に異ならず、始眼だまを出すには、指にて眥を少しく推せば、睛即ち出づ。形大鯛の眼だまに能く似たり。たゞ黒めは翳(クモリ)ありて、白めは灰白色なり。又眼だまの丸(マル)に出たるを見れば、白みのみ多く、黒みは纔なり。その出たる間は、直視して少しも瞳動なし。又傍よりみれば、疾視(ニラミ)てゐる者の如し。是より又鼓をうつこと八九声にして、眼を容るゝと言ひ、指を用ひず目を張れば、睛(メダマ)入て故の如し。是より左眼を出入する、此の如くし、次には左右の指にて眥を推せば、即双眼倶に出づ。ときに傍人の言(イヒ)たてに、是達摩大師の坐禅の目玉と大声す。ときに又目だまを入るゝこと前の如し。成ほど眼の出たる形は、はりこ達摩の円目によく似たり。右畢りて見物皆散ず。某後木戸番に小僧の生国を聞けば、五嶋宇久の人と答ふ。されども音声を聞けば、此辺りの人の如し。諄々も奇々なり。且世間に往々風眼にて突出の者あれば、出づまじき道理なけれど、是は出れども入らず。視て物も分たず。終に廃人と成る。因て眼医、針を刺て睛より水を取れば、迺(すなは)ち潰れて眼竅陥るなり。この目だまは是と異り。若し試に水にても出さば、還て患を生ぜん。以上のことを以て云はゞ、病眼ともせよ、平生は転動ありて、出づれば入るの事あれば、敢て病眼とも為し難し。又偽術に非るは明白なり。然らば人間片羽(カタハ)の中の、最も怪むべき者乎。」





松浦静山 『甲子夜話続篇 5』 (東洋文庫)


























































関連記事
スポンサーサイト
プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本