『伽婢子』 松田修・渡辺守邦・花田富二夫 校注 (新 日本古典文学大系)

「山際(ぎは)に行てみれば、峰よりおつる滝(たき)つぼにたゝえたる水みどりにて、ながれて出る川瀬のかたはらに池あり。二町四方もありなむ。その水はなはだつよくして、金銀といへ共しづまず、石をなぐれども猶水のうへに浮(うき)あがる。此故にくろがねをもつて舟をつくり、国人これにのりてこゝろをなぐさむ。水底のいさごはみな金の色なり。井出の山ぶき水にうつり、をのづから金(こがね)花咲(はなさく)よそをひ、今ぞおもひあはせらる。」
(浅井了意 「伊勢兵庫仙境に到る」 より)


『新 日本古典文学大系 75
伽婢子』 

松田修・渡辺守邦・花田富二夫 校注

岩波書店
2001年9月20日 第1刷発行
v 531p
A5判 丸背クロス装上製本 貼函
定価4,400円+税

月報 97 (16p):
『伽婢子』の幽霊女房譚 (堤邦彦)/中年牡丹灯籠(横山泰子)/本のはなし第三十三回(佐藤悟)/古典の博物誌第三十回(渡邉品)/校注者紹介/編集室から/新日本古典文学大系全書目/図版4点・表1点



本書「『伽婢子』の意義」(花田富二夫)より:

「浅井了意――古典注釈家であり、地誌作家であり、教訓小説を書き、歴史、軍書に造詣が深く、とりわけ真宗大谷派の僧侶として多くの仏書をものした多彩な顔の作家――。その半生は、いまだ明らかになっていない。
 彼が渾身の力を込めて本書『伽婢子』を世に送った。全十三巻六十八話(中略)。三話を除く六十五話すべてが中国小説、或いは朝鮮刊伝奇小説との関連を有し、彼の国の話を跡形もなく、我が国の話に再生させたものであった。その手法を翻案と呼ぶなら、本書は我が国における近世初期翻案文学の白眉である。」



本文中図版(モノクロ)多数。


伽婢子 01


帯文:

「鬼をかたれば怪いたる
動乱の世を舞台に
異界との交流を幻想的に
描く怪談咄集
〈第101回配本〉」



内容:

凡例

伽婢子
 惣目録
 序
 巻之一
  竜宮の上棟
  黄金百両
 巻之二
  十津川の仙境
  真紅撃帯
  狐の妖怪
 巻之三
  妻の夢を夫面に見る
  鬼谷に落ちて鬼となる
  牡丹灯籠
  梅花屏風
 巻之四
  地獄を見て蘇
  夢のちぎり
  一睡卅年の夢
  入棺之尸甦怪
  幽霊逢夫話
 巻之五
  和銅銭
  幽霊評諸将
  焼亡有定限
  原隼人佐鬼胎
 巻之六
  伊勢兵庫仙境に到る
  長生の道士
  遊女宮木野
  蛛の鏡
  白骨の妖怪
  死難先兆
 巻之七
  絵馬之妬
  廉直頭人死司官職
  飛加藤
  中有魂形化契
  死亦契
  菅谷九右衛門
  雪白明神
 巻之八
  長鬚国
  邪神を責殺
  歌を媒として契る
  幽霊出て僧にまみゆ
  屏風の絵の人形躍歌
 巻之九
  狐偽て人に契る
  下界の仙境
  金閣寺の幽霊に契る
  人面瘡
  人鬼
 巻之十
  守宮の妖
  妬婦水神となる
  祈て幽霊に契る
  窃の術
  鎌鼬 付 提馬風
  了仙貧窮 付 天狗道
 巻之十一
  隠里
  土佐の国狗神 付 金蚕
  易生契
  七歩蛇の妖
  魂蛻吟
  魚膾の怪
 巻之十二
  早梅花妖精
  幽霊書を父母につかはす
  厚狭応報
  邪婬の罪立身せず
  盲女を憐て報を得
  大石相戦
 巻之十三
  天狗塔中に棲
  幽鬼嬰児に乳す
  蛇癭の中より出
  伝尸攘去
  髄転力量
  蝨瘤
  山中の鬼魅
  馬人語をなす怪異
  怪を話ば怪至

付録
 剪燈新話句解 (影印)

解説
 『伽婢子』の意義 (花田富二夫)
 脚注おぼえがき (渡辺守邦)



