H・E・ノサック 『おそくとも十一月には』 野村琢一・河原忠彦 訳 (新しい世界の文学)

「たとえ正しくなくても、それは間違いではないのである。(中略)私たちが間違いを犯したとしたら、私たちの間違いは、全然別のものであり、私たち二人だけに関することであり、世間の人たちが言う正しさ、罪悪、処罰とは無関係である。」
(H・E・ノサック 『おそくとも十一月には』 より)


H・E・ノサック 
『おそくとも十一月には』 
野村琢一・河原忠彦 訳 

新しい世界の文学 38

白水社
1966年7月25日 第1刷発行
1973年6月15日 第4刷発行
290p 口絵(モノクロ)i 
四六判 並装 カバー
ビニールカバー
装幀: 北園克衞



Hans Erich Nossack: Spätestens im November, 1955

ハンス・エーリッヒ・ノサックの長篇第一作の邦訳です。巻末に訳者(河原忠彦)による「解説」。
二段組。本体・カバーに定価表記なし。

だいぶ前に古本屋でフレッド・ホイルの『10月1日では遅すぎる』(ハヤカワSF文庫)と同時購入しました。
それはそれとして、気がつけばもう二月です。


ノサック おそくとも十一月には 01



◆本書より◆


「いいえ、順を追って話さなければならない。だいたい実際にあったとおりの順序で。どうせ説明するのはむずかしい。人によっては首を振って「こんなことはありえない。こんなことをするやつはいやしない」と言うだろう。私だってほかに返事のしようがないから、そう言われればもっともだと思わざるをえない。私はべつに意地を張っているわけではない。ほんとうに私はどう答えたらいいのかわからない。どんなによくきこえても、十分な答えなどありはしない。
 それは《軽食》(中略)のときに始まった。あるいはもっと前に始まったのかもしれない、それもずっと昔に。もしかしたら私がまだ子供だったころに。私には何かそれが今始まったことではなくて、はじめからずっとそうだったように思えることがときどきある。」

「あの人も私と同じことを考えていたのだが、そんなこと私は知る由もなかった。あとで彼が私に話してくれたのだが、彼は間違って全然自分の出る幕でない映画の中へ紛れ込んでしまったような気がしたそうである。「気をつけていないと、こういうことはよくあるんですよ。ほんとにいつも気をつけていないといけないんです。それにときには自分にも責任があるんですよ。だってほかの人たちと一緒に自分も一枚加わってもいいと考えるんですから。(中略)しかしとても神経を使いますね。目立たないように、ほんとうに自分も仲間の一人であるように絶えずふるまわなけりゃいけないんですからね。とてもおもしろい映画なんでしょうし、みんな楽しんでいるのを邪魔しちゃいけないんです。一番いけないのは仲間はずれになって悲しい顔をすることですよ。しょっちゅう笑顔を作っていないとばれてしまうんです。おかげですごくいらいらしてくるんですが、こういう気持、ご存じでしょうか?」
 「存じておりますとも、とてもよく。」
 「そんならおわかりでしょう!」と彼は大きな声で言った。「ぼくは、みんなそれを望んでいるんだと思ったものですから左右の人たちに話したんです。でも話しながら、どうしたら適当なときにここから抜け出せるだろうかということしか考えていなかったんです。(中略)ショートして電灯が消えるか、何か混雑があったら、こっそり逃げ出せる。しかしそんなことを期待するのは無理だ。(中略)私はつかまってしまったんです。そのときぼくはあなたをお見かけしたのです。」

「この話をするのはたいへんむずかしい、たぶん不可能であろう。私たちがしたことをなんとしても正当化しようとしているとほかの人たちは考えるかもしれないが、そんなことは問題ではないのである。《正しい》ということが問題ではないのである。そんなことで私は争いたくない。そんなことで私はベルトルトと一緒にすべてを捨てたのではない。たとえ正しくなくても、それは間違いではないのである。説明はできなくても、私には感じでわかる。私たちが間違いを犯したとしたら、私たちの間違いは、全然別のものであり、私たち二人だけに関することであり、世間の人たちが言う正しさ、罪悪、処罰とは無関係である。もしそうだとしたら、私は罰をうければいいのであって、そんなにむずかしいことではない。(中略)ひどくおおげさに騒ぎ立てられるけれど、そんなことはむしろ簡単なことで、私に言わせればとるに足らぬことである。」

「ぼくが同席していると、たとえ黙っていても、そしてみんなと同じことをしていても、どういうものかみんな腹を立てるようになるんだ。」

「もともと、詩人を法廷に引き出すというようなことは、だれがやろうと益のないことだ。法廷に立った詩人ほど悲喜劇的なものはない。」

「こうして、私たちは走りだした。」

「そのとき、ふわっと車が宙に浮いた。(中略)私たちは漂った。言いようもない軽さで。羽のように。鉄橋の柱へと吹き流されて行く。ぐんぐん速度が増す。私はベルトルトの手に、ベルトルトは私の膝に、しっかりと身をささえ合った。もう離されはしないと思った。
 そして、私たちは、全然別の世界に落ちて行ったのだ。苦痛はなかった。すべての苦しみは、過去のものであった。」





こちらもご参照ください:

ノサック 『短篇集 死神とのインタヴュー』 神品芳夫 訳 (岩波文庫)











































































































































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ひとでなしの猫

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将来の夢: 石ころ。

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