ミルトン 『失楽園 (上)』 平井正穂 訳 (岩波文庫)

「一切を粉砕するような轟然たる
騒音が、彼の耳をうっていた。」

(ミルトン 『失楽園』 より)


ミルトン 
『失楽園 (上)』 
平井正穂 訳 

岩波文庫 赤/32-206-2

岩波書店 
1981年1月16日 第1刷発酵
1985年1月21日 第7刷発行
443p
文庫判 並装 カバー
定価550円



John Milton: Paradise Lost, 1667


ミルトン 失楽園 上


カバー文:

「「一敗地に塗れたからといって、それがどうしたというのだ? すべてが失われたわけではない」 かつては神にめでられた大天使、今は反逆のとが故に暗黒の淵におとされたサタンは、麾下の堕天使の軍勢にむかってこう叱咤激励する。神への復讐はいかにして果さるべきか――。イギリス文学の最高峰に位する大長篇叙事詩の格調高く読みやすい現代語訳。」


目次:

第一巻
第二巻
第三巻
第四巻
第五巻
第六巻

訳注




◆本書より◆


「第一巻」より:

「彼は
凄じい勢いで炎々(えんえん)と燃えさかる焰(ほのお)に包まれて、奈落の底へ、
底知れぬ地獄へと、墜落していったのだ。そこには、強力無比な
鎖に縛られ業火(ごうか)に包まれて、呻吟(しんぎん)する運命(さだめ)が彼を待ちうけて
いた。この世の人々の計測によれば、まさに九日九夜、
凄惨無慙(せいさんむざん)な仲間とともに、不死の身とはいえ完全に
打ち拉(ひし)がれて、燃えたつ深淵のさなかに敗残の身を横たえ、
のたうちまわっていた。」
「失われた
幸福と果てしなく続く苦痛、この二つのものへの思いが、
今、切々と彼の心を苛(さいな)んでいるのだ……。彼は悲痛な眼差(まなざ)しを
周辺にそそぐ。が、その眼差しには、烈しい懊悩と失意の色が、
頑(かたくな)な傲慢と執拗な憎悪とに混じり合って漂っている。天使特有の
鋭い視力が達しうる限り見んものと、眼を凝(こ)らして遙か彼方(かなた)を
見てみれば、忽ち眼前に浮かび上がるのは、荒涼として
身の毛もよだつ光景、戦慄すべき一大牢獄、四方八方焰に
包まれた巨大な焦熱の鉱炉。だがその焰は光を放ってはいない。
ただ眼に見える暗黒があるのみなのだ。そして、その暗黒に
照らし出されて、悲痛な光景が、悲しみの世界が、鬼哭啾々(きこくしゅうしゅう)たる
影の世界が、展開している……。そこには、平和もなければ
安息もなく、すべての者に訪れるはずの希望も訪れないのだ。
それどころか、果てしなき責苦(せめく)と、絶えず燃えつづけ、
しかも燃え尽きることのない硫黄にかきたてられた劫火(ごうか)の
洪水が、間断なく荒れ狂っている。」

「汝、無間地獄(むげんじごく)よ、
今こそ、汝の新しき主(あるじ)を迎えよ! この主(あるじ)は、場所と時間の如何に
よって変るような心の持主ではない。心というものは、それ自身
一つの独自の世界なのだ、――地獄を天国に変え、天国を地獄に
変えうるものなのだ。だから、もしわたしが昔のままのわたし
であり、本来あるべきわたしであり、彼に比べてもほとんど
遜色(そんしょく)のないわたしである限り、どこにいようと構うことはない。」

「この大いなる空間には、
なお幾多の新しい世界が生ずる可能性がある。」



「第二巻」より:

「一切を粉砕するような轟然たる
騒音が、彼の耳をうっていた。」



「第四巻」より:

「恐怖と疑惑が千々(ちぢ)に乱れた思いを翻弄し、彼の
内なる地獄を底の底から揺り動かした。彼は自分の内部に、
自分の身の周辺に、常に地獄を持っており、たとえ
場所が変っても自分自身から抜け出せないのと同じく、
地獄からは一歩も抜け出せないからだ。」

「ああ、わたしのこの惨(みじめ)さは何とした
ことか! どこへ逃げたらこの無限の怒り、この無限の絶望から
脱することができるのか? どこへ逃げようが、そこに地獄がある!
いや、わたし自身が地獄だ!」

「もはや一切の希望は失われてしまった。そして、今、見捨てられ
追放されたわれわれの代わりに、彼の嘉(よみ)する新しく創造(つくら)れた
人間が、そしてその人間のために創造(つくら)れた世界が、あそこに
見える! さらば、希望よ! 希望とともに恐怖よ、さらばだ!
さらば、悔恨よ! すべての善はわたしには失われてしまった。
悪よ、お前がわたしの善となるのだ!」





こちらもご参照ください:

ミルトン 『失楽園 (下)』 平井正穂 訳 (岩波文庫)
Robert Burton 『The Anatomy of Melancholy』 (Everyman's University Library)
クリバンスキー/パノフスキー/ザクスル 『土星とメランコリー』 田中英道 監訳









































































































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