ジェローラモ・カルダーノ 『カルダーノ自伝 』 清瀬卓・澤井繁男 訳 (平凡社ライブラリー)

「すでに述べたと思うが、ひそかに語りかけたり、人の行為を左右する守護霊(中略)によって確かに助けられた人々がいる。たとえば、ソクラテス、プロティノス、シュネシオス、ディオン、フラウィウス・ヨセフス、そしてこのわたしなどの場合がそれに当たる。」
(ジェローラモ・カルダーノ 『カルダーノ自伝』 より)


ジェローラモ・カルダーノ 
『カルダーノ自伝
― ルネサンス万能人の生涯』 
清瀬卓・澤井繁男 訳

平凡社ライブラリー 93

平凡社 
1995年4月15日 初版第1刷
370p
B6変型判 並装 カバー
定価1,400円(本体1,359円)
装幀: 中垣信夫
カバー図版: ヨハネス・デ・サクロボスコ『天球論』写本画、15世紀
カバー・マーブル制作: 製本工房リーブル


「本著作は一九八〇年十一月、海鳴社より刊行されたものです。」



カルダーノ自伝


カバー文:

「性狷介にして行状あくまで奔放、その往くところ論争、喧嘩また騒動。
しかし、亡児を想い、持病を気にし、守護霊にすがる日々もある……
八宗兼学のルネサンス人が波瀾の人生を克明に綴った自伝文学の傑作。改訳決定版。」



カバーそで文:

「■著者
Gerolamo Cardano
ジェローラモ・カルダーノ(1501―76)
イタリアの医師、数学者、自然学者。
パヴィアに生まれ、ローマに歿。当代一流の医師として全欧に名を馳せるとともに、
占星術師、賭博師としても盛名を誇った。
三次方程式一般解法の発見者の一人。
確率論の先駆者でもある。
本書に見える不羈奔放な生き方、論争好きの性格は、
その百科的知識のありようと相俟ち、
ルネサンス人特有の人間類型を示して
余すところがない。
主著は『大技法(アルス・マグナ)』、
『微細なものごとについて』、
『もろもろの事物について』など。」



目次:

序文
1 故国と祖先
2 出生
3 両親に共通な持ち味
4 今日(一五七五年一〇月末)にいたる生活のあらまし
5 体つきについて
6 健康について
7 肉体の鍛錬について
8 食生活について
9 功名心
10 生活の信条
11 思慮分別について
12 討議と教授への愛着
13 性癖・悪徳・過ち
14 善行とねばり強さ
15 友人と庇護者
16 敵と競争相手
17 誹謗中傷・名誉毀損・奸策
18 わたしの愉しみ
19 賭事
20 着こなしについて
21 散策と瞑想
22 宗教と信仰心
23 生活の規範
24 住居
25 貧困と遺産
26 結婚と息子たち
27 息子たちの不幸な運命
28 たび重なる訴訟
29 旅行
30 危険・事故・奸策
31 幸福について
32 勲功
33 不名誉とそれが夢のなかで占める位置。わたしの紋章「燕」について
34 恩師について
35 教え子と弟子
36 遺言
37 天賦の才と夢見る才
38 五つの天性による救い
39 博識と想像力
40 治療の成功例
41 奇異な出来事と息子への濡衣
42 医学とほかの分野に見る予見能力
43 超自然的な事柄について
44 学問研究と功績
45 著書――その執筆年代および動機と評判
46 自己について
47 わたしの守護霊
48 有名人による評価
49 世事寸評
50 座右の銘と息子に寄せる挽歌
51 わたしの短所
52 年齢を重ねることについて
53 話術
54 終章

訳者あとがき
平凡社ライブラリー版 訳者あとがき
解説――数学者カルダーノ (三浦伸夫)




◆本書より◆


「出生」より:

「母は薬を使って中絶しようとしたのだが、結局うまくいかず、一五〇〇年九月二四日わたしはこの世に生を得た。夜の一二時半はとうに過ぎていたが、四五分にはまだなっていなかった。その時点の主な天象図の位置は、『プトレマイオス・テトラビブロス第四巻註解』第八「出生」で述べたわたしの説明と同じものであった。わたしの考えによると、太陽と月とは傾きながらそれぞれの角の下へ没しかかっていて、どちらにも上昇の見込みはなかった。なぜなら両方とも第六と第一二の家に、そしておそらく第八の家にも入っていたからである。
 このような位置では下降しても角の家には入らないので、傾いたまま没していくように思われた。それゆえ星相は凶だとは言えないのだが、太陽と月の位置が逆さまで、月の位置と火星の位置とがうまく釣合っていたため、火星が月よりも太陽にとって凶の位置関係にあった。つまりわたしには奇形児に生まれてくる可能性があったわけで、先行する惑星の合の位置が水星を支配する処女宮二九度にあり、また処女宮や月の位置、上昇の位置も同じではなく、さらに処女宮の最後から二番目の星とも関係がなかったので、わたしは当然そうなるはずであった。」
「こうしてわたしは生まれた。というより母のおなかから仮死状態で引っぱり出されたのだ。」
「さて本題に戻るが、太陽と二つの凶星、金星と水星とが人間の印のところにあったため、わたしはかろうじて人間の形を留めることができた。しかし木星が地平線を上昇し、金星がある星宮を支配していたので、生殖器だけが傷ついた。そのため二一歳から三一歳まで婦女子と交わることができず、しばしば自分の運命を嘆き、他の人の幸運をうらやんだ。」
「金星と水星が太陽光線の下にあって、太陽に渾身の力を与えていたので、(プトレマイオスが言ったように)わたしがそれほど哀れで不幸な星の下に生まれたにしても、金星と水星の悪い影響はまぬがれえたかもしれない。しかしそれは太陽がきわめて低い位置にあって、その高さから第六の家に落ちなかった場合に限られた。したがってずる賢こさだけが残り、寛大な心などこれっぽっちもなく、分別も一定せず、考えもまちまちだった。一言で言うならば、体力もなく、友人も少なく、財産にも乏しいが、敵にはたくさんめぐまれた。しかしその敵の名前も顔つきもわたしはほとんど知らない。人間にとっていちばん大切な叡知もなく、記憶力にもこと欠いたが、このほうが神のご加護を受けられたようだ。その結果、なぜだかわからないが、一族や祖先の軽蔑を受けているとおぼしきわたしの社会的地位が、敵にとっては名誉であり、羨望の的となっているのである。」



