リルケ 『ドゥイノの悲歌』 手塚富雄 訳 (岩波文庫)

「愛する人たちよ、どこにも世界は存在すまい、内部に存在するほかは。」
(リルケ 『ドゥイノの悲歌』 より)


リルケ 
『ドゥイノの悲歌』 
手塚富雄 訳
 
岩波文庫 赤/32-432-3 

岩波書店
1957年12月20日 第1刷発行
1977年8月10日 第20刷発行
198p 口絵(別丁)1葉
文庫判 並装
定価200円(☆☆)



そういえばユングとリルケは同い年であります。


リルケ ドゥイノの悲歌 01


帯文:

「愛と死、幸福と苦悩、不安と孤独そして神の問題に絶えず対決しつつ詩を書き綴ったリルケ。この悲歌は彼の思想圧縮点を示している。」


目次:

第一の悲歌
 「第一の悲歌」註解
第二の悲歌
 「第二の悲歌」註解
第三の悲歌
 「第三の悲歌」註解
第四の悲歌
 「第四の悲歌」註解
第五の悲歌
 「第五の悲歌」註解
第六の悲歌
 「第六の悲歌」註解
第七の悲歌
 「第七の悲歌」註解
第八の悲歌
 「第八の悲歌」註解
第九の悲歌
 「第九の悲歌」註解
第十の悲歌
 「第十の悲歌」註解

解説
 リルケ小伝
 『ドゥイノの悲歌』の成立過程
 本訳書について



リルケ ドゥイノの悲歌 02



◆本書より◆


「第一の悲歌」より:

「ああ、いかにわたしが叫んだとて、いかなる天使が
はるかの高みからそれを聞こうぞ? よし天使の序列につらなるひとりが
不意にわたしを抱(だ)きしめることがあろうとも、わたしはその
より烈(はげ)しい存在に焼かれてほろびるであろう。なぜなら美は
怖(おそ)るべきものの始めにほかならぬのだから。われわれが、かろうじてそれに堪(た)え、
歎賞(たんしょう)の声をあげるのも、それは美がわれわれを微塵(みじん)にくだくことを
とるに足(た)らぬこととしているからだ。すべての天使はおそろしい。」

「――しかしあまりにも際立(きわだ)って区別することは
生けるものたちのつねにおかすあやまちだ。
天使たちは(言いつたえによれば)しばしば生者たちのあいだにあると
死者たちのあいだにあるとの区別を気づかぬという。永劫(えいごう)の流れは
生と死の両界をつらぬいて、あらゆる世代を拉(らっ)し、
それらすべてをその轟音(ごうおん)のうちに呑みこむのだ。」



「第二の悲歌」より:

「すべての天使は怖ろしい。けれど、ああ、わたしは、
おんみら天使よ、ほとんどわれらの命をも絶(た)つべきおんみら「魂の鳥たち」よ、
おんみらにむかって歌う、おんみらについて知るゆえに。天使と人とがしたしく交(まじ)わったあのトビアスの時代はどこへ去ったのか、
あのとき至高の輝きをもつおんみらのひとりが、その装(よそお)いはやや旅人めき、
畏(おそ)るべき威はやわらいで、質素な戸口にたたずんだのだ。
(好奇の眼でトビアスが見やったもの、それは青年に向きあう青年の姿であったのだ。)
けれどいま、もしもあの大天使、危険な存在が、星々のかなたから
ほんの一足われらにむかって歩みよるならば、たかくたかく
鼓動(こどう)して、われらの心はわれら自身を打ち滅ぼすであろう。天使よ、おんみらは何びとなのか?」



「第三の悲歌」より:

「……しかも奥深い内部では?
幼いものの内部に、幾世代をつらぬきやまぬ奔流(ほんりゅう)を何びとがふせぎとめることができたでしょう。
ああ、眠りつつあるかれの内部には、なんの見張りもなかった。眠りつつ、
しかも夢におそわれ――しかも熱にうなされる。怖しいものらとかかりあう。
新参の者としてためらいながら巻きこまれてゆく、
いよよ延(の)びはびこる心象(しんしょう)の蔓草(つるくさ)ともつれあいからみあって、
早くも奇異なさまざまの生の図柄(ずがら)が、呼吸(いき)もふさがるほどの繁茂が、野獣のような
疾駆(しっく)の形姿が、そこに現出する。いかにかれはそれに身をゆだねたことか。――愛したことか。
愛したのだかれは、おのが内部を、おのが内部の荒野を、
その鬱林(うつりん)を。そこには崩(くず)れ落ちた声なき岩塊が磊々(らいらい)としてよこたわり、
かれの心の若木は、その亀裂(ひび)からうす緑して頭をのぞかしてふるえているだけだった。愛したのだ、この風景を。しかもそこからかれはさらに進んだ、
おのれ自身の根にそい、さらにそれを突き抜けて
かれ自身の小さい生誕を遠く越えた強力な起原の場にはいる。愛しながら、
かれはこのより古い血のなかへ、峡谷(きょうこく)の底へ向った。
そこにはあの怖しい怪獣が、われわれの祖(おや)たちの血に飽(あ)きてよこたわっている、そして、そこに棲(す)む
ものすごいすべてのものは、すでにかれ、この若者を知っていて、目くばせした、かれの気持はとうによく知っているとでもいうように。
いや、怪獣は微笑をすら送ったのだ……母よ、
あなたでさえこれほど甘やかな微笑をみせたことはなかった。どうして
かれはその怪獣を愛せずにいられたでしょう、それがかれにむかってほほえみかけた以上は。あなたへの愛に先き立って
かれはそれを愛したのでした。なぜならあなたがかれを身ごもっていたときから、
その怪獣は、胎児(たいじ)のかれを泛(うか)べている液体にすでに溶(と)けこんでいたのですから。
みよ、われわれは野の花のように、たった一年(ひととせ)のいのちから
愛するのではない、われわれが愛するときわれわれの肢体(したい)には
記憶もとどかぬ太古からの樹液がみなぎりのぼるのだ。おお乙女よ、
このことなのだ、愛しあうわたしたちがたがいのうちに愛したのは、ただ一つのもの、やがて生まれ出ずべきただ一つの存在ではなくて、
沸騰(わきた)ちかえる無数のものであったのだ。それはたったひとりの子供ではなく、
崩(くず)れ落ちた山岳のようにわれらの内部の底いにひそむ
父たちなのだ、過去の母たちの
河床の跡なのだ――。雲におおわれた宿命、
または晴れた宿命の空のもとに
音もなくひろがっている全風景なのだ。」



「第六の悲歌」より:

「なぜなら、英雄こそは愛のあらゆる滞留地(たいりゅうち)を踏み破って突進した。
そこでの体験の一つ一つが、かれをいとおしむ心臓の鼓動(こどう)の一つ一つが、かれを高め、かれをかなたへ押しすすめた。
だがそのさなかにも、すでにかれはそれらのものと袂別(けつべつ)して微笑の終局(はて)に立ったのだ
 ――ひとり異(こと)なるものとして。」





















































































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