『日本随筆大成 〈第二期〉 6』 三養雑記 近世奇跡考 ほか

『日本随筆大成
〈第二期〉 6』 

雉岡随筆/三養雑記/清風瑣言/尤の草紙/近世奇跡考

吉川弘文館 
昭和49年2月12日 印刷 
昭和49年2月25日 発行 
377p 「あとがき」1p 
四六判 丸背クロス装上製本 機械函 
定価2,200円
 
付録 (4p):
随筆家としての上田秋成(中村幸彦)/『近世奇跡考』と戯作(水野稔)/『清風瑣言』の三つの魅力(森田喜郎)/編集室だより/次回配本



「三養雑記」「近世奇跡考」は考証随筆、「雉岡随筆」は国文学随筆、「清風瑣言」は煎茶指導書、「尤の草紙」は枕草子のパロディ(ものづくし)です。

本文中挿絵図版多数。


日本随筆大成 近世奇跡考 01


目次:

解題 (丸山季夫)

雉岡随筆 (五十嵐篤好)
三養雑記 (山崎美成)
清風瑣言 (上田秋成)
尤の草紙 (斎藤徳元)
近世奇跡考 (山東京伝)

あとがき (吉川弘文館編集部)



日本随筆大成 近世奇跡考 04



◆本書より◆


「雉岡随筆」より:

「○かはたれ時、たそがれ時
黄昏をたそがれ時といひ、暁をかはたれ時といふこと、かはたれとは、彼は誰ぞといへる也。たそかれとは、誰ぞ彼はといへるにて、いづれも人面のさだかに見えざるをいへる同詞なるを、たゝ順にいふと、逆にいふとの違にて、暁と黄昏とになれり。是は情の緩急にて、自然しかいはるゝゆゑ也。暁は明くなりゆく時ゆゑ情緩也。ゆゑに彼は誰ぞと順にゆるやかに問也。黄昏は闇くなりゆく時故情急也。故にまづ誰ぞととがめて、さて彼はと逆にいふ也。是等にても情の緩急によりて、詞に順逆ある事を知るべき也。」



「三養雑記」より:

「○へげ猫
手足顔などあかつきよごれたるを、俗にへげ猫のやうなりといふ諺あり。今昔物語に、灰毛斑なる猫といふ詞あるによれば、肌のあかつきよごれたるが、灰毛の猫のごとくなりと云意なるべし。また、猫は寒きを嫌ふ性の獣なれば、竈の中に入て灰にまぶれ、毛のよごれたるにたとへしか。慈恩伝に、外道のことを、竈を侵す猫の如しといへることも見えたり。」

「○常元虫
近江国志賀郡別保といふ里に、西念寺とて浄院あり。寺境の乾四至四町ばかりの人家の墟ありて、住む人なし。たまたまこゝに居るものは、かならずその身に禍ありとかや。俗に常元やしきといふ。蒲生家の侍南蛇井源太左衛門といふもの、天正の兵乱に無頼となり。強盗して諸州に横行せり。その徒数百人ありて害をなす。年老て別保にかへり、なほ悪行を恣にせしが、人の勧によりて薙髪して常元と称す。慶長五年、諸国の姦賊を尋ね召捕られしころ、幾年か悪行せし罪人なればとて、その宅の柿木に縛せしむる。諸人の見ごらしにし、終に斬られたり。死にのぞみてさまざま悪言を吐き、更に人の憎みをうけしが、梟首せられ骸は村の庄屋 藤吉 に下されたり。柿の木のもとに埋みしが、数日の後、墳上にあやしき虫多く生ぜり。形は人を縛したるがごとく、後蝶に化て去りし。その殻、木にのこれること毎年なり。人これを常元虫といふ。江戸にもきこえ、享保癸卯の夏、かの虫を江戸の人々も見て、めづらかなるものにいへり。面目口鼻備り。〔割註〕口のあたり黄色なり。」手はうしろへまはし、縛せられしが如し。足は縮めたるがごとく、段々にひだ続あり。蝶に化するときは、黒き糸を吐く。首より下手足を繋縛し、柿樹に粘して、中にくゝらるゝものに似たり、背に脱し穴ありと。塩尻に見えたり。
この虫を物産家にたゞすに。爾雅に出たる縊女といふ虫にて、邦俗はおきくむしといふものゝよし、おもふに、かの常元が墳上の樹に、たまたまさる虫の生じたるは偶然なれど、自ら罪業の報によりて、彼が名を虫にまで負せて、常元が悪事いひつたへて、話柄とするも因果のことわりおそるべし。」

