ジョルジュ・バタイユ 『ドキュマン』 江澤健一郎 訳 (河出文庫)

「彼は、自分がまさに切断したばかりの耳を、善良な社会にもっとも嫌悪を催させる場所に届けさせに行ったのだ。彼がこうして、何事も斟酌しない愛を示すと同時に、(中略)高尚な公認の観念を抱くあらゆる人々の顔に、いわば唾を吐きかけたことは見事である。」
(ジョルジュ・バタイユ 「供犠的身体毀損とフィンセント・ファン・ゴッホの切断された耳」 より)


ジョルジュ・バタイユ 
『ドキュマン』 
江澤健一郎 訳
 
河出文庫 ハ 4-3 

河出書房新社
2014年11月10日 初版印刷
2014年11月20日 初版発行
328p
文庫判 並装 カバー
定価1,200円(税別)
ロゴ・表紙デザイン: 粟津潔
カバーフォーマット: 佐々木暁
カバーデザイン: 戸田ツトム



本書「凡例」より:

「本書は、ジョルジュ・バタイユが雑誌『ドキュマン』(一九二九―一九三一)に発表した文章の翻訳である。バタイユの氏名ならびにイニシャルが記された文章をすべて訳出した。また、雑誌に掲載されなかった未発表の関連原稿を「補遺」に収めた。」


本文中図版(モノクロ)多数。


バタイユ ドキュマン 01


帯文:

「新しいバタイユが
渦巻き炸裂する
初期バタイユが主宰した雑誌『ドキュマン』収録の文章を集成、四十年ぶりの新訳。」



カバー裏文:

「初期バタイユが主宰した横断的雑誌『ドキュマン』。そこに彼が執筆した文章を集成し、四十年ぶりに気鋭が新訳。その後のバタイユの萌芽をしめすとともに、亀裂と不定形の思想家という新たなバタイユ像を開示する。多形な異物が渦巻く溶鉱炉から未生の思想が炸裂し生成する――世紀を超えた名著が復活。」


目次:

『ドキュマン』第一年度(一九二九年度)
 アカデミックな馬
 サン=スヴェールの黙示録
 建築
 花言葉
 唯物論
 人間の形象
 ブラック・バーズ
 眼
 八十日間世界一周
 駱駝
 不幸
 埃
 巡礼地ハリウッド
 足の親指
 屠場
 工場の煙突
 変身
 《陰惨な遊戯》
 不定形の

『ドキュマン』第二年度(一九三〇年度)
 低次唯物論とグノーシス
 空間
 自然の逸脱
 腐った太陽
 ピエ・ニックレ
 審美家
 口
 美術館
 エマニュエル・ベルル 「フロイト的順応主義」
 カーリー
 ルリスタンの発掘品
 パスカル・ピア『アンドレ・マッソン』
 プリミティヴ・アート
 ジョアン・ミロ――最近の絵画
 『Xは現場をしるす』
 供犠的身体毀損とフィンセント・ファン・ゴッホの切断された耳
 現代精神と置換の戯れ

補遺『ドキュマン』未掲載原稿
 サドとともに吠えるダリ
 サル・プレイエルにおけるフロベニウス展覧会
 インドのギリシア風芸術作品
 フォリー=ベルジェールにおける狂気(フォリー)の工場
 中央アジアにおける遊牧民の芸術
 写真家の第二グループ
 オスカー・ココシュカ展

訳者解題――バタイユと『ドキュマン』という多様体
 


バタイユ ドキュマン 04



◆本書より◆


「眼」より:

「さらにそれは、クランポンの眼に似ているのだ。彼は死刑を宣告され、ギロチンの一撃の直前に教戒司祭に懺悔を促された。彼は教戒司祭を追い出したが、自分の眼球を摘出して、そうして引き抜かれた眼を、陽気な贈り物として彼に贈ったのだ。なぜなら、その眼はガラスでできていたからである。」


引用者注: クラムポン(Eugène Crampon)は1892年にパリで殺されたよ。なぜかというと強盗をして人を二人殺したからです。処刑には見物人がたくさん詰め掛けたということです。


「屠場」より:

「屠場は、太古の神殿(中略)が、嘆願と同時に殺戮に使用される二重の用途を備えていたという意味で、宗教に属している。神話的な神秘と、流血の現場に特徴的な悲痛な偉大さの衝撃的な暗合が、間違いなくそこから生じていた。(中略)しかしながら、今日において屠場は呪われていて、(中略)隔離されているのだ。ところがこの呪いの犠牲者は、肉屋や動物ではなく愚直な人々自身であり、(中略)彼らは(中略)できるだけ屠場から遠ざかって細々と暮らし、活気のない世界に矯正されて引きこもることになる。」


「工場の煙突」より:

「大部分の人が、工場の煙突を目にするときに、そこに人類が行う労働の徴をひたすら見出して、癌のようにその人類において密かに展開する悪夢が、そこに惨たらしくも投影されているのを決して見ないことを、もちろん私は知らないわけではない。確かに、自分自身が襲われる暴力的な状況の暴露として現れるものを、原則的にもはや誰も見つめていないことは明らかである。そのような子供じみた野蛮な観点は、学識ある観点に置き換えられ、その観点によって、工場の煙突を「高所で煙を排気する管を形成する石の建築物」、すなわち抽象と見なすことができるのである。さて、ここに掲載された辞書がもてる唯一の意味は、まさにその種の定義の間違いを示すことにあるのだ。」


「変身」より:

「世界にはかくも多くの動物が存在していて、それはわれわれが失ったすべてである。」
「変身への妄執を、次のような激しい欲求として定義できる。この欲求は、ある面ではわれわれの動物的な欲求のそれと混ざり合い、人間を駆り立てて、人間性が要請する身振りと態度を突然に放棄させるのだ。たとえばある男が、アパルトマンで他の人々のただ中で、身を投げて腹這いになり、犬の餌を食べに行くように。そのようにどの人間にも、徒刑囚のように牢獄に閉じ込められた動物が存在していて、ドアが存在している。だからドアが少しでも開けば、出口を見つけた徒刑囚のように動物が外へと飛び出してくるのである。」



「《陰惨な遊戯》」より:

「知性による壮大な構築物とは、結局のところ監獄なのだ。そしてそれ故に、それらの構築物は執拗に転覆されるのである。」


「自然の逸脱」より:

「「天空の窪みのもとで観察できるあらゆるものの中で、怪物、驚異、逆転され毀損され一部を切除された自然の産物をわれわれが見るときの嫌悪感ほど、人間の精神を覚醒させ、これほど感覚を恍惚とさせ、これほど怯えさせ、これほど大きな感嘆や恐怖を被造物に引き起こすものはなにも見られない」。
 ピエール・ボエスチュオのこの文章は、一五六一年、すなわち国が災禍にさいなまれた時期に出版された彼の作品『驚異の物語』の冒頭に記載されている。」



「腐った太陽」より:

「ミトラ教の太陽崇拝は、次のような非常に普及した宗教的実践までも行っていた。木の網代で覆われた一種の穴に人が裸で入り、その上で神官が雄牛の喉を切り裂く。すると、下の人は突然、雄牛がもがく音と鳴き声を聞きながら、生暖かい血の美しいシャワーを浴びるのだ。それは、眼をくらませる太陽の恩恵を、精神的に受け取る簡潔な方法である。」


「カーリー」より:

「カーリーは激しい恐怖、破壊、夜、混沌の女神である。彼女はコレラ、墓地、泥棒、売春婦たちの守護者である。そして人間の生首のネックレスで身を飾る姿で表され、その腰帯は、人間の前腕の房飾りでできている。彼女は夫シバの死体の上で踊り、死せる巨人への不敬行為に慄然としたため、その舌は口からすっかり外に出て、そこからは彼女がさきほど首を切った巨人の血が滴り落ちている。」


「プリミティヴ・アート」より:

「まずは、手元にあるものを変質させることが重要なのだ。幼児期の間は、一枚めの紙がやって来さえすれば、汚らしく塗りたくるものである。」


「供犠的身体毀損とフィンセント・ファン・ゴッホの切断された耳」より:

「「雇い主に誘惑されて妊娠した三四歳の女性が、子供を出産したが、その子は生後数日で死亡してしまった。この不幸な女性は、そのときから宗教的な興奮と幻覚を伴う被害妄想に襲われていた。彼女は精神病院に収容された。ある朝、彼女が右目を抜き取ろうとしているのを、守衛の女性が見つけた。左眼球はすでになくなり、空っぽの眼窩からは結膜と疎性結合組織の切れ端、そして脂肪塊が見えていた。右側には、非常に顕著な眼球突出が生じていた……。」」

「フィンセント・ファン・ゴッホ(中略)は、自分がまさに切断したばかりの耳を、善良な社会にもっとも嫌悪を催させる場所に届けさせに行ったのだ。彼がこうして、何事も斟酌しない愛を示すと同時に、(中略)高尚な公認の観念を抱くあらゆる人々の顔に、いわば唾を吐きかけたことは見事である。おそらく供犠の実践は、地上から消滅してしまう。なぜならそれは、この憎しみや嫌悪の要素を十分に担うことができないからであり、そのような要素なしには、この実践はわれわれの眼に隷属と映るからである。しかし、封入されて送られた化け物じみた耳は、解放の儀式が愚かにも頓挫していた魔法の環から突然飛び出してくるのだ。(中略)その耳は、アブデラのアナクサルコスが歯で噛み切って暴君ニコクレオンの顔に血まみれのまま吐きつけた舌とともに、そしてデミュロスの顔に吐きつけられたエレアのゼノンの舌とともに……そこから飛び出してくるのである。これらの哲学者は二人とも、身の毛もよだつ刑苦を受け、前者にいたっては生きたまま乳鉢ですり潰されたのであった。」



バタイユ ドキュマン 03




「ガリカ」(フランス国立図書館)より
「ドキュマン」復刻版

















































































































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プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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