『ヘーシオドス 仕事と日』 松平千秋 訳 (岩波文庫)

『ヘーシオドス 
仕事と日』 
松平千秋 訳
 
岩波文庫 赤/32-107-2 

岩波書店
1986年5月16日 第1刷発行
200p 
文庫判 並装 カバー
定価300円



HΣIOΔOY ΕΡΓΑ ΚΑΙ ΗΜΕΡΑΙ


ヘーシオドス 仕事と日


カバー文:

「餓えをしのげるよう神々が我々に与えたもの、それが仕事すなわち農耕である。こうヘーシオドス(前8―7世紀頃)は説き、人間が神ゼウスの正義を信じ労働に励まねばならぬことわりを、神話や格言を引きつつ物語る。古代ギリシアのこの教訓叙事詩からは、つらい現世を生き抜く詩人の肉声が伝わってくる。『ホメーロスとヘーシオドスの歌競べ』を付載。」


目次:

凡例

仕事と日
ホメーロスとヘーシオドスの歌競べ

訳注
解説




◆本書より◆


「仕事と日」より:

「オリュンポスの館(やかた)に住まう神々は、
最初に人間の黄金の種族をお作りなされた。
これはクロノスがまだ天上に君臨しておられた
クロノスの時代の人間たちで、
心に悩みもなく、労苦も悲歎も知らず、神々と異なることなく暮しておった。
惨めな老年も訪れることなく、手足はいつまでも衰えず、
あらゆる災厄を免れて、宴楽に耽っていた。
死ぬ時はさながら眠るがごとく、あらゆる善きものに恵まれ、
豊沃な耕地はひとりでに、溢(あふ)れるほどの
豊かな稔(みの)りをもたらし、人は幸せに満ち足りて
心静かに、気の向くにまかせて田畑の世話をしておった。
〔豊かな家畜に恵まれ、至福の神々にも愛されていた。〕

しかし大地がこの種族を隠した後は、大神(おおかみ)ゼウスの思し召しによって、
彼らは地上の善き精霊となり、人間の守護神として、
〔靄(もや)に身を包み、地上を隈(くま)なく徘徊(はいかい)しつつ、裁きと悪業とを監視し〕
人間に富を授ける。このような王権にも比すべき特権を与えられたわけじゃ。

さてオリュンポスに住まいたもう神々は、この種族の絶えた後に、
今度は第二の種族、先のものには遙かに劣る銀の種族をお作りなされたが、
これは姿も心も、黄金の種族とは似もつかぬものであった。
子供は百年の間、まったくの頑是(がんぜ)ない幼な子のままで家の内に戯(たわむ)れつつ、
優しく気づかう母の膝(ひざ)もとで育てられた。
しかしやがて成長を始めて成年に達するや、
おのれの無分別のゆえに、さまざまな禍いをこうむって、短い生涯を終える――
互いに無法な暴力を抑えることができず、
不死なる神々を崇(あが)めることも、人間にはその住む所に従って守るべき掟(おきて)である、
神々の聖なる祭壇に生贄(いけにえ)を捧げることもしようとはしなかったのだ。
さればクロノスの御子ゼウスは、彼らがオリュンポスに住まいます至福の神々に
しかるべき敬意を払わぬのを怒って、この種族を消しておしまいになった。」

「ついでゼウスは人間の第三の種族、
青銅の種族をお作りになったが、これは銀の種族にはまったく似ておらず、
とねりこの樹から生じたもので、怖るべくかつ力も強く、
悲惨なるアレースの業(戦いのこと)と暴力をこととする種族であった。
穀物は口にせず、その心は鋼(はがね)のごとく硬く苛酷で、
傍らに近寄ることもできぬ。その力はあくまで強く、
強靭な肢体には、無敵の強腕が両肩から生えている。
扱う武器は青銅製、その住む家も青銅製で、
青銅の農具を用いて田畑を耕す。黒き鉄は未だなかった。
彼らは互いに討ちあって斃(たお)れ、身も凍る冥王(ハーデース)の
かび臭い館へ、名を残すこともなく降(くだ)っていった。
まことに怖るべき種族ではあったが、黒き死の手に捕えられ、
輝く陽光を後にして地上を去ったのじゃ。

しかるに大地がこの種族をも蔽った後、
クロノスの御子ゼウスは、またも第四の種族を、
豊穣の大地の上にお作りなされた――先代よりも正しくかつ優れた
英雄たちの高貴なる種族で、半神と呼ばれるもの、
広大な地上にあってわれらの世代に先立つ種族であったのじゃ。
しかし、この種族も忌わしき戦(いくさ)と怖るべき闘いとによって滅び去った――」

「かくなればわしはもう、第五の種族とともに生きたくはない、
むしろその前に死ぬか、その後に生れたい。
今の世はすなわち鉄の種族の代(だい)なのじゃ。
昼も夜も労役と苦悩に苛(さいな)まれ、その熄(や)む時はないであろうし、
神々は苛酷な心労の種を与えられるであろう、
さまざまな禍いに混って、なにがしかの善きこともあるではあろうが。
しかしゼウスはこの人間の種族をも、
子が生れながらにして、こめかみに白髪を生ずるに至れば直ちに滅ぼされるであろう。」
「かくして人間には、悲惨な苦悩のみ残り、災難を防ぐ術(すべ)もなかろう。」



「ホメーロスとヘーシオドスの歌競べ」より:

「さて、ヘーシオドスがいうには、

  メレースが一子、神々より叡知を授かりたるホメーロスよ、
  語ってくれ、死すべき人間には何がもっとも良いことか。

 ホメーロスは答えて、

  地上に住む者にとっては、そもそも生れぬことがもっとも良い、
  生れたからは一刻も早く冥王(ハーデース)の門をくぐることじゃ。

 次にヘーシオドスが、
 
  されば神にも似たるホメーロスよ、次のことをも語ってくれ、
  死すべき者にとり、何がもっとも賞(め)でたきことと、そなたは思うぞ。

 ホメーロス、

  愉楽の気は堂に満ち、
  宴(うたげ)に与(あずか)る客は屋敷の内に席を列ねて、楽人の歌に耳を傾け、
  傍らの食卓にはパンと肉とが山と盛られ、
  酌人は混酒器より美酒を酌(く)んで
  席を廻り、酒盃(さかずき)に酒を注ぐ、
  これぞ愉楽の極致とわしは思うぞ。」





こちらもご参照下さい:

久保正彰 『ギリシァ思想の素地 ― ヘシオドスと叙事詩』 (岩波新書)
『ヘシオドス 神統記』 廣川洋一 訳 (岩波文庫)



















































































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