『リルケ詩集』 富士川英郎 訳 (新潮文庫)

「ふたたび森が薫(かお)る」
(リルケ 「或る四月から」 より)


『リルケ詩集』 
富士川英郎 訳

新潮文庫 リ-1-2

新潮社
昭和38年2月20日 発行
昭和42年9月10日 7刷改版
平成6年6月30日 53刷
216p 
文庫判 並装 カバー
定価360円(本体350円)
カバー: 前川直


Author: Rainer Maria Rilke



リルケ詩集 富士川英郎訳


カバー裏文:

「生の不安を繊細な神経のふるえをもって歌った二十世紀前半ドイツ最大の詩人リルケの詩から、特にリルケ的特徴の著しいものを選んだ。その独自の風格を現わしはじめた最初の詩集『時禱集』から、『形象集』『新詩集』を経て、実存の危機と深淵を踏みこえて変身してゆく人間の理想像を歌って現代抒情詩の金字塔といわれる『オルフォイスへのソネット』ならびに死の直前の詩までを収める。」


目次:

『時禱集』(一八九九―一九〇三)から
 「僧院生活の巻」(一八九九)から
  いま時間が身を傾けて
  もろもろの事物のうえに張られている
  お隣りにおいでの神様
  私がその中から生まれてきた闇よ
  その生活のかずかずの矛盾を宥和し
  私が親しくし 兄弟のようにしている
  どうなさいます 神様
  葡萄畠の番人が
 「巡礼の巻」(一九〇一)から
  永遠の人よ あなたは私に姿を現わされた
  私の眼を消してごらんなさい
  あなたを探し求める人々はみな
  あなたは未来です
  昼間 あなたはささやいて
  いま 赤い目木の実がもう熟れて
 「貧困と死の巻」(一九〇三)から
  私をあなたの曠野の番人にして下さい
  なぜなら 主よ 大都会は
  おお 主よ 各人に個有の死を与え給え
  大都会は真実ではない
  彼等は貧しい人々ではない
  なぜなら貧困は内部からの
  貧しい者の家は聖餐台のようだ

『形象集』(一九〇二―一九〇六)から
 或る四月から
 立像の歌
 花嫁
 幼年時代
 隣人
 アシャンティ
 嘆き
 孤独
 秋の日
 回想
 秋
 進歩
 予感
 厳粛な時
 噴水について
 読書する人

『新詩集』(一九〇七―八年)から
 早期のアポロ
 愛の歌
 献身
 橄欖園
 ピエタ
 詩人に与える女たちの歌
 詩人の死
 仏陀
 日時計の天使
 モルグ(屍体公示所)
 豹
 幼年時代
 或る女の運命
 タナグラ人形
 別離
 旗手
 クルティザーネ
 オランジュリーの階段
 ローマの噴水
 古代のアポロのトルソー
 レダ
 老婆たちのひとり
 盲人
 老女
 群像
 蛇使い
 海の歌
 肖像
 姉妹
 薔薇の内部
 日時計
 薔薇色のあじさい
 読書する人
 林檎園
 毬
 子供

一九〇六―一九〇九年の詩
 マドレーヌ・フォン・ブローグリー侯爵夫人に
 春風
 狂人と囚人のための祈り
 ヴォルフ・フォン・カルクロイト伯のための鎮魂歌
 歌曲
 噴水

一九一三―一九二〇年の詩
 スペイン三部曲
 天使に寄す
 ナルシス
 ナルシス
 予め失われている恋びとよ
 ベンヴェヌータに
 嘆き
 彼女(かのひと)たちを知ったからには死なねばならぬ
 ほとんどあらゆるものが
 心の頂きにさらされて
 もう一度 心の頂きにさらされて
 愛のはじまり
 死
 音楽に寄す
 ロッテ・ビーリッツのために
 いま窓のあたりに
 奇妙な言葉ではないか
 お前に幼な時があったことを

『オルフォイスへのソネット』(一九二三)から
 そこに一本の樹がのびた
 ひとりの神ならそれができる
 記念の石は建てないがいい
 影たちのなかでもまた
 ゆたかな林檎よ
 待て……この味わい
 だが 主よ おんみに何を捧げよう
 春がまた来た
 呼吸よ 眼に見えない詩よ
 花園を歌うがいい 私の心よ
 もう お聞き 最初の熊手が

