『日本随筆大成 〈第一期〉 15』 北辺随筆 骨董集 ほか
『日本随筆大成
〈第一期〉 15』
北辺随筆/燕居雑話/骨董集
吉川弘文館
昭和51年1月5日 印刷
昭和51年1月20日 発行
555p 「あとがき」1p
四六判 丸背クロス装上製本 機械函
特価2,300円(定価2,500円)
付録 (4p):
「骨董集」をめぐる京伝と馬琴(服部幸雄)/骨董集あれこれ(落合清彦)
新字。本文中図版多数。

目次:
解題 (丸山季夫)
北辺随筆 (富士谷御杖)
燕居雑話 (日尾荊山)
骨董集 (山東京伝)
あとがき (吉川弘文館編集部)

◆本書より◆
「北辺随筆」より:
「○葉守神
枕草紙に、「かしは木、いとおかし。葉守の神のますらんも、いとかしこし。とある。これは拾遺集に、「かしは木に葉守の神のましけるをしらでぞをりしたゝりなさるな。といふ歌よりいふなるべし。其後にも、新古今集に、雨中木繁、基俊「玉がしはしげりにけりなさみだれに葉もりの神のしめはふるまで。ともみえたり。葉もりの神といふ神は、神書にみえず。これは、かしは木の葉のおちぬるゆゑに、葉を守りたまひておとし給はぬ神の、おはしますらんとていふなるべし。されど、かしは木に、かぎれるは心えがたし。たゞいひならへるにしたがふなるべし。おほかた、かうやうの類おほき事なり。「このもかのもは、つくばねにかぎり、「心づくしは、木間にかぎれるやうに心うるも、皆古人のあとをふむなり。古人のあとをふまむは、やむことなき事なれど、古人とても、いひもらせる事あらむは、勿論なるを、しかのみ心えたるは、愚なるにちかゝるべしかし。」
「燕居雑話」より:
「○海坊主
菊岡沾凉が、本朝俗諺志に云く、大灘にあること也。先年阿州、土州の境の沖にて見る、高さ十丈許り、上ほそく裙のひろがりて、大仏のやうなるもの、頭と覚しきところもあれどもたしかならず、走船の先にゆく。その間五六町ばかりある。暫ありて次第次第に薄くなり、どこともなしに消失せたり。船頭の云、是を海坊主と云、たびたびは無きもの邂逅に見ること也。晴天凪のよき日必出るといふ。案に、生ある者とは見えず、生有て水中に入らば、一槩に消ゆべき者也。きえやうを以て考ふれば、海上の旋風ならむ、風にて地の土を巻きたるなるべしと謂はれしは、一通は理りあることながら、又たえて無かるべしとも云がたし。清柳谷王大海が、海島逸志に云、海和尚、大海中不常有也、起則有風颶之災、形如人、口濶至耳、見人暿笑、名曰海和尚、見之者知為不祥、必遭狂風巨浪立至、而舟有傾覆之患也、と見えたり。まさしくこのものにて、彼は有風颶之災といひ。此は晴天凪のよき日必出るといふは、大に異なり。」
「骨董集」より:
「竹馬(たけうま)
唐山(もろこし)の竹馬(たけうま)の戯(たはぶれ)は、後漢(ごかん)の時(とき)すでにあればいとふるし。御国(みくに)の古代(ふるきよ)の竹馬(たけうま)は、唐山(もろこし)の竹馬とは異(こと)なり、葉(は)のつきたる生竹(なまだけ)の繩(なは)を結(むす)びて手綱(てづな)とし、これにまたがりて走(はし)るを、竹馬(たけうま)の戯(たはぶれ)といふ。竹馬(ちくば)の友(とも)といへるは則(すなはち)是(これ)なり。(中略)今(いま)の世(よ)のごとく駒(こま)の頭(かしら)の形(かたち)につくりたる物にはあらず。」
「昔人(むかしひと)の質朴(しつぼく)
〔一代女〕(中略)一之巻に云、此(この)四十年跡(あと)までは、女子(をんなのこ)十八九までも竹馬(たけうま)に乗(のり)て門(かど)に遊(あそ)び、男(をとこ)の子(こ)もさだまつて廿五にて元服(げんぷく)せしに、かくもせわしく変(かは)る世(よ)や云々(しかじか)。」
按(あんず)るに、こゝに四十年(ねん)跡(あと)といへるは正保の比(ころ)にあたれり。正保は今文化十年よりおよそ百六十七年ほど前なり。当時(そのころ)の人情(にんじやう)は、質朴(しつぼく)にて小黠(なまさかし)からざるゆゑに、かく幼気(をさなげ)なることおほかり。今十八九の女子(によし)さるあそびをすべきかは。こゝにいへる竹馬も、今(いま)のごとき竹馬とはおもはれず、古代(こだい)のごとき生竹(なまたけ)歟(か)。」

「火燵(こたつ)
火燵(こたつ)といふものは、近古(ちかきむかし)いできたるものなり。火燵(こたつ)のなき以前(いぜん)は、物(もの)に尻(しり)かけて火鉢(ひばち)にて足(あし)を煖(あたり)たるよし、古(ふる)き絵巻(ゑまき)に其体(そのてい)をゑがけるあり。めづらしき図(づ)なれば、左(さ)に摹出(うつしいだ)せり。」

