Edward Gorey 『The Helpless Doorknob』

「Adela could not find her way out of the woods.」
(Edward Gorey 『The Helpless Doorknob』 より)


Edward Gorey 
『The Helpless Doorknob:
A Shuffled Story
by Edward Gorey』


Pomegranate Communications, Inc., 2015
Printed in China



エドワード・ゴーリーによるシャッフルストーリー『よるべなきドアノブ』。
これはまだもっていなかったのでアマゾンマケプレのブックデポジトリーさんで注文しておいたのが届いたのでさっそくよんでみました。


gorey - the helpless doornob 01


これはなにかというと、要するにページがばらばらになった絵本であります。
堅牢な紙箱(ツーピースタイプ)に絵と文章が印刷された10.2×6.4cmのカード20枚が入っています。
箱の裏に書いてある説明文によると、
「エドワード・ゴーリーの『よるべなきドアノブ』の楽しみ方には無限に近い可能性があります。オリジナル版のゴーリーの解説によれば、この「20枚のカードから成る」シャッフルストーリーは「2,432,902,069,736,640,000通りの読み方ができる」のです。シャッフルしてお読みなさい!(Shuffle and read!)」
とのことです。
オリジナル版は1989年、プラケース入りです。
ところで、カードの組み合わせによって2,432,902,069,736,640,000通りの読み方ができるというのは、前にも書きましたが、ゴーリーが愛読したレイモン・クノーの「100,000,000,000,000の詩」(10篇のソネット=14行詩からなる詩集ですが、詩の各行がそれぞれ一枚のカードに印刷されているので、読者はそのカードを任意にめくることによって10の14乗=100,000,000,000,000通りのソネットを読むことができます)からヒントを得ているのでしょう。


gorey - the helpless doornob 02


「本物の読者は作者とほぼ同等に創作する。ただし彼は行間で創作するのだ。頁の余白を読む術を知らない読者はけっして本のよき美食家となることはないだろう。」
(マルセル・シュオッブ 「記憶の書」 より)

それでは行間に、というかカード間に妄想を交えつつ、よんでみたいとおもいます。

1. Amanda wrote a note to Augustus.
「アマンダはオーガスタスに短い手紙を書いた」
Amandaという名前の意味は「愛すべき人」、Augustusは「人格者」。ちなみに登場人物名は(犬も含めて)すべて「A」で始まる名前がつけられています。
なにやら犯罪が起りそうな村内の不穏な空気を察知したアマンダは素人探偵オーガスタスに調査を依頼したようです。

2. Agatha finished knitting a scarf for Augustus.
「アガサはオーガスタスにあげるマフラーを編み終わった」
Agathaは「善良な人」。オーガスタスはアガサの婚約者なのでしょう。そしてアガサはアマンダの姉なのでしょう。アマンダは姉の婚約者に密かな恋心を抱いているのではないかな。

3. Agatha taught Adolphus to dance the one-step.
「アガサはアドルファス(犬)に社交ダンスを教えた」
そんなアマンダの胸の内も知らずに一仕事終えてはしゃぐアガサであります。
Adolphusは「気高い狼」。

4. Alfred returned from Novaya Zemlya.
「アルフレッドはノヴァヤゼムリャから戻った」
ノヴァヤゼムリャ(新しい大地)は北極海に浮かぶ列島で、ヨーロッパの最北東端に位置する(ウィキペディアより)。ちなみにナボコフ『青白い炎』にでてくる国名「ゼンブラ」(Zembla)はNovaya Zemlyaがもとになっているそうです。そしてAlfredといえばアルフレッド大王です。そうです、アルフレッド(アルフレッド大王)はオーガスタス(皇帝アウグストゥス)の仮名であり、世を忍ぶ仮の姿であります。オーガスタスは殺人事件を未然に防ぐことができるのでしょうか。

5. Andrew received a postcard from Amaryllis.
「アンドリューにアマリリスからのハガキが届いた」
アンドリューはアデラと結婚したばかりですが、アデラの幼少期からの殺人癖を知っているアデラの幼馴染のアマリリス(オペラ歌手になるべくイタリア留学中)はアデラがアンドリューを殺してしまうのではないかと気がかりなのでアンドリューにそれとなく注意を促がしています。

6. Andrew came across a horrid secret in Adela's diary.
「アンドリューはアデラの日記を読んで忌まわしい秘密を知ってしまった」
アデラの秘密を知ってしまったアンドリューはアデラに殺されてしまいました。
Andrewは「男らしい人」、Adelaは「高潔な人」。

7. Adela flung Angela's baby from an upstairs window.
「アデラはアンジェラの赤ん坊を窓から放り投げた」
いよいよアデラの登場であります。極悪非道であります。
Angelaは「天使」。

8. Adela became disoriented at Alaric's funeral.
「アデラはアラリックの葬式でうろたえた」
殺したはずのアラリックが棺のなかで生き返ってアデラの罪を告発したからであります。
Alaricは「支配者」。以下名前の意味はめんどうなのではしょります。

