『ヘロドトス 歴史 (上)』 松平千秋 訳 (岩波文庫)

「エジプトに棲息する動物は家畜となっているものとそうでないものとがあるが、すべて神聖視されている。」
「これらの動物のどれかを殺すようなことがあると、故意に殺した場合には罰は死刑、故意でない場合は、祭司の課した罰を償うのである。しかしイビスまたは鷹を殺した者は、故意であると否とにかかわらず、死罪を免れない。」

(ヘロドトス 『歴史』 より)


『ヘロドトス 
歴史 (上)』 
松平千秋 訳
 
岩波文庫 青/33-405-1

岩波書店
1971年12月16日 第1刷発行
1991年7月5日 第26刷発行
468p 別丁口絵(モノクロ)1葉
文庫判 並装 カバー
定価720円(本体699円)
カバー: 矢崎芳則



本書「はしがき」より:

「本書は(中略)ヘロドトス(前四八四ごろ―四三〇以後)の著作「歴史」の全訳である。」


HISTORIAE Herodotus


ヘロドトス 歴史 上 01


カバーそで文:

「ギリシア諸都市とペルシア帝国の争いは前五世紀、ついに両者の激突をむかえる。「歴史の父」ヘロドトスが物語るのは、このペルシア戦争を頂点とする東西抗争の歴史である。豊富に織りこまれた説話や風土習俗の記述は長巻を飽かず読ませる魅力をもつ。(全3冊)」


目次:

はしがき

巻一(クレイオの巻)
 序説
 伝説時代における東西の抗争
 リュディアの盛衰
  リュディアの古史(ギュゲスよりクロイソスに至る)
  クロイソス
   クロイソスとソロン
   クロイソスとアドラストス
   クロイソスと神託
   クロイソスとギリシア――アテナイ、スパルタの情況、スパルタとの同盟
   クロイソスとキュロスの対決
 ペルシアの興隆
  メディアの歴史とキュロスの生い立ち
  ペルシア、メディアより離反し覇権を掌握――ペルシアの風習
  ペルシアの小アジア征服
   小アジアのギリシア各市
   リュディアの反乱とその鎮圧
   ハルパゴスによる小アジア征服――ポカイア人の移住
  バビロン征服
   バビロンの都市の記述
   バビロンの占領
   バビロンの国土とその風習
  マッサゲタイ遠征
   国土の記述
   キュロスの親征とその死
   マッサゲタイの習俗

巻二(エウテルペの巻)
 カンビュセスのエジプト遠征
  エジプト遠征の発案
  エジプト記
   国土の記述
   下エジプト
   ナイル河
   エジプトの風習
    宗教
    聖なる動物
    生活様式
   エジプトの歴史
    最初の五代の王
    ピラミッド時代の諸王
   エチオピア人のエジプト支配――十二人の王――迷宮の記述
   プサンメティコスの統治とその後継者
   アマシス

巻三(タレイアの巻)
   カンビュセス、エジプトを攻略
   エチオピア人およびアンモン人への遠征とその挫折
   カンビュセスの乱心
  サモスとスパルタの抗争――ポリュクラテスの物語
  マゴス僧のペルシア王位簒奪――カンビュセスの死――七人の蹶起――ダレイオスの登位
 ダレイオスによる国内の整備と安定
  全王国を徴税区(ノモス)(サトラペイアに同じ)に区分。各徴税区の叙述
  インタプレネスおよびオロイテスのこと
  デモケデスの物語
  ダレイオスのサモス攻略――シュロソンのこと
  バビロンの反乱と鎮圧――ゾピュロスのこと

訳注
詳細目次
地図「ヘロドトスの世界」
ギリシアの度量衡



ヘロドトス 歴史 上 02



◆本書より◆


「巻二」より:

「死んだ猫はブバスティスの町の埋葬所へ運び、ここでミイラにして葬る。犬は持主が各自自分の町の墓地へ埋葬するのである。鼬(いたち)も犬と同じように葬る。野鼠と鷹はブトの町へ、イビスはヘルムポリスへ運んで葬る。熊はこの国では珍しく、狼は狐よりやや大きい程度のものであるが、これらの獣は死んでいた場所にそのまま葬る。」

「エジプトの富裕階級の者の催す宴会では、食事が終り酒宴に入ろうとする時、一人の男が木で人間の死骸にかたどったものを棺に入れて持ち廻る。この木製の死骸は、描き方といい彫り方といい、実物そっくりに作ってあり、背丈は一ペキュス乃至二ペキュスある。これを会食者の一人一人に示して、こういうのである。
 「これを見ながらせいぜい楽しく酒をお過し下さい。あなたも亡くなられたら、このような姿になられるのですからな。」
 エジプト人は宴席でこのようなことをするのである。」

