『ダンテ 新生』 山川丙三郎 訳 (岩波文庫)

« Lasso!, avviene elli a persona? »
『あゝ、人にもかゝる例(ためし)ありや』

(ダンテ 『新生』 より)


『ダンテ 
新生』 
山川丙三郎 訳 

岩波文庫 赤/32-701-4 

岩波書店
1948年2月20日 第1刷発行
1989年3月17日 第15刷発行
202p 別丁口絵(モノクロ)1葉
文庫判 並装 
定価400円



本書「解題」より:

「「新生」の著者ダンテは千二百六十五年イタリアのフィレンツェに生れた。」
「「新生」は作者が十八歳の時からその後八九年までの間に作つた詩すべて三十一篇を骨子とし、これにその由來を述べた散文と各詩の區分とを加へ、出來事の順序を逐うて編成したものである。」



正字・正かな。


ダンテ 新生 01


帯文:

「美少女ベアトリーチェの想い出つきない若き日の恋愛詩31篇を中心にした青春の文学記録。愛にめざめたダンテの若き生命がみなぎる。」


内容:

解題

新生
 一~四二


おくがき



ダンテ 新生 02



◆本書より◆


「私の心の中の榮光の淑女が始めてわが目に現れたのは、私が生れてこの方、光の天が、その固有(もちまへ)の廻轉から言つて、はや九度(こゝのたび)殆ど同一の點に歸つた時の事である。彼女(かぬな)はその呼び方を知らぬ多くの人々にもベアトリーチェと呼ばれていた。
 彼女が世に出でてよりこの時にいたるまでの間に、衆星の天は東方に向つて一度の十二分の一動いてゐた。それゆゑ彼女は九歳の始めの頃私にあらはれ、私は九歳の終りの頃彼女を見たのである。」

「多くの日數(ひかず)立ち、このいと貴い婦人が前記のごとく現れてから丁度九年が終るといふその最後の日の事、この妙(たへ)なる婦人は、純白の衣を着、二人(ふたり)の年長(としかさ)な貴婦人のなかで私に現れた。そしてとある道を通りながら、私のおづおづ立つてゐるところへ目をむけ、そのえもいはれぬ優(やさ)しさ(中略)から私に會釋をした、福祉のあらん限りをその時見極めたと私の思つたほどしとやかに。
 私が彼女(かぬな)のいとなつかしい會釋を受けた時刻は、たしかにその日の第九時であつた。そして彼女の言葉が私の耳に聞えるために出たのはこれが始めてであつたので、私はうれしさのあまり、醉心地になつて人々を離れ、私の室(へや)の一(ひとつ)のさみしいところに身を寄せてこのいと優しい婦人のことを考へはじめた。」

「かうして私は深い深い惑ひに陷つて目を閉ぢ、そして狂人のごとく正氣を失ひつゝ次の樣な幻を見はじめた。即ち私の想像の迷ひの始めに、亂髪(みだれがみ)した女の顔がいくつか私に現れて『御身もまた死ぬるであらう』と言つた。やがてこの女達の次に、異樣な、見るも恐ろしい顔がいくつか現れて『おん身は死んでゐる』といつた。
 さてかやうに私の想像が迷ひはじめて、はては自分で自分のゐる處さへわからぬまでにいたつた。そして私は女達が髪振りみだし、不思議なほど悲しんで泣きながら道を行くのを見た。また太陽が暗くなり、そのため星が、泣いてゐると私に思はせるやうな色をしてあらはれるのを見た。また空飛ぶ鳥は死んで落ち、地は幾度もいとはげしく震ひ動いた。そして私がかかる想像のうちに且はあやしみ且はいたく懼れてゐると、幻に一人(ひとり)の友人が來て、私に『さては知り給はぬか、世に稀な君の愛人ははやこの世を去つたのに』と言つた。その時私はいといたましく泣きはじめた。想像で泣いただけでなく、目でも泣いたから、それは實際涙に濡れてゐた。
 私はまた幻に天を望み、群(むれ)なす天使達が、一抹の純白な雲を前にしてかなたに歸り行くのを見た。この天使達は神々しく歌つた。そしてその歌の詞は『いと高き處にてホサナ』と聞え、ほかには何もきこえなかつた。この時、いと深い愛を宿してゐた私の心は言つた、『われらの淑女の死んだのは實(まこと)である』と。それゆゑ私はあのいとけだかい福(さいはひ)な魂の宿であつたその遺骸(なきがら)を見に行つた。そして迷へる想像が強かつたので、私は死んだこの婦人を見た。女達は彼女を――その頭(かうべ)を白布で蔽うた。またその顏には柔和な相がゆたかにあつて、彼女は恰も『私は平和の源を見てゐる』といふやうであつた。」





Dante and Beatrice (painting)





































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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