『ダンテ 神曲』 平川祐弘 訳 (カラー版 世界文学全集 第2巻)

「人生の道の半ばで
 正道を踏みはずした私が
 目をさました時は暗い森の中にいた。」

(ダンテ 『神曲』 平川祐弘 訳 より)


『ダンテ 神曲』 
平川祐弘 訳 

カラー版 世界文学全集 第2巻

河出書房新社 
昭和43年12月15日 初版印刷
昭和43年12月20日 初版発行
410p 
口絵(カラー)1葉
図版(カラー)12葉
菊判 丸背クロス装上製本 貼函
定価750円
装幀: 亀倉雄策

しおり (4p):
世界文学紀行(34)――フィレンツェ(小谷年司)/編集室から/配本案内 他



本文二段組。別丁図版13点、「解説」中図版21点(うちカラー12点)。
平川訳『神曲』は河出文庫から改訳(2008―9年)が出ています。


ダンテ 神曲 平川訳 01


目次:

神曲
 地獄篇
 煉獄篇
 天国篇

詩篇
 創造讃歌 (サン・フランチェスコ)
 十字軍兵士の妻の歌 (リナルド・アクイーノ)
 「君は鐙をしかと取り、」 (よみ人しらず 十四世紀)
 「梢から」 (アルナウト・ダニエル)
 「美しい女よ、愛こそがわたしの望み、わたしの希望なのだ、」 (ピエール・デルラ・ヴィーニャ)
 「破れたり、フィレンツェの偉大なる都市国家(コムーネ)は!」 (グイットーネ・ダレッツォ)
 「きれいな鳥が 籠から逃げた、」 (よみ人しらず 十三世紀)
 「ぼくは本当にすばらしい彼女を讃えようと思う、」 (グイド・グイニツェルリ)
 歌 (グイド・カヴァルカンティ)
 「グイド、君とラーポと僕とが」 (ダンテ)
 「なんと優しくなんと素直なのだろう、」 (ダンテ)
 俺が火ならば (チェッコ・アンジョリエーレ)
 ダンテよ (チェッコ・アンジョリエーレ)
 正月/二月/五月/六月/八月 (フォルゴーレ・ダ・サンジミニャーノ)
 五月 (チェーネ・デルラ・キターラ)
 オデュセウス (アルフレッド・テニソン)

詳細目次
解説



ダンテ 神曲 平川訳 02



◆本書より◆


「地獄篇 第一歌」より:

「人生の道の半ばで
 正道を踏みはずした私が
 目をさました時は暗い森の中にいた。
その苛烈で荒涼とした峻厳(しゅんげん)な森が
 いかなるものであったか、口にするのも辛い、
 思いかえしただけでもぞっとする、
その苦しさにもう死なんばかりであった。」



「地獄篇 第二歌」より:

「日は暮れかかり、夕靄がこめて
 地上の人や動物は労働から解き放たれたが
 ただ私だけがひとり
旅路の困苦(こんく)と哀憐(あいれん)の苦悩にたいして
 戦いの備えをかためていた、
 その旅のさまを記憶は誤りなく伝えてくれるだろう。」



「地獄篇 第三歌」より:

「「憂(うれい)の国に行かんとするものはわれを潜れ。
 「永劫の呵責(かしゃく)に遭わんとするものはわれをくぐれ。
 「破滅の人に伍せんとするものはわれをくぐれ。
「正義は高き主を動かし、
 「神威は、最上智(さいじょうち)は、
 「原初(はじめ)の愛は、われを作る。
「わが前に創られし物なし、
 「ただ無窮あり、われは無窮に続くものなり、
 「われを過ぎんとするものは一切(いっさい)の望を捨てよ」」



「地獄篇 第六歌」より:

「呪われた、冷やかな、重たい、永劫の雨が降る
 第三の圏谷(たに)へ私は来たのだが、
 その雨の量(かさ)も掟もけっして更新されることはないという。
大粒の雹や、濁った水や、雪が、
 暗黒の大気の中を沛然(はいぜん)と降りしきる、
 そしてそれを受ける大地は悪臭を放つ。」



「地獄篇 第七歌」より:

「私たちは圏を横切って内側の崖に達した、
 その下には池があって水は煮えたぎり、溢れて
 池から別れた堀に注ぎこんでいた。
水は青紫よりもなお暗く濁っている、
 私たちは、暗くよどんだこの流れに沿い
 人跡(じんせき)まれな道をつたって下へくだった。
このもの悲しい川は、流れ落ちて
 薄黒い陰欝な崖の下で
 ステュクスという名の沼となっていた。」



「地獄篇 第八歌」より:

「そうこうするうちに私たちは深い谷の中へはいった、
 谷はこの慰めのない市(まち)を繞(めぐ)り、
 その城壁は一見鉄から成るかと思われた。
かなり漕ぎ進んだあげくに、私たちはとある岸辺に着いた、
 そこで船頭がぶっきら棒にどなった、
 「降りろ、ここが市(まち)の入口だ」

天から雨のように落とされた者〔悪魔〕が千人余も
 門の上に見えた、彼らは口々に怒声を発した、
 「誰だ、死にもしないくせに
死者の王国を横行闊歩(おうこうかっぽ)する奴は?」
 すると聡明な先生は合図して
 内々(ないない)に彼らと話をつけようとした。
すると悪魔たちは侮蔑の色を多少和らげていった、
 「来るならおまえだけ来い、あいつは行くがいい、
 よくも図太くこの国へはいりこんだものだ。
狂気の沙汰だ、来た道を一人で勝手に引き返すがいい。
 帰れるなら帰ってみろ。いいか、この暗い国へ
 あいつを案内したおまえはここに残るんだぞ」