9. Adela could not find her way out of the woods.
「アデラは森から出られなくなった」
逃亡したアデラは森に隠れるものの道に迷って餓死してしまいました。

10. A disguised person came to one of the side doors.
「勝手口にしのび寄る変装の人物」
いっぽうそのころ、謎の人物がアンガスの家を訪れます。実はアデラは幼い頃からこの謎の人物にマインドコントロールされていたのでありました。

11. Angus concealed a lemon behind a cushion.
「アンガスはクッションのうしろにレモンを隠した」
謎の人物の次の標的はアンガスであります。レモンは謎の人物の大好物なのであります。

12. Angus lost a shoe not far from the folly.
「アンガスはフォリーのあたりで靴を片方なくした。」
レモンを隠したりしてささやかな抵抗を試みるアンガスでしたが、結局マインドコントロールされてしまい、庭園でエイダおばさんを殺して死体を埋めます。そのとき靴も一緒に埋めてしまったようです。

13. Angus inherited the grandfather clock from Aunt Ada.
「アンガスはエイダ叔母さんから振り子時計を譲り受けた」
謎の人物は振り子時計の中で寝るのが好きなので、村でいちばん立派な振り子時計を手に入れるためにエイダおばさんを殺させたのでありました。

14. Alethea vanished from a picnic.
「アレシアはピクニックの最中に姿を消した」
そしてさらなる犠牲者。

15. Amanda found several unfolded napkins on a back shelf.
「アマンダは棚に数枚のたたまれていないナプキンを発見した」
オーガスタスの助手として探偵活動をしているアマンダ。ナプキンはアレシア殺害の凶器であります。アンジェラとアラリックもすでにナプキン殺人の犠牲者となってしまっているようです。

16. Arthur's outdoor garments turned up in a guestroom closet.
「アーサーの外出着がゲストルームのクローゼットで見つかった」
行方不明のアーサーもまたナプキン殺人の犠牲者となってしまっているようです。

17. Agatha pedalled to the neighbouring village for help.
「助けを求めてアガサは自転車で隣村へ向かった」
そしてアマンダも行方不明に。アガサもさすがに身の危険を感じたようです。
アガサは婚約者のオーガスタスが極秘裏に村に戻って探偵活動をしていることを知らなかったのであります。なぜならアガサは犬に社交ダンスを教えるような人だからです。

18. Ambrose took an overdose of sarsaparilla.
「アンブローズはサルサパリラを過剰摂取した」
恋人アーサーが殺されてしまったので世を儚んだのでしょう。

19. Albert left for Peru.
「アルバートはペルーへ旅立った」
婚約者アガサのナプキン絞殺死体が村境で発見され、おのれの無力を思い知ったオーガスタスはアルバート(アルベルト)と改名してペルーで人生をやり直すことに。その後ペルーで大統領になったということです。

20. A mysterious urn appeared in the grounds.
「芝生に謎めいた壺が出現した」
壺のなかにはナプキン自殺したアンガスの死体がありましたとさ。


そういうわけで、ばらばらの絵本から物語を再構成するには時間軸にそって因果関係を発見していく作業をしなければならないのでめんどうです。米国アマゾンのレビューでも「シャッフルしてできた物語が面白くなかった」という意見が多いのもむべなるかなです。
しかしながら、ゴーリーとしてはむしろ、時間的な経緯として読まれることを強いられる本という形体を解体して、ばらばらのカードから成る絵本を作ることによって、因果関係=ヘーゲル的な歴史的時間性から解放されることを意図したのかもしれないです(ショーペンハウエルは、歴史とは人類がみることをしいられている長く混乱した悪夢であると喝破しました)。ゴーリーが頻繁に作成したアルファベット本(リスト本)も、空間的多様性によって時間的直線性を廃棄せんとするひとつの手段でありましょう(もうひとつの手段は『ドグラマグラ』や『フィネガンズ・ウェイク』のように時間の尻尾と頭をつなげて円環にしてしまうことであります)。
それゆえ、「The Helpless Doorknob」のそれぞれのカードの、いかにもいわく(過去)やたくらみ(未来)がありそうなおもわせぶりな状況の呈示も、「前後裁断」してそれだけで自己完結したものとして受け取っておくのがよいのではないでしょうか。
箱絵に描かれている、ドアから外されて、あるいは取り付けるべきドアがないゆえに放置されている「よるべなき(Helpless)」ドアノブ、これはまさに実存的ドアノブというべきでありましょう。
さてそこで、なにゆえに歴史的時間が廃棄されねばならぬのかといえば、『まったき動物園』に登場するような変わり者や『不幸な子供』は、歴史的時間における弁証法的自然淘汰作用によってまっさきに絶滅させられてしまう「よるべなき」存在だからであります。そんなハプレスな変わり者たちが無事に生きていける場所、あるいは生きていけないとしても仲間を見出すことができる場所を作ることこそが芸術家の仕事でありましょう。


いいわすれましたが真犯人(謎の人物)はアマンダであります。








































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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