『菅江真澄随筆集』 内田武志 編 (東洋文庫)

『菅江真澄随筆集』 
内田武志 編 

東洋文庫 143

平凡社
昭和44年7月10日 初版第1刷発行
昭和52年2月20日 初版第2刷発行
268p 凡例・目次3p
新書判 角背クロス装上製本 機械函
定価1,000円
装幀: 原弘



本書「凡例」より:

「本書は菅江真澄の随筆原文の抄録である。」


二段組。本文正字・正かな、「凡例」「解説」「あとがき」は新字・新かな。
図版(モノクロ)多数。


菅江真澄随筆集


目次:

凡例

水の面影
筆のまにまに
しののはぐさ
久保田の落穗
かたゐ袋
ひろめの具
發掘の家居
新古祝甕品類之圖

解説 (内田武志)
あとがき (同)




◆本書より◆


「筆のまにまに」より:

「母禮火
 八龍湖(コトノウミ)《近江の琵琶湖にならひて琴の湖といふ。水の姿もやや琴のさませり。又あふみの鮒を源五郎、秋田鮒を八郎といふ》に、七月十五日、十六日のころ、筑紫八代のしらぬ火の如に湖上にあり。更てはいよよ多し。浦人母利毘(モリビ)とも母禮毘(モレビ)ともいふ。亡靈火(モレビ)てふことをしかいへり。又雨の夜、湖(カタ)の邊(ホトリ)を行ヶば簑に燐火(ヒ)附くことあり。そのとき簑をうちふるへば、いよよ火の多くなりぬ。土を蹴(ケ)ても火となることあり。是をみのむしとも見なれぬ人はいといと恐れうち叫び、ねふちなど唱へ走(ハセ)て村に入れば火もけち行といへり。燐火(オニヒ)は生火(ツネノヒ)をあはすれば消るとものしなむ。越後の彌彦山の邊リに、このみのむしいと多しといへり。『倭訓栞』「のび云々、燐火をいふも義同し。北海のたこ火、湖水のしる火、東寺繩手の宗元火、伊勢阿濃の五體火など是也。惡路王の火といふも同じ。蒼鷺(アヲサキ)、朱鷺(トキ)などの羽の光も火の如く見ゆめり。こは樹上にあり」云々と見えたり。河内の姨が火、越中のふみり火、三河の魂魄野などみなおなし。おのれ、八郎湖(カタ)より火の飛揚り、また水にくだりて、いくたびとなくして水上に消えたるを見し。又松前の馬坂の北谷へ、くゑまりの大なる火の落たるを見たり。世に狐火といふものもいとあやし。近くし見れば耳の見ゆる事あり。出羽ノ雄勝郡松岡(マツヲカ)の狐火は五月四日の夜、松岡ノ白山社の齋宮に在り、更ていと多し。同國秋田ノ郡北比内大館に近き辛澤の狐火は九月廿九日の夜也。此夜、辛澤の稻荷の御位つき夜也といへり。いつこにもいつこにもありけるもの也。『江戸砂子温故名物誌』云、王子ノ稻荷社ハ金輪寺の二三町わき、金輪寺村にあり、當社は關八州の稻荷の統領なりと云ひ傳ふ。毎年十二月晦日の夜、八ヶ國の狐、此處に集まり狐火をともす、此火にしたかひて田畑のよしあしを所の民ともうらなふことありといふ。「狐火にわうじ田畑のよしあしをしらんと、ここにこんりんじかなとしことに刻限おなしからず、一時ほどのうちなり、宵にあり、あかつきにありなどして遠方より拜みに行くもの、むなしくて歸るもの多し、一夜とどまるこころなればたしかに拜ス」と見へたり。此狐火を秋田にて、きつね明松といふところあり。」

「遊巨斯理(オコシリ)の鼠
 澳志梨(おこしり)は松前の西、江指(エサシ)ノ浦の南洋(オキ)に在る大嶋也。志里は嶋てふ蝦夷語(コトバ)なり。游古(おこ)も夷言にや。また沖(オキ)を訛り云へるにや。此 澳〓(漢字: 山+奥)(オコシリ)に鼠のいと多く蛇もいと多し。蛇のいといと多かるとしは鼠をひしひしと捕り盡しぬれど、また鼠の多かるとしは蛇また鼠に喰はれぬ。そは蛇一ッに鼠七八とりすがれば、あまた群れ來て喰ひぬといふ。まして穴籠りのとき蛇みな鼠の餌(エ)となれりといへり。天明・寛政のころならむか。蝦夷洲(エゾノコタム)に鼠の大に群れて小童(ヘカチ)なンどは鼠に噛れ死(ライスルモノ)多かりしといへり。捕鼠(エリモコエキ)とて是を狩れどもつきず、なほいやまさりて、寢ればあし手耳はななンどを噛(カメ)ば、通夜い(ヨモスガラ)もやすからざりしが、冬の初めごろひとつとなくいづこにかうせしといふ。また海の色だちて鰯(いわし)にや、なににまれ大漁ならむと、ここらの舟をのり出て南部の浦々、松前のうらうら網引(アビキ)したるにみな鼠なりけり。網をぬへば某百萬(イクバク)ならむか、濱に引上ゲて山なす鼠の海に入り、山にも入りてなごりなう逃げうせたり。あやしき事也。海鼠(ウミネヅミ)なンど云ふものにやとかたり傳ふ。ある人ノ云、鼠は海に入りて海參(ナマコ)と化(な)る也。そはまだ作(なら)ざりし鼠也。海鼠と書キてなまことよむも、よしある事ならむといへり。『古今著聞集』魚蟲禽獸の件(クダリ)に、「安貞《後堀川院の御代なり》の頃、伊與(いよ)ノ國矢野保(ヤノホ)のうちに黑嶋と云ふしまあり。人里(ひとざと)より一里はなれたる所也。かしこにかつらはざまの大工といふあみ人あり。魚をひかむとてうかがひありきけるに、魚有る處よりひかりて見ゆるに、かの島のほとりの磯ことに夥(おびただ)しくひかりければ、悦(よろこび)て網をおろし引たりけるにつやつやとなくて、そこばくの鼠を引あげて侍りけり。その鼠引上られてみなちりちりに逃うせけり。大工あきれてありける。ふしぎの事也。すべてかの島には鼠みちみちて、畠のものなどおもみなくひうしなひて當時までもえつくり傳らぬとかや。くがにこそあらめ海そこまで鼠の侍らん事まことにふしぎにこそ侍れ」と見えたり。いにしへも鼠の網曳(アビキ)ありし事也。又澳嶋(オコジリ)の鼠は畑こそあらね、此島に大蕗(オホフキ)の多かれば、此蕗の根を掘りてはみ、こと草をもむれはみ、また海底の小鮑(トコブシ)、また大鰒もかつぎ上ゲてくひぬといへり。伊豫國の黑嶋におなじものがたり也。」


















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趣味: 図書館ごっこ。

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尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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