『坂口安吾全集 2』 (ちくま文庫)

「真面目な人は私なんか相手にしてはくれないでしょう。私も真面目な人達とつきあいたいと思わないわ。ひけめを感じて小さくなっているだけでも窮屈でやりきれないもの。時々お酒がのみたいと思うことがあるわ」
(坂口安吾 「吹雪物語」 より)


『坂口安吾全集 2』 
狼園/母を殺した少年/吹雪物語 ほか
ちくま文庫 さ 4-2

筑摩書房
1990年1月30日 第1刷発行
622p 「編集付記」2p
文庫判 並装 カバー
定価1,030円(本体1,000円)
装幀: 安野光雅
カバーデザイン: 横尾忠則



本書「解題」より:

「第二巻には、坂口安吾がはじめて試みた書き下ろし長編小説『吹雪物語』を中心に、昭和十一年(一九三六)一月から昭和十六年(一九四一)十二月にかけて発表した小説五篇と新体社版『吹雪物語』に付された「再版に際して」一篇を収録した。」


新字・新かな。


坂口安吾全集02 01


目次:

狼園
母を殺した少年
吹雪物語――夢と知性
 付 『吹雪物語』再版に際して
古都
孤独閑談

解説 小説からの逃走 (種村季弘)
解題 (関井光男)



坂口安吾全集02 02



◆本書より◆


「吹雪物語」より:

「「湯の浜へ着いた晩のことですが、真夜中になって、喜楽が一風呂浴びてくるといって立ち上ったのです。あの人は痩せていますが丈の高い人ですから、宿の浴衣(ゆかた)が短かすぎて滑稽な形なのですね。タオルをぶらさげて廊下をとんとん消えてゆく跫音(あしおと)がしていたのです。客のすくない季節のところへ、雪の降る深夜ですから、あたりの物音は死んでいるのです。すると喜楽が蒼い顔でたちまち戻ってきたのですが、跫音を殺すような歩き方をしてきたくせに、息を切らしているのです。(中略)どうしたのですかと訊ねてみますと、湯槽(ゆぶね)の底に死んだ男がねていると言うのです。気味がわるいので早速戻りかけると、廊下を曲って消えて行った風のような白いものを見てしまったと言うのですね。それからは廊下がずるずる無限に延びる感じで歩いても歩いても自分の部屋へ辿(たど)りつけない思いであったと言います。勿論みんな神経だろうとは思うが、このまま放っとくと魘(うな)されて眠れないから、一緒に浴室へ行ってみてくれと言うのです。勿論湯槽の底に死人が沈んでいることはなかったのです。物音の死にきった深夜で、ガランとした浴室では、神経の太い人でも変な気持になるでしょうから、まして疲れた喜楽のことで、その晩は気にもとめていなかったのです。すると翌る朝になって、新聞を読んでいると、喜楽の様子が変なんですね。今読んだ裏面の方を読むつもりでしょうね。新聞紙を折り返しているのですが、折目が気になるものとみえて、元の通りにもどすのです。それから又念を入れて折りなおそうとするのですね。どういうところが気になるのか見ている僕に分らないのですが、再三再四くりかえしても満足できないばかりか、益々気にさわる一方と見え、とうとう指で紙を押えてみたり、折目の間へ指を入れて上から入念に押しつぶすようにしてみたり、急に荒々しく元へもどして折目をごしごしこすったり、見ているうちに呼吸がだんだん荒くなってくるのです。それで漸(ようや)く前日のことに気がついたのですが、そういえば、湯の浜へくる汽車の中で新聞を読んだときも、やっぱり折目の折り方を気にして、これほどではなかったのですが、何度もやりなおしていたことを思いだしたのです。その日の夕方になって、夕刊を読む時になっても、折目の折り方を気にすることは、やっぱり同じことなのです。折目の間へ指を入れて、目で精密に測りながら、上から少しずつ押しつぶしてくる様子が、まるで生きている新聞紙と血みどろの格闘している様子なのです。普通でないことが分るのですね。新聞以外のことではそれほどのこともないので、暫くぶらぶらしているうちに自然に落付くのだろうと、わりと楽観はしていたのですが、新聞を読むときばかりは、見ている僕がやせるほどやりきれなくなるのです。それで、宿の者に頼んで、喜楽の読む新聞紙ははじめから鋏(はさみ)で二つにちょん切っておいてもらったのです。この計画が図に当って楽に新聞が読めるようになったのですが、まもなく東京へ帰った喜楽から手紙がきて、新聞紙を二つにちょん切る手段を教えてもらったので、神経衰弱が快癒しかけている、だから旅にはでるものだと書いてあったのです。不思議な強迫観念ですが、短い浴衣をきたあの人が新聞紙と格闘している様子は滑稽なものでしたけど、やりきれない感じのものでもあったのです」」

「「ねえお爺さん。私と一緒に遠いところへ旅行しない。明るい青空の輝いている街があるわ。海の色も青くてそして静かだわ。もう新潟になくなった古めかしい洋館がたくさんあるの。倒れかかった洋館のあいだに、どこへ連れて行かれるのだか分からないような曲りくねった露路があるわ。二階の窓から晴れた海が見えるのよ。行ってみましょう。南の方はもう春がちかいわ」」

































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

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難破した人々の為に。

分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

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