「さてミイラ加工を職として開業し、専門的技術をもった職人がいるのである。職人たちは遺体が運び込まれてくると、絵具を用いて実物に似せた木製のミイラの見本を、運んできた者たちに出してみせる。その説明によれば、最も精巧な細工のものは、さる尊い姿(中略)を模したものであるといい、これよりも細工が雑で価格も安いのが二番目、そして三番目に最も値段の低廉なもの、というふうに見本が示される。ミイラ職人は右の説明をしてから、どの型でミイラを調製して欲しいかと、依頼者の希望を訊ねる。価格の折合いがつくと依頼者は引き上げ、職人は仕事場に残ってミイラ作りにかかるが、その最も精巧な細工は次のようにして行なわれる。
 先ず曲った刃物を用いて鼻孔から脳髄を摘出するのであるが、摘出には刃物を用いるだけでなく薬品も注入する。それから鋭利なエチオピア石で脇腹に添って切開して、臓腑を全部とり出し、とり出した臓腑は椰子油で洗い清め、その後さらに香料をすりつぶしたもので清めるのである。つづいてすりつぶした純粋な没薬と肉桂および乳香以外の香料を腹腔に詰め、縫い合わす。そうしてからこれを天然のソーダに漬けて七十日間置くのである。それ以上の期間は漬けておいてはならない。七十日が過ぎると、遺体を洗い、上質の麻布を裁って作った繃帯で全身をまき、その上からエジプト人が普通膠の代用にしているゴムを塗りつける、それから近親の者がミイラを受け取り、人型の木箱を造ってミイラをそれに収め、箱を封じてから葬室内の壁側に真直ぐに立てて安置するのである。
 以上が最も高価なミイラ調製の方法であるが、多額の出費を厭って、中級のものを希望する人の場合は、次のようにして作る。杉から採った油を注入器に満たすと、遺体の腹部一杯に注入する。腹部の切開もせず臓腑の摘出も行なわないのである。肛門から油を注入し逆流せぬようにとめてから、所定の日数だけソーダに漬けておき、七十日目になって先に注入した杉油を腹から流し出す。この油の効果は、腸やその他の内臓を溶解し自分と一緒に体外に排出してしまうことである。またソーダは肉を溶解してしまうので、後には皮膚と骨だけが残るのである。右の操作が済むと、職人はあとはもう何も手を加えず、そのまま遺体を引き渡すのである。
 最も財力の乏しい者の場合に用いるミイラ調製の方法とは、下剤を用いて腸内を洗滌した上で七十日間ソーダ漬けにし、それから引き渡すのである。
 名士の夫人が死亡した時は、すぐにはミイラ調製には出さない。特に美貌の女性や著名な婦人の場合も同様である。死後四日目または五日目にようやくミイラ職人の手に渡すのである。このようなことをするのは、ミイラ職人がこれらの女性を犯すのを防ぐためで、現にある職人が死亡したばかりの女性の遺体を犯している現場を、同業者の密告によっておさえられたという話がある。」

「人民に対して仁慈の心あつく、またひたすらにそのことを心がけたミュケリノスであったが、彼の身にふりかかった最初の不幸は、彼にはかけがえのない一人娘の死であった。わが身に起った不幸に身も世もあらぬ悲しみに暮れたミュケリノスは、せめて娘の葬いを他人の真似のできぬようなものにしたいと考え、中を空ろにした木製の牛を作り金箔を張り、その中に死んだ娘の遺骸をおさめたという。
 さてこの木製の牛は地中には埋められず、サイスの町にある王宮内の、美々しく飾られた一室に安置されて、私の時代にもまだ見ることができた。昼は一日中、その側でさまざまな香をたき、夜は毎晩その傍に燈明を点(とも)して終夜絶やすことがない。この牛の置かれている近くの別室には、いくつもの像が据えてあるが、サイスの祭司たちの話では、これはミュケリノスの側妾たちの像であるという。これは巨大な木像で、数はおよそ二十、裸女の姿を写した像である。しかし私はその一人一人の名を挙げることはできない。ここにはただ私が聞いたところだけを記すのみである。
 この牛と巨大な木像について、次のような話を伝えているものもある。ミュケリノスは自分の娘に恋慕して、無理矢理に犯してしまった。その後娘は悲歎の余り縊死し、ミュケリノスは娘をこの牛の中に葬ったが、娘の母親は娘を父の手に渡した侍女たちの腕を切り落した。それで今も彼女らの像が、生前と同じように腕がないのだというのである。私の見るところでは、この話は全くの譫言(たわごと)で、ことに巨像の腕についての話はでたらめである。像が腕を失ったのは、長年月の間に腐朽したためであることは、私も目(ま)のあたり確かめたところで、現にその腕は私の時代まで像の足許に落ちているのがよく見えていたのである。」





こちらもご参照下さい:

『ヘロドトス 歴史 (中)』 松平千秋 訳 (岩波文庫)
小海永二 訳  『アンリ・ミショー全集 Ⅰ』 (全四巻)























































































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