「性癖・悪徳・過ち」より:

「若い頃めったに、いやほとんどまったく、顔や髪型には気をかけなかった。もっと重要なことに専心したいという気持ちが強かったからである。
 歩幅はふぞろいである。早いときもあれば遅いときもある。家では脛は出したままだった。信仰心はあまり篤くない。とくに怒り狂うと自制心がなくなり、あることないことをのべつ幕なしにしゃべりたてるので、恥ずかしくなり、そんな自分にうんざりもする。」
「わたしの悪徳のなかで、重要で独自な欠点は聞き手の耳に不快感を与えることばかりを喋る癖である。この悪徳のせいで敵になった人の数を考慮に入れないにしても、わたしはこれをわざとやったのだ。だからこれは長いあいだの習慣と結びついた生まれついての気質と言えまいか!」
「歩むべき道を知っているかぎり、実生活においてわたしはそれほど不節制な男ではない。しかしこの種の欠点をわたしほど頑固に押し通している人間はなかなか見つけにくいであろう。」



「散策と瞑想」より:

「ひとたび思索に耽りだすとわたしはいつまでも思いに沈んだままだ。しかし考えていることは同じではないし、思索の深さも一様ではない。思索の度合が強いためか、食事も摂らなくなったり、気晴らしもしなくなった。さらに苦痛や眠気をも感じなくなったりした。」


「生活の規範」より:

「生活の拠りどころとなる規則を守るほど有意義なことはない。」

「わたしはできるかぎり、記憶よりも書かれたものに信頼を置いた。」



「勲功」より:

「国家を讃えねばならない理由などどこにもない。とりわけローマ人、カルタゴ人、スパルタ人、アテナイ人の主張した愛国主義を誇りとするには及ばない。彼等は愛国に名を借りて善良な民衆に邪悪な支配を行使し、貧乏人には浪費の政治を敷いたのである。国家とは、非好戦的で、臆病な、なべて害のない人々を抑圧する小さな専制君主の集まり以外の何ものでもないのだ。ああ、人間の意地汚いことよ!」


「天賦の才と夢見る才」より:

「異常とも言えるわたしの性質が示されたのは、黒く長い縮れ毛を生やして、ほとんど仮死状態で生まれたときに始まる。といっても別に驚くに値しないが、ともかく稀なことは確かだ。次いでそうした兆候が認められたのは、生後四年目のことで、その後三年ばかり続いた。まず前置きしておくと、父が命じたのでわたしは第三の刻まで寝台に横になっていた。目が覚めてから、起き上がるいつもの時刻を待っているあいだ、ある愉快な光景を満喫していたので、待ちぼうけをくわされたといって、一度も不満に思ったことなどない。わたしはそれまで別に鎖帷子を見たわけではないが、おそらくごく小さな環か鎖帷子の環でつくられているのではないかと思われるような、さまざまの像(かたち)、あるいは気体状のものを見ていた。それらの像は、寝台の足もと右手隅から半円形に顔をもたげ、ゆっくりと左手に退って消え去るのだ。わたしは、城塞、家屋、動物、馬、騎士、草、植物、楽器、劇場、いろいろな顔つきの人物、種々の型の衣装、喇叭を吹き鳴らしている喇叭手などを見たのだが、声や物音はまったく聞こえなかった。兵士、庶民、麦畑、未知の物体、それに森や林、そのほかのものも見たが、もうよく覚えていない。ときどきたくさんの物体が一団となって、同時にたち現われることがあったが、その一つ一つは、互いに混同されることもなく、ただ先を争っているだけであった。透き通った物体でありながら、見かけは固体のようでもあり、一見して不透明と思われるほど凝縮されてもいなかった。不透明なのはすでに述べた環のほうで、隙間はまったく透けていた。わたしはその驚くべき幻を見て悦に入り、かなり愉しんでいたものとみえ、あるときなど叔母がいったい何を見ているのと尋ねたほどだ。」
「たとえこのきれいな幻は、全体が気体なので色を欠いていたとはいえ、さまざまな花、獣、全種類の鳥類が加わると、それは愉快なものになった。若い頃も年老いてからも嘘をつく癖がないわたしは、依然返事もせずじっとしていると、叔母は、
 「さてさて、何をそんなにじっと見つめているのかね、おまえは」
とさらに一言付け加えたものだ。
 いまとなっては、どんなふうに答えたのかよく覚えていないが、おそらく一言も返事をしなかったのではないかと思う。」





こちらもご参照ください:

『チェッリーニ自伝 ― フィレンツェ彫金師一代記 (上)』 古賀弘人 訳 (岩波文庫)















































































関連記事
スポンサーサイト
プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本