イタロ・カルヴィーノ 『冬の夜ひとりの旅人が』 脇功 訳 (ちくま文庫)

「「……子供のころ私は鶏小屋に隠れて本を読んでいたんですよ……」」
「彼にとって本当の本は別にある、それは本が彼にとって別の世界からのメッセージであったころのものである。作者にしても同じことだ、(中略)作者とは本がそこから生まれ出てくる目に見えないある一点、空想の駆けめぐる虚空、彼の子供のころの鶏小屋と別の世界とを結んでいた地下のトンネルなのだった……」

(イタロ・カルヴィーノ 『冬の夜ひとりの旅人が』 より)


イタロ・カルヴィーノ 
『冬の夜ひとりの旅人が』 
脇功 訳
 
ちくま文庫 か-25-1

筑摩書房
1995年10月24日 第1刷発行
376p 付記1p
文庫判 並装 カバー
定価840円(本体816円)
装幀: 安野光雅
カバーデザイン: 鈴木成一


「本書は一九八一年、松籟社より刊行された。」



「文庫版 訳者あとがき」より:

「今回、『冬の夜ひとりの旅人が』が「ちくま文庫」版であらためて刊行されることになったのを機会に、旧訳に少し手を加えたことを付け加えておく。」


Italo Calvino: Se una notte d'inverno un viaggiatore, 1979


カルヴィーノ 冬の夜ひとりの旅人が


カバー裏文:

「次々に斬新な方法を創り出すイタリアの作家の、型破りな作品。すぐに中断してしまう、まったく別個の物語の断片の間で右往左往する「男性読者」とそれにまつわる「女性読者」を軸に展開される。読者は、作品を読み進みながら、創作の困難を作者と共に味わっている気持ちになる、不思議な小説。」


目次:

第一章
冬の夜ひとりの旅人が
第二章
マルボルクの村の外へ
第三章
切り立つ崖から身を乗り出して
第四章
風も目眩も怖れずに
第五章
影の立ちこめた下を覗けば
第六章
絡みあう線の網目に
第七章
もつれあう線の網目に
第八章
月光に輝く散り敷ける落葉の上に
第九章
うつろな穴のまわりに
第十章
いかなる物語がそこに結末を迎えるか?
第十一章
第十二章

訳者あとがき
文庫版 訳者あとがき




◆本書より◆


「第一章」より:

「本屋のショーウィンドーの中であなたは自分が探していた題名が書いてある表紙を見て、視覚に残ったその痕跡を頼りに、陳列台や書棚からあなたを脅かすようにしかめっつらをしてあなたをにらみつけているあなたが読んだことのない本がぎっしりとひしめきあった障壁の間をかきわけるようにして店の中を進んで行った。だがあなたはなにも恐れる必要などないということを、そこには読まなくてもいい本が、読書以外の用途のために作られた本が、書かれるより以前にもう読まれてしまっているというような類に属する限りでは開く必要さえもなくすでに読んでしまったとも言える本が、長々と展開しているにすぎないことを知っている。こうして最初の防壁を突破すると、あいにくあなたの人生は今あなたが生きているものでしかないので仕方がないがあなたがもっといくつもの人生を生きることができたら喜んで読むかもしれない本からなる歩兵どもが襲いかかってくる。あなたはすばやくそれらを蹴散らすと、読むつもりではあるが先にほかのものを読むことにしている本、値段が高くて半額で再販される時に買うまで待っていてもよい本、同じくポケット版で再販されるまで待っていてもよい本、誰かに貸してくれと頼める本、みんなが読んでいるのであなたも読んでしまったような気になっているような本からなる密集陣のまっただなかに突っ込んでいく。それに風穴を開けると、あなたは砦の塔の下にたどりつく、そこを固めているのは
  ずっと以前から読む予定にしていた本、
  長年探していたが見つからなかった本、
  現在あなたが没頭している事柄に関する本、
  必要な折りにはすぐ手の届くところに置いておきたい本、
  この夏にでも読むために取っておいてもよい本、
  あなたの本棚のほかの本と並べて置くのに欲しい本、
  はっきりした理由はわからないが不意にやたらと好奇心がそそられる本

などの面々だ。
 こうしてあなたは戦場に並んだ無限の軍勢の数をまだまだ大軍ではあるがともかく勘定可能な限定された数にと減らすことができたのだが、それでほっとするわけにはいかない、ずいぶん以前に読んだため今もういっぺん読んだらいいような本や読んだふりをずっとしてきたが今本当に読んでみる気になった本などが待ち伏せして罠をはっているからだ。
 あなたはすばやくジグザグを踏んでその罠を逃れ、著者なり題材なりがあなたを惹きつける新刊書の砦の中に躍り込む。この砦の内部でもあなたは防備の軍勢を(あなたにとっても絶対的に言っても)新しからざる作者あるいは題材の新刊書や(少なくともあなたにとっては)まったく未知の作者あるいは題材の新刊書とに分割してその間に突破口を開き、そしてそれらの新刊書があなたに働きかける魅力をあなたの欲求なり必要に基づき新しいものと新しからざるもの(新しからざるものの中にある新しいものと新しいものの中にある新しからざるもの)とに区別することができるのだ。
 こう言ったところで、あなたは本屋に陳列された本の題名にすばやく視線を走らせ、まだ印刷したての『冬の夜ひとりの旅人が』が山と積んであるところに歩を運び、それを一冊手に取って、その本に対する所有権を確立すべくそれを勘定台に持っていっただけのことだ。」





こちらもご参照ください:

ロラン・バルト 『言語のざわめき』 花輪光 訳
















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難破した人々の為に。

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将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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