伽婢子 02



◆本書より◆


「十津川(とづがは)の仙境(せんきやう)」より:

「長次問(とひ)けるやう、「此所はありともしらぬ村里なり。いかに住そめ給ひしやらん」といふ。あるじ眉をひそめて、「これはうき世の難(なん)をのがれし人のかくれて住ところなり。若(もし)しゐてそのかみの事をかたらば、いたづらにうれへをもよほすなかだちならん」といふ。」


「牡丹灯籠(ぼたんのとうろう)」より:

「年毎(としごと)の七月十五日より廿四日までは、聖霊(しやうりやう)のたなをかざり、家家これをまつる。又いろいろの灯籠(とうろう)をつくりて、あるひはまつりの棚(たな)にともし、あるひは町家(まちや)の軒にともし、又聖霊(しやうれう)の塚(つか)にをくりて石塔(せきとう)のまへにともす。その灯籠(とうろう)のかざり物、あるひは花鳥あるいは草木、さまざましほらしくつくりなして、その中にともしびともして夜もすがらかけをく。これを見る人、道もさりあへず。又そのあひだにをどり子どものあつまり、声よき音頭(をんどう)に頌歌(せうが)出させ、ふりよくをどる事、都の町町上下みなかくのごとし。
 天文戊申(つちのへさる)の歳(とし)、五条京極に荻原(おぎはら)新之丞といふものあり。近きころ妻にをくれて、愛執(あいしう)の涙袖にあまり、恋慕(れんぼ)のほのほむねをこがし、ひとりさびしき窓(まど)のもとに、ありし世の事共思ひつゞくるに、いとゞかなしさかぎりなし。「聖霊(しやうりやう)まつりのいとなみも、今年はとりわき此妻さへ、なき名の数に入ける事よ」と、経よみ、ゑかうしてつゐに出てもあそばず。友だちのさそひ来れども、心たゞうきたゝず、門(かど)にたゝずみ立てうかれおるより外はなし。
  いかなれば立もはなれずおもかげの身にそひながらかなしかるらむ
とうちながめ、涙をゝしぬぐふ。」



「伊勢兵庫(いせひやうご)仙境(せんきやう)に到(いた)る」より:

