リルケ 『若き詩人への手紙 若き女性への手紙』 高安国世 訳 (新潮文庫)

「必要なことはしかし結局これだけです、孤独、偉大な内面的孤独。」
(リルケ 「若き詩人への手紙」 より)


リルケ 
『若き詩人への手紙 
若き女性への手紙』 
高安国世 訳
 
新潮文庫 リ-1-1 

新潮社
昭和28年1月20日 発行
昭和42年8月10日 18刷改版
平成5年12月10日 54刷
113p
文庫判 並装 カバー
定価280円(本体272円)
カバー: 長谷川潔「灌木の一枝」


Title: Briefe an einen jungen Dichter / Briefe an eine junge Frau
Author: Rainer Maria Rilke



リルケ 若き詩人への手紙


カバー裏文:

「『若き詩人への手紙』は、一人の青年が直面した生死、孤独、恋愛などの精神的な苦痛に対して、孤独の詩人リルケが深い共感にみちた助言を書き送ったもの。『若き女性への手紙』は、教養に富む若き女性が長い苛酷な生活に臆することなく大地を踏みしめて立つ日まで書き送った手紙の数々。その交響楽にも似た美しい人間性への共同作業は、我々にひそかな励ましと力を与えてくれる。」


目次:

若き詩人への手紙
若き女性への手紙

訳者後記




◆本書より◆


「若き詩人への手紙」より:

「私は批評がましいことは一切したくないのです。一つの芸術作品に接するのに、批評的言辞をもってするほど不当なことはありません。それは必ずや、多かれ少なかれ結構な誤解に終るだけのことです。物事はすべてそんなに容易に掴(つか)めるものでも言えるものでもありません。ともすれば世人はそのように思い込ませたがるものですけれども。たいていの出来事は口に出して言えないものです、全然言葉などの踏み込んだことのない領域で行われるものです。それにまた芸術作品ほど言語に絶したものはありません、それは秘密に満ちた存在で、その生命は、過ぎ去る我々の生命のそばにあって、永続するものなのです。」

「あなたは御自分の詩がいいかどうかをお尋ねになる。あなたは私にお尋ねになる。前にはほかの人にお尋ねになった。あなたは雑誌に詩をお送りになる。ほかの詩と比べてごらんになる、そしてどこかの編集部があなたの御試作を返してきたからといって、自信をぐらつかせられる。(中略)そんなことは一切おやめなさい。あなたは外へ眼を向けていらっしゃる、だが何よりも今、あなたのなさってはいけないことがそれなのです。誰もあなたに助言したり手助けしたりすることはできません、誰も。ただ一つの手段があるきりです。自らの内へおはいりなさい。あなたが書かずにいられない根拠を深くさぐって下さい。それがあなたの心の最も深い所に根を張っているかどうかをしらべてごらんなさい。もしもあなたが書くことを止められたら、死ななければならないかどうか、自分自身に告白して下さい。何よりもまず、あなたの夜の最もしずかな時刻に、自分自身に尋ねてごらんなさい、私は書かなければならないかと。深い答えを求めて自己の内へ内へと掘り下げてごらんなさい。そしてもしこの答えが肯定的であるならば、もしあなたが力強い単純な一語、「私は書かなければならぬ」をもって、あの真剣な問いに答えることができるならば、そのときはあなたの生涯をこの必然に従って打ちたてて下さい。あなたの生涯は、どんなに無関係に無意味に見える寸秒に至るまで、すべてこの衝迫の表徴となり証明とならなければなりません。」

