『ヘロドトス 歴史 (中)』 松平千秋 訳 (岩波文庫)

「これよりさらに南の奥地の、野獣の多く棲息する地域にはガラマンテス人が住む。この種族はいかなる人間をも避け、誰とも交際せず、また武器類は一切持たず、自衛の手段も知らない。」
(ヘロドトス 『歴史』 より)


『ヘロドトス 
歴史 (中)』 
松平千秋 訳
 
岩波文庫 青/33-405-2

岩波書店
1972年1月17日 第1刷発行
1991年3月5日 第21刷発行
337p
文庫判 並装 カバー
定価620円(本体602円)
カバー: 矢崎芳則



上巻「はしがき」より:

「本書は(中略)ヘロドトス(前四八四ごろ―四三〇以後)の著作「歴史」の全訳である。」


HISTORIAE Herodotus


ヘロドトス 歴史 中


カバーそで文:

「イオニア反乱を制圧したペルシアはギリシア遠征の軍を発し、ここにペルシア戦争の幕は切って落された。アテナイはマラトンに軍を集結して迎え撃つ。自らの足で集めた資料を豊富に盛りこみ、何よりも正確公正を期した本書は、今日なお史書として高い価値を誇る。」


目次:

巻四(メルポメネの巻)
 ダレイオスのスキュティア遠征
  遠征の動機
  スキュティアの古史
  スキュティア北方の諸民族
  世界(地球)の形態と構造
  スキュティアの河川
  スキュティアの風俗習慣
  ダレイオスの遠征
 アリュアンデスによるリビア攻撃
  前史
  キュレネ植民の由来
  リビア記
  バルケ占領

巻五(テルプシコレの巻)
 メガバゾスによるトラキアおよびマケドニア攻略――トラキアの習俗――マケドニア人によるペルシア人謀殺
 イオニアの反乱
  ヒスティアイオスとアリスタゴラス
  スパルタの情勢――クレオメネスとドリエウス
  アリスタゴラス、スパルタの援助を要請して成らず
  スサに至る「王道」の叙述
  イオニア、アテナイと同盟を結ぶ
   ペイシストラトス一族の放逐
   クレイステネスとイサゴラス
   クレオメネスのこと
   アテナイとアイギナ
   スパルタにおけるヒッピアス――コリントス人の独裁制反対の演説
  シゲイオンの戦い
  ギリシア同盟軍の東征――サルディスの破壊
  キュプロスの離反とその鎮圧
  イオニア人の敗北、アリスタゴラスの死

巻六(エラトの巻)
  ヒスティアイオスの活動――その逃亡から死に至るまで
  エーゲ海諸島およびヘレスポントス沿岸諸市の攻略
 マルドニオスによるギリシア本土攻撃
 ダティスおよびアルタプレネスによるギリシア本土侵入
  タソスの屈服
  ギリシアの情勢――特にスパルタの政情、クレオメネスとデマラトス
  ペルシア遠征軍、諸島を経てマラトンに達す
  マラトンの戦い
  ミルティアデスのこと

訳注
詳細目次(巻四―巻六)




◆本書より◆


「巻四」より:

「一般の神々に捧げる犠牲の式の次第と、獣の種類は右のとおりであるが、アレスに対する犠牲の儀式は次のように行なわれる。
 スキュティアの諸王国内の各地区には、それぞれ次のようなアレスの聖所が設けられている。薪の束が縦横おのおの三スタディオン、高さはそれに及ばぬが、それだけの量に積み上げられている。その上に四角の台が設けてあり、三方は切り立っていて一方だけが登れるようになっている。彼らは毎年車百五十台分の薪を積み加える。悪天候のために堆積が絶えず沈下するからである。さてどの区でもこの堆積の上に、古い鉄製の短剣がのせてあるが、これがアレスの神体なのである。スキュタイ人はこの短剣に毎年家畜類や馬を犠牲に捧げるのであるが、他の神々にも供えるもののほかに、アレスにはさらに次のような犠牲をも捧げるのである。戦争で生捕りにした敵の捕虜の内から、百人に一人の割で犠牲にするのであるが、その犠牲式の次第は家畜の場合と異なっている。まず犠牲に供される人間の頭に酒をふりかけてから、その者の咽喉を切り裂いて血を器に受け、その器を蒔の山の上に持っていって、その血を短剣にかけるのである。血を上に持ってゆく一方、下方の聖所のまわりでは次のような儀式が行なわれる。屠られた男たちの右肩をことごとく腕ごと切り離して空中に抛り上げ、そのほかの犠牲の行事をすませてから立ち去ってゆく。後には腕は落下したところに、胴体は別の場所にそれぞれ横たわっている。」

「スキュタイ人は首級の皮を次のようにして剥ぎとる。耳のあたりで丸く刃物を入れ、首級をつかんでゆすぶり、頭皮と頭蓋骨を離す。それから牛の肋骨を用いて皮から肉をそぎ落し、手で揉んで柔軟にすると一種の手巾ができ上る。それを自分の乗馬の馬勒にかけて誇るのである。この手巾を一番多く所有する者が、最大の勇士と判定されるからである。またスキュタイ人の中には、剥いだ皮を羊飼の着る皮衣のように縫い合せ、自分の身につける上衣まで作るものも少なくない。さらにまた、敵の死体の右腕の皮を爪ごと剥いで、矢筒の被いを作るものも多い。人間の皮というものは実際厚くもあり艶もよく、ほとんど他のどの皮よりも白く光沢があるほどなのである。また全身の皮を剥がしてこれを板に張り延ばし、馬上に持ち廻るものも少なくない。
 スキュティアにはこのような風習が行なわれているのであるが、首級そのものは次のように扱う――ただしどの首級もというのではなく、最も憎い敵の首だけをそうするのであるが。眉から下の部分は鋸で切り落し、残りの部分を綺麗に掃除する。貧しい者であれば、ただ牛の生皮を外側に張ってそのまま使用するが、金持ちであれば牛の生皮を被せた上、さらに内側に黄金を張り、盃として用いるのである。彼らは近親の頭蓋骨をもこれと同じように扱うことがある。身内の間に争いが起り、王の面前で相手を負かした場合である。大切な来客があると、これらの頭蓋骨を見せ、この者たちは自分の近親であったが自分に争いをしかけたので、打倒したのであると手柄話にして説明するのである。」

