イタロ・カルヴィーノ 『宿命の交わる城』 河島英昭 訳

「そうです。あたしなのです、これが。そしてこの茂った《杖》は、あたしが父に育てられた森です。文明の世界からはもう何も期待できないと考えて、父はこの森のなかで《隠者》となり、あたしを人間社会の邪悪な影響から遠ざけようとしたのです。猪や狼たちと戯れながら、あたしは《力》を養いました。あたしが学んだことは、たとえ森が絶えまなく植物や動物を呑みこみ引き裂いても、そこにはひとつの掟が支配しているという尊厳な事実でした。つまり、いかなる力もおのれを知って踏みとどまらなければ、野牛であれ、人間であれ、禿鷹であれ、周囲を砂漠と化し、死骸ばかりを散乱させ、結局は蟻や蠅の跳梁する世界に転落させてしまうでしょう……」
 この掟を昔の狩人たちは大切に守った。だが、いまや誰ひとり顧みようともしない。」

(イタロ・カルヴィーノ 「復讐する森の物語」 より)


イタロ・カルヴィーノ 
『宿命の交わる城』 
河島英昭 訳


講談社
1980年6月28日 第1刷発行
1991年11月28日 第3刷発行
218p 口絵(カラー)1葉
四六判 丸背紙装上製本 カバー
定価2,000円(本体1,942円)
装幀: 高柳裕



本文中タロット図版(モノクロ)多数。


カルヴィーノ 宿命の交わる城 01


帯文:

「文学の魔術師
 カルヴィーノが放つ新作
  ――タロットの札に
   秘められた宿命とは……」



帯背:

「タロットが語る
文学の原点へ!」



帯裏:

「世界最古のタロットカードの中に
様ざまな人間の宿命を追求しつつ
古今東西の物語文学の原点を解読する
カルヴィーノ文学の頂点。」



カルヴィーノ 宿命の交わる城 02


目次:

宿命の交わる城
 城
 罰せられた薄情者の物語
 魂を売った錬金術師の物語
 地獄に堕ちた花嫁の物語
 墓泥棒の物語
 恋に狂ったオルランドの物語
 月に昇ったアストルフォの物語
 残されたすべての物語

宿命の交わる酒場
 酒場
 優柔不断な男の物語
 復讐する森の物語
 生き延びた戦士の物語
 吸血鬼の王国の物語
 求めては失われる二つの物語
 私自身の物語を求めて
 狂気と破壊の三つの物語

日本の読者のために (I・カルヴィーノ)
訳者解説
タロットのカード



カルヴィーノ 宿命の交わる城 03



◆本書より◆


「城」より:

「深い森のなかに、ひとつの城があって、夜の闇に追いつかれてしまった旅人ならば、騎士であれ、貴婦人であれ、王の一行や通りすがりの者であれ、誰にでも、憩いの場を与えていた。」

「そのとき、片づけ終ったばかりの食卓に、城主とおぼしき人物が、ひと束のカードを投げ出した。それはふつう賭けごとやジプシー女が占いに使っているものよりも大型のタロットの束だった。カードにはほぼ同種類の人物像が最も高価な極彩色の細密画で描かれていた。王、女王、騎士、兵士、どのカードの人物も、若若しく、王侯貴族が着飾ったように、美しい衣裳をまとっていた。また、二十二枚の《大アルカーノ(切札)》は、宮廷劇の綴れ織りかと見まがうばかりだった。さらにまた聖杯、貨幣、剣、杖の数札は、渦巻模様の図柄に飾られ、紋章を彫りこんだように輝いていた。
 私たちは卓上にカードを撒き散らしていった。それらをひらいて並べたのは、一枚一枚の札をみながまちがいなく覚え、ゲームのなかでそれぞれに正当な価値を与えつつ、宿命の解読のなかで真の意味を汲み取ろうとしたからであろう。けれども、誰ひとりとして、私たちのなかに勝負をはじめる者はいなかった。ましてや未来を占おうとする者はいなかった。なぜなら、私たちは一切の未来から締め出され、終ったわけでもなく、また終るべくもない旅のなかで、いわば宙吊りにされていたからである。」
「会食者のひとりが、卓上を掃き清めるようにして、撒き散らされたカードを自分のそばに引き寄せた。だが、彼はそれらを束ねようともせず、また混ぜあわせようともしなかった。ただ、その一枚を抜き取って、自分の正面に置いた。そのカードに描かれた人物と彼の顔立ちとの類似に、誰もが気づいた。私たちは納得した。そのカードで、これは“私だ”と、彼の言わんとしていることを。そしてまた、おのれの物語を述べようとしていることを。」



「日本の読者のために」より:

「本書はまずタロット・カードの絵模様で作られ、ついで文字に書き写された。カードの群れがつぎつぎに浮かびあがらせた絵物語、その意味を汲み取って、文字の世界へ再構成したものである。」
「本書は「宿命の交わる城」と「宿命の交わる酒場」の二部に分かれるが、前者は一九六九年にパルマのF・M・リッチ書房から『タロッキ――ベルガモとニューヨークに残されたヴィスコンティ家の札』 Tarocchi, Il mazzo visconteo di Bergamo e New York と題して刊行された。この豪華本は十五世紀半ばにボニファーチオ・ベンボがミラノのヴィスコンティ家のために作りあげた細密画のタロットを原寸大に原色で復元したものである。」
「「宿命の交わる城」の場合には、それぞれの物語を構成するタロットが縦横(たてよこ)の二方向に二重に配列され、他の物語を構成する三組のタロットの物語と(縦横の二方向に二重に)交叉してゆく。こうして並べ終った全体図を見れば、横に三つの物語と縦に三つの物語が読み取れるであろう。しかも、これらのカードの列は、それぞれが逆方向に別の物語としても読み取れるのだ。それゆえ、この図のなかには、全部で十二の物語が埋めこまれたことになる。
 この全体図の、いわば中心軸にあたる插話は、ルドヴィーコ・アリオストの『オルランド狂乱』からヒントをえた。」
「本書の第二部「宿命の交わる酒場」も第一部とほぼ同様の構成をとっているが、使用したタロット・カードは現在でもフランスでごく一般的に市販されている。すなわち、グリモー社製《マルセイユ版古タロット》を用いた。」

「振り返ってみれば、この数年間はタロットの物語にすっかり取りつかれてしまっていた。初めのころ、私はただ脈絡もなくカードを並べてゆき、そこに何らかの物語を読み取ろうとした。(中略)私はすぐにタロット・カードがつぎつぎに物語を生み出す機械であることを知った。こうして、一冊の本を書きあげるべく、構想を練っていった。暗い森、一軒の宿屋、そして沈黙の語り手たち。タロットのなかに封じこめられている物語をひとつ残らず呼び醒ましたいという無謀な考えに、私はたちまちにのめりこんでいった。」





こちらもご参照ください:

アリオスト 『狂えるオルランド』 脇功 訳
エドワード・ゴーリーのタロット 「The Fantod Pack」

















































































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