「たとえあなたが牢獄に囚(とら)われの身となっていようと、壁に遮(さえぎ)られて世の物音が何一つあなたの感覚にまで達しないとしても――それでもあなたにはまだあなたの幼年時代というものがあるではありませんか、あの貴重な、王国にも似た富、あの回想の宝庫が。そこへあなたの注意をお向けなさい。この遠い過去の、沈み去った感動を呼び起すようにお努めなさい。あなたの個性は確乎(かっこ)としたものとなり、あなたの孤独は拡(ひろ)がりを増し、一種薄明の住家となって、他人の騒音は遠く関(かか)わりもなく過ぎて行くようになりましょう。――そうしてこの内面への転向から、この自己の世界への沈潜から詩の幾行かが立ち現われてくる時、その時あなたはもはやそれがよい詩であるかどうかを、誰かに尋ねようなどとはお考えにならないでしょう。またあなたは雑誌のたぐいに向って、これらの労作に関心を抱(いだ)かせようなどとは試みられることはないでしょう。なぜなら、あなたはその詩の中に、あなたの心ゆく自然な所有を、あなたの生命の一片、あなたの生命の声を見られるだろうからです。必然から生れる時に、芸術作品はよいのです。こういう起源のあり方の中にこそ、芸術作品に対する判断はあるのであって、それ以外の判断は存在しないのです。だから私があなたにお勧めできることはこれだけです、自らの内へおはいりなさい。そしてあなたの生命が湧(わ)き出てくるところの深い底をおさぐりなさい。その源泉にのみあなたは、あなたが創作せずにいられないかどうかの答えを見いだされるでしょう。その響きを、あるがままにお受取り下さい、その意味を明かそうとしてはなりません。おそらくあなたが芸術家になる使命を持っていらっしゃることがわかるでしょう。そうなれば、あなたはその運命を自分にお引受けなさい、そしてそれを、その重荷とその偉大さとをになって下さい、決して外からくるかも知れない報酬のことを問題になさってはなりません。なぜなら、創造するものはそれ自身一つの世界でなくてはならず、自らのうちに、また自らが随順したところの自然のうちに、一切を見いださねばならないからです。」

「審美学的・批評的な物はできるだけ読まないようになさって下さい、(中略)芸術作品は無限に孤独なものであって、批評によってほど、これに達することの不可能なことはありません。ただ愛だけがこれを捉え引き止めることができ、これに対して公平であり得るのです。――そのような議論や、批判や、解説に対しては、あなたはいつも自分自身と、あなたの感情とを正しいとお考え下さい。(中略)あなたの御判断に、それ自身の静かな、乱されない発展をお与えになって下さい。それはすべての進歩と同じように、深い内部からこなければならぬものであり、何物によっても強制されたり、促進されたりできるものではありません。月満ちるまで持ちこたえ、それから生む、これがすべてです。すべての感情の萌芽(ほうが)は、全く自己自身の内部で、幽暗の境で、名状しがたいところで、無意識のうちに、自己の悟性の到達し得ないところで、安全に発育させるようにし、深い謙虚さと忍耐とをもってあらたな明澄さの生れ出るのを待ち受ける、これのみが芸術家の生活と呼ばれるべきものです、理解においても創作においても。
 そこでは時間で量るということは成り立ちません。年月は何の意味をも持ちません。そして十年も無に等しいのです。およそ芸術家であることは、計量したり数えたりしないということです。その樹液の流れを無理に追い立てることなく、春の嵐(あらし)の中に悠々(ゆうゆう)と立って、そのあとに夏がくるかどうかなどという危惧(きぐ)をいだくことのない樹木のように成熟すること。結局夏はくるのです。だが夏は、永遠が何の憂えもなく、静かにひろびろと眼前に横たわっているかのように待つ辛抱強い者にのみくるのです。私はこれを日ごとに学んでいます、苦痛のもとに学んでいます、(中略)忍耐こそすべてです。」

「必要なことはしかし結局これだけです、孤独、偉大な内面的孤独。」

「人々のあいだに、またあなたとのあいだに、なんら共通に生き得る余地がないとしたら、事物に近く在(あ)るように試みて下さい、事物は決してあなたを見捨てることはないでしょう。そこにはまだ夜があるではありませんか、木々のあいだを吹き抜け、国々を吹き渡って行く風があるではありませんか。事物のあいだや、動物たちのもとでは、すべてがまだあなたの関与できる出来事に満ちています。それに子供たちはやはりあなたが子供だった時のまま、悲しくもまた幸福でいますよ。――そしてあなたの幼年時代のことを思い出されれば、あなたはまた彼らのあいだで、孤独な子供たちのあいだで生きればいいでしょう。大人は何ものでもありません、彼らの尊厳はすこしも価値がありません。」

「自然界のすべてのものは、おのおのの流儀で成長し、自らを守るのです、そして自分の内部から独自なものとなり、どんなにしてでも、どんな抵抗を排除してでも独自であろうと努めています。(中略)孤独であることはいいことです。というのは、孤独は困難だからです。ある事が困難だということは、一層それをなす理由であらねばなりません。」








































































































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分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

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