こちらもご参照ください:
『日本随筆大成 〈第二期〉 6』 三養雑記 近世奇跡考 ほか
〈第一期〉 15』
北辺随筆/燕居雑話/骨董集
吉川弘文館
昭和51年1月5日 印刷
昭和51年1月20日 発行
555p 「あとがき」1p
四六判 丸背クロス装上製本 機械函
特価2,300円(定価2,500円)
付録 (4p):
「骨董集」をめぐる京伝と馬琴(服部幸雄)/骨董集あれこれ(落合清彦)
新字。本文中図版多数。

目次:
解題 (丸山季夫)
北辺随筆 (富士谷御杖)
燕居雑話 (日尾荊山)
骨董集 (山東京伝)
あとがき (吉川弘文館編集部)

◆本書より◆
「北辺随筆」より:
「○葉守神
枕草紙に、「かしは木、いとおかし。葉守の神のますらんも、いとかしこし。とある。これは拾遺集に、「かしは木に葉守の神のましけるをしらでぞをりしたゝりなさるな。といふ歌よりいふなるべし。其後にも、新古今集に、雨中木繁、基俊「玉がしはしげりにけりなさみだれに葉もりの神のしめはふるまで。ともみえたり。葉もりの神といふ神は、神書にみえず。これは、かしは木の葉のおちぬるゆゑに、葉を守りたまひておとし給はぬ神の、おはしますらんとていふなるべし。されど、かしは木に、かぎれるは心えがたし。たゞいひならへるにしたがふなるべし。おほかた、かうやうの類おほき事なり。「このもかのもは、つくばねにかぎり、「心づくしは、木間にかぎれるやうに心うるも、皆古人のあとをふむなり。古人のあとをふまむは、やむことなき事なれど、古人とても、いひもらせる事あらむは、勿論なるを、しかのみ心えたるは、愚なるにちかゝるべしかし。」
「燕居雑話」より:
「○海坊主
菊岡沾凉が、本朝俗諺志に云く、大灘にあること也。先年阿州、土州の境の沖にて見る、高さ十丈許り、上ほそく裙のひろがりて、大仏のやうなるもの、頭と覚しきところもあれどもたしかならず、走船の先にゆく。その間五六町ばかりある。暫ありて次第次第に薄くなり、どこともなしに消失せたり。船頭の云、是を海坊主と云、たびたびは無きもの邂逅に見ること也。晴天凪のよき日必出るといふ。案に、生ある者とは見えず、生有て水中に入らば、一槩に消ゆべき者也。きえやうを以て考ふれば、海上の旋風ならむ、風にて地の土を巻きたるなるべしと謂はれしは、一通は理りあることながら、又たえて無かるべしとも云がたし。清柳谷王大海が、海島逸志に云、海和尚、大海中不常有也、起則有風颶之災、形如人、口濶至耳、見人暿笑、名曰海和尚、見之者知為不祥、必遭狂風巨浪立至、而舟有傾覆之患也、と見えたり。まさしくこのものにて、彼は有風颶之災といひ。此は晴天凪のよき日必出るといふは、大に異なり。」
「骨董集」より:
「竹馬(たけうま)
唐山(もろこし)の竹馬(たけうま)の戯(たはぶれ)は、後漢(ごかん)の時(とき)すでにあればいとふるし。御国(みくに)の古代(ふるきよ)の竹馬(たけうま)は、唐山(もろこし)の竹馬とは異(こと)なり、葉(は)のつきたる生竹(なまだけ)の繩(なは)を結(むす)びて手綱(てづな)とし、これにまたがりて走(はし)るを、竹馬(たけうま)の戯(たはぶれ)といふ。竹馬(ちくば)の友(とも)といへるは則(すなはち)是(これ)なり。(中略)今(いま)の世(よ)のごとく駒(こま)の頭(かしら)の形(かたち)につくりたる物にはあらず。」
「昔人(むかしひと)の質朴(しつぼく)
〔一代女〕(中略)一之巻に云、此(この)四十年跡(あと)までは、女子(をんなのこ)十八九までも竹馬(たけうま)に乗(のり)て門(かど)に遊(あそ)び、男(をとこ)の子(こ)もさだまつて廿五にて元服(げんぷく)せしに、かくもせわしく変(かは)る世(よ)や云々(しかじか)。」
按(あんず)るに、こゝに四十年(ねん)跡(あと)といへるは正保の比(ころ)にあたれり。正保は今文化十年よりおよそ百六十七年ほど前なり。当時(そのころ)の人情(にんじやう)は、質朴(しつぼく)にて小黠(なまさかし)からざるゆゑに、かく幼気(をさなげ)なることおほかり。今十八九の女子(によし)さるあそびをすべきかは。こゝにいへる竹馬も、今(いま)のごとき竹馬とはおもはれず、古代(こだい)のごとき生竹(なまたけ)歟(か)。」

「火燵(こたつ)
火燵(こたつ)といふものは、近古(ちかきむかし)いできたるものなり。火燵(こたつ)のなき以前(いぜん)は、物(もの)に尻(しり)かけて火鉢(ひばち)にて足(あし)を煖(あたり)たるよし、古(ふる)き絵巻(ゑまき)に其体(そのてい)をゑがけるあり。めづらしき図(づ)なれば、左(さ)に摹出(うつしいだ)せり。」

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