ミッシェル・セール 『北西航路 〈ヘルメスⅤ〉』 青木研二 訳 (叢書・ウニベルシタス)

「今日ここでは、一様な力によって占有されている空間の中には、たぶんその力から逃れるために行なうべき冒険しかもはやないかもしれない。風を調べるために冒すべき危険しかもはやないのかもしれない。」
(ミッシェル・セール 『北西航路』 より)


ミッシェル・セール 
『北西航路 
〈ヘルメスⅤ〉』 
青木研二 訳
 
叢書・ウニベルシタス 328 

法政大学出版局
1991年5月15日 初版第1刷発行
iv 250p 人名索引4p
四六判 丸背布装上製本 カバー
定価2,575円(本体2,500円)



本書「訳者あとがき」より:

「本書は、ミッシェル・セール、『ヘルメスⅤ 北西航路』(HERMES V, Le Passage du nord-ouest, Paris, Les Editions de Minuit, 1980)の全訳であり、ヘルメス・シリーズの第五巻にあたる。」


どうも。のらねこです。趣味はゴミあさり、特技はパッサージュ探しです。


セール 北西航路


目次:

遠歩き(ランドネ)
 新たなゼノン
 北西航路

第一の航路
 注目に値することではあるが、そこから何ごとも起こらない
 正確で人間的
 固体、流体、炎
 空間と時間
 歴史――世界と場所、妨害

遠歩き
 散歩によって展覧会の絵の検討が行なわれる

第二の航路
 妨害――認識論
 科学史
 幾何学の起源 3
 幾何学の起源 4
 幾何学の起源 5

原注
訳注
訳者あとがき
人名索引




◆本書より◆


「北西航路」より:

「私は精密科学と人文科学の間の通路〔航路〕(パッサージュ)を探し求めている。言語、ないしは統制をとり除いたあとの、われわれと世界の間の通路を。
 その経路は、知の分類が予測させるほど単純なものではない。それは有名な北西航路と同じくらい厄介なものである、と私は思う。」
「北西航路は、カナダ北極圏の冷たい海域を経て、大西洋と太平洋を連絡している。パフィン島領域とバンクス島地域の間の湾や水道、海盆や海峡で途方もなく錯綜した迷宮にそって、北極地方のフラクタル的などこまでも広がる群島を横切って、この航路は開かれ、閉ざされ、曲がりくねっている。不確実な分布と強い恒常的な拘束、無秩序と法則。」



「固体、流体、炎」より:

「何百万年にもわたって、カメラがブルターニュの西海岸とそこの入り江や島々を撮影することができ、われわれは数分間でそのフィルムを映写することができると仮定しよう。われわれは炎を見るだろう。太陽の縁を見るだろう。そのコロナの突起は海岸の形をしている。イルワーズの入り江は、大西洋によって、あるいはわれわれのもつ時間のゆるやかさによって凍りついた、燃える火の外観を呈している。」
「われわれにとって、炎の縁は非常に急激な変わりやすさをもつので、炎がそこに存在するのかどうか決定を下すことができない。それは突然不在となったり、他のところへ移ったり、まさしくここに再び現われたりするが、それはもはや同一の炎ではない。(中略)それでもやはり同一である、と私は思う。ただし直前の時における炎の状態とはいかなる関係もない。」
「それは突然分裂するが、分裂の中にあって、しかも分裂するがゆえに同一なのである。逆説的な位相数学。連続していて連続していない。(中略)炎の縁(へり)は――とはいえ炎はそれ自身が縁ではないのか――色合いの曖昧に変化したもののように流動的ではなく、当てのないままゆらいでいるように見える。その縁は偶然性音楽にひきずられるかのようにして踊っていて、予測不可能である。(中略)炎は、境界もなく、まるで当てがないかのようにゆらぎ、のびやかであり、ゼロであり、巨大であり、周縁も余白ももたない。おのれ自身の平衡からいつもずれている。」
「もろもろの対象は、相異なる時間によって凍結させられた炎である。私の身体は、薪を燃やしつくす深紅のカーテンよりもいくぶんゆったりとした炎である。他の物はいっそうゆったりしている。石、他のさらに電撃的なもの、太陽。千の時間がそれらの縁をゆり動かしている。」



「散歩によって展覧会の絵の検討が行なわれる」より:

「われわれが住んでいる人為構造の世界、ほんの少し前から大量にとり入れられているこうした古典主義的合理性のマヨネーズとは、観念論の偶発的な勝利である。(中略)われわれはもはや合理化された対象や関係しかもっていない。加工され、研削され、製造され、橋をわたされ、型枠に流しこまれた対象や関係しかもっていない。応用された合理主義ないしは合理的な物質主義の整然とした世界、これは狂気や詩を、手真似でよその場所へ追いはらう。
 それらの主義が裁断の屑、削り屑、ごみ、廃物を捨てるのである。研削のあとの屑全部のために下水処理の場所や施設を見つけなければならない。合理的ならざるもののために地獄が必要なのだ。すでにプラトンは、髪の毛や泥や垢を欲していなかった。(中略)事物の分割は、破片や灰の粉塵をつくり出す。そして世界が合理的であればあるほど、ますますごみが産出されるのである。われわれは、ピューリタン的な地獄に入りこむ。仕事や定理でおおいつくされたまさしく神学的な空間。汚いものときちんとしたもの、偽と真、曖昧なものと明快なもの、あり得ないものと確実なもの、逆と同一、敵対するものと多数をしめるもの、悪と善、不純なものと純粋なもの、悪魔と善神の根本的な分割、これがすでに排除のすべてを産み出してしまったのだ。(中略)仕事の分割のあとに残った削り屑はいったいどこにあるのか。知や諸科学の分割の残骸はどこにあるのか。いつか、あなたがたは下水処理場で私をまた見出し、そこへやって来て私と一緒になることだろう。切削の工程によって、清掃の仕事によって失われた驚嘆すべきものを見出す可能性があるのもまたそこなのである。」
「切削物のごみ箱の中に、われわれは世界そのものを見出すだろう。」



「科学史」より:

「ウェゲナーの大陸移動の仮説に対する専門家たちの敵意を説明する場合に、一種の文化的無意識の中にあった大陸の構想の暗喩的重要性がいつも忘れられていた。すでに古典主義時代の初めに、分離された諸大陸との比較によって、科学が分割されたり分類されたりしていた。(中略)しかし、もしパンゲアのような大陸から始まる移動があるとすれば、もはや誰も心やすらかではない。定め得る時間の中で、分割されていない空間としてひとつの科学が存在するだろう。したがって、ウェゲナーの考えは、さらに、ある新しい認識論を表わしているが、科学の社会-歴史的な分割は、それを排除したり抑圧したりすることに心を砕いている。」




こちらもご参照ください:

ミッシェル・セール 『パラジット』 及川馥/米山親能 訳 (叢書・ウニベルシタス)




























































































































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