荒俣宏 編著  『Fantastic Dozen  第10巻  バロック科学の驚異』

「もっと積極的にいうなら、キルヒャーはアインシュタインがそうだったのと同じく、近代科学の大前提のいくつかを採用せずに、別種の自然法則をつくりあげるシミュレーションをおこなっていたのである。
 むろん、これはシミュレーションであるから、現実界といちいち対応させてその実効性をチェックするものではない。しかしゲームにはゲームの興奮と発見がある。ゲーム内で得られた叡智は、いずれ現実界へと逆シミュレートされるだろう。キルヒャーがおよそ三〇〇年前に、古めかしいカトリックの世界観を護持するためにおこなった知的活動のすべては、要するに、そういうことだったのである。」

(荒俣宏 「普遍叡智をきわめた超人」 より)


荒俣宏 編著 
『Fantastic Dozen 
第10巻 
バロック科学の驚異』

WONDERS OF THE BAROQUE SCIENCE

リブロポート
1991年7月20日 発行
173p 口絵1葉
B5判 角背紙装上製本 カバー
定価2,060円(本体2,000円)
装丁: 鈴木成一



本書「普遍叡智をきわめた超人――A・キルヒャーとその業績」より:

「アタナシウス・キルヒャーの書物は多岐にわたり、しかも三〇〇年前の刊行のために現在では高価稀少な貴重書になっている。編者は欧米の古書店を通じて、かれの著作の収集に腐心した。その結果、キルヒャー図版の代表作とされる『ノアの方舟』『地下世界』『支那図説』を入手することができたので、主要図版をすべてここに収録した。また、きわめて珍しいボナンニ編『キルヒャー博物館自然史標本目録』も入手できたので、その中から興味ぶかい図版を採録した。なお、各図にはできるだけ詳細なコメントを付し、キルヒャーの思想が同時にたどれるよう努めたつもりである。」


「キルヒャー博物館自然史標本目録」はカラー、その他はモノクロです。「支那図説」は青っぽい紙に濃紺で印刷されています。


荒俣宏 バロック科学の驚異 01


帯文:

「エジプト学、中国学、天文学、地質学、医学、数学、音楽、博物学 etc. の泰斗にして、幻灯機をはじめとするからくり機械の発明家アタナシウス・キルヒャー。ガリレオ、ボイル、ニュートンらによる近代科学成立過程と時代を共にしながら、イエズス会士としてカトリック科学の確立をめざした、壮大な思考実験。」


目次:

普遍叡智をきわめた超人――A・キルヒャーとその業績

出典解説

ノアの方舟
支那図説
地下世界
キルヒャー博物館自然史標本目録




◆本書より◆


「ノアの方舟」より:


荒俣宏 バロック科学の驚異 02


「支那図説」より:


荒俣宏 バロック科学の驚異 03


荒俣宏 バロック科学の驚異 04


荒俣宏 バロック科学の驚異 05


「地下世界」より:


荒俣宏 バロック科学の驚異 06


「キルヒャー博物館自然史標本目録」より:


荒俣宏 バロック科学の驚異 07


荒俣宏 バロック科学の驚異 08


「普遍叡智をきわめた超人――A・キルヒャーとその業績」より:

「バロックの恐竜!」
「『キルヒャーの世界図鑑』(川島昭夫訳・工作舎)の著者ジョスリン・ゴドウィンは、本書の主人公キルヒャーを評して、そう書いている。
 バロックの恐竜とは、まさしく一七世紀の知識界に君臨したこの主人公にふさわしい尊称だが、しかし内に籠められた意味はそう単純ではない。ゴドウィンは次のように述べる――。
 「キルヒャーの登場は遅きに――もしくは早きに――失したようだ。というのはその全体論的な世界観ゆえに、科学の世界から忌避されるのが時代の趨勢だったからである。キルヒャーにはただひとつの画期的発見もない。そのような発見こそケプラーやロバート・ボイル、そしてニュートンの名声を揺るぎないものにしたし、その発見ゆえに現代の学問の世界は、ケプラーが宇宙の和声に関心を示し、ボイルとニュートンが錬金術に本気で関心を抱いていても、それを不問に付しているのである。ところがキルヒャーは、のちに俗信とみなされることになる数々のものを、時代遅れにも信じているという理由で誹毀されてきたのだ。かれは再生――植物の灰からの復活――をその手で演じてみせたと豪語している。かれは人間の健康と地球の終末にたいする占星術的な影響を会得していた。かれは人魚、グリフォン、それにバークナル・ギースの実在を頭から信じていたし、昆虫が自然発生することや聖書が全体として真実を語っていることをすこしも疑わなかった。だから「アタナシウス・キルヒャーのおびただしく畏るべき主題」を攻撃してきた近代の研究者たちは、かれの学識には讃嘆を惜しまないものの、おしむらくはこの人物は、とうに信じるにあたいしなくなていた世界観を後生だいじにしてあがいているバロックの恐竜でしかないとかたづけるのである」(川島昭夫訳)
 恐竜は恐竜でも、時代遅れの巨大図体を揶揄した発言だったわけだ。しかし恐竜は恐竜である。今はもう存在しない知的怪物に、われわれは化石を眺めるのと同じ興味を感じないわけにいかないのだ。
 そこで、アタナシウス・キルヒャーという名を知る人たちが、あるとき、一堂に会する機会をもったら、さぞやおもしろい話になるだろう。」
「ある人は、
 「キルヒャーこそ一七世紀最大の知識探究者」
と絶賛するだろうし、また別の人は、
 「人々をあやまった方向へみちびいた反動の男」
と否定するだろう。
 「いやいや、稀代の山師だった」
という人が出るかもしれないし、
 「バロック期最大の幻想文学作家だった」
と、思いがけぬタイトルを提案する人も出てくるだろう。
 しかし、だれもが絶対的に賛同するだろう一事がある。それは、キルヒャーという人物がきわめて興味ぶかい〈総合知〉の探究者だったという点だ。」

「かくてキルヒャーの築いた総合知の体系は、古いカトリック科学の敗退とともに討ち死にする結果となったが、おもしろいことに、現代の目から見ると、かれは近代科学の基本的な原理、たとえば地動説とか万有引力の法則、あるいは細胞説やロゼッタ・ストーン以後のエジプト学などの定石を外した〈別系統の思考実験〉として映じる。(中略)もっと積極的にいうなら、キルヒャーはアインシュタインがそうだったのと同じく、近代科学の大前提のいくつかを採用せずに、別種の自然法則をつくりあげるシミュレーションをおこなっていたのである。
 むろん、これはシミュレーションであるから、現実界といちいち対応させてその実効性をチェックするものではない。しかしゲームにはゲームの興奮と発見がある。ゲーム内で得られた叡智は、いずれ現実界へと逆シミュレートされるだろう。キルヒャーがおよそ三〇〇年前に、古めかしいカトリックの世界観を護持するためにおこなった知的活動のすべては、要するに、そういうことだったのである。」





こちらもご参照ください:

ジョスリン・ゴドウィン 『キルヒャーの世界図鑑』 川島昭夫 訳































































































































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