「スキュティアには多数の占師がいるが、彼らは多数の柳の枝を用い次のようにして占う。占師は棒をまとめた大きい束をもってくると、地上に置いて束を解き、一本一本並べながら呪文を唱える。そして呪文を唱えつづけながら、再び棒を束ね、それからまた一本ずつ並べてゆく。この卜占術はスキュティア古来の伝統的なものであるが、例の「おとこおんな」のエナレエスたちは、アプロディテから授かったと自称する方法で占う。いずれにせよそれは菩提樹の樹皮を用いて占うもので、菩提樹の樹皮を三つに切り、これを指に巻きつけたりほどいたりしながら預言するのである。」

「王陵は、ボリュステネス河の遡航可能な限界点に当るゲロイ人の国土内にある。スキュティアの王が死ぬと、この土地に四角形の大きい穴を掘り、穴の用意ができると遺骸をとり上げるのであるが、遺体は全身に蠟を塗り、腹腔を裂いて臓腑を出した後、搗(つ)きつぶした かやつり草(キュペイロン)、香料、パセリの種子、アニスなどをいっぱいに詰めて再び縫い合せてある。さてこの遺骸をとりあげ、車で別の民族の国へ運んでゆく。運ばれてきた遺骸を受け取った国の者たちは、王族スキュタイ人のするのと同じことをする。すなわち耳の一部を切りとり、頭髪を丸く剃り落し、両腕に切傷をつけ、額と鼻を掻きむしり、左手を矢で貫くのである。それからまた王の遺骸を車にのせて支配下の別の民族の国へ運んでゆく。一行が先に立寄った国の者たちもこれに随行するのである。遺体を運んで属国をことごとく一巡すると、属領の中の最末端にあり王陵の所在地であるゲロイ人の国に着く。それから遺骸を墓の中の畳の床に安置すると、遺骸の両側に槍を突き立てて上に木をわたし、さらにむしろを被せる。墓中に広く空いている部分には、故王の側妾の一人を絞殺して葬り、さらに酌小姓、料理番、馬丁、侍従、取次役、馬、それに万般の品々から選び出した一部と黄金の盃も一緒に埋める。(中略)右のことをし終えてから、全員で巨大な塚を盛り上げるのであるが、なるべく大きな塚にしようとわれがちに懸命になって築くのである。
 一年が経つとまた次のような儀式を行なう。故王に仕えた残りの侍臣のうち王に最も親しく仕えたもの(中略)五十人と最も優良な馬五十頭を絞殺し、臓腑を抜いて掃除したのちもみがらを詰めて縫い合せる。一方、車輪の輪縁を半分に切ったものを(輪縁を)下向きに二本の杭で留め、残りの半分の輪縁は別の二本の杭で留めるというふうにして、このようなものを多数地面に固定させる。それから馬の胴体に太い棒を頸のあたりまで縦に通し、これを輪縁にかける。前方の輪縁は馬の肩を受け、後方の輪縁は腿のあたりで馬の腹を支える。四肢はいずれも宙にぶらさがる。綱とくつばみを馬につけ、手綱は前方に引張って小杭に縛りつける。さて絞殺された五十人の青年の死骸をそれぞれこの馬に乗せるのであるが、あらかじめ一つ一つ遺骸の背骨に沿って真直ぐな棒を頸まで通しておいてから乗せる。そしてこの棒の下方に突き出した尖端を、馬に通してある別の棒の穴にはめ込むのである。このような騎乗の人間を墓のまわりに立ててから、一同は立ち去るのである。」

「この地方には、他の地方とは比較にならぬほど巨大でしかも多数の河川がある以外は格別珍しい事物もない。しかし河川と広大な平原以外に珍しいものといえば、次のようなものがある。スキュティアへゆくと岩に印された「ヘラクレスの足跡」なるものを見せられる。人間の足跡に似ているが、その長さは二ペキュスもあるのである。」



「巻五」より:

「トラウソイ族の風俗は、ほかのトラキア人と大体同じであるが、子供が生れたときと、人の死んだ時に、こんなことをする。子供が生れると、縁者のものがその子供のまわりに坐り、およそ人間の身に受ける不幸を全部数え上げ、この子供も生れたからには、こうした数々の苦労に遭わねばならぬのだと、歎き悲しむのである。ところが死亡の場合には、死んだものは数々の憂き世の労苦を免れて、至福の境地に入ったのだというので、嬉々として笑い戯れながら土に埋めるのである。」




こちらもご参照下さい:

『ヘロドトス 歴史 (上)』 松平千秋 訳 (岩波文庫)
『ヘロドトス 歴史 (下)』 松平千秋 訳 (岩波文庫)
小海永二 訳  『アンリ・ミショー全集 Ⅲ』 (全四巻)


























































































































関連記事
スポンサーサイト
プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本