「その家のあり様、金をちりばめ、玉をかざり、家財(かざい)・雑具(ざうぐ)にいたるまでみな此世の物とも思はれず。床(とこ)のうへに方(はう)二尺あまりの石あり。松風石(せうふうせき)と名づく。内外透通(すきとを)りて玉のごとく、色は青(あを)く黄(き)なり。七宝(ほう)の盆(ぼん)にのせて、又七宝のいさごを敷たり。その石、谷峰の道分(わか)れ、滝の白玉とびちるかとあやしまれ、たゞ水音の落たぎらぬにぞ、石の紋(もん)とはおぼえけれ。まことに絶世(ぜつせい)の盆山(ぼんさん)也。石の腰(こし)より一本(ほん)の松生(をい)出て、高さ一尺七八寸もありなむ。年ふりたるかたち、さこそ千とせの春秋をいくかへり知(しり)ぬらんと、むかしの事もとはまほしきに、枝の間より涼しき風ふき出て座中にみち、枝かたふき、葉うごき、さつさつたるよそほひ、九夏(きうか)三伏(ぷく)の気もをのづからさめぬべし。玳瑁(たいまい)の帳台(ちやうだい)には、馬脳(めなう)の唐櫃(からひつ)あり。大さ三尺ばかり、その色茜(あかね)のごとくにして、鳥・けだ物・草木の図いろいろに彫(えり)つけたるは、更に人間(にんげん)の所為(わざ)にあらず。又かたはらにひとつの瓶(かめ)あり。大さ一石(こく)あまりを入べし。其色紫(むらさき)にして光(ひかり)かゝやき、内外透(すき)とをりて水精(すいしやう)のごとく、厚(あつさ)は一寸ばかり、軽(かろ)き事鴻(とり)の毛(け)をあぐるに似たり。内には名酒(めいしゆ)をたゝへて上清珍歓醴(しやうせいちんくはんれい)といふ簡(ふだ)を付たり。その傍(そば)に大さ二斗(とう)をうくべきつぼあり。その色白く、ひかりかゝやけり。内に名香(めいかう)をいれて竜火降真香(れうくはかうしんかう)といふ簡(ふだ)あり。又百宝(ほう)の屑(すりくづ)を擣篩(つきふるひ)て壁(かべ)にぬり、瑤(たま)の柱(はしら)こがねのとばり、銀の檻(をばしま)高く見あぐる楼(ろう)あり。降真台(かうしんだい)といふ額(がく)をかけたり。庭のおもてには目なれもせぬ草木の花咲みだれて、二三月の比のごとし。孔雀(くじやく)・鸚鵡(あふむ)のたぐひ、其外色音(ね)おもしろく名もしらぬ鳥おほく、木〃の梢(こずゑ)、草花の間に鳴さえづる。十五間(けん)の厩(むまや)に立ならべたる馬共、或は毛(け)の色碧(みどり)なる、或は紺青色(こんじやうじき)なる、その中に又連銭(れんぜん)なる、白き黒きさまざまの名馬(めいば)、(中略)みな竜馬(りうめ)のたぐひなり。(中略)碧瑠璃(へきるり)の色をあざむく棗(なつめ)、秦珊瑚(しんさんご)のひかりをうつす栗(くり)、みなその大さ梨(なし)のごとくなる、枝の間(ひま)なく生(なり)こだれたり。垣(かき)の外(そと)を見れば、金闕(きんけつ)・銀台(ぎんだい)・玉楼(ぎよくろう)・紫閣(しかく)、鳳(ほう)の甍(いらか)、虹(にじ)の梁(うつばり)雲をゝかして立ならべり。音楽(をんがく)空にひゞき、異香(いきやう)砌(みぎり)に薫(くん)ず。山際(ぎは)に行てみれば、峰よりおつる滝(たき)つぼにたゝえたる水みどりにて、ながれて出る川瀬のかたはらに池あり。二町四方もありなむ。その水はなはだつよくして、金銀といへ共しづまず、石をなぐれども猶水のうへに浮(うき)あがる。此故にくろがねをもつて舟をつくり、国人これにのりてこゝろをなぐさむ。水底のいさごはみな金の色なり。井出の山ぶき水にうつり、をのづから金(こがね)花咲(はなさく)よそをひ、今ぞおもひあはせらる。水中に魚(うを)あり。そのいろあかくしてこがねのごとく、みなをのをの四の足(あし)あり。そのあたりはひろき野辺(のべ)なり。金色の茎(くき)に紺青色(こんじやうじき)の葉ある草おほし。葉のかたちは菊(きく)に似て牡丹(ぼたん)のごとくなる花あり。花の色黄(き)にして内赤し。白き糸のごとくなる蘂(しべ)ありて糸房(いとふさ)のごとし。風すこしふけば、その花うごきめぐりて、蝶(てふ)のとぶに似たり。国中の女はこれをとりて首(かしら)のかざりとす。十日を経(ふ)れども萎(しぼ)まずといふ。」


「死難(なんにしする)先兆(せんてう)」:

「亨徳(かうとく)年中に、細川右京大夫勝元が家人磯谷(いそのや)甚七といふもの昼寝(ひるね)をいたしけり。その妻面(おもて)に出たれば、誰ともしれざる人右の手に太刀を引そばめ、左の手に磯谷が首をひつさげてはしり出て去(さり)けり。妻大(おほき)におどろきおそれて、うちに入てみれば、磯谷は前後もしらず臥(ふし)てあり。妻はむねつぶれ手足なえて、たゞ夢のごとくにおぼえたり。かくておどろかしければ、磯谷ねふりをさましおきあがり、「我夢に、ある人それがしのくびうちきりてもち去(さる)とみたり。あやしくも心にかゝる也」とて、やがて山臥(ぶし)をやとひ夢(ゆめ)ちがへの法をおこなはしむ。
 その月のすゑに主君(しゆくん)勝元(かつもと)が将軍家に御いきどをりをかうふる事ありて、これを陳(ちん)じ申さんがために科(とが)を家人(けにん)におほせて、是非(ぜひ)なく磯谷がくびをきらせ、これをもつて我身の科(とが)をのがれたり。



「土佐(とさ)の国狗神(いぬかみ)付金蚕(きんさん)」:

「土佐国畑(はた)といふ所には、その土民(どみん)数代(すだい)つたはりて、狗神といふものを持たり。狗神もちたる人もし他所に行て他人の小袖・財宝・道具すべて何にても狗神の主それを欲(ほし)く思ひ望む心あれば、狗神すなはち、その財宝・道具の主につきて、たゝりをなし、大熱(ねつ)懊悩(おうなう)せしめ胸腹をいたむ事錐(きり)にて刺(さす)がごとく、刀にてきるに似たり。此病をうけては、かの狗神の主を尋ねもとめて、何にても、そのほしがるものをあたふれば、やまひいゆる也。さもなければ久しく病(やみ)ふせりて、つゐには死(し)すとかや。中比(なかごろ)の国守(くにのかみ)此事を聞て畑(はた)一郷(がう)のめぐりに垣(かき)結(ゆい)まはし、男女一人も残さず焼ごみにして、ころしたまふ。それより狗神絶(たえ)たりしが、又この里の一族(ぞく)のこりて狗神これにつたはりて、今もこれありといふ。その狗神もちたる主、死する時は、家をつぐべきものにうつるを傍(そば)にある人は見ると也。大(おほき)さ米粒(こめつぶ)ほどの狗也。白黒あか斑(まだら)の色色あり。死(し)する人の身をはなれて、家をつぐ人のふところに飛入(とびいる)といへり。狗神もちたる人もみづから物うきことに思へども力なき持病(ぢびやう)なり。異国(いこく)にも閩広(みんくわう)といふ所には蠱(まじ)もの咀(のろひ)おとづる事おほく取あつかふといへり。国人(くにうど)に金蚕(きんさん)といふ持病(ぢびやう)もちたる人これを他人にをくりうつす事あり。黄金(わうごん)と錦(にしき)と釵(かんざし)のたぐひ、其外さまざま重宝(てうほう)のものを道の左(ひだり)にすてをく。是をひろひて家にかへれば金蚕(きんさん)の病うつりわたるといへり。その形は蚕(かいこ)にして色は黄金のごとし。人にとりつきぬれば、初は二三ばかり漸〃(ぜんぜん)におほくなり、家の内にふさがり、身をせむる。うちころしてもさらにつきず。ひろひたる黄金・錦など、ことごとく尽(つき)はてゝ後に病少(すこし)づゝ愈(いゆ)といへり。」


「怪(くわい)を話(かたれ)ば怪(くわい)至(いたる)」:

「むかしより人のいひつたへしおそろしき事、あやしき事をあつめて百話(ものがたり)すれば、かならずおそろしき事あやしき事ありといへり。百物語には法式(ほうしき)あり。月くらき夜、行灯(あんどう)に火を点(てん)じ、その行灯は青き紙にてはりたて百筋(すぢ)の灯心(とうしん)を点(てん)じ、ひとつの物語に灯心一筋づゝ引とりぬれば、座中漸〃暗(くら)くなり、青き紙の色うつろひて、何となく物すごくなり行也。それに話(かたり)つゞくれば、かならずあやしき事おそろしき事あらはるゝとかや。
 下京辺の人五人あつまり、「いざや百話(ものがたり)せん」とて、法のごとく火をともし、めんめんみなあをき小袖着(き)てなみゐてかたるに、六七十におよぶ。其時分は臘(らう)月のはじめつかた、風はげしく雪ふり、さむき事、日ごろにかはり、髪(かみ)のねしむるやうに、ぞゝとしておぼえたり。窓(まど)の外(そと)に、火のひかりちらちらとして蛍(ほたる)のおほくとぶがごとく、いく千万ともなく、つゐに座中にとび入て、まろくあつまりて、鏡(かゞみ)のごとく鞠(まり)のごとく、又わかれてくだけちり、変(へん)じて白くなりかたまりたるかたち、わたり五尺ばかりにて天井(じやう)につきて、たゝみの上にどうどをちたる。その音いかづちのごとくにしてきえうせたり。五人ながらうつふして死(し)に入けるを、家の内のともがらさまざまたすけおこしければ、よみがへりて別(べち)の事もなかりしと也。ことわざにいはく、「白日(はくじつ)に人を談(だん)ずることなかれ。人を談ずれば、害(がい)を生(しやう)ず。昏夜(こんや)に鬼(をに)を話(かた)ることなかれ。鬼を話れば怪(くわい)いたる」とは此事なるべしと。此物語百条(でう)に満(みて)ずして、筆(ふで)をこゝにとゞむ。」





こちらもご参照ください:

高田衛 編・校注 『江戸怪談集 (中)』 (岩波文庫)






























































































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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

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将来の夢: 石ころ。

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