「○水虎
水虎、俗に河太郎、またかつぱといふ。江戸にては川水に浴する童などの、時として、かのかつぱにひかるゝことありし。などいふをきけどいと稀にて、そのかつぱといふものを、たしかに見たるものなし。西国の所によりては、水辺などにて、常に見ることありとぞ。怪をなすも、狐狸とはおのづからことなり。正しくきける、ひとつふたつをいはゞ、畠の茄子に一つごとに、歯がた三四枚づゝのこらずつけたりしことありと。その畠のぬしよりきゝたり。仇をなすこと執念ことさらにふかくして、筑紫がたにての仇を、その人、江戸にきたりても、猶怪のありしことなどもきけり。かのかつぱの写真とて見しは、背腹ともに鼈の甲の如きものありて、手足首のやうす、鼈にいとよく似たり。世人のスツポンの年経たるものゝなれりといふもうべなり。越後国蠣崎のほとりにてのことゝかや。ある夏のころ、農家のわらはべ、家の内にあそび居けるに、友だちの童きたり、いざ河辺に行て水あみして遊んと、いざなひ行しに、かのさそひに来りし童の親の、ほどなくいり来りしかば、家あるじの云、今すこしまへ、そのかたの子息の遊びに来れりといひければ、いやとよ。せがれは風のこゝちにて、今朝より家に臥し居りぬ。いとあやしきことゝぞいひあへりとぞ。後にきけば、かつぱの童に化て、いざなひ出したるなりといへり。」

「○木乃伊
ミイラといふ蛮薬、一名蜜人ともいへり。この薬名、人口に膾炙して、諺にも、みいら採りのみいらになるといふことあり。ミイラは、木乃伊と書けり。輟耕録に見えたり。綱目にも出たり。しかれども、実はその性のしられぬもの故に、くさぐさの説あり。楢林雑話に、木乃伊、本名ミェウミヤアといふ。「イタリヤ」、「ハルシヤ」などより出る。これはバルサモといふ薬を、人の屍の腹の内につめおくときは、何年を歴ても、その容(かたち)、朽腐(くさる)することなし。先祖の形容をながく存せんとするものは、かくの如くして箱に入れて、その屍を貯ふ。これを多くあづかりおく寺の如き館舎あり。その中に、印記を見出し易くす。その中にも、子孫たえて入用なきは、屍を其館主、山野に埋蔵す。後これを掘出すもの、木乃伊なりといへり。おもふに、かのバルサモの薬気、屍の総身に、いく年となくしみわたりたる功能あるなるべし。」



「近世奇跡考」より:

「〔十三〕辰之助(たつのすけ)鎗踊(やりをどり)猫(ねこ)の狂言(きやうげん) 并 肖像(せうぞう)
水木辰之助は、元禄中、諸人(しよにん)にめでられし歌舞妓(かぶき)の女形なり。元禄四年、京四条より初て江戸に下り、市村竹之丞座、顔見世に、四季(しき)御所桜と云、四番つゞきの狂言を興行す。是を辰之助が土産(みやげ)狂言と云。辰之助はる姫(ひめ)の役(やく)、第二番目に鎗(やり)をどりの所作(しよさ)、第三番目にから猫(ねこ)の所作(しよさ)をせしに、江戸中こぞりて賞美(しやうび)し、此狂言を見ざるをはぢとせしよし、〔割註〕○猫の所作の意趣(いしゆ)は、はる姫のやくにて、恋したふ男、我実の兄なることしれて、夫婦と成がたきをかなしむ折ふし、兄弟のねこの恋するを見てうらやみ、つひに我身ねことなりて、胡蝶にくるふ狂言なり。これを辰之助がねこの狂言とて、むかし人の、のちのちまでもかたりぐさにせしとぞ。」



日本随筆大成 近世奇跡考 02


「三養雑記」より「円転の図」。


日本随筆大成 近世奇跡考 03


「三養雑記」より「鞘画」。




こちらもご参照ください:

種村季弘/高柳篤 『新版 遊びの百科全書② だまし絵』 (河出文庫)



































































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