寿岳文章 訳 『改訳 ブレイク抒情詩抄』 (岩波文庫)

「生きとし生ける者はみな神聖である
――ウィリャム・ブレイク」

(寿岳文章 訳 『改訳 ブレイク抒情詩抄』 より)


寿岳文章 訳 
『改訳 
ブレイク抒情詩抄』
 
岩波文庫 赤/32-217-1 

岩波書店
1931年6月5日 第1刷発行
1940年8月10日 第11刷改版発行
1990年10月5日 第14刷発行
116p 別丁口絵(モノクロ)ii 
文庫判 並装 カバー
定価310円(本体301円)
カバー: 中野達彦



本書「改版に際して」より:

「舊版の附録となつてゐた「天國と地獄との結婚」及び「ラオコオン群像註記」を省き、かはりに「セルの書」を入れ、「無染の歌」と「無明の歌」を全部採録し、「小品詩集抄」に二篇、稿本詩抄に十四篇を新に加へ、抒情詩抄の名にふさはしいものとした。」
「この機會に、舊譯の全部にわたり、(中略)改譯を行つた。」



正字・正かな(「ウィリャム・ブレイク略傳」は新字・新かな)。
口絵は「妻の描ける若き日のブレイク」および「〈無染の歌〉題扉」。


ブレイク抒情詩抄 01


カバーそで文:

「瞑想的な神秘主義で英文学史上異彩を放つ詩人にして画家ブレイク。中期までの抒情詩五六篇に後期の思想を語る作品二篇を付した。」


目次:

小序 (昭和6年3月)
改版に際して (昭和14年11月)

小品詩集抄
 春に
 夏に
 秋に
 冬に
 宵の明星に
 朝に
 うた(こころよく野邊より野邊を)
 うた(わが絹ごろも)
 うた(これやこの愛と調和は)
 うた(われは愛す)
 うた(おもひでよ)
 狂ほしきうた
 うた(露けき丘ゆ今し出で)
 うた(うすずみ色に身をよそひ)
 詩神に

無染の歌
 序詩
 羊飼ひ
 谺の原ッぱ
 仔羊
 黑んぼの男の兒
 花
 煤掃除
 さまよふ子供
 見つかつた子供
 笑ひ歌ふ
 こもりうた
 神の姿
 昇天節
 夜
 春
 乳母のうた
 をさなごの喜び
 夢
 ひとの悲しみを

無明の歌
 序詩
 大地の答
 土くれと小石
 昇天節
 さまよふをとめ
 見出されしをとめ
 煤掃除
 乳母のうた
 病める薔薇
 蠅
 天使
 虎
 私のかはゆい薔薇の樹
 ああ! 向日葵よ
 百合
 愛の園生
 浮浪少年
 ロンドン
 人間抽象
 をさなごの悲しみ
 毒ある樹
 さまよふ少年
 さまよふ少女
 テルザに
 小學生
 いにしへの詩人の聲
 神の姿

セルの書

稿本詩抄
 汝が戀はかたくも秘めよ
 愛よこたはり眠りゐる
 私は見た
 子守歌
 われ恐れぬ
 ムルトスのかげに
 沈默の沈默の夜よ
 おおたげりよ君は
 君は種子を
 創造せぬ父に
 夜のよろこびよりも
 愛はよくあやまちを
 野の花の歌
 わがムルトスに
 劒は不毛の荒野で
 時を熟しないうちに
 永遠
 嘲れ、嘲れ
 朝
 こがねの網
 夢のさと
 晶玉の室
 無染のうらかた

ウィリャム・ブレイク略傳 (昭和32年7月)



ブレイク抒情詩抄 02



◆本書より◆


「無明の歌」より「昇天節」:

「富んでゆたかな國だのに、
みじめさのどん底に落ちた赤ん坊が、
つめたい強慾な手に養はれてゐるのを見る、
これがそもそも神のみむねに叶つたことか?

あのふるへわななく聲が歌か?
あれがよろこびの歌だと言ふのか?
まあこんなに大勢の子供が貧しいのか?
ああ、ここは貧困の國だ!