読者よ、思ってもみてくれ、この呪われた言葉を聞いて
 私が意気沮喪しなかったかどうかを。
 私は地上へ生還の望みはもはやないと思った。」



「地獄篇 第十三歌」より:

「いたるところから痛ましい嘆きの声が聞えてきたが、
 声の主は誰ひとり見えなかった、
 私はひどくとまどって立ち止まった。
そうした声は枝の茂みに隠れた者が
 発していると私が思ったと
 先生が思ったと私はいま思っている。
それで先生が私にいった、「おまえ
 この木の枝をどれか一本折ってみろ、
 おまえの考えがどれも足らぬことがわかるだろう」

そこで私は手を差し伸べて
 棘のある大樹(たいじゅ)の一(ひと)枝を折った、
 するとその幹が喚いた、「なぜ私を折る?」
そしてどす黒い血に塗(まみ)れて
 また叫んだ、「なぜ私をひきちぎる?
 おまえには一片の憐愍(れんびん)の情(じょう)もないのか?
いまは木と変わったが私たちはもとは人間だ、
 かりに私たちが蛇の亡霊であろうとも、
 そう手荒な真似はするべきではあるまい」」



「地獄篇 第十五歌」より:

「その時亡者の一群に出会った、
 彼らは岸沿いにやって来る。亡者が一人一人
 私たちを眺める、ちょうど新月の夕暮に
たがいに顔をつきあわせたような格好で、
 私たちの方を眸(ひとみ)をこらしてじっと見る様子は
 年老いた仕立屋が針の目に糸を通す時のようだった。

こうしてこの一団は私をじろじろと見まわしたが、
 その一人が私に見覚えがあるとみえ、
 私の裾(すそ)をつかんで叫んだ、「これは驚いた!」

その男が私に腕を差しのべた時、
 私は火に焦げたその顔をじっと見つめた、
 面相(めんそう)は灼けていたが、よく見れば
必ず思い出せるはずだ、
 私は腰をかがめ、顔と顔を見あわせて驚いて答えた、
 「ブルネット先生、ここにおいででしたか?」」



「地獄篇 第十六歌」より:

「一見嘘のような真実についてはいつも
 できるだけ口を閉ざしている方が得だ、
 いえば落度(おちど)はなくとも嘘つき扱いをされるからだ。
だがこればかりは黙っているわけにいかない、だから、
 読者よ、この神曲(コンメーディア)の詩行に誓っていうが、
 ――どうかこの詩が末長く世に愛読されんことを――
私は見たのだ、あの重苦しい暗い大気をよぎって
 とあるものが泳ぎつつ上の方に向かって来るのを。
 それは気丈な人でも驚くような異形(いぎょう)だった、」



「地獄篇 第二十六歌」より:

「日が長くなって
 日没の時刻がだんだんとのびる時節、
 夕暮、蠅にかわって蚊が出てくるころ、
丘に戻って一服する農夫は
 谷底にたくさんの螢を見かける、
 ちょうど昼間葡萄を摘んだり耕したりしていたあたりだ。
第八の濠には、その底が見えだす近くまで来てみると、
 その螢の群もさながらにいたるところに点々と
 谷底に火が輝いているのが見えた。」

 「炎はその中に隠したものを外に見せてはいなかったが、
 その一つ一つには一人ずつ罪人が包まれていた。」



「煉獄篇 第四歌」より:

「そこへ辿りつくと、岩の裏の影の中に
 人が幾人か坐っていたが、
 格好がいかにもだらしがない。
その一人は、もの憂げな様子で、
 坐りこんで膝を抱きかかえ、
 膝と膝との間に頭を垂れてうつむいていた。

「ああ先生」と私がいった、「見てごらんなさい
 まるで怠惰(なまけ)と兄妹とでもいえそうな
 自堕落(じだらく)な格好をしています」
すると男は首だけを膝頭(ひざがしら)の上で動かして
 私たちの方を振り向いてちょっと見ると
 いった、「威勢のいいお方は、さあ、上へ行け!」
それを聞いて彼が誰であるのか私にはわかった。
 まだ息切れでかなりあえいではいたが、
 それでもすぐその男のところへ行った。
私がたどり着くと、彼はちょっと頭をもたげていった、
 「おまえさんは本当に太陽がどうして
 左手をまわるのかわかったのか?」

その物ぐさな動作やぼつりと言った言葉に
 私の唇(くち)は思わずほほえんだ。
 私はいった、「ベラックワ、もう君のことを
僕は心配しない。だがなぜここに
 坐りこんでいるのだ? 連れを待っているのか?
 それとも例の怠け癖がまた出たのか?」

すると彼がいった、「おまえ、上へ行って何になる?
 門の上に神様のお使いががんばっている、
 俺を通してくれるものか。罪滅ぼしはまだだめだ。」



「天国篇 第十七歌」より:

「おまえは最愛のものをことごとく捨て去らねば
 ならないだろうが、これが追放の放(はな)つ
 第一の矢だ。
他人のパンがいかに辛(から)く
 他人の家の階段の上(のぼ)り下りがいかに辛(つら)い道であるかを
 身にしみておまえは悟るだろう。」



ダンテ 神曲 平川訳 03


ダンテ 神曲 平川訳 04


ダンテ 神曲 平川訳 05




こちらもご参照ください:

『ダンテ 神曲』 寿岳文章 訳 (集英社版 世界文学全集 2)











































































































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