一九二二―一九二六年の詩
 いつひとりの人間が
 涙の壺
 ニーケのために
 ヴァリスのスケッチ七篇
 果実
 エロス
 早春
 既に樹液は 暗く根のなかで
 春
 小川が土地を酔わせている
 あまりにも久しく抑えられていた幸福が
 少女たちがととのえる 縮れ毛の
 もっと寒い山々からの
 鳥たちが横ぎって飛ぶ空間は
 世界はあった 恋びとの顔のなかに
 重力
 「鏡像」三篇
 ああ 涙でいっぱいのひとよ
 来るがいい 最後の苦痛よ
 薔薇 おお 純粋な矛盾


あとがき (訳者)




◆本書より◆


「或る四月から」:

  「ふたたび森が薫(かお)る
 ただよいのぼる雲雀の群は
われわれの肩に重かった空を引きあげ
木の枝を透(す)かしてはまだ虚(うつ)ろな日が見られたのに――
 永い雨の午後ののち
  金色(こんじき)の日に照された
   新しい時がよみがえる
 それを恐れて逃げながら 遠い家々の前面で
   すべての傷ついた窓が
 小心にその扉(とびら)をはためかす

 それからあたりはひっそりとして 雨さえいっそうかすかに
静かに暮れてゆく岩の光に降りそそぎ
すべての物音は若枝の
かがやく蕾のなかへもぐりこむ」



「嘆き」:

「おお なんとすべては遠く
もうとっくに過ぎ去っていることだろう
私は思う 私がいまその輝きをうけとっている
星は何千年も前に消えてしまったのだと
私は思う 漕ぎ去っていった
ボートのなかで
なにか不安な言葉がささやかれるのを聞いたと
家の中で時計が
鳴った……
それはどの家だったろう?……
私は自分のこの心から
大きな空の下へ出ていきたい
私は祈りたい
すべての星のうちのひとつは
まだほんとうに存在するに違いない
私は思う たぶん私は知っているのだと
どの星が孤りで
生きつづけてきたかを――
どの星が白い都市(まち)のように
大空の光のはてに立っているかを……」



「海の歌」:

「大海(たいかい)の太古からの息吹き
夜の海風
 お前は誰に向って吹いてくるのでもない
このような夜ふけに目覚めている者は
どんなにしてもお前に
堪えていなければならないのだ

 大海の太古からの息吹き
それはただ古い巌(いわお)のために
吹いてくるかと思われる
はるか遠くからただひろがりだけを
吹きつけながら

 おお 崖のうえで 月光を浴(あ)びながら
ゆれ動く一本の無花果の樹が
なんとお前を感じていることだろう」



「薔薇の内部」:

「何処にこの内部に対する
外部があるのだろう? どんな痛みのうえに
このような麻布があてられるのか?
この憂いなく
ひらいた薔薇の
内湖に映っているのは
どの空なのだろう? 見よ
どんなに薔薇が咲きこぼれ
ほぐれているかを ふるえる手さえ
それを散りこぼすことができないかのよう
薔薇にはほとんど自分が
支えきれないのだ その多くの花は
みちあふれ
内部の世界から
外部へとあふれでている
そして外部はますますみちみちて 圏を閉(と)じ
ついに夏ぜんたいが 一つの部屋に
夢のなかの一つの部屋になるのだ」



「花園を歌うがいい 私の心よ」:

「花園(はなぞの)を歌うがいい 私の心よ お前の知らない花園
ガラスの中へそそぎこまれたような 澄み透(とお)って 達しがたい花園を
イスパハンやシラスの水と薔薇
それらを愉しく歌うがいい 讃えるがいい 比(たぐ)いも稀れに

示すがいい 私の心よ お前にとってそれらの花園がいちども失われたことがないのを
そこにみのりつつある無花果がお前を思っていることを
花咲くその枝々の間から 眼に見えるように
立ちのぼってくる微風とお前が交わっていることを

既になされた決意 この在(あ)ろうとする決意にとって
欠乏があろうという誤った考えは持たぬがいい
絹糸よ お前は織物のなかへ織りこまれたのだ

どんな図柄にお前が内部で結ばれていようとも
(たとえそれが苦悩の生からのひとつの契機であろうとも)
感じるがいい 全体の讃うべき絨毯が思われていることを」






































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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