かれらに太陽は決して輝かない。
かれらは吹きッさらしの荒野に住む。
しかもその道はいばらでいつぱいだ
そこは永遠の冬の世界だ。

きみよ、およそ太陽が照り輝くところ、
およそ雨が地を潤すところならばどこでも、
赤ん坊にひもじい思いをさせてはならない、
その心を貧困でおびやかしてはならない。」



「病める薔薇」:

「おお薔薇よ汝は病めり。
業風すさぶ
夜に飛ぶ、
見えざる蟲、

濃きくれなゐのよろこびの
汝が臥床を見出でたり。
その暗くして秘めたる戀
汝のいのちをほろぼす。」



「蠅」:

「小さな蠅よ
お前の夏の遊びを、
何心なく私の手が
はたきつぶした。

私もまた
お前のやうな蠅ではないか?
それともお前は
私のやうな人間ではないか?

私も踊つて
飲んでそして歌ふ、
何かしら盲目の手が
私の翅をはたきおとすまで。

思考が生命であり
また力であり呼吸であり、
思考をもたぬことが
死であるならば、

では私は
幸福な蠅だ、
いきしにに、
かかはりなく。」



「虎」:

「虎よ虎よ、ぬばたまの、
夜の林に燃ゆる虎よ。
いかなる不死の眼または腕の、
よくも作りしながゆゆしき均整を?

いかなるをちのわだつみまたは空に、
なんぢがまなこの焰ぞ燃えたる?
何の翼にそも神は乘りて行きし?
何者の手ぞ、その火を敢て捕へたる?

そも亦何の肩、何のわざの、
よくも捩りしなが心臓の腱を?
またその心臓うち始めたるとき
用ゐられしは何の恐しき手? 何の恐しき足?

槌や何なりし? 鎖や何なりし?
いかなる鎔爐になが腦髓はありし?
鐵砧や何なりし? いかなる畏き手のよくも
その死を致す怖畏を握りし?

あまつむら星槍を投げて
涙に空をうるほせしとき、
神その創りし汝を見て笑みしや?
仔羊を創りし彼また汝をも創りしや?

虎よ虎よぬばたまの、
夜の林に燃ゆる虎よ。
いかなる不死の眼または腕の、
よくも作りしながゆゆしき均整を?」



「人間抽象」:

「哀憐が納まりかへつてをれるのは
誰かを貧しい目にあはせてゐるからだ。
慈悲が餘命をつないでゆけるのは、
みんなが我等と同樣に幸福でないからだ。

互に恐れ憚る氣持が平和をもたらし、
かくして利己の愛がますますつのる。
そのとき殘忍がわなを編み、
心をつくして誘惑の餌をひろげる。

殘忍は恐怖を聖化しておのが座をつくり、
涙をふりしぼつて地上をうるほす。
されば謙遜は殘忍の足もとに
根を下ろすのほかはない。

やがて暗鬱な神秘の樹が
殘忍の頭上に枝をはりめぐらし、
醜惡な毛蟲や蠅が、
この神秘を食つてふとる。

つひにそれは欺瞞の果實をむすぶ、
赤く熟れてゐて食へばうまい。
そして大鴉が巣をかけた
その最もよく茂つたくらがりに。

この樹を見つけようとて海山の神々は、
自然界をくまなく探し求めたが
彼等の探索はみな悉く無效に歸した。
人間の腦髓にこの樹が一本生えてゐる」



「無染のうらかた」より:

「一つぶの砂にも一世界が
一輪の野の花にも一天界が見え
たなごころに無限を
ひとときのうちに永劫を握る
籠に囚はれてゐる駒鳥は
天國中を憤激させる
家鳩や野鳩のぎつしりつまつてゐる鳩舎は
地獄を隅々までゆさぶる
主人の門に飢ゑてゐる犬は
國家の滅亡を豫示する
路上に虐使されてゐる馬は
人間の血を神に呼び求めてゐる
かりたてられた兎の悲鳴は
一こゑごとに腦髓の筋をひきちぎる」
「あるべきやうにあるのがいい
人はよろこびと惱みのために作られた」
「歡喜と苦惱とはしつくりと織り合はされて
神々しいたましひの衣となる」
「一つ一つの眼から流れる涙の一つぶ一つぶが
永遠界でみどり兒となる」





こちらもご参照下さい:

William Blake 『Songs of Innocence』 (Color Facsimile of the First Edition)
『ダンテ 神曲』 寿岳文章 訳 (集英社版 世界文学全集 2)
寿岳文章 『和紙落葉抄』





























































































































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