柏木如亭 著/揖斐高 校注 『詩本草』 (岩波文庫)

柏木如亭 著 
『詩本草』
揖斐高 校注
 
岩波文庫 黄/30-280-1

岩波書店
2006年8月17日 第1刷発行
2006年11月6日 第2刷発行
270p
文庫判 並装 カバー
定価660円+税
カバー: 中野達彦



本書「凡例」より:

「底本には文政五年刊『詩本草』(一冊、個人蔵)を用いた。」
「底本にはないが、各段に番号と標題を掲げ、見出しとした。」
「段ごとに、訓読・原文・語注の順に記した。」



本書「解説」[附記]より:

「二刷に際して、誤字や誤表記などを訂正したほか、(中略)可能な範囲で一部内容上の補正を行いました。」


図版(影印)1点。


如亭 詩本草


カバーそで文:

「富士登山の粥、伊勢四日市の蟹、舞阪の桃…。江戸時代後期、遊歴の漢詩人柏木如亭が、行く先々で口にした美食と、旅の記憶に漢詩を結合させた随筆。漢文体ゆえにあまり知られてはいないが、『随園食単』『美味礼讃』に匹敵する魅力的な一品。」


目次:

凡例


1 白粥
2 
3 酒旗
4 酒茶と詩文
5 宇治茶
6 緑豆茶
7 蕎麦
8 蔬菜
9 松蕈(まつたけ)
10 蕈(きのこ)狩りの怪異
11 笋(たけのこ)
12 渓鰮(あゆ)
13 鯛
14 海茸(うみたけ)
15 蟹
16 大刀魚(たちうお)
17 鰹
18 鮭
19 松魚
20 鯖
21 黄顙魚
22 鰒魚(あわび)
23 比目魚
24 〓(漢字: 魚+子)魚(いな)
25 鯉魚湯 その一
26 鯉魚湯 その二
27 鯉
28 鼈(すっぽん) その一
29 鼈(すっぽん) その二
30 鱸魚(すずき)
31 魚の塩漬け
32 河豚(ふぐ)
33 蘆荻の名辞
34 水雞
35 桃の実と桑の実
36 詩法
37 市俗の気
38 京の名品
39 信州の禽獣
40 吉原詞
41 伊賀上野の荘
42 白醪「梨花春」
43 水族
44 茗粥
45 魚飯 その一
46 魚飯 その二
47 果蓏
48 山外の遊人

後記 (梁川星巌)
跋 (村瀬藤城)
題詩 (梁川星巌)

解説 (揖斐高)




◆本書より◆


「10 蕈(きのこ)狩りの怪異」より:

「蕈(きのこ)を拾ふは蕈を食(くら)ふより楽し。曩(さき)に信中に寓す。舎後の乱山松林の中に多く此の物を生ず。秋来、日として拾はざるは無し。毎(つね)に筐(かご)に盈(み)ちて帰る。即ち隣翁を招きて、酒を貰(か)ひ蕈を焼きて鬼(き)を説かしむ。中に採菌の一話有りて最も怪し。云はく、「某生、一僕を携へて竜神(りゆうじん)の温泉に浴す。温泉は紀の深山の中に在り。能く諸瘡を治すと云ふ。時に維(こ)れ八月、秋気蕭条(せうでう)として草木黄落(くわうらく)す。浴に在ること数日、旦夕(たんせき)惟(た)だ谷鳥(こくてう)の悲鳴、嶺猿(れいゑん)の哀嘯(あいせう)を聞くのみ。生、無聊(ぶれう)に堪へず。因つて採菌の遊を為さんと欲し、これを居停(きよてい)主人に謀る。主人曰く、「此(ここ)を去ること十七八里、一松林有り。菌甚だ多し」と。生、翌日暁(あかつき)を侵して出づ。僕、行厨(かうちゆう)を提げて相従ふ。行くこと二十里多路(たろ)にして謂ふ所の松林を見ず。小径、通ずるに似、窮するに似て、只だ縦歩(しようほ)して行く。大木、天に参じて日を蔽(おほ)ふ者、その数を知らず。生顧(かへりみ)て僕に謂ひて曰く、「古(いにしへ)の名士は多く山水を愛して動(やや)もすれば輙(すなは)ち廬(いほり)を結びて栖(す)む。予が心、これを慕ふも、風塵に奔走して未だ初志を遂げず。今求めずして此の如き勝境に遇ふことを得たり。豈(あ)に幸(さいはひ)ならずや」と。主僕相対して青苔に坐す。手づから壺觴(こしやう)を引きて以て飲む。既に酔ひて興趣勃然(ぼつぜん)たり。且(か)つ吟じ且つ行く。前面に忽(たちま)ち一孤峰を見る。眺望絶佳なり。乃(すなは)ち藤葛(とうかつ)を攀縁(はんえん)して上(のぼ)る。狭径(けふけい)僅かに行履(かうり)を通じ、落葉人を没す。行くこと里許(りきよ)、殆(ほとん)ど将(まさ)に絶頂に近づかんとするも、亦た甚だしくは険ならず。一草廬有り。短牆(たんしやう)斜門、塵世(ぢんせい)を隔絶す。生、驚歎して曰く、「這(こ)の裏(うち)に又た秦を避くる人有るか」と。これを覘(うかが)へば、一老僧、蒲団(ほたん)上に趺坐(ふざ)す。生、径(たちま)ちに入りて礼を作(な)し、且つ茶を乞ふ。僧応ぜずして石鼎(せきてい)を指す。生と僕と坐して茶を啜(すす)る。僧復(ま)た屋後を指す。因つて首(かうべ)を回らせば、林外宛(あたか)も一梵宇(ぼんう)を見る。至れば則ち宝殿古奥(こあう)、内に数十の木仏有り。正面に阿弥陀仏を安んず。而して十六聖者(しやうじや)左右に排列す。その大きさ丈余。面貌生けるが如く、状(かたち)も亦た殊(はなは)だ古し。蓋(けだ)し数百年の物ならん。生、覚えず信を起して礼拝し、因つて懐中を探り、一方金(いちはうきん)を捧げて敬賽(けいさい)す。殿内に憩ふこと少頃(せうけい)、酒醒めて興趣頓(とみ)に尽き、看看(みるみる)天色莫(く)れんと欲す。将(まさ)に出で去らんとして忽ち見る、一木像の手を挙げて一像を指すを。一像破顔して相顧み、呵呵(かか)大いに笑ふ。生、毛髪尽(ことごと)く竪(た)ち、寒粟(かんぞく)体に遍(あまね)し。須臾(しゆゆ)にして門外に磔磔(たくたく)として声有り。急に頭を擡(もた)げてこれを看れば、僕の屍首(ししゆ)の挂(かか)りて樹上に在るを見る。生、魂(こん)飛び魄(はく)散じ、顧みずして走り、既に帰りて主人に告ぐ。主人駭(おどろ)きて曰く、「彼の山は相伝へて鬼魅(きみ)の窟(くつ)と為す。入る者は再び出づること無し。君独り何を以て生還することを得たる。豈に腰間(えうかん)の鉄、護すること有るか。抑(そもそも)信を起して仏を礼す。神明陰助(しんめいいんじよ)するならんか。従僕の死は憫(あはれ)む可しと雖も、君は幸に恙(つつが)無し。請ふ、心を寛(ゆる)うして三盃を喫せよ」と。侑(すす)むるに酒殽(しゆかう)を以てし、賀して且つ驚きを圧(あつ)すと云ふ。」


「14 海茸(うみたけ)」より:

「西海(さいかい)に一物有り。色は蒼灰(さうくわい)にして犢角(とくかく)の如し。長さ五六寸より尺に至る。俗に海茸(うみたけ)と呼ぶ。これを食(くら)へば歯牙(しが)、声を作(な)す。蓋(けだ)し海葠(かいしん)の属の石に附きて生ずる者ならん。これを食ふの法は、先づ擂盆(らいぼん)に入れ、塩少し許りを加へ、手を将(も)つてこれを擦(す)り、清水に洗浄す。垢(あか)去りて即ち潔きこと白玉の如し。細かに切りて縷(る)と成し、薑酢(きやうさく)を用いて調和す。水母(くらげ)を食ふに較ぶれば、則ち稍(やや)勝れりと為す。亦た海族中の一異味なり。紀(しる)さざる可からず。」





こちらもご参照ください:

柏木如亭 著/揖斐高 校注 『訳注聯珠詩格』 (岩